廃棄より焼却を
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 俺は、お世辞にも綺麗とは言えない生き方をしてきた。身なりもそうだし、たくさんの嘘も吐いてきた。だからというわけではないが、綺麗なものに頓着は特にない。

 しかし、目を閉じるたび──少し辟易するのも、確かだ。俺の瞼の裏には、いつだってゴミの山がある。

 ふとボーッとした時なんかに、瞼の裏に現れる風景。まあ心象風景というやつである。俺の場合のそれは、深い夜闇とゴミの山。しかもスクラップとか鉄屑の不燃ゴミとかでは無く、ご丁寧に生ゴミが中心のやつだ。臭いを感じられなくてよかったと、安心はする。

 ただ、この風景とも長い付き合いだ。ずっと見ているから、意識しなければ別になんとも思わない。それでも無くなるなら一番嬉しいが、消し方を知ってるやつはここにはいなかった。『心象風景 消し方』で検索しようにも、俺たちにインターネットの叡智を借りる術はない。

 結果として俺はこの風景に、折り合いをつけて生きている。いや、生きていた。今日までは。


   ああ、目の前が燃えている。

 目の前が燃えている。錯乱した職員が放った銃弾や爆弾が原因だったか、サイト-8138は火に包まれている。深夜の現実を、まるで幻覚の赤い野が包んだかのように、真っ赤な光が染めている。

444-out break状況: 00:15現在
プロトコル"焚書": 発動済

損害: サイト-8142全域、サイト-8138全域、サイト-8144全域、サイト-8181全域……

 そんなメッセージが、現実世界のディスプレイで明転して、やがてそれはショートして消える。誰もそれを見ることはなく、サイト-8138の全ての意識は焼き払われていった。

 サイト-8138の全ての意識はきっと焼き払われただろうと思う。俺になぜ、思えるだけの意識が残っている理由もわからない。

 あの鳥は  焔と血に染まり赫々と輝く緋色の鳥は、何もかもを喰らい尽くした。最初にソイツが見えたのが誰かはわからない。ただ愛すべき同僚どもが「烏に食われる」と喚き出した頃には、俺の心象風景にはソイツがもう居座っていた。

 目の前で、ゴミの山が燃えている。輝いている。光っている。最後に見えた現実は阿鼻叫喚だったが、こちらの炎は随分静かに俺の心象風景を、俺の心を炎に包んでいく。

 そのゴミの山は燃えて消えて行くのではない。火に溶かされ焼けていく俺の心は、可燃ゴミたちは、火のついたまま鳥に蹂躙される。ゴミ捨て場の鴉とは比較にならない大きさの怪鳥が、加熱調理したかのようにそれを喰らう。

 俺にできることは何もない。ただ俺の心と認識が燃やされ食われていく。その結末も悟っているが、俺にできることは、ああ、何も。

 空を仰ぐ。夜の闇だったはずの心象風景も現実も、その黒色は塗りつぶされていた。無駄なく、ムラなく、赤い。

 地上に目を戻すと、あれだけあった俺の心が、ゴミ山が消えていた。鳥を認識する。認識の鳥は俺を見た。俺も認識の鳥を見た。もう何もかもを燃やし尽くされ、食われていた。

「ありがとよ」

 笑った。この終わりは俺にとっては、生ゴミになれず、同僚を騙し続ける半端者のプラスチックゴミにとっては、これ以上ない結末だった。ああ、そうだ。認めよう。俺もこんなふうに、生ゴミとして燃えられるのなら、煌々と輝いて燃えられるのなら、そうしたかった。

 赤い鳥は、俺の心を知らぬまま嘴を寄せる。最後の最後に生ゴミとしてせいの終わりを迎えられた俺の心には、塵も残らない平野が広がっていた。

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