人事部の登場

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"労働組合"の"人事部長"は窓の外、ハロウィンの夜の闇を見つめながら、ひとつ溜息を吐いた。

オーチャーディスト果樹園主。どうしてもあのリンゴを出荷せねばならぬと判断したか。」 と、彼は誰にともなく低く告げた。「我々はお前に力を与えた。だがお前はそれを悪用した。この町を保全すべき立場でありながら、混沌を招いた。」

身を起こすと、彼はオフィスを出てそのままロビーへ歩み出た。中にいた"労働者"たちは皆、動きを止めて彼を見つめた。彼は展示ケースへ歩み寄り、鍵を取り出して鍵穴に差し込み、ガラスを横に滑らせて開いた。

ざわめきが群衆の中で一斉に噴き上がった。新人の"労働者"の何人かは慌て始めたが、ベテランが「大丈夫だ、成績が振るわなくても許容される」と安心させた。

ケースに手を伸ばし、人事部長は大きな虫眼鏡を取り出す。それを軽く弾くと、長らく眠っていた彼の力がぱちりと火花を散らした。

「これは労働組合の規律に照らすと、即時解雇に値する。」


結局のところ、SCP――正確にはSCP-4683-2――に指定されるのは、信じられないくらい退屈だった。

オーチャーディストは床に座り込み、リンゴをひとつ錬成すると、心地よいザクッという音を立ててかじり、ため息をついた。財団は、オーチャーディストが出荷して回った「エリスのリンゴ」の後始末に追われている間、オーチャーディストを一晩ヒト型収容室に放り込んだ。

私は……やらかした。

目を閉じて眠ろうとする――退屈な独居収容で、ほとんど唯一できることだった。

「やあ、オーチャーディスト。」

オーチャーディストは目を見開き、"人事部長"の姿を見た。彼の虫眼鏡が、まるで警官の威嚇用警棒のように、掌にゆっくりと打ち付けられていた。

「お前は取り返しのつかぬ過誤を犯した。理解しているな。」

言葉を発することができず、彼はただ頷いて壁に背中を押しつけ、人事部長が近づくのを見た。

「私はこの日を大いに期待していた。全て平穏に進むはずだった。この町はこの時ばかりは静かだった。ピット・スロースも、他も何ひとつ起きなかった。」

話すうちに彼の目がぴくりと震えた。

「それをお前が全て台無しにした。」

「しかし――」

「お前は我々の目的から完全に逸脱し、さらに世界各地の都市を危険に晒した。人が死んでいる。それに……」

オーチャーディストは唾を飲み込み、声にならない嗚咽を漏らした。「全部、私のせいです。」

「よろしい。」

人事部長はくくっと笑うので、オーチャーディストは目に見えない暗闇を裂いて差し込む光――希望の微かな欠片――を感じた。大丈夫だ、大丈夫だ、私は――

「しかし、それだけでは足りない。」

「た、頼む!大口の注文だったんだ!誰かを、そ、そんなふうに傷つけるつもりはなかったんだ!」

「それでもやった。」

人事部長は虫眼鏡を、無意識のうちに隅へ退避していたその労働者へと向けた。「それはどんな弁明も通らない。」

弁明の言葉を絞り出そうとしたが、オーチャーディストの口から出たのは嗚咽だけだった。

「端的に言えば――」 人事部長は首を僅かに傾け、冷淡に笑った。「解雇とする。」

サイト-87の住人たちがオーチャーディストの様子を見に来たとき、彼らが見つけたのは隅に整然と掃き集められた灰の山だけだった。


施設の反対側では、キング博士(指定待ち)がオーチャーディストと同じ苦しみに苛まれていた。

退屈だ。

キングはぶつぶつ言い、耳から高圧蒸気のようにリンゴの種を噴き出した。あのヒト型SCPたちは、どうやってこの何もなさに耐えているんだ?

ある意味、おかしかった。彼はSCPを指定する側だったというのに、今や自分自身が指定されるのを待つ立場――全部クソったれなリンゴの種のせいだ。

鼻をすすりながら、目からリンゴの種がひとつこぼれ落ちた。いいじゃないか と彼は思った。もうまともに泣くことさえできない……

なぜ私がこんな力を得た?なぜ私なんだ?なぜ――

「おお、君はまさに完璧だ!」

目を拭っていたキングの思考を、声が遮った。声は左手の隅に立つ痩せた男からだった。

「え?あなたは……私に実験をしに来たとか?」

「いや、まったく違う!」彼はにやりと笑い、ポケットから虫眼鏡を取り出した。「君に職務の機会を提示しに来た。少し見させてもらおう……」 男は虫眼鏡越しにキングを観察し、ぱっと顔を輝かせ微笑むとそれをしまった。「君は理想的な後任だ。」

「誰の?」

「前任のオーチャーディストの代わりだ。」

「オー……チャーディスト?」

「そうだ。」

「……あなたは誰です?」

「私は"労働組合"の"人事部長"だ!労働者が誤った判断を犯さぬよう監督し、それでも犯せば……解雇する。」

キングは喉の奥にリンゴの甘さを感じながら唾を飲み込んだ。「その、『解雇』って言うところ、えっと、何を口ごもっていたんだ。」

「気にする必要はない。要点は、新たなオーチャーディストが必要で、君が最適だということだ。君は既にこの町からエネルギーを集めているな。その流れが君へ集中しているのが見える。その結果脅威度が増して、ここに収容された。異論はあるか。加わるならその力の制御方法を教える。対価としてスロース・ピットに寄与せよ。」

「加わらなかったら?」

「ここで残りの生涯を終えるがいい。他に何を期待する。」人事部長は元博士に手を差し伸べた。「どうだ?受けるのか。」

頭を掻きながら考え込むと、皮膚の小片がリンゴの種になって剥がれ落ちるのをキングは感じた。自分には、もうほとんど選択肢がないことを悟る。彼は人事部長の手を握った。

「契約成立だ。」

サイト-87の住人たちがキング博士の様子を見に来たとき、彼らが見つけたのは散乱したリンゴの種と、再びの、一体のヒト型異常存在の完全な消失だけだった。

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