
人間が復讐心から開放されること。これが私にとって最高の希望、長い嵐の後に架かる虹である。
フリードリヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラはかく語りき』

こうして、彼らの復讐は終わった。

「ごめん。最後の最後でこんなことに付き合わせちゃって。」

優れた手足とは頭が潰えても変わらず動くものである。

(最早、関係ない。蛇の手の理念など。我が望みは唯一つ)

全てが魂に灼きつき、絡み付いている。

「お前の行く場所に俺も行く。そういう約束だ」

「私がレナーデを救えていたら、他人の死なんか怖がらずに済んだのに」

第七頁 - 一匹と一機 byDr_Knotty&
v vetman&
ykamikura
それからはずっと二人で生きてきた。一緒に眠り、殺し、歩いた。

どんな夜を過ごそうとも、朝は必ずやって来る。

空は、青く、高く、澄み切っている。

Coming Soon……

逃亡者たち
レンジ(櫺)
男性、二十代。蛇の手の過激な一派である"百歩蛇ひゃっぽだの手"の元殺し屋。GOCが用いる生体エネルギー放射視覚化戦術認識システム(VERITAS)に対して、完全に透明になれる。獲物はホームセンターで買ったネイルハンマー。相棒のラムダに付き合い組織から逃亡するが、目的意識は希薄。
ラムダ・シナフス
精神的には女性、精神的には十代後半。レンジの相棒。謎の流体金属生命体。普段は超常偽装フィールドを展開して、周囲の人間に「ごく普通の少女である」と認識させている。人殺しを厭いとい、組織からの逃亡を決意。……レンジを「デカい弟」と呼ぶ。
6311排撃班("ヤシオリ")
"ナギ"
男性、二十代。GOCの6311排撃班("ヤシオリ")の班長。前班長の殉職に伴い、班長に就任。班長を殺害した蛇の手の暗殺者を追う。ヤシオリ班長専用のブレードを受け継いでいる。
"キョウ"
男性、二十代。ヤシオリの新副班長。ナギの同期であり、長らくの戦友。寡黙で冷静。戦闘では多くマガタと組み、前線を守る盾を担う。聴覚に優れ、異変を察知するのが速い。
"マガタ"
男性、二十代。ヤシオリの若い隊員。血の気が多く、猪突猛進。単純明快な思考をしている。帰属意識が強く、前班長に強い恩義を感じている。戦闘では多くキョウと組み、初撃を担う。
"ルル"
男性、二十代。ヤシオリの隊員。欠員を埋めるためにやってきた新入りだが戦闘経験は豊富である。メンバー中唯一の呪術師で、後方支援を担当。飄々ひょうひょうとした関西弁で話す。
百歩蛇の手
シエスタ・シャンバラ
女性、二十代。百歩蛇の手のリーダー。前リーダーのヅェネラルの死に伴い、なし崩し的にその後を継ぐ。自分にも他人にも厳しい。アジトを襲撃したGOCと、裏切り者の二人組に復讐を誓う。悪魔を宿した腕輪の力で、有翼の蛇に変身できる。
アレン・ミナカタ
男性、二十代。百歩蛇の手のメンバー。シエスタに同行しつつも、二人組の粛清には反対している。穏やかながら、芯は強い。ディア大学の精霊魔術科を首席で卒業した優秀な精霊使い。
パヴェル・バシレフスキー
男性、二十代。百歩蛇の手のメンバー。根っからのバトルマニアで、スリルを与えてくれるなら誰とでも戦う。ハーマン・フラーの不気味サーカスの出身で、全身を武器に改造されている。
雛山龍三郎(ひなやまりゅうざぶろう)
男性、十代半ば。百歩蛇の手の最年少メンバー。気弱な性格。恩人のアレンを兄のように慕っている。触れた玩具を本物にできる。その能力以外は至って普通の少年。
その他の人々
(故)班長
男性、中年。ヤシオリの前班長。優秀かつ人格者であり、部下から慕われていた。百歩蛇の手が復讐のために差し向けたレンジとラムダに殺害される。高校生の一人娘がいる。
"ヅェネラル" プレシオス・リノプタル
