太陽は黄昏行く空にその別れを告げようとしている。
一人の若き母親は彷徨う。彼女は彼女の初めての子供たちを輝く太陽の下に産み落とす。彼女は子供たちが必要とするであろう全てのものを手に入れんと歩む。彼女は雲が厚くなりゆくことを気に留めない。
この辺りでは鉄砲水は珍しいことではない。地球が叫びそれ以上飲みこめなくなるまで、空はその魂を地球へと注ぐのだ。
その母親は逃げようとする。彼女はそんなことは無意味であると知っている。それでも彼女はひたすらに走る。彼女は必死なのだ。彼女は彼女自身の命よりも遥かに危険に晒されている存在がいることを知っている。彼女の子供たちだ。彼女はその子らの泣き声を、耳ではなく心で聴いている。
彼女の足は土を踏み越え、次に泥を踏み越え、次に水を踏み越え、そして踏み出すことはできなかった。もし地球自身がこの攻撃に耐えることが出来なかったのなら、一体彼女にそれができるのだろうか?
彼女の体は終わりのない雨と泥に彼女が動けなくなるまで、息が出来なくなるまで、生きることが出来なくなるまで殴られる。彼女の最期の思考は彼女の子供たちのことである。
あなたたちを愛しているわ。
永遠に。
そうして、地球は彼女を飲みこむ。
永遠とは長いものだと、だんだんと彼女は学ぶことになる。
彼女は雷の音に目を覚まし、彼女の体はもう一度彼女を葬った風雨そのものに晒されることになる。彼女は自身の腕を動かす。彼女の体は以前とは違うようだ。こんなこと本当ではないわ。
その母親は天国と地獄の狭間に、生と死の狭間に囚われる。彼女は雨を感じる、かつての心地よい友を、彼女の存在そのものを徐々に喰らい尽くすものを。彼女は再び歩みを進める、ふらふらと。彼女は彼女の子供のところまで帰らなくてはならないのだ。彼女の骨が無慈悲な豪雨に溶けても、彼女は歩き続ける。彼女の脚が消えても、彼女はもがき続ける。やがて彼女は一度泣き叫び、そうして最後の一滴が彼女を洗い流す。
暗い嵐の夜にもう一度。その次も。その次も。
あなたたちのところに戻ってみせる。
たとえ永遠の時が掛かったとしても。
幸運にも彼女にとって、永遠の時ですらも終わりがあるようだ。