クレジット
タイトル: SCP-001-FR - グレイ博士の提言 - 翼持たざる天使も在らば
和訳者: ©︎Mincho_09
原題: SCP-001-FR - Proposition du Dr Gray - Tous les anges n'ont pas des ailes
著者: ©︎Torrential
作成年(SCP-FR): 2017/9/30
画像出典 Famille - Licence CC0 ; Papillon par David Wagner - Licence CC0 ; Gertrude Three Fingers par William Erwin - Licence CC0 (tombée dans le domaine public).

ANO-842-HUMの私物から発見された写真
異常番号: ANO-842-HUM
危険等級: 0
分類: Abnormal Explained
暫定拘留手順: ANO-842-HUMは詰め物をした特別なベッドを備えた15m²の部屋に収容します。部屋の壁は吸音ゴムで覆われ、かつ使用する吸音ゴムについては詳細に検討中です。入室は運動機能と感覚機能の定期検査に割り当てられた医療チームの人員のみに許可されます。ANO-842-HUMには静脈への点滴により栄養を摂取させます。月に一度、シーツを新品に取り替え、週に一度、健康状態の検診を行います。
情報: ANO-842-HUMはエイミー・フォックス(Amie Fox)として知られるネイティブアメリカンの21歳の女性です。身長は1m74cm体重は56,4kgで、生理学的観点と同様に身体的観点においても、同年齢の個人にとしてはあらゆる点で理想的な体質をしています。
ANO-842-HUMは昏睡状態ではない眠りに落ちており、目覚めることができないと考えられていますが、このような特殊性を正当化し得る傷や病気はありません。ANO-842-HUMは触覚と音響の相互作用によって働きかけられた際、寝起きの段階にある個人と類似した反応をします。この反応は、決して覚醒状態に至ることのない、特定の手足の緩慢で鈍重な移動、聞き取れない発話、まぶたに限定される震えを含みます。
19██年12月24日18時42分 - ヴェンダー博士(Dr. Vendor) : ANO-842-HUMははるかに大きな出来事に関係しているというアークライト博士(Dr. Arklight)博士の仮説に反論する最新の研究はANO-842-HUMが神経系の障害に起因すると仮定される突発性のアフリカ眠り病を患っていることを明らかにした。ANO-842-HUMはいかなる異常特性も示さないため、 適切な世話を受け、ゆくゆくは社会生活へ戻っていくように、彼女の状態に適応する臨床機関に移転する予定である。
19██年12月28日20時5分 - ドミトリエフ研究主任(Directeur en Chef des Recherches Dmitriev) : アークライト博士は根拠のない仮説を守り、犯罪的意図を含む話をすることに執着するために解任され、記憶処理に付されました。この書類はアーカイブ目的に限り保存され、要求されていたSCP-001-FRと命名されることはありません。対象の世話を引き受ける適性のある職員は次の文章において指令される手続きを熟読することを推奨します。

ミームエージェントへの曝露開始
…
…
…
…
…
眼充血検知
…
対象の生存を確認
…
文書閲覧を安全化
"これは悪い夢だ"
SCP-001-FRの発見から5年後に開かれ、そして3時間後、その魅力的で恐るべき特異性の発見に続いた評議会会合の結果、我々銘々が口にしそうになったのはこのような7文字だった。しかし、誤解しないでもらいたい。我々の精神衛生を危険なほど揺さぶったのは彼女ができることでなく、我々皆に彼女の存在が意味する美しく優れたことである。
自身がなぜそのようにしているか知ることもなく、地球全体を亜原子粒子状態にせんと欲する怒れる古い神の目覚めのような劇的な状況の報告を予測していることだろう。そうであるならば、疲れた笑みを浮かべて「それ以上だ!」とつぶやくことだろう。またはきっと、財団、O5評議会にとって重大な新事実であるか、-ああ、何たる背徳-長い間知らずに仕えてきた本当の目的であらんことを願うだろう。そのようなことであっても、作り笑いを浮かべ、感嘆の声を上げながら空へと目を泳がせるだろう、「知っていた!」と。
そうならば遺憾に思う。そのようなことはまったくない。
我々が免れたあらゆる終末的シナリオを覚えているだろうか?我らより大きく、強い敵対者に打ち勝つための英雄的犠牲、熾烈な戦闘、財団が始めた強敵との戦闘は?検閲、馬鹿げたコードネーム、架空のアクセスレベルは?人倫への日常的な背信は?核弾頭は、平和の使者は?苦痛と恐怖の祭壇に捧げた何十万人ものクラスDは?
