「やあ、マイケル。最近調子はどうだい?」
「そこそこって感じだよ。まあ、新婚ほやほやの奴よりは劣るがな。」
「何言ってるんだ、お前は名門大学行ってそこでの成績もトップ、それで今はどっかの最先端の研究施設についてるんだろ?俺みたいな凡人なんかより全然すごい男だよ。」
「まあそうだけども、最近こっちじゃどうにも結果が出なくてな。上からの支援も段々少なくなって、働いてるやつも減ってきてる。」
「最近は好景気だって聞くが、そんなに大変な仕事なのか、研究員っていうのは?ま、俺とお前じゃ中学からの親友なんだ、大変なことがあったらいつでも頼ってくれよ。」
「OK、困ったことがあれば連絡するよ。」
「先日、ニューヨークマンハッタンで女性一人を殺害しようとした男が逮捕されました。アメリカ国内の殺人未遂事件としては今年12件目で、家庭内問題以外での殺人未遂事件としては約6週間ぶりのものとなっています。」
「マイケルじゃないか、数か月ぶりだな。」
「あ、ああそうだな。ジョン。久し振り。」
「大丈夫か?今までずっと音信不通だったんだ。その間に中学の同窓会まで済んじまったんだぞ。お前なにかあったのか?」
「いや、最近施設で事故があってな。人員不足の弊害さ。」
「そうか。ここんとこ社会が平和になって経済環境も上々、世の中はウハウハだつていうのに、お前みたいな天才は中々排出されないらしいな。」
「むしろその逆なんだがな…」
「なんだって?」
「いや、むしろ俺のとこには肉体労働者の方が足りないって、そう言っただけさ。ウチではスカウトをかけてるんだが、最近はいいやつが少なくなってきててね。」
「さすが天才科学者集団、筋肉要員までスカウト制とはおみそれするよ。」
「他言無用な研究とかもやってるから、そんなポイポイ通してたら困るんだよ。」
「そんなことなら俺が雇われてやろうか?俺が元ラグビー部主将なこと、忘れたわけじゃないだろ?」
「やめろ。」
「おいおい、冗談だよ。急に怖くなったりして、本当に大丈夫か?最近のお前は何か背負い込み過ぎてるような気がしてならないんだ。俺たち親友だろ?どうか話してくれよ…」
「…いいや、疲れてるだけさ、それじゃあまたな。」
「先週から続いているバイカル湖周辺の封鎖についてロシア政府は一切のコメントを出しておらず、米国大統領は『極秘核実験を行っている』として非難しています。」
「どうしたんだ、その傷?また事故か?」
「ああ。いよいよ本格的にD、いや職員が足りなくなってきていてね、俺も軽く労働に付き合わされてるのさ。」
「そういうのってたしか少し前の言葉じゃ、ブラック企業?って言うんじゃないのか?働く男には心強い支援があるんだ、国や自治体も数年前からずっと労働改善、ってムードだろ。折角最近は世の中平和になってきてるんだから、お前のとこの仕事場もよくすべきと思うけどな。」
「無…大丈夫。安心してくれ。俺達にはやらなきゃならないことがあるんだ。」
人類は今、急速に進む発展の道を歩んでいる。
しかし、人類はなぜここ最近になるまでずっと停滞していたのだろうか?その答えは明白である。文明の裏で、私達のような団体が人類を守護していたからだ。
そして、その進歩は今まさに止まらんとしている。社会の幕から退場した人間の尽力により我々は地球の命を繋ぎ留めてきたが、今では平和と銘打たれている統制のせいで、舞台で忌み嫌われる者はいなくなった。
我々は、この世界の真の平和のため、更なる科学の発展のため、人類のために命を捧げる勇気あるものを募る。人類の叡智の歩みを止める者が存在してはならない。この世界を押し進める者、そして人類を恐怖から逃げ隠れていた時代に逆戻りさせる者を、我々はDクラス職員として、この財団で雇用する。
確保、収容、保護。
— The Dominator
「おい、本当なのか?お前があの"財団"の職員だって。」
「あぁそうだよ。何か問題でも?悪いが、俺の職場はフリーメイソンよか秘密主義なんだよ。"親友なのに秘密にしていてすまなかった"、でいいか?」
「人類のためなら人を殺してもいいと?じゃあ俺は、人を使い捨ての道具みたいに殺しておいて自分の軽傷一つで落ち込んでるようなやつを励ましちまってたのか!牢屋やヴェール幕の中じゃ人権は剥奪されてるとでも!?」
「その通り、お偉いさん方との密約でそう決まってるんだぜ?それに俺たちがその贄を差し出さなきゃ、お前も、お前の嫁も、お前のクラスメイト全員もまとめて、世界はとっくに滅びてる。社会の癌共がこっそり死ぬだけなのとどっちがいい!?」
「いい加減にしろよ、職員だから誰にも手出しされないだとか思うなよ?これ以上言うんだったらお前を…」
「殺す、か?大歓迎だよ、少なくとも今考えられる俺の死に方の中では一番マシだ。それにお前も、Dクラス候補1人を殺したって大した御咎めはないだろうよ。」
「……は?なあ、おい、マイケル、今お前なんて言った?Dクラス?お前は……死ぬべきような男じゃないだろう?なんでお前がDクラス職員になる?お前は優秀、選ばれて一握りの人なんだろう!」
「世界を狭く見すぎだ。俺より上のやつなんて、財団には掃いて捨てるほどいる。俺はエージェントに志願して、まだマシな待遇を受けさせてもらうつもりだよ。俺のポーズ次第では、腐った命綱はまだ切れはしない。それじゃあな。」
「今日未明ごろ、財団は全ての国家に優先するとの臨時国際法が制定されました。これにより、財団の統治と人類の平和は、より強固なものになっていくと予想されます。」
「…よお、社長さん。」
「やあ、マイケル。..また、傷だらけ、だな。」
「お前に同情されるようなことはねえよ。もう俺の体には他人の血がたっぷりしみ込んで、自分の痛みすら感じられない。結局、どんな世界でも、最後に笑うのは正直者ってことか?」
「なあジョン、もう一度、一緒にやり直してみないか?そんなクソッタレなエージェントなんか辞めてさ…今なら重役の席が空いてる、なんだって提供するさ。なあ、戻ってきてくれよ!」
「いいや、拒否するね。俺は財団の職員だ。大学でスカウトされた時から、死ぬまではずっと。だから、お前の会社には入れない。それに、俺の足枷の鍵はとうに溶かされるしな。」
「じゃあだ、ジョン。これだけは約束してくれよ。この世界がどんな風になろうとも、どんなに俺たちの主義が違っても、俺たちは親友であり続けるって。」
「分かった。それに、正直お前の死体石鹸会社Soap From Corpses Productsだなんてネーミングは嫌いじゃないしな。財団の名をバカにされた、だなんて言う上司サマをなだめるのが大変だったよ。そして俺は、財団に体を捧げても、この情だけは差し出すつもりはない。もとよりそのつもりだ。あんな奴らなんかに俺たちの仲を割かれはしないさ。俺たちはずっと親友だ。独り勝ちなんかより、互いの利益のために行動する。じゃあまたな、最上の友よ。」