企画案2024-998: "信仰は何の為に"
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名前: 天宮 帝華

タイトル: 信仰は何の為に

必要素材:

  • 大理石の台座(12個 30 cm×30 cm×60 cm)
  • 改造済みLED電球[消費電力7.8W/個]1(60個、作成済)
  • 看板(1つ、作成済)
  • 3種類の金属2を素材とした球体(12個、作成済)

要旨: 12個の台座を円形に配置し、金属球はそれらの上に設置される。看板には作品のタイトルと以下のような文が記述されている。

Q.神はどこにいるか? 
A.ファン・デル・ローエ【細部】
 ニーチェ【虚構】
 スピノザ【遍在する】
 あなた【   】

観客が金属球を手に取ると、質量の大部分を占めるマーカス鋼が観客のアキヴァ放射を読み取り、彼らの信教において「祈り」と深く関連する物品のレプリカに変形する。同時に、別の構成要素である『「海星と酒の残り香」を元に作られた石』が、「今の自分を形作る上で最も重要なモノの記憶と、それに対して抱いていた想い」を観客から失わせる。大切なモノの記憶と想いを失い、自らの手に握られた宗教的な物品(のレプリカ)を見て、観客は自発的に祈り始めるだろう。失われたモノを取り戻す唯一の方法は「自らの内に宿る神との対話により失ったモノを思い出す」ことだ。金属球を構成する残りの要素はテレキル合金で、これは観客の中にテレパス能力者がいた場合に安全装置の役割を果たす──試作過程でテレパス持ちの友人にチェックして貰った時、かなり面倒なことになってしまった。

並べられた台座には1台につき5個の電球を埋め込む。埋め込まれた電球は祈りによって放出されたアキヴァの量に応じて発光する仕組みだ。

意図: 信仰が単なるエネルギーの一種に成り下がった時代に人はなぜ祈るのか?私の答えは「内的対話により何かを得るため」という結論に落ち着いた。今回は私なりに導きだした問いの答え合わせをしたいと思う。

円形に並べられた台座の中心に何もないのは作品の思想を端的に表すものとなっている。教会で祈祷をする時は祈り手の前に信仰の象徴が厳かに鎮座しているものだが、この作品では神の居るべき場所を空白が占領している。手元を見ても、祈り手が持つ祭具は金属球の変形した紛い物だ。これは「自らの外に祈るべき神は居ない」という私の答えを反映したもので、作品の構造を理解する一助になるはずだ。

電球についてだが、博覧会に来る客層を考えれば1人に付き精々2,3個も光れば上出来だろうと考えている。これは単純に見ると「自分の祈りには20W程の価値しかない」ことを表しているようにも見える。ただし、僅かでも賢明な観客であれば「数字には表れない価値」というものを感じ取れるかもしれない。祈りの価値というものは単に放出されるアキヴァの量だけで計れるものではない。例え信仰に篤く電球を全て灯せる者がいたとしても、そのような人々ですら内的対話によって自らを省みなければ大切なモノを取り戻すことは出来ないのだ。

実を言うとこの作品は以前ボツとなった企画案「神の家」のオマージュを多大に含んでいる。「神の家」も今回と同じく「祈りの意味」を問う作品になる予定だったのだが、私自身がその問いに答えを出せず、完成には至らなかった。博覧会の盛況を陰から見届けた後で自分なりに考えを巡らせた結果、取り敢えず祈ってみる事が答えを見つける一番の近道なんじゃないかと思い立ち実行してみた。

結論から言えば何の役にも立たなかった。そもそも私は無神論者であり、祈りの対象が存在しないのだからどうしようもなかったのだ。仕方なく次の博覧会のための作品構想を練りながら「海星と酒の残り香」を材料に何か出来ないかと試していた──こういう作業の中で思いがけないインスピレーションを得られる場合がある。次の朝、目を覚ました私は桃色と緑色と雪のような白色の混ざった石を握っていた。どうやら寝惚けているうちに「海星と酒の残り香」を作り変えてしまったらしい。その石を見た瞬間に体中を電流が駆け巡った。

作品のスタート地点で何かを奪い、ゴールでそれを返すとともに新たな「視野」を観客に与えるというのは私が初めて試みるアイデアのはずだが、どこか模倣めいた雰囲気を拭うことが出来ない。もしかすると別の世界では私以外の誰かが同じコンセプトで作品を作っているのかもしれないな。「祈りの役割の1つである内的対話によって失われたモノを取り戻し、祈りの価値は単なる数字で全て表せるわけではないと観客に気付いて貰う」コンセプトを出来る限り崩さず仕上げるのは苦難の道であったが、掛けた労力に見合うだけの完成度はあると自負している。

友人には少々迷惑を掛けてしまったが、彼女もこのような素晴らしい作品に貢献できたことを嬉しく思ってくれるに違いない。機会があればテレパス能力を回復できるような芸術体験をさせてあげるのも一考の余地がある。

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