よろしい、すべて忘れたまえ。
SCP-001-FRは長すぎるほど熟考した子供の無垢な口の端に上った疑問への回答だ。SCP-001-FRは偉大な賢人と哲学者たちが鍵を握っていると無邪気に信じた謎の解法だ。
我々が「収容プロトコル」と呼ぶ人間性に跪く苦痛と驚愕の喘鳴は、あなたの存在の終わりまであなたが尊重することを私、私たちに約束する主義に取って代わられてはならない。
生きよ。食え、眠れ、歩け、息せよ。普段重要と認めていないこれら生活の瞬間を享受せよ。毎朝、変わらぬ冷淡さで人類を保護するために出発する前に、毎晩、残酷で報いない仕事に憔悴して家に帰った時に、情熱的に伴侶を抱きしめ、子供にやさしくキスし、熱狂的に犬を、猫を、フェレットを、はたまた金魚でも何でも愛でなさい。生きよ、愛せ、存在せよ。この三位一体が新たな格言となるように。これを読む、周囲の中で最も権限ある職員の一人のあなたへ、死を恐れることなく、不可能を手懐けるため、あなたが為すことを期待できる最良はSCP-001-FRに向けられた脅威と戦うことである。
結局のところ、私はこのメッセージを冗長でありながら、我らの標語と同程度に偽善的なスローガンで結ぶことはできないだろう。
なぜなら今日において、最も虚弱で、最も脆く、現存する人類に謙遜を教授してくれるものは存在であるから。
それは我々を収容する。我々を保護する。我々を救済する。
- O5-13

目覚めているSCP-001-FRの唯一の写真
アイテム番号: SCP-001-FR
脅威レベル: 灰1 ●
オブジェクトクラス: Ein Sof2
特別収容プロトコル: SCP-001-FRは地下120mに埋設し、網膜スキャン、指紋スキャン並びに入室のために着用しなければならないタイプ3防護服を設置した無菌エアロックを通してのみアクセス可能なゾーン-レシュ(Zone-Resh)10m×10m×3mの無菌室に住まわせます。18cmの吸音ゴムで内壁が覆われた部屋は、2.5mの鉄筋コンクリートで構成される壁により保護され、地震活動検知器と熱変化検知器を備えた保安区画と職員の生活スペースを含む第二施設の中心に位置します。爆発または現状保全に対するリスクを示すいかなる装置も地下施設内で許容されません。
SCP-001-FRはシーツと掛布団が週ごとに取り替えられる低反発ベッドに常に寝かせます。選出された2名の職員が日に1度万全を期してSCP-001-FRの診察し、健康状態の診断書を作成することを義務付けられています。4台の監視カメラから構築される監視体制はすべてベッドの周りに配置されます。SCP-001-FRの顔には酸素マスクを装着し、心拍数を絶えず引き上げるために胸部に固定された自動制御センサーが装着されなくてはなりません。部屋の環境温度は18°Cに保たれます。
FPA3 サン-001 : "薔薇の名に由りて"はいかなる場合においてもSCP-001-FRの安全を確保します。部隊はO5評議会の命令のみに従い、資格もしくは招請なしに収容地域の外層に侵入したあらゆる個人に対して発砲を許可されています。SCP-001-FRが危機に瀕していることが予想し得えない場合であっても、いつの日か必要となることが判明するのであれば、全職員は生涯をかけSCP-001-FRを保護する心づもりでなくてはなりません。
仮に事象SCP-001-FR-Ωが新たに発生した場合、財団は世界の空中を24時間移動できるドローンを用いて大気中に記憶処理ガスを放出するアンニュイプロトコルに頼らざるを得ません。
異常特性疑惑人物標準報告書がカモフラージュとして用いられ、権限のない職員に対して、SCP-001-FRのSCPオブジェクトとしての収容特性を隠すため掲示されます。この文章は読了時にのみ展開する特別なミームエージェントによって保護されます。このミームエージェントは適切な接種を受けずに文書に到達したあらゆる人物に対して致死性で、接種を受けた人物を現実感消失症の深刻な状態から守るために、感情活動を鈍らせる能力を利用でき、かつ他の認知機能を損なうことはありません。

19██年12月28日に検出したSCP-001-FRの平均神経振動子。 このような変化は解明できていませんが、夢による異常な刺激が示されています。4クリックして拡大。
説明: SCP-001-FRは女性の個体でネイティブアメリカン出身で、年齢は16歳から20歳に位置すると推定されます。身長は1m74cmで体重は56.4kgです。その身体は老化が自然免除されている点を除いて、いかなる肉体的、精神的異常をも見せません。身体が食事や呼吸するような機能を保てているにも拘らず、その一方でSCP-001-FRは生存のために食事および呼吸する欲求を一切感じません。しかし実際に、SCP-001-FRは呼吸しています。
SCP-001-FRは未だに決して目覚めることが無いように考えられる深い睡眠状態に陥っています。平常時、SCP-001-FRは無反応で沈静しています。脳造影図を用いた脳活動の分析は既知のステージ5とは異なる特殊な睡眠ステージを示しています。しかし、それはノンレム睡眠と類似性を持ち、際限なく持続しています。SCP-001-FRは睡眠障害を示す徴候を決して見せていませんが、以前、拍動の加速と不規則な呼吸が観察されています。これは夢による強い感情の高ぶりを示す一過性ながら回帰性の兆候です。同じく、ほぼ解明されていませんが、SCP-001-FRによる稀な発話は莫大な死傷者を出した歴史上の出来事と同時に発生していることに注意すべきです。職員は収容室内で嘆き、うめき声、ある時は泣き声を、世界で戦争もしくは大量虐殺が繰り広げられる時と並行して記録したと報告しています。
SCP-001-FRは触覚、聴覚もしくは嗅覚に対して与えられたあらゆる刺激に対して異例の耐久を見せます。物理的接触もしくはSCP-001-FRの前での発話のような長く、持続した相互作用のみが覚醒状態に近づけることができるようです。SCP-001-FRの身体はとりわけ筋肉弛緩の停止、しかし中でも脳活動の混乱により寝起き状態の人間の振舞いと同様の行動をすることで反応します。SCP-001-FRの睡眠に不調が生じた場合、グランド・エヴァネソンス大いなる儚さと名付けられたイベントSCP-001-FR-Ωが必然的に発生します。