男性、壮年。百歩蛇の手の前リーダー、と言うより独裁者。理由は不明ながらGOCに並々ならぬ復讐心を抱いており、目的のためには手段を選ばない。ヤシオリによるアジト襲撃で命を落とす。
レナーデ・クローデル・リノプタル
女性、二十代。百歩蛇の手のメンバーで、ヅェネラルの娘。心優しい女性で、シエスタ、アレン、ラムダらとも親しかった。ヤシオリの前班長に殺害されたらしいが──。
蛇の手
「人々には真実を知る権利がある」と主張し、異常の存在を知らしめることを目指す組織。構成員はほとんどが異常能力者か、異常な技術の精通者。規模は小さいながら、放浪者の図書館を通して全世界に渡るネットワークを築き上げている。思想上、GOCとは激しく対立している。
世界オカルト連合(GOC)
正常な世界の守護者を自認し、自らの統制下にあるものを除く全ての異常存在の破壊を目指す組織。国連の支援を受けており、豊富な人員と超常技術を含む高度な装備を保有する。思想上、蛇の手とは激しく対立している。彼らからは"焚書者ふんしょしゃ"とも呼ばれる。
ヤシオリ
GOCの排撃班(財団の機動部隊に当たる)。正式名称は6311排撃班。蛇の手との戦闘に特化しており、特殊な装備や技術を保有する。八岐大蛇やまたのおろち退治に用いられたと言われる八塩折やしおりの酒が名前の由来。
百歩蛇の手(ひゃっぽだのて)
蛇の手の一派。その中でも過激派中の過激派で、多くのGOC職員を殺害してきた。リーダーの渾名から"ヅェネラル隊"とも呼ばれる。噛まれると百歩以内に絶命すると言われる毒蛇が名前の由来。
VERITAS
Vital Energy Radiation Imaging Tactical Awareness System=生体エネルギー放射視覚化戦術認識システム。GOCが用いる超常技術の一つ。エーテル共鳴結像(ERI)デバイスの一種で、生物が放出する固有のエーテル性エネルギー場(AEF)、または生体発躍エネルギー(EVE)を検知することで、生命体の性質に関する情報、心身の状態や超常的な改変を定量することができる。
ホワイト・スーツ
GOC排撃班専用の戦闘用スーツ。体表密着型の強化下着の上に、人工筋駆動系や汎危険環境保護機能を備えた装甲を重ねている。さらに邪径技術(魔法や信仰に依存する超常技術群)を用いることで、超常的な効果を得ることもできる。
横浜市
この物語の主な舞台となる都市。神奈川県の県庁所在地。人口は約370万人。横浜港を擁する日本有数の港町。有名な観光地・シンボル的建造物は山下公園、氷川丸、マリンタワー、中華街、ベイブリッジなど。かつてペリー率いる黒船が来航し、日本における文明開化・異文化交流の中心を担ってきた。
放浪者の図書館
この世界の外に存在するという、図書館の外見をした広大な異常空間。これまでに書かれた、まだ書かれていない、永遠に書かれることのない、ほとんどすべての本を収めているという。世界各地に点在する"道"と呼ばれるポータルから進入可能。蛇の手は情報源や移動経路として利用しているが、彼らも全貌は把握していない。図書館そのものが意思を持つとも言われ、利用者が規則を破ると罰を下す。GOCは過去の事例から出入りを禁じられている。
※各頁のネタバレを含みます。自己責任でご覧下さい。
本がない図書館を彷徨さまようラムダ。転がる死体の数々。かつての仲間たち、GOCの追っ手たち、そして相棒のレンジ。その懐から覗く一冊の本。ラムダの絶望の涙が本に落ち、世界が歪んでいく。これは結末? それとも──。
百歩蛇の手の殺し屋レンジと相棒ラムダは、GOC排撃班の班長を暗殺する。現場を目撃した班長の娘を見て、ラムダは愕然とする。二人は娘を残し、その場を立ち去る。
百歩蛇の手のアジトで、行方をくらましたレンジとラムダへの対応を話し合うメンバーたち。裏切りと捉えて抹殺を叫ぶリーダーのヅェネラルと、決め付けは禁物と訴えるアレン。忠誠心からヅェネラルに従うサブリーダーのシエスタ。アレンを支持する弟分の雛山。二人と戦ってみたいという理由で、追放に賛成するパヴェル。
