・
・
・
プロトコル・ヴェルダンディ特別収容室内の録音機に、音声ログが一件記録されていました。選出職員による「後任への言葉」型メッセージでしたので、通常通り内容を一部編集した上で保存し、職員が次回以降の任務中に閲覧できるようにしようと考えています。
録音の文字起こしに、編集点を付記しました。該当職員の声紋は分析済です。音声作成・編集の方をお願いします。
・
・
・
Record 001-355
音声記録 自動書き起こし
記録者: ヴェルダンディ選出職員-0A3
時計がストップしたので、記録開始。
まずは改めて自己紹介を この度プロトコル・ヴェルダンディにてK-クラスシナリオに対処することになった、特別選出職員の今藤 粦です。
新任のあなたへ。あなたが任務に取りかかる前にこの音声記録を聴いてくださったのなら嬉しいです。時間停止直後というものは、どれだけシミュレーション訓練をしても緊張してしまうものです。研修で覚えたであろうこと以外の、ちょこっとしたアドバイスをさせて頂ければ。
もしあなたが任務完了後にこれを聴いていて、この記録に欠如しているけれど有用だと思ったことを見つけたら、ぜひ追加で記録を残してくださいね。
さて。
この世界には基本的に音がありません。例外的に時間が動いているこの特別収容室の外ではね。風雨の声は夜を通して聴こえませんし、空調の唸りも蛍光灯のコイル鳴きも止まっています。
任務に飽きたからといって、そこらのホテルのベッドやら野外やらで寝るのはあまりお勧めできません。自分の心臓の拍動以外何も聴こえない空間でじっとしていると、精神が不安定になる可能性があります。どうせ一度は薬で停止させているのに、と。
シナリオの原因がここから