SCP-001-FR-Ωは推定無制限の距離における異常形成から成ります。「ひび割れ」もしくは「裂け目」といった風に描写されるこの異常は、SCP-001-FRの夢想活動が弱まる、また睡眠している意識が覚醒するにつれて拡大します。この異常には顕在するための明確な媒体を必要とせず、物質上にも真空内においても同じように出現し得ます。これら亀裂は数cmでしかありませんが、同時に複数の追加の断裂を生み出しながら、その後数mに拡大し、次いで数秒の内にあらゆる方向へ向けて数kmに達します。亀裂の色彩構造は既知の色彩の内に存在せず、あらゆる光子6の欠如を示す純黒でもありません。しかし、亀裂の色彩構造は、純粋で単純な破裂を引き起こすSCP-001-FR-Ωが空間にもたらす脆弱並びに断絶状態に起因する空虚の欠如そのものとして解釈することはできません。
画像差し止め中 |
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スカイドリームを用いて入手したSCP-001-FRの夢の注目に値する図像。財団が用いた技術は夢想活動の解読を可能としています。 |
亀裂が発生したあらゆる場所にSCP-001-FR-Ωは「非存在」、もしくは虚無領域を生成し、布地を引き裂く様に空間を解体するように見えます。移動に必要不可欠な身体の部位が影響を受けていない場合、SCP-001-FR-Ωと接触した人物は動くことはできます。例えば、異常性によって上肢が消去された場合、当該人物は自由に抜け出し身体の完全性を取り戻すことができます。反対に下肢、胴体または特に頭部が接触した場合、当該人物にとってそれらは使用できず、完全に崩壊するまで段階的に消失することを免れ得ません。当現象は痛みを伴うように見えず、その上無音です。影響を受けた人物は消去された身体の部位を感じることができないと述べています。これら異常性のイメージは実際いかなる媒体形式においても捉えることが不可能で、SCP-001-FR-Ωは録画することも撮影することもできません。財団の軌道衛星に勤める職員は一様に地球および太陽系の他の惑星、月ならびに太陽、宇宙空間も同様に、天体のあらゆる表面におけるこれら「亀裂」の形態を観察していることから、SCP-001-FR-Ωの範囲は銀河系に及ぶと結論されます。
並外れた規模の大きさ並びにイベントの一時的な性質のため、断裂の性質の詳細な研究は極めて複雑となることが明らかになりました。SCP-001-FRが再び熟睡し、夢想活動が平常に戻ると、亀裂は消滅するほどに閉じ、減少します。人物を含め、消滅したあらゆるものが異常性によって消去される時点の状態で再出現します。このことは銀河系と入れ替わる非存在平面においてSCP-001-FR-Ωが時間を停止していることを立証することを可能としています。
当初SCP-001-FRは19██年アメリカ合衆国サウスダコタ州においてラコタ・スー族の宗教施設の探索時に発見されました。実施された調査では、何枚もの布で包まれ、インディアンの宝飾で飾り立てられたSCP-001-FRが横たえられた岩窟の窪みへの接近を阻止する大岩を動かすために、多くの人員の共働が必要とされました。岩に刻まれたスー語の碑文の翻訳は以下の通りです。
ワカンダ、明かされたりし神秘の力、
誉れ高く抱け汝が名、化身となるに相応しければ、
ワカン・タンカ 、大いなる神秘、地と人と、
水と火と、太陽と月と、風と天との創り主。
子の狂気より父祖なる御魂を守り給い、
死せる魂を汝に宿し、汝の肉体が彼の者の安らかならんところ在れかし。
当初、SCP-001-FRを睡眠から覚ます試みが発見したチームによって実施され、恐らく伝染性病因の犠牲であるという仮説が提起されるとすぐにこの試みは中止されました。体質の詳細な分析によりこの説は否定されています。世界の部分的消失とSCP-001-FRの睡眠状態の相関関係が理解されてから数年でしかありません。
補遺1-インシデント256-A
前記:以下はSCP-001-FR-Ωの直近の発生並びにANO-842-HUM、KeterクラスSCPとして特定され、SCP-001-FR指定を受ける若年女性に結び付けられる因果関係の理解過程である。ゾーン-レシュの建設中、SCP-001-FRは暫定的にサイト-███へ移送された。SCP-001-FRの安全を確保するためサイトにおける現行のプロトコルに則った上で、他のSCPオブジェクト並びに職員との近接性およびその忠誠が明らかでないことを理由に、SCP-001-FRに割り当てられた信頼のおける医師は2名の保安職員に護衛された。
映像記録19██年10月25日-SCP-001-FR収容セル
引用開始
(医学検査が終了、医師は器具を片付け部屋から退出、エージェント・クライン(agent Klein)がこれに続く。医師はセルの扉の方へと向かい、SCP-001-FRのベッドの側に留まり、注視しているエージェント・モーヌ(agent Meaulnes)の方を向く。)
エージェント・クライン:トリスタン?何か問題か?
(エージェント・モーヌは返答も、振り返りもしない。)
エージェント・クライン:おい、聞いているか?
(エージェント・モーヌは動かず、沈黙を保つ。彼はベルトに手をやり、支給された銃を手にし、SCP-001-FRのこめかみに押し付ける。エージェント・クラインはすぐさま同じように銃を取りエージェント・モーヌを狙う。)
エージェント・クライン:止めろ!一体何をしているんだ?
エージェント・モーヌ:俺はただ目を開かせたいだけだ。お前に、O5に、財団に、全世界に。
(SCP-001-FRとの近接性のため小声で話しているため、エージェント・クラインの提案は聞き取り難い。)
エージェント・クライン:君の言っていることが全く分からない。銃を今すぐ放して3歩下がれ。
(エージェント・モーヌはSCP-001-FRの頭部に銃口を向け続ける)
エージェント・モーヌ:確かに。君は何もわかっていない。信念にとらわれ、幻惑の犠牲と化している。哀れなジョン…
エージェント・クライン:クソ、そんな馬鹿げたことは考えたこともない…2回目で最後の警告だ。銃を置いて向き直れ。躊躇なく撃つぞ。
エージェント・モーヌ:笑わせるな。君には同期の戦友を殺す準備はできているのか…幻影のために?
エージェント・クライン:馬鹿な。彼女は実在している。もし君が彼女を殺したら、我々は…
エージェント・モーヌ:何も起こりはしない。
エージェント・クライン:何だと?
エージェント・モーヌ:だから何も起こらないと言っている。
エージェント・クライン:頭でもおかしくなったか?去年のことを思い出せ。いくつかの大陸全体が消え失せ、空には亀裂が走った。彼女に大声で意思疎通を図ったからだ。お前が彼女を撃ち殺すままにさせておいて、その上無事に切り抜けられると考えているのか?後生だ、ほんの少女じゃないか!
