経費削減案
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「うーむ、どうしたものか……」
 サイト-81██の一区画、各職員に割り当てられた個人研究室棟の一部屋には、そんなことをぼやきながらネジの緩んだ椅子をギコギコと鳴らす北条博士の姿があった。
 大学で教鞭を取っていた彼の元に財団からのコンタクトがあったのはもう1年も前のことであろうか。
 生粋のアナログ人間である彼の『レポートは手書きであるべし』という主張は財団に従事しても変わることなく、この1年で相当数の報告書を書き上げてきた。
 そんな彼を悩ますもの─書類のビルが乱立する机に少しのスペースを空けて置かれている─は2枚の400字詰め原稿用紙であった。
「経費削減案ねぇ……ハァ……」
 今一度右手に持っている書類に目をやりため息をこぼす北条博士。
「いくら財政難だとはいえ、ここを削減するべきかねぇ……」
 誰もいない空間に向かって独り愚痴を吐いてみるが、当然応えるものはない。
 いいかげん気持ちの行きどころの無くなった彼は書類ビル群の中から電話を引っ張り出し、右手の紙に書かれている担当課へコールを入れた。
「はい、SCP財団日本支部██課です。」
 3度の呼び出し音の後、若い女性の声が応対をする。
 何故自分が今回の経費削減案の対象となったのかを今一度確認するために幾つか質問をしてみたのだが、彼が得られたものは紙の報告書の作成代がバカにならないという事実だけであった。
 ひとしきりの質問を終え、電話を切った博士は何度となく読み返した経費削減案を一瞥し『800字以内で報告書を作成すること』と書かれた一文に再びため息をつき、愛用の万年筆を走らせるのであった。
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