財団緊急通報、導入から1週間 利用者の反応は
公開日 2002年3月12日7:30
財団緊急通報が導入されてから1週間が経過した。実際に緊急通報を利用した人はどのような印象を受けたのだろうか。
「職員の方が電話先でとても丁寧に対応してくれました」実際に異常実体に遭遇し、財団緊急通報を利用した田岸 真由美さん(27)はそう語る。
財団緊急通報とは米国財団がマンハッタン次元崩落テロ事件後に開始したサービスである。このサービスにより危険性の高い異常と遭遇した民間人が財団に救助を求めることが可能となった。米国財団の統計部門によると、米国ではサービスの開始後に、異常関連の死亡者数の減少が確認されているようだ。
「残業でつい遅くなってしまって、急いで帰っていました。早く帰らなければと思っていたのですが、そのときに路地裏に奇妙な物体を発見したんです。始めはゴミかと思っていたんですが、それは起き上がってこちらに近づいてきたんです。それで私は怖くなって、財団に通報しました。」
「112」を押すことで、財団緊急通報を行うことができる。その際、位置情報とデバイス内の個人情報が緊急通報部門に送信される仕組みになっている。財団はこれらの情報を把握することで、救助の迅速化をはかっているようだ。
「電話をしたら担当者の方が丁寧に対応してくださって。すぐに職員を派遣してくれました。その後にも目の前の異常実体の対処方法とかを教えてもらえて」
財団緊急通報をすると緊急性の低い通報を除き、緊急通報部門の職員が応対してくれる。職員に異常の特徴を伝えることで、それに対応した職員が派遣され、異常を確保してくれる。財団81管区は通報から職員到着の時間は長くとも20分以下にしたいと声明を出していた。
また、電話先の職員が異常の特徴を聞き、類似の異常への対処方法などを指示してくれる。そのため、通報をすることで異常に遭遇した場合も適切な対処をすることができる。
「そしたら、すぐに職員の方が来て、異常実体を確保していただけました。その後に私は検査とインタビューを受けて、そのまま帰ることができました」
財団緊急通報は異常を確保するだけでなく、その後のアフターケアも充実している。通報者にはミーム検査等の様々な検査が行われ、異常に暴露していないか調べられる。また、財団は通報者にインタビューも行うことで、その後の収容作業を円滑にしている。
「本当に財団緊急通報には感謝しかありません」田岸さんは笑顔を見せながらそう言った。
日本での財団緊急通報の今後の動向を注視していきたい。
財団は語る
「緊急通報の導入により日本の異常による死亡者は大きく減少するでしょう」
そう語るのは緊急通報部門長の山西 康二。
最近日本では危険性の高い異常の発生件数が増加、それに伴い異常関連の死亡者も急激に増加している。また、異常を使用した犯罪なども増加傾向にある。
「また緊急通報により、市民と財団の繋がりが強くなることも期待しています」
これまで財団と市民の間には大きな隔たりがあり、財団による深い調査には大きな壁があった。だが、今回の緊急通報の導入により、市民と財団が連携することができる。より綿密な関係になることで異変をいち早く察知し、マンハッタン次元崩落テロのような悲劇を繰り返さないことにも繋がるだろう。
「そして、今後の課題としては職員の到着時間のさらなる短縮ですね」
専門家によると異常と遭遇した場合の死亡率は時間の経過と共に増加し、20分を超えると死亡率はおよそ30%にもなるようだ。現在財団は日本各地にサイトを構えているが、どうしても職員の到着に20分以上かかってしまう地域もあり、フィールドエージェントの数を増やすことで対処していくようだ。
「1日およそ400件の通報を解決させていただいております。異常な実体、物品、現象を確認された際はぜひ緊急通報部門までよろしくお願いします」
読者の皆様は異常と遭遇しても自身で対処せずに、財団緊急通報を利用していただきたい。
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野山は朝、電車内で見た新聞の内容を反芻している。
『「本当に財団緊急通報には感謝しかありません」』
1998年にヴェールが剝がれてから、異常と民間人の距離はとても縮まった。それ故、異常による被害も増加し、民間人が異常に遭遇する可能性も増加した。それで新規に作られたのがこの緊急通報部門だ。