エージェント・モーヌ:ジョン、ああジョン。よく聞いてくれ。ちょうど3年前、ユタで俺たちが上司として仕えていた奴らは子供たちが罪人で、内部から食われ、俺たちが知りさえもしない馬鹿げた原因でじわじわと殺されていることを口実に彼らを撃つよう命令してきたじゃないか。大丈夫か、今になって思い出したか?君も俺も、俺たちは彼らに従って、引き金を引いた。至近距離で、子供たちに。だから俺に感情を説くな。あの日、彼らとともに私にとっての人々は死んだ。いや、もし君が彼女を守りたいなら、それは彼女が思い出させるからだ、君のむ…
エージェント・クライン:黙れ。この娘は他のKeterとは違う。彼女が目覚めるか、最悪の場合、死んだ時の危機は単なる世界の終焉じゃない。俺たちの知っている全てが消えるんだ。「生」と「死」という言葉自体もはや意味をなさなくなる。
エージェント・モーヌ:違う。このガキは正しくSCPだ。しかし、俺たちが考えるようなSCPじゃない。彼女ができる唯一のこと、それは彼女が俺たちの世界を夢見ていると俺たちに思わせることだ。そして、実際上、彼女が正に目を覚まそうとするとき世界は消える…目に見える上では。それは大いなる幻惑、完全な虚偽だ。
(エージェント・モーヌは銃を下ろし、未だ彼を狙っているエージェント・クラインの方を向く。)
エージェント・モーヌ:よく考えてみろ、ジョン。あらゆる俺たちの歴史、過去、現在、未来を、俺たちの野望、希望、財団、友人、家族を俺たちのとは違った夢でしかないと本当に思っているのか?世界…いや。宇宙は空想でしかなく、他人の想像力の賜物だと?俺たちは自分が自分自身のものであると自覚することなしに、空想の背後にある俺たちの全存在を追い求めるているのか?ありえない。世界は一貫性があり、論理的で、合理的だ。夢には始まりと終わりがある。
エージェント・クライン:宇宙も同じだ。
エージェント・モーヌ:しかし夢は不完全だ。無秩序だ。混沌だ。いかなる法則にも支配されていない。この世界に非現実的なものは一切無い。
エージェント・クライン:それでも、超自然的なことや不可能なことがこの世界では見つかり続けている。トリスタン、すぐにでも部隊が突入してくる。もし君が投降しないなら、彼らは…
エージェント・モーヌ:奴らはこのことを何も知らない。俺は司令室に生で中継される代わりにさっきの医療検査の映像記録が放送されるよう手はずを整えている。奴らが俺たちがまだ部屋にいると思っている時、俺は奴らに…(銃をSCP-001-FRに向ける)見せてやる…全員に、彼女を恐れることなどないと。
エージェント・クライン:しかし…どうして ?君が正しいと仮定しても、いずれにせよ君は処刑されるぞ。
エージェント・モーヌ: 関係ない。彼らに理解させるためにくたばる必要があるなら、その時はそうする。どちらにせよ構わない。これからは、全か無かだ。
(エージェント・モーヌは銃をSCP-001-FRのこめかみに再び押し当てる。エージェント・クラインは両手でエージェント・モーヌの方向を狙い続けている。)
エージェント・クライン:トリスタン…銃を下ろせ。彼女は敵じゃない。記憶処理剤を…君が死刑を免れ、元の君に戻るにはクソ記憶処理剤で十分だろう…すべてを元に戻すために。まだ遅くない。まだ時間はある!
エージェント・モーヌ:違う、ジョン。俺には忘却と欺瞞の上に築かれた君の世界は必要ない。それより見ろ…真実を。彼女の頭骨の中の銃弾、そして…
エージェント・クライン:やめろ!
(エージェント・クラインはエージェント・モーヌに発砲する。彼は発砲に先回りし、側方に転がる。銃弾はセルの向かいの壁に亀裂を作る。エージェント・モーヌは発砲して応戦する。エージェント・クラインの頭部に命中し、ヘルメットが割れ、制服の強化外装によって非防護の身体の部位に命中する。エージェント・クラインは地面に倒れ、致命傷を負う。)
エージェント・モーヌ:君は俺を信じたくなかったんだ。そして俺に選択肢はない…そのためにも、 彼女にツケを払わせると約束する。
(エージェント・モーヌは向き直り、SCP-001-FRに銃を向ける。SCP-001-FRの脳造影図が夢想活動の混乱を示す。銃撃が原因と推測される。)
[収容室内でSCP-001-FR-Ωイベントに特有の異常性の発生が示され、この瞬間から記録が途切れる。]
記録終了
補遺2-インタビュー256-A
前記:この面談はエージェント・クライン、エージェント・モーヌ、SCP-001-FRのいずれも生命徴候を示さなくなり、SCP-001-FR-Ωによって消去されたインシデント256-Aに続いて行われた。文章は2つのインタビューを交互する。第一のインタビューはオーム博士(Dr Ohm)により主導され、第二のインタビューはエージェント・クラインにより報告された。
エージェント・クラインとSCP-001-FRの間で行われたやり取りは記憶に基づき、イタリックで表記する。オーム博士によるインタビュー中この証言を記録する間にそれに付されたコメントは手続きに従い引用符と角括弧で示す。
記録開始
オーム博士:インタビューに必要なため、自己紹介をお願いします。
エージェント・クライン:エージェント・ジョン・クライン、レベル4保安部門職員で、人間型SCPの身辺警護並びに高リスクSCPの輸送部隊警備を専門としています。
オーム博士:ありがとうございます。あなたはSCP-001-FR-Ωの犠牲になり…「非実在」状態を経験した他のあらゆる人物に反して、何が起きたか記憶を留めているようですね。ほんの僅かなことでも省くことなく、思い出せることを我々に今お話しください。SCP-001-FRが実際には何であるのか理解するために、あらゆる情報が決定的重要性を持つ可能性があります。
エージェント・クライン:わかりました。全てお話しします。
オーム博士:結構です。話を始めてください。より詳細を訪ねるため、いくつかの点を明確にするため、もしくはより単純に話を切り出すために話を遮るかもしれません。さあ、あなたの番です。
エージェント・クライン:わかりました…まず私が憶えていることは、トリス…エージェント・モーヌに殺害されたことです。私が彼を止めようと試みた後、彼が私に発砲してきたことは覚えています。ほんの一瞬の間、顔面に痛みを感じました…形容しがたい痛みを。次いで、私の目に黒いヴェールが掛ったのを覚えています。もしかしたら血でしょうか?私には分かりませんが。しかし、寒さを感じました。ひどい寒さを。それは…凍てつくような寒さでした。そして突然、私は感じました…いや。当然のことながら、私は最早何も感じませんでした。私自身の身体ではありませんでした。私は平穏な雰囲気しか感じませんでした。そして一つの存在を。
オーム博士:興味に値する何かを感じ取りましたか?エージェント・クライン:「興味に値する」?博士、あなたは理解しておられません。そこには月も太陽もありませんでしたが、それでも私は文字通り光を浴びていました。そこには低さも高さも、裏も、場所もありませんでしたが、私にとっては全てが…平常でした。ただ「空」がありました。そして私の周りには、男たちと女たちが居ました。しかしそれは…私たちと違いました。星の如く、彼らの体は宙に浮き、きらめいていました。彼らは皆目を閉じていて、そして…実際のところ、私は彼らは寝ていると思っています。深く。
オーム博士:少し待ってください。あなたは「空の中」にいたのですか?
エージェント・クライン:それは違う世界でした。しかし、そうです。私は空の広がりを感じたと思います。私は本当に空中を歩いていました。と同時に、私のそれぞれの歩みに波が起こりました。水の上を移動するように。それは…素晴らしいことでした。この「空」に関していえば、描写することは不可能で、その代わり。待ってください。いや。思い出しました。それはちょうどわずかな…これら亀裂の色でした。ご存知でしょう、SCP-001-FR-Ωを?カンバスの上のように街や人を貫く亀裂を?生のままの光。もっとも純粋な状態にある。我々すべてを包み込む。
オーム博士:「生のまま」?原始的な光について話されているのでしょうか。興味深いです。どうぞ続けてください。誰か他にいましたか?
