名前: リオ・マキシマ
タイトル: 爆発は芸術だ
必要素材:
- 気溶性昇華プラスチック 3kg
- 衝撃吸収因子粉末 700g
- トリニトロトルエンを主とした炸薬 7kg
- 電気雷管 7箱 (遅延式)
要旨: 本作は、爆発の純粋な美しさを手軽に楽しんでもらうことを目的とした、体験型の芸術作品です。形状と構造は一般的な手榴弾と同様ですが、火薬に衝撃吸収因子を混合し、外殻に気溶性プラスチックを使用することで、爆発をそのただ中で鑑賞することができます。
使用方法は一般的な手榴弾と同様、安全ピンを抜くだけです。外殻は手榴弾の爆発と共に即座に昇華し消失するため、鑑賞の妨げにはなりません。本来ならば雷管も消失する素材のものにしたかったのですが、適する装置を見つけることができませんでした。
展示方法としては、展覧会の入り口等で観覧者が自由に手に取り、使用できる形で配布することを考えています。観覧者はそれを好きな時に、好きな場所で爆発させることができます。また、ご支援頂いた資金の回収のため、期間を限定した上で希望者への販売も考えています。
意図: 私は幼少の頃、海外で爆破テロ事件の現場に居合わせたことがありました。テロリストが投げた手榴弾は多くの人を殺傷しましたが、私はその時に見た空気の炸裂の美しさ、火薬の燃焼が起こした熱と衝撃の力強さに心を奪われました。握り拳程度の塊から、人を何人も吹き飛ばせるほどの強大なエネルギーが解放される瞬間の神々しさを、私はその時知ったのです。
私はその後、なんとかして爆破に関わる仕事に就くために勉強を重ねました。しかし、建造物の爆破解体や採掘用の発破は、私の求める爆発ではありませんでした。件のテロ事件で両親を失った私には満足な蓄えもなく、なんとかして爆発の美しさに触れ、広める方法がないかと考えていた時、Kさんと出会い、AWCYのことを教えて頂きました。それだけでなく、Kさんは私に資金的な援助を約束してくださったのです。
私はAWCYの人々と出会い、話をして、皆さんの芸術を追求する姿勢に感動しました。彼らには求める芸術の形がはっきりと見えていて、それを再現するためにどんな努力も惜しまないのです。私も、彼らと同じように、多少の決まりごとの壁を破壊してでも、あの日見た爆発の美しさを皆さんに知ってもらいたいと思いました。それが、この作品を考えた理由です。
私はこの作品を通じて、爆発は単なる暴力の手段ではなく、人間の技術が生み出した一つの芸術であるということを、皆さんに知っていただきたいです。
To: リオ・マキシマ
From: "批評家"クリティック
Subject: 提案された企画について
企画案を拝見させてもらったよ。
言いたいことは多々あるが、まずは君の勘違いを正さねばならないな。
AWCYはテロリスト集団ではない。
我々を”アートテロリスト”等と呼ぶ者もいるが、君の言う通り、我々の追求すべきは”芸術”だ。君の考えた手作り手榴弾は、そこらに転がる低俗なテロリストの行動を多少派手にしただけに過ぎない。むしろ、爆発をギリギリ死なない威力に抑え、生きながらにして自らが爆破される瞬間を体験させる分悪趣味とまで言える。
私に言わせれば、君が芸術だと思っているものは破壊のカタルシスに陶酔しているだけだ。君の企画は、子供が花火を車に投げつけて喜ぶのと変わらない。企画案の書き方も幼稚と言わざるを得ないだろう。先駆者の企画案を読み込み、展覧会に出席し、十分に芸術的な感覚を養ってから企画に手を付けようとは思わなかったのかね?
Kも大概芸術を勘違いしている男だが、君はそもそも我々の芸術に手を触れるには若すぎたのかもしれないな。まだ学生の身なのだから、まずは先人から学ぶことに努めた方がいい。この企画案は却下させてもらう。
To: "批評家"クリティック
From: リオ・マキシマ
Subject: Re:提案された企画について
企画案をお読み頂き、ありがとうございました。
返信頂いた内容を拝読しましたが、どうやら企画の趣旨を勘違いされているようです。私の書き方が至らず、申し訳ありません。
私は、この企画で誰かを傷つけたり、何かを破壊したりしようとする意図はありません。衝撃吸収因子によって爆発の威力を致命的でないレベルに落とし、少しの風と熱が感じられる程度の爆発に抑えることで、内側から爆発を鑑賞することを実現したかったのです。
改めて調べたところ、使用予定の火薬に対して必要な衝撃吸収因子粉末の量の計算を間違えていたことが分かりました。これは私の調査と検討不足によるものであり、企画案の書き方が幼稚であるというご指摘はごもっともです。計算し直した結果では、4.9kgあれば十分に火薬の爆発のエネルギーを相殺できると思います。
ただ、図々しいようですが、私には先駆者の皆様の企画案を全て読んでいる時間がありません。先日、重篤な内臓機能障害によって余命宣告を受けたからです。来年の展覧会を逃せば、次の展覧会まで生きていることはできません。私はどうしても、私の思う最高の芸術を人々に見て欲しいのです。
これらの事情をご理解いただいた上で、どうかもう一度企画案についてご検討いただければと思います。よろしくお願いいたします。
To: リオ・マキシマ
From: "批評家"クリティック
Subject: Re:Re:提案された企画について
君は構ってもらいたいがために馬鹿のふりをしているのか、それともその子供じみた破壊行為を私が芸術として認めると本気で思っているのか、一体どちらなんだ?