野山はこれが緊急通報部門に所属して初めての出勤だ。期待に胸を膨らませ、デスクに腰を下ろす。自分もあのように人を救えるだろうかという期待に。
早速着信があった。すぐさま受話器を取る。
「もしもし」
女性の声。通報地点は住宅地、通報者は焦っているようだ。
すぐさまマニュアル通りの質問で応対する。
「はい、こちらSCP財団です」
「あの、少し困ったことがあって」
彼女はどのような異常に遭遇してしまったのだろうか、異常実体?異常現象?好奇心と正義感と義務感の混じった声で質問をする。
「何でしょうか?」
「財布がなくなっちゃって」
物品の転移現象だろうか、それとも財布を盗む異常実体がいるのだろうか。感情が増幅しているのを感じながら、一応マニュアルの通りに質問をする。
「鞄の中や、ポケットはお探しになられたでしょうか」
「ええっと……あ、見つけた。ありがとうね」
「……よかったですね」
そう答えたときには通信はすでに切れていた。野山の心には行き場のない様々な感情が溜まっていた。
野山はすぐさま部門長室に駆け込んだ。分からないことや困ったことがあったら聞いてくれと言われていたし、何より彼の心がそうさせたからだ。
「山西部門長、さきほど……」
事の顛末を聞き終えると、山西は苦い笑顔を顔に浮かべていた。
「えっと、何というか、その……」
言葉に詰まる山西を見て、すかさず野山は言葉を付け加える。
「おかしいですよ、部門長も新聞で言っていたように1日400件も通報がされていて、こっちも忙しいのにあんな緊急性の低い通報をするなんて。……新聞を読んでいないのでしょうか」
山西はさらに苦虫を嚙み潰したような顔になり、言った。
「実は……その400件のうち300件、いや350件は君が今言ったような通報なんだ」
「でも新聞に載ってたものは……」
「あれは1番まともな通報だったかな。その、申し訳ない事をしたと思ってるよ……通常はAICが緊急性の低い通報を見分けて自動音声で対処してるんだけど、たまにすり抜けることもあるんだよね。でも、そういう通報も対応していかないとさ……」
「ですが、警察とか消防は不要不急の通報は切断することがあるみたいじゃないですか。財団も同じようにしましょうよ」
「いや、そういう訳にはいかない。財団は警察とか消防とは違う」
…
…
野山はさっきの山西の妙に真剣な表情が頭から離れずにいた。だが、あのような不要不急の通報を許さない気持ちはそのままであった。
そして、着信があった。
「はい、こちら財団です」
「あ、あの、財布が……」
通報者は男性、通報地点は住宅地。「まただ。いっそのこと、もう通信を切ってしまってもいいんじゃないか」そう思いながら、一応マニュアルの通りの質問をする。
「鞄の中や、ポケットはお探しになられたでしょうか」
「いえ、違います。目の前で人が倒れてて、電柱の支柱?のようなものが財布を取ってるんです」
特徴を聞き、ピンときた。SCP-1259-JPだ。電柱の支柱のような姿で人から貨幣を奪うオブジェクト。
すぐさま通報者に指示をする。
「危険ですのですぐに異常実体から離れてください。あと、周りの人にも同様に離れるよう伝えてください」
「はい、分かりました。皆さん、ここから離れてください!」
「今から近隣のサイトから起動部隊が派遣されます。異常実体に決して近づかずに待機してください」
…
…
「おめでとう。初日からすごい活躍だったよ」
「ありがとうございます」野山は少し照れくさそうである。
「通報者は認知改変に耐性があったらしい。だからSCP-1259-JPの補食行動を認識できた。そして、君は即座にオブジェクトを見分け、適切な指示を出した。素晴らしいじゃないか」
「……部門長。すいませんでした。どのような通報でも切断しては駄目と気づきました」
「そうだな。異常っていうのはどの様なことがあってもおかしくない。一見緊急性の低い通報だったとしても、その中に助けを求める人間がいるかもしれないんだ。……でも、もう少し不要不急の通報が減ると嬉しいんだがな」山西は困ったように笑う。
「同感です」同じように野山も笑う。
山西はまた妙に真剣な、しかし先程より柔らかい表情になり言った。
「改めて、ようこそ緊急通報部門ヘ」
野山はもう一度新聞の内容を反芻した。
『日本での財団緊急通報の今後の動向を注視していきたい』
緊急通報部門の今後の動向は明るいだろう、確信を持ってそう思った。