エージェント・クライン:SCP-001-FR。この瞬間私があなたを見ているように、私は彼女を見ていました。ちょうど私の対面にいました。彼女は完全に目覚めていました。そして彼女は一切服を着ていませんでした。数多の黄金の絹糸を彼女は纏っていました。まるで光と影のように…彼女に服を着せるために彼女の周囲の空間自身が織りなしていました。ともかく、私の受けた印象はこのようなものです。彼女は非常に威圧的でした。同時に非常に綺麗でした。彼女は高貴な表情をしていました…私は彼女の言葉の逐一、すべての振舞いを覚えています…あなたに話しているときも、まるで彼女がここに、私の前にいるようです。紙とペンはありますか…?ありがとうございます。何が起きたか全て書き出そうと思います。思い出せる限りを。
エージェント・クライン、SCP-001-FR間会話再録開始
["初めに、私は彼女の方へ進みました。私は…魅了されていました。ええ、まさにその通りです。私が親しんだ眠っている少女とは全く違っていました。彼女はいつもと同じ年ごろでしたが、ずっと成熟していました。それが私が向かい合った女性でした。もしくは天使とでもいうべきでしょうか?私は完全に混乱していました。私は接触を持とうとしていました。軽率でした、それは認めます。もしあなたが彼女の反応を見たのならば。"]
エージェント・クライン:SCP… 001… FR…?
SCP-001-FR:お前は兄弟姉妹にそのように声をかけるのか、人間よ?奇妙な風習だな。だが、尊重しよう。私はワカンダ、ラコタの民、タタンカ・ヨタンカの娘。お前、述べよ、名は何と?
エージェント・クライン:私…私が言いたかったのはそのようなことではありません。私はジョン。ジョン・クラインです。「SCP-001-FR」は我々があなたに与えた名前です。雇い主と私が。
SCP-001-FR:いかなる権能を以ってお前は我が名と異なる名を付けたのだ?貴様に似た人間の口からそのような表現を聞いたのを覚えている。しかし、そは我が名にあらじ。私には我が父が与えたもうたただ一つの名しかない。私とお前が平等である如く私に話すことを許そう、お前は私と同程度に人間であるから。
エージェント・クライン:申しわ…何と言ったんです。君を不快にさせるつもりは全くありません。私たちはどこにいるんです?何も覚えてい…
["その時、突然すべてが思い出されました。フラッシュバックのように。それは凄まじい衝撃でした。二度目の死を体験しました、私はあらゆる人の死をもう望みません。友の手にかかって殺される…言葉を取り戻すのには時間が要りました。彼女、彼女は黙っていました。彼女は一瞥にして私を観察していました…同情に満ちていたかもしれません?ほとんど母性のようでした。起こっているすべてのことを彼女は知っていたと私は確信していました。"]
エージェント・クライン:彼は私を殺した、そうでしょう?トリスタンは。私は顔の激痛を覚えています。ほんの一瞬でしかありませんでしたが、決して忘れることはないでしょう。まるで頭蓋骨が破裂したようでした。そして、目覚めると、丁度ここでした…そして…この人たちは一体?本当のことを教えてください。私は死んだのですか?
SCP-001-FR:お前の周りで見たすべての人間は水晶の眠りに落ちている。お前とかつての私のように、彼らは人生と希望を築いた世界のことを夢見ている。そして最後には、遅かれ早かれ、目覚める。そして常に探し求めた父を見出す。しかし、お前自身の夢はこのようには終わらない。お前の目覚めを望んだのは私だ。私を守るために最愛の人物から命を奪うことを決心した際の悲痛な胸の内を感じた。しかしお前の友が致命傷になったに違いない一撃を与え、それらすべてが私の不徳であることを理解した時、私はあらゆる力でもってお前を死なせないように願い…不可能が起きた。ワカン・タンカが私の願いを叶えた。
エージェント・クライン:私を助けた?どうやって…ワカン・タンカとは誰です?私はその名前を知っていると思います。あなたが与えられた…神ですか?
SCP-001-FR:お前の「神」とは何だ?お前たちの偶像とは異なるぞ?お前にワカン・タンカのことを話そう。原初のあらゆる存在の造物主。人々、獣、木々、岩々のみならず、精霊、星々そしてあらゆる世界の無限。我々は「偉大なる精神」と呼ぶ、なぜなら、それは全てで、永遠だからだ。あらゆる被造物を愛すが、私の民草との間には特殊な紐帯があった。
エージェント・クライン:あなたは…まるで…まるで消えてしまったようなあなたの部族のことを話しているのですか。
SCP-001-FR:我が民草は…自然とともに平穏に暮らしていた。しかしそれ以上に、彼ら自身と平穏に暮らしていた。獣の兄弟の命を奪ったときには、彼らのために我々は祈り、戦わねばならぬとき、敵の戦利品を讃えた。ある時…白い人々が現れた。彼らは我々の前には父祖が住んだ、我々の住む土地を渇望した。数世紀前から我々の占める土地を。狡猾な約束で自由を奪い、恐怖によって我らを引き裂くことで、彼らは私の民草を隷従させようとし、兄弟同士の殺戮の欲望を我らの内に芽生えさせた。我々の多くは抵抗し、彼らに対して蜂起し、戦力差のある戦いにもかかわらず、勝利を捥ぎ取った。彼らは命を以ってこの勇猛な行動の代償を払った。服従することを拒んだあらゆる者のように、彼らは殺された。私の父もそのうちの一人だった。そして…
["ここで、彼女は止まった。まるですべてを思い出しているように…そのことの全てを。古き彼女の人生の全てを。"]
SCP-001-FR:その時、私たちはそれを聞いた。ワカン・タンカ。彼は泣いていた。その涙は人間のそれではないが、成長するに必要なすべてを十分に与えていると確信しているときに、血肉を分けた子供が傷つき、死んだのを見て憤慨した父親の涙だった。雷が、風が、雨が彼のために話した。白い人々は黙り、雲のほうを見て、耳をそばだてた。
["印象的でした。真の言葉の奔流でした。私は様々な人が話すのを聞いてきました。口達者や、生まれながらのいかさま師や、権勢を鼻にかけた典型がいますが、違いました。私はこれまで決してこれほど雄弁に自身のことを誰かが語るのも、これほどの信念と感情の籠った言葉を聞いたことはありません。私たち2人の内で、私は最も感動していました。しかし、それは始まりでしかありませんでした。"]
SCP-001-FR:その時突然、すべてが止まった。嵐の轟きは森の噂のようだった。我々は無邪気に、すべてがついに終わり、彼の苦しみは止むと考えていた。光の柱が地に立ち、空へ枝を拡げるまでは。人間よ、もしお前が今まで見た最も美しいものを訊ねるとしたら、この光であると答えるだろう、その甘美をお前はここで感じることができるであろう。それは高貴で、美しく、純で…それがワカン・タンカであった。しかし、我々は長い間それに見とれはしなかった。すぐに、それは輝きと暖かさを失った。消え失せ、お前も知る隠れた傷になった。人間はワカン・タンカを傷つけ、そして、ワカン・タンカが作り出す銀河の存在自体に傷を負わせた。生命と調和に満ちた彼の夢は打ち砕かれた。
エージェント・クライン:あなた方に起こったことは全て申し訳なく思います。あなたにもそしてあなたの部族にも。しかし…その後は?何が起こったのです?