不毛な応酬を防ぐために書いておくが、衝撃吸収因子粉末は火薬に混ぜて飛散させるようなやり方だと計算上の十分の一の効力も持たないものだ。君が亜音速の爆風と数百度の熱を「少しの風と熱」と表現するのは自由だが、そんな表現で被害を誤魔化せると思ったら大間違いだ。
君に時間がないのは理解したが、残念ながら同情で席が得られるほど、展覧会は甘くない。どうしても展覧会に出たいのなら、Kに頼んで彼のスペースに机でも置かせてもらったらどうかね。
To: "批評家"クリティック
From: リオ・マキシマ
Subject: Re:Re:Re:提案された企画について
お返事ありがとうございます。
お恥ずかしいのですが、私は衝撃吸収因子粉末の使用法について、ご指摘頂いた問題を認識していませんでした。度重なる不備をお許しください。私はまだ異常技術に対する造詣が浅く、調べた限りの中で衝撃吸収因子粉末を使えば安全な爆発ができると思っていたのです。
私が展覧会への参加を望むことが、分不相応であることは理解しました。ですが、Kさんには既に資金面での援助を受けており、多忙な彼の手をこれ以上煩わせる訳にはいきません。今回の展覧会への参加は断念しようと思いますが、もし機会があれば、誰かに自分の作品を見てほしいという気持ちは捨てていません。
不躾なお願いであることは承知しておりますが、安全な爆発を作る方法と、作品を公開できる場について、もしお心当たりがあればご教授いただけないでしょうか。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、何卒よろしくお願いいたします。
To: リオ・マキシマ
From: "批評家"クリティック
Subject: Re:Re:Re:Re:提案された企画について
これが最後のやり取りになることを願うよ。
君はそもそも、自分のしようとしていることが見当違いであると理解した方がいい。爆発は芸術でもなんでもない。破壊し、傷つけるだけの暴力だ。
私がこれだけ言った上で、どうしても「安全な爆発」とやらを作りたいのならば、ヴードゥー呪術のエネルギー転送について調べてみたら良いだろう。少なくとも、手榴弾のピンを引いた人間は安全だ。
作品を公開できる場については、残念だが君に紹介できるような場所はない。誰でもいいから見せたいと言うのならば、財団にでも送ってみたらどうだ?彼らなら君の遊びに、ありもしない芸術思想を見出してくれることだろう。
くれぐれも、展覧会に手榴弾を持ち込むことなど考えないように。
To: "批評家"クリティック
From: リオ・マキシマ
Subject: Re:Re:Re:Re:Re:提案された企画について
お忙しい中、ご返答ありがとうございました。頂いたアドバイスを元に、作品制作に挑戦してみます。
To: リオ・マキシマ
From: "批評家"クリティック
Subject: 至急返信求む
先日のパフォーマンスは君の企画によるものかね?もしそうなら、詳しい話を聞かせてほしい。
もしかしたら、君に展覧会の席を用意してやれるかもしれないからな。
To: "批評家"クリティック
From: K
Subject: 無題
彼女なら死んだよ。
例の狂人の所業で、古参のメンバーがヴァンダリズムや破壊行為に敏感になったのは分かってる。けれどあなたもかつては、自分の芸術が最高にCoolだと考える一介の若者に過ぎなかったはずだ。それが今や、批評家という肩書を得て、若者の芸術を権威と自己顕示欲で抑圧するばかり。そういった体制に対抗するために、あなた方は集まったんじゃなかったのか?
彼女は若いなりにあんたへの尊敬を持って、人を傷つけない芸術を目指していたっていうのに、あんたは先入観でそれを無視して彼女を狂人だと思い込んだ。そもそも、彼女は手榴弾を破壊的活動に使用するなんて一言も書いてない。企画案をちゃんと読んだのか?彼女があんたの言うような、構ってもらいたがりの馬鹿だったらどんなに良かったか。俺に迷惑をかけたくない一心で、真面目な彼女はあんたの言うことを真に受けてしまった。
このメールをサロンの退会届に代えさせてもらう。本業の方が忙しくなりそうだし、俺は彼女と、彼女の遺作を守らなければならない。
あなたも、多少は頭が冷えただろうか。