横浜中華街に潜伏するレンジとラムダ。これまでとこれからを話し合う。班長はヅェネラルの娘であり、ラムダの友人でもあったレナーデの仇だった。これを最後に百歩蛇の手は抜けるつもりだった。レンジに班長の娘との関係を聞かれ、ラムダは任務で潜入した学校の同級生だと答える──。
GOC排撃班に襲撃されるアジト。不意を突かれ、総崩れになった百歩蛇の手は壊滅、ヅェネラルも討ち取られる。逃げ延びたのは、ヅェネラルから謎の書物を託されたシエスタ他数名だけだった。
GOCが網を張っていると想定し、当面は横浜市内に潜伏することにしたレンジとラムダ。もう誰も殺したくないと願うラムダと、生き残ることしか考えていないレンジ──相棒と共に。
排撃班ヤシオリの班長が殺害され、副班長のナギが後を継ぐことに。横浜港に停泊中の司令船で就任式に望む。同期の排撃班オオタカの班長に労らわれ、これからは対等の立場だと笑みを交わす。司令官からヤシオリの班長専用のブレードを受け取り、正式に新班長に就任するナギ。
班長としての最初の任務は、前班長の仇討ちだった。班長の娘の目撃情報、犯人が落としていった護符による呪的追跡から、百歩蛇の手のアジトは既に突き止めている。また、司令官から前班長が何らかの密命を帯びていたことを教えられる。
キョウ、マガタ、そして新入りのルルを加えた部下たちと共に、アジトを襲撃するナギ。敵はあっけなく壊滅し、リーダーのヅェネラルも討ち取る。だが、前班長殺害の実行犯であるレンジとラムダはいなかった。装備の破損が激しいため、残党狩りは排撃班オオタカに任せ、一旦引き上げることに。
ブレードが早くも手に馴染んでいる。自分はもう副班長ではないのだと、ナギはぼんやり実感する。
東京・神奈川の県境の道路。ジープで逃走する百歩蛇の手の生き残りたち。今や新リーダーとなったシエスタは、レンジとラムダがGOCにアジトの場所を漏らしたに違いないと主張する。
彼女は知っていた。百歩蛇の手を抜けたいと願い出たラムダに、その条件としてヅェネラルがヤシオリの班長の暗殺を命じたことを──ラムダの同級生の父親だと知りながら。シエスタはラムダが復讐のために、GOCにアジトを襲撃させたのだと考えていた。真相は伏せたまま、シエスタは二人組の粛清を主張する。パヴェルは賛成するが、アレンと雛山はあくまで反対する。
GOCの排撃班オオタカのヘリコプターがジープに迫る。迎え撃つシエスタたち。激戦の最中、シエスタの脳裏を過ぎる親友レナーデの記憶。彼女からもらった護符を、悪魔の依代に作り変えたシエスタ。何故そこまでと問うレナーデに、本音を隠して自分のためだと答える。ヘリコプターを叩き落としながら、シエスタは大切な人を殺したGOCへの復讐──いや、鏖殺みなごろしを誓う。
目的地を問うパヴェルに、シエスタは横浜と答える。その懐にあの謎の書物を抱えながら。
夜明けにはまだ遠い時刻。大黒ふ頭上空を旋回するGOCのオレンジ・スーツ。搭乗者は部下たちの仇討ちに燃える、排撃班オオタカの班長。やがてシエスタが姿を現し、一騎打ちになる。
同時刻。拠点の私室で、新班長ナギの人柄について話すマガタとルル。繊細な所もあると評するマガタに、ルルはアジトでの戦いを思い出す。確かにナギは、少年の姿をした敵を撃つのを僅かに躊躇ためらっていた。
夜明け前。続く大黒ふ頭の空中戦。先に力尽きたのはオオタカの班長の方だった。消耗したシエスタは腕輪による変身が解けるが、そこを狙っていたはずの狙撃手たちはパヴェルに始末されていた。意識を失ったシエスタを抱え、姿を消すパヴェル。
早朝。連絡端末が鳴り、目を覚ますナギ。連絡は二件。一件目は前班長が帯びていた密命について。百歩蛇の手が所有する、書物の形をした異常存在。そして、二件目は旧友であるオオタカの班長が命と引換に得た、シエスタのデータだった。