SCP-001-FR:我が父はシャーマンだった。お前たちの呼ぶところの医薬を心得た者だ。彼は造物主とその被造物を救える儀式を知っていた。私にとってそれは全く自然なことだった、娘として、彼の選択に名乗りを上げるのは。それは私の夢と彼の夢が同じものとなるように彼の精神を包む如く、我が肉体を差し出し、ワカン・タンカと一体になることだった。 そうして、我が意識を用いて、彼はついに平穏の内に安らぎ、私は彼の精髄の染み込んだ作品を永遠のものとした。しかし、この儀式は極めて大きな危険をはらんでいた。 仮に何者かが我が眠りを妨げたなら、彼の苦痛は蘇り、結果として傷が開き、改めてお前たちの世界を焼き尽くすだろう。それが起きたことだ。そしてそれがお前の友に打ち勝った。全ては一切の存在なく夢から流れ出たものでしかないという考えは病的な恐怖に沈んでいる。現実を認めることを拒否しながら彼は自身を守ろうとした。だが…現実は彼を捕らえた。
エージェント・クライン:彼は今どこにいる?彼をどうした?彼は無事なのか?
SCP-001-FR:残念だ。お前の友が私を…我が肉体を殺そうとしたとき、私の居る部屋へお前の仲間が入り、彼に向かってお前たちがずいぶん好いている人殺しの玩具を撃った。時間がその行く道を取り戻したとき、弾丸は彼に命中し…彼は殺された。残念だ。このようなことは私も望んでいなかった。
エージェント・クライン:違う、違う!違う!彼はそんな奴じゃなかった。彼は悪人じゃない。彼にもう一度機会を、私にしてくれたように彼を救ってくれ。頼む、この通りだ。彼は幼馴染で何度も私の命を救ってくれたんだ。彼がそれに値しないというなら!私を信じ…
SCP-001-FR:お前を信じている。立ち上がれ、人間よ、よく聞くがよい。お前はまだすべてを理解できていない。私がワカン・タンカと一つとなった時から、一度も介入できずただ私の世界を見ていることしかできない。無力にも、死ぬことも、彼らと一緒に葬られる権利さえもなく、私は愛する者たちの死を見物し、人々が虐殺されるのを見守ることしかできない。もはや目は泣くためにのみあり、それ以後、彼らから遠く離れた私は高く、空にあった。私を恐れた人間の手により物の如く触り検めるために生地から引き離された我が古き身体と同じ程役立たずだった。しかし最悪の事態が起ころうとしている。私は全てを見ることができた故に、勇気を以て遍く世界を見つめた。そして私は何を見たであろうか?
["私には何と返せばいいのかわかりませんでした。ですから沈黙を守りました。何ができたでしょうか、あなたでしたら?"]
SCP-001-FR:我が苦痛は如何程でもない。幾千…幾百万の魂の苦痛には何物も比べることはできない。お前の属する民族が対立と殺戮を育んだのを見た。命を与えておいてそのあとそれを奪った。私の内に遍く国々の悲鳴を聞き、地に横たわる人々の苦しみを感じ、泥の中で、彼らの顔は金属の欠片で傷を負い、病で身体が腐り、彼らの内の一人は静かな胸の内に彼自身の命よりも彼がすがっていた文言を抱いていた。彼の周りでは、怯え死に瀕した影法師が大地を彼らの血で満たすべく霧の中へ消え、彼らの死に打ち勝つためだけに突撃していた。それは何故に?彼らに繁栄と平穏をちらつかせる思想の名の下に。それが戦争ではないか?彼らの兄弟のため人間によって組織された常軌を逸した皆殺しではないか?私は目を移したが、地球の至る所で同じ光景を見た。もし暴力が明らかでなかったら、暴力が被造物の肉体の内に刻み付けられたことを予想することもなく、苦痛の内に数千年に渡り、人間は胸の内に暴力を秘め、彼らを損なう開いた傷のようにそれを彼らの内に抱くだろう。私は膝から崩れ、涙を流した。なぜならその瞬間、世界の美しさを未だ信じていた私の内の少女が死んだからだ。
["正直に申します。道徳的に言えば、彼女は私をひどい状況に置きました。罪悪感を抱かせたことではありません。いや、それは心の叫びでした。もし彼女が私に泣くように望むのであったら、彼女はああはできなかったでしょう。"]
SCP-001-FR:そして、私は側に何かいることを感じた。それは私の耳に何かを囁いた。それが彼であった。偉大なる精神。私は彼の言葉を決して忘れないだろう…私は力尽き、私は立ち上がった。私が再び目を開けた時、私の知覚した世界はその時まで見ていた世界と異なっていた。
["私にはそれをどのように説明すればいいのか分かりません。彼女の気質は和らいだようでした。そして徐々に彼女は…喜びにあふれていきました。ええ、まさにその通りでした。"]
SCP-001-FR:街の廃墟の中心で、胸の星型の紋章のみが過ちであった男が彼の死を司る者の心持を変える旋律に命を吹き込み、細く長い指を奇妙な楽器の鍵盤の上を走らせるのを見た。父が死を児戯に偽ったことで未だ憂いのない少年の純粋な笑いを聞いた。処刑人の仮面に英雄の心を隠し、彼自身を裏切り、悲劇的宿命を約束された落ちぶれた民草に情けをかけた男を知った。私はついに目撃した。激しい戦争を遂行し合い、雪が大地と人とを追おうとすぐその翌日には、幼少の魂と失った友愛を再び見出し、武器を置き和解した敵対し合う者たちを。
["私の2番目に最も大切な願いはこの話を決して忘れないことでしょう。未だに彼女が生気と希望に満ちて話している様が浮かびます。しかしそれ以上に…彼女の微笑みを。彼女の微笑みは、先生。畜生。あの時したように彼女が微笑み続けるために俺は何だってするだろう。彼女の顔の一縷の光を不滅とするために。それは光り輝いていました。"]
