頭の低い大人
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・SCP-059-JPは収容施設の最上階に収容されています。

・SCP-059-JPは5m×5m×7mの収容室内の床から2.5m地点に上下を区切る状態で厚さ30cmの強化ガラスで隔てられた二階構造の上部の部屋に収容されています。

・施設内において収容室を中心とした半径50m以内かつ収容室二階部分以上の高さの空間は封鎖され、いかなる職員も範囲内のその高さに上がる事はできません。

・(中略)

・面会を行う職員は二階構造の下部の部屋に入りガラス越しにマイクとスピーカーを用いてSCP-059-JPを見上げる状態でカウンセリング等を行います。

SCP-059-JP特別収容プロトコルより抜粋

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 高い高い塔の上。それが彼女のおうちです。

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「おはようございます」
「おはよおございますっ、せんせい」
「お元気ですか?」
「げんき!」
「元気なのはいいことです」
「さっきえほんよんだー!」
「あら、どんな?」
「らぷんちぇるー」
「……そうですか、それは良かった」
「ここにも、おうじさまくるかな?」
「……ええ、いつかきっと」
「うん!」

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・カウンセリング内容と収容室内に置かれる本の内容は、SCP-059-JP担当主任に一任されることになりました。

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 春。塔の下では桜が開き、上から眺めは、まるで桃色のカーペットが広がっているようです。

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「おはようございます。授業を始めますよ」
「や」
「……あなたは年齢で言えば小学校に入ってるんですから、ちゃんとした勉強が必要です」
「さんすうきらい。ほん読みたい」
「国語は2時間目です」
「算数いやー! さきに本ー!」
「国語は2時間目です、SCP-059-JP」
「……おばちゃん嫌い」
「先生と呼びなさい」
「おばたりあん!」
「どこでそんな言葉覚えたんですか」

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 夏。塔の上の学校にも、夏休みはあります。

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「おはようございます、SCP-059-JP。さて、今日は宿題の提出日ですよ」
「ま、まだ夏休み終わって無いじゃん!」
「その言い訳は去年も聞きました」
「ほ、ほら大人は子供を許すものでしょ?」
「13にもなって何言ってるんですか」
「読書感想文は5冊分書いたし!」
「数学問題集は?」
「……」
「……教えますからやりますよ」
「はい……」

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 秋。読書の秋、読書の秋、読書の秋!!

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「おはようございます、SCP-059-JP」
「ZZZ……」
「……お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す、SCP-059-JP」
「ZZZ……」
「……起きなさい!」
「わきゃっ!?」
「また夜更かしですか、まったく」
「ご、ごめんごめん。つい読んじゃって……」
「これなら高等教育受講合格祝いの本も取り上げるべきでしょうかね」
「それだけはご勘弁を! このとーりです先生さま! ジャンピング土下座ッ!」
「その位置は"頭が高い"と言います」

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 冬。寒くなれば、風邪を引く人もいます。それは塔の上でも変わりません。

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「おはようございます、SCP-059-JP。調子はどうですか?」

「……あんまり、よくないかな。まだ咳と熱あるし」

「わかりました、伝えておきます。ただの風邪です、すぐよくなりますよ」

「……」

「……SCP-059-JP?」

「……さっき、嫌な夢見ちゃってさ」

「夢?」

「あの朝の夢」

「……」

「夢の中で起きたらさ、家だったんだ。もう十三年も前なのに、覚えてるもんだね。そのままだった。ペシャンコになった父さんが。部屋中真っ赤でさ。……家、飛び出したよ」

「……」

「どのくらい走ったかな。あのお兄さんが出てきたよ、私が転んだせいで死んだ人。夢の中でもベキベキってすごい音がした。そこで目が覚めたんだ」

「……それはただの夢です、SCP-059-JP」

「ねえ、先生。私の病気ってもう治らないんでしょ」

「やめなさい」

「私、生きてちゃだめだよ。私のせいで何人も死んでる」

「やめなさい、SCP-059-JP」

「ねえ、せんせ……」

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「やめなさい、ナオ」

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「……」

「いいですか、ナオ。あなたが死んだところで何も解決しません。仮にあなたが死んだとして、あなたの病気の性質が消えるとも限りません」

「……」

「もしあなたが何かの責任を感じているのなら、その責任は背負う必要のないものです。それでも背負いたいというのなら、尚更あなたは生きるべきです。いいですね、ナオ」

「……うん、ごめん」

「謝る必要などありませんよ。……本当の責任は、十三年も何の手も打てない私たちにあるのですから」

「違う! そんなつもりで言ったんじゃ……!」

「今日は休みにします。暖かくして休むこと、いいですね」

「待って! おかあさ……!」

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「……わかったよ、担当主任。頭をあげなさい。もう少し、SCP-059-JP研究に回せる予算を増やすように上にかけ会ってみよう。ハハハ、泣きながら御礼なんて言うものじゃない、まだスタートラインに立てただけだ。その涙はオブジェクトが無力化された時に取っておきたまえ」

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ガチャリ、バタン。扉は閉じられ、部屋には男性が一人残されます。

ピ、ポ、パ。彼は電話を取ると、番号を押しました。

prrrr……prrrr……。

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「私です。ええ、SCP-059-JP担当主任の話です。彼女はオブジェクト単体に入れ込み過ぎています。異動前から聞いていましたがこれほどとは……。しかし、なぜ彼女一人に十三年も担当を? 教育を与えることといい、こうなることは予測ができたはずでは……ああ、なるほど、そちら系の理由ですか。……ええ、ハイ、彼女にはなんらかの記憶処置が必要かと」

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