部下たちが部屋に駆け付けてくる。市内の警察にシエスタからの通報があったらしい。焚書者どもに伝えろ、レンジとラムダは中央図書館にやって来る、と。ナギは罠の可能性を承知で行くと決める。復讐の炎は人々を飲み込みながら、どこまでも拡大していく──。
深夜、横浜市中央図書館に潜入するレンジとラムダ。彼らが来るというシエスタの密告を元に、中央図書館前で待機中のヤシオリの面々。マガタとルルのじゃれ合いに和みつつ、前班長の居ない空白を埋められないナギ。その時、評価班"四ツ角"から中央図書館に侵入者ありと告げられる。その姿が、VERITASを含むあらゆる機器に映らない、とも。
それから少し前、ラムダはレンジに"放浪者の図書館"を逃走経路として用いることを提案していた。ヅェネラルは横浜にその入口──"道"があると考えていた節がある。彼が調べていた資料に、"赤い靴"に関するものがあったことを思い出すラムダ。おそらくは道を開く手順と関係している。不良少年から奪ったスマホで「横浜、赤い靴」と検索すると、ヒットしたのは童謡『赤い靴』だった。
さらなる情報を求めて、中央図書館を探索するレンジとラムダ。会話中、ラムダの同級生に話題が及ぶ。辛いのかと尋ねるレンジに、分からないと呟くラムダ。自分より遥かに人間らしい相棒を、尊重しつつ理解出来ないレンジ。突如、一体の樹木精霊ドリアードが現れる。迎え撃つ二人に、相手は敵ではないと呼びかける。その声は百歩蛇の手の元同僚、アレン・ミナカタのものだった。
深夜の中央図書館。光学迷彩スーツをまとい、レンジとラムダを監視するGOC評価班"四ツ角"。直属部署である蛇の手対策課"薔薇の名前"からの《戦うな、放浪者の図書館の情報は聞き漏らすな》という指令に戸惑いながらも、任務を続ける。そこへ百歩蛇の手の生き残りアレンが操る樹木精霊が現れ、レンジ&ラムダと戦闘に。アレンが巻き起こした竜巻が、四ツ角の目と耳を遮る。
戦闘中と見せかけて、対話するアレンとラムダ。なぜ逃げたと問うアレンに、ラムダはヅェネラルの非道を告発する。ヤシオリの前班長が、自分の同級生の父親であると知りながら、暗殺を命じたと。自分を人間らしくしてくれたレナーデのためにも、もう誰も殺さないと誓うラムダに、アレンは手助けを申し出る。自分もまたレナーデの遺志を継ぎたいと語り、"デコイ"なる品を二人組に手渡す。
偽装を解き、四ツ角に挑む二人組。無力化には成功するものの、敵が放ったテーザーガンがラムダに命中し、電気が弱点と知られてしまう。グライダーに変形したラムダを背負い、屋上から飛び立つレンジ。しかし、早くも情報は敵間で共有されており、帯電弾で狙撃される。
辛うじて不時着した二人組に、排撃班ヤシオリのマガタとキョウが襲いかかる。感電して本領を発揮できないラムダを庇いながら、孤軍奮闘するレンジ。しかし、加勢に入ったルルの呪術によって形勢逆転、さらにラムダは何者かに切り伏せられる。「お前か。レンジってのは」凶刃の主の声に、レンジは同類の気配を濃厚に感じ取る──。
雑居ビルの一室に集う、百歩蛇の手の生き残りたち。鳥型妖精の目を通して、レンジとラムダを見守るアレン。帯電弾で撃墜された二人組に加勢を試みるも、GOC側の使い魔に阻まれ断念。仲間たちには両者接敵とだけ告げる。無表情に背を向けるシエスタに、アレンは問いかけることが出来ない。ラムダがヅェネラルに騙されていたと知りながら、彼女を裏切り者呼ばわりしたのか、と。
中央図書館近傍の林。ぶつかり合う二人組と排撃班ヤシオリ。班長ナギは上層部から託された密命を思い出す。奴らが持つ本を回収せよ、決して血で汚してはならない。レンジの所持品に本は見当たらない。それを確認したナギが前班長の仇を討とうとした、その時。足元に転がっていたスキットルが弾け、飛び出した中身がナギを昏倒させる。
時は少々遡さかのぼる。スキットルの中で過去を夢見るラムダ。レンジと出会った日。二人ぼっちで歩き続けた日。百歩蛇へ入り、レナーデから名前をもらった日。レナーデをGOCに奪われ、その仇討ちをシエスタと誓い合った日 それが人間らしい行いだと信じて。