SCP-001-FR:ワカン・タンカは非人間性の中の人間性を私に示した。この人間性はお前が私を守らんとした時に、お前の内に見出したものと同じだ。私の抱くこの人間性が今度は守ることを誓わせた。この誓いは果たされた。何が起きたか詳らかには知らないが、光がお前の身体を離したとき、私の中で何かが変わった。私は感じた…できると。明晰に。力強く。初めて、私にはあらゆることができると確信した。全ては私が影響を及ぼせる夢で、想像力の果実、我が民が「大いなる神秘」と呼んだ創造の至宝は私の意志の力によってのみ形作られることを理解した。
エージェント・クライン:夢… 明晰さ? しかしすると…
["その時、私は理解しました。非人間が聞く心持になれていない真実、私はそれを満身の力で受け止めました。真正面から。"]
エージェント・クライン:常に私たちの世界が現実だという希望を抱いてきました。それが私に勇気を与えてくれたのです。それが私を人生につなぎとめてくれていました。知っていること全て、体験したこと全て、私であること全て、愛したものすべてに確信を持つことは真実でした。「もしすべてが夢に過ぎないとしたら?」。あらゆる人類がすでにこのことを考えましたが、誰も決して受け入れはしませんでした。なぜならきっと我々は心の底で、この真実を恐れていたから。しかし今となっては私は全て理解しました。もしSCPが存在するなら、もし私たちが決してそれらを理解することに決してたどり着けないとしたら、もし超自然的事象が可能だとしたら、至極単純にそれは現実でないからです。まさに私たちのように。あなたは彼の岸に移ろわれた。これからは、私たちの宇宙はあなたの夢だ。すると私たちは?私たちは文字通り何者でもない。空虚。偽りの世界に繋ぎ止められた幻想だ。全部偽物なんだ。全部。全部!全部!
SCP-001-FR:人間よ、お前は自由と希望を信じるのか?生と死を信じるのか?愛を信じるのか? お前にとってそれらは真実か?答えろ!
エージェント・クライン:ああ。
SCP-001-FR:それでは、お前はそれらに触れることができるか?しがみつくことは、お前の近くで見守ることは、はたまた失うことは?
エージェント・クライン: 私は…いいや。
SCP-001-FR:お前は厚かましくも存在せぬ者は偽であると言い張るのか?お前は決してその両の手に幸福も宿命も握ったことはない、しかしそれでも、それは現実だ。それらの存在の内にあるお前の信念は揺るぎのないものだ。倒されざるものだ。私は、己の夢を信じている。夢が私を信じなかろうが、そのようなことは歯牙にもかけない。
エージェント・クライン:申し訳ありません。かっとなってしまいました。しかし、私はそれは間違っていると思います。あなたはご存じないかもしれませんが、人類は常にあなたを信じています。たとえあなたをついぞ知らなくても。
SCP-001-FR:そして極僅かのものが彼ら自身を信じている。だが…お前をお前の世界に戻す時間だ、ジョンよ。私が保持し、お前と話すことを許したこの明晰なる状態は束の間のものだ。それは私に想像に打ち勝つ意思の努めを要した。すぐに、私が常にそうあったように観想的な創造の源へ戻るだろう。お前が感じていることがわかる。そして私が2つの選択をなしたことも。1つ目はお前の内に私の言葉の銘々を刻み込み、お前の話を聞くあらゆる者がすぐさまお前の言葉を信じることだ。そうして、彼らも真実を知ることになろう。それを受け入れるかは彼らの自由だ…もしくはそれを忘れるかは。2つ目は贈り物だ。お前が別れを言う暇もなかったお前の大切な者たちがいる、そうであろう?振り返ってみろ。
エージェント・クライン、SCP-001-FR間会話再録中断
オーム博士:エージェント・クライン?なぜ突然話を止めたのですか?
エージェント・クライン:私は振り返りました。彼女の指す方向を私は見ました。2人の人影がありました。私たちに近づいてきました。初め、私は彼らが分かりませんでした。そして…
オーム博士:続けてください。2人は誰だったのです?
(エージェント・クラインは返答しない。感情を抑えるよう必死に努めているように見える。)
オーム博士:アリッサ・クラインとライラ・クライン、亡くなった奥様とお嬢さんでしょう。間違っていますか?答える必要はありません。あなた方兵隊は声を上げて泣くにはプライドが高すぎます。しかしそれがあなた方の名誉の全てです。あなたの準備ができたらインタビューの再録を再開しましょう。
エージェント・クライン:いいえ、大丈夫です。ええ、おっしゃる通りです。彼女たちでした。16年前に私たちが分かれてから、ずっとあっていませんでした。1944年の11月19日に…アウシュビッツで。
エージェント・クライン、SCP-001-FR間会話再録再開
["信じられませんでした。夢に違いありません。夢でしかありえません。彼女らは私の方へ走ってきました。とても美しく、幸せで…"]
SCP-001-FR:私は行かなくてはならない。この瞬間はお前のものでしかない。さらばだ、幸福たらんことを、ジョン・クライン。何故に死者が決して人生に戻らないのかお前が理解することを願っている。
エージェント・クライン:待ってくれ!いかないでください。どうあなたにお礼したらいいのでしょう…今までの全部に… ?
SCP-001-FR:私の目覚めを遅らせろ。さもなければワカン・タンカの作品は粉塵に帰し、この世界とその奇跡は永遠に失われるだろう。悪夢はこれからも夢に試練を与えなくてはならない。そして両者はそれから成長するだろう。エージェント・クライン:あらゆる人類の名に誓って、約束します。私たちは夢が末永く続くようあらゆることをします。私たちは大いなる精神の記憶を誇りにするでしょう。私たちの歴史で初めて、彼は…彼はその創造物に誇りを抱くことができるでしょう。
SCP-001-FR:彼は決して止まらない。
エージェント・クライン、SCP-001-FR間会話再録終了
エージェント・クライン:彼女は微笑んでいました。目を閉じて。そして空の光と一つになっていました。しかし、最早私は独りではありませんでした。彼女たちは、ずっとそこにいます。少ししてから、私は部屋の中で目覚めました。生きていました。
オーム博士:ありがとうございます。34年のキャリアの中で私が聞いてきた報告で最も完全で詳細なものだ。あなたの証言を信じます、クラインさん、証言は正確にして並外れて公正なものです、あなたの想像力の産物ではないでしょう。あなたも同意なさるでしょうが、このことはこの驚くべき記憶をあなたに与えたSCP-001-FRによってあなたが影響されたことを示しています。ですから、あなたが一時的ですがこれからはクラスE職員の一員と見做されることをご理解してくださいますね?
エージェント・クライン:ええ。
オーム博士:よろしい。今から所管物における欠缺の故にこのインタビューで最もつらい部分を勧めざるを得ません。O5評議会に代わって質問します。ジョン・クライン、SCP-001-FRが死の危機にあった時、あなたの義務が要請するように、すぐさまエージェント・モーヌを殺す代わりに、彼を説き伏せようと試み、任務を著しく損なったことはご理解のはずです。いかなる場合にあっても私情が干渉することがあってはならないことをご存知でしょう。危機的状況にあってはとんでもないことです。この結果より、以後あなたが彼女の保護に従事することは決してありません。加えて、降格並びにクリアランスレベルを4から2へと移します。あなたのキャリアに昇進の見込みは一切なくなります。軍歴を考慮して、解雇のみは免除されています。しかしながら、このインタビューの後、記憶処理薬があなたには投与され、あなたのあらゆる機密情報は消去されるでしょう。SCP-001-FRの存在も含めて。あなたの警備員についても同様のことを行います。
エージェント・クライン:理解しています。私の行動のあらゆる責任を認めます。
オーム博士: よろしい。どのように感じていますか?
エージェント・クライン:えっと、私は…迷っています。最後に家族に会えたことは幸せです。私たちが出会ったこの時代への旧懐の情も感じます。恐れもあります。先生、私は何を体験したのでしょうか?夢の中のもう一つの夢?それは私が腕に抱いた生の事物なのでしょうか?幻覚?天使?私にはSCP-001-FRに悪意があるなどとは信じられません。とても美しく。ただ…ただ私は決して夢を見ていたわけではありません。
オーム博士:まさしくそれが興味深く感じていたところです。彼女があなたを蘇らせたなら、SCP-001-FRは証明したことになります。一種の…全能であると。ある時は彼女は自分の見る夢の犠牲者で、無力で、ある時は夢を見ていることを知覚し、明晰状態になる。そして彼女は願望に基づきそれを自由に修正できる。私はあなたの考えが好ましく思います。彼女自身の言葉に従えば「何故に死者が決して人生に戻らないのかお前が理解することを願っている」です。なぜなら、あなたに従い彼女が善良であるとするなら、私もそのように信じますが、彼女はあなたの家族とエージェント・モーヌを生き返らせないでしょう。
エージェント・クライン:たぶん、私たちを失望させる世界と反対に、死は美しすぎ、完璧すぎるのでしょう。楽園の土を踏んだ者に再びのこの世界は価値のないものです。先生。「大きな力には大きな責任が伴う」であるとか、「主の道は尋ね難し」7 であるとか、学識深げな馬鹿げたことを話すこともできます。ですが、本当のところ、私はそのようなことを信じません。私の愛した2人の人物は人間の犠牲になりました。しかし、楽園にはいかなる者も達することができません。そしてそれは良いことです。
オーム博士:すると、あなたはSCP-001-FRが基本的に善い存在であると確信しているのですね?
(エージェント・クラインは突然椅子から立ち上がる)
エージェント・クライン:何を仰るのですか?「善い存在」?彼女は独りで立ち、不信仰や憎悪を浴びせかけ、彼女から未だ奪い去られていないただ一つの彼女自身の人生を取り去ることに熱中している人類全体に向き合っています。「善い」と仰いましたね? 彼女は彼女を分析の必要のある変異個体、はたまた消滅させねばならない敵とみなしている我々に、慈悲のヴェールをかけていないにせよ、非難無き視線を注いでいます。「善い」?彼女は武器も偏見もなく、好戦的な神々に、憎しみ深い半神に、骨ばかりの指で彼女を指し示す墓の向こうの霊魂に、そして苦痛を約束するように囁く死のような寒さに立ち向かいあらゆる人類から立ち上ります。そして彼女は?彼女は「愛している」と彼らに囁きながら、彼らが横たわる傷ついた心の底の黄金の牢を開き、閉じた両の目を晒すのです。それでもあなたは…私に仰るのですか…「善い何か」と?
(エージェント・クラインはしばしの間沈黙を保った後、着座する。)
エージェント・クライン:私とあなたの間ならお判りのはずです、いかなる言葉でもSCP-001-FRを描写できないことを。一切理解していない無限について話すことができます。ほとんど理解できていない死について話すことができます。しかし、私が出会った人物を描写するにはいかなる形容も適正でなく、高貴でなく、十分に美しくありません。
(オーム博士はしばし沈黙する。)
オーム博士:印象深いことです。あなたの立場でSCP-001-FRを知ったら、私も好意を持ったでしょう。いつの日か、もしかしたら…この幸せな記録、私たちの面会は終わります。最後に質問があります。私が言いたいのはつまり、ある謎なのです。「悪夢はこれからも夢に試練を与えなくてはならない。」この言葉をどう解釈するべきなのでしょうか? 黙示録の次なる予告なのでしょうか。?
エージェント・クライン:先生、私の意見が必要でしょうか、少し仰々しいかもしれませんが?
オーム博士:続けてください。お聞きしましょう。
エージェント・クライン:SCP-001-FRのような守護天使とともにあれば、人類が決して失わないものがあります。
オーム博士:戦争ですか?エージェント・クライン:希望です。
記録終了
O5評議会の全会一致の決定により、SCP-001-FRは人工的昏睡状態に置かれなければならない。我々がある限り、彼女の眠りを妨げることは許さず、夢の如く現実を消し去らせはしない。昨日まで、我々は我々の命のために戦った。今日、我々は忘却と戦う。
- O5-1