そして、ヅェネラルのお膳立てでレナーデの仇を討ち、それが同級生の父親だと知ったあの日。愕然とするラムダに、レンジは「自分は生きてもいいか」と尋ねた。相棒は変わらない、相変わらず純粋だ。人間を真似ているだけの自分とは違って。違うからこそ守りたい。外の異変を察知するラムダ。自分たちの第一目的は「二人で生き残る事」だ。それだけを胸に、ラムダはスキットルから飛び出していた。
そして、現在。昏倒も束の間、ナギは再びレンジに斬りかかる。彼は前班長の仇に、己の鏡像を重ねていく。人間の形をしているだけの機能 なぜ前班長は、こんな自分を後継者に選んだ? 死闘の果て、敗走に移った二人組に、キョウの帯電弾が襲い掛かる。しかし、突如出現した謎の障壁が弾を阻み、二人組は辛くも逃げ延びる。
空き家の庭に隠れる二人組。記憶が混乱しているラムダに頼まれ、レンジは己の過去をたどたどしく語る。GOCに襲撃された生家。瓦礫がれきに息を潜めていたら、いつの間にか開花していた能力。暴力団にその能力を買われ、鉄砲玉になる。そして、抗争に巻き込まれて死に掛け、ラムダに出会う。「あんなに大勢死んだのに、自分だけ生きていいのか」。疑問を漏らしたレンジに、当時は名無しだった金属生命体は、武器を握る拳を真似た。生きろ、そして戦え レンジはそう解釈し、その手を握り返す。かくて、一匹と一機は二人になった。
レナーデの仇を討った、あの日。後悔に苛さいなまれるラムダに、レンジは何と言ってやるべきか分からなかった。大局的な方針は彼女に任せきりだったから。だから、あの質問を繰り返した 「自分はまだ生きてもいいのか」。当たり前だと、今度は言葉でラムダは応えた。だから、これからも基本方針は変わらない。二人で生き残る。それにしても不可解なのは、自分たちを守ったあの障壁 。
再び、時は少々遡る。月下の中央図書館前に佇たたずむ、ごく普通の高校生らしき少女。しかし、その前を通り過ぎるGOCの評価班は、彼女の存在を全く認識出来ない。少女は何者かと会話している。全て予言通り あのダンスは無敵だ あの場に本はなかった そして。
「あのはぐれメタルみたいなの 確かに、凛音りんねの声だったなぁ」
ごく普通の女子高生・朝倉 栞あさくら しおりは、父が好きだったかどうか分からない。国を守る仕事をしているという父は、いつも多忙で娘に対する関心が薄かった 少なくとも、栞の目にはそう見えた。こんなものかと悟ったつもりでいた矢先、父は謎の二人組に殺害されてしまう。
それ以来、栞は夜毎に奇妙な夢を見ていた。見慣れた街並みが、異世界のような光景に上書きされていく だが、今夜はそこで終わらなかった。キューサクと名乗る謎の紳士が現れ、これが世界の未来だと告げられる。父が所属していた組織とその敵の報復合戦の最中、ダエーワ年代記を血で汚してしまうのだろうと。キューサク曰く、それは古代の超常文明ダエーバイト帝国の遺物であり、血を捧げることで歴史を歪め、帝国を復活させるのだという。
実感が湧かない栞だったが、キューサクが虚空に映した関係者の中に、見知った顔を見つけて驚愕する。それは同級生で友人の円 凛音まどか りんねだった。相棒からはラムダと呼ばれていた彼女こそ、父を殺した二人組の片割れであった。キューサクは栞にダエーワ年代記を奪取し、世界を救って欲しいと頼む。ためらう栞を、キューサクはダンスに誘う。
病院のベッドで目覚める栞。その傍らにキューサクの分身リトルが現れ、彼の反ミームフィールドに隠れて病院を脱出する。栞は未だ混乱しつつも、凛音に会う決意だけは固める。どうやって探そうと悩む彼女に、リトルは次の舞台は確定していると応える。
「嬢ちゃん、中央図書館って知ってるか?」
長い夜が明ける。夢の世界で、キューサクは祈るように呟く。確保、収容、保護。
制作 永久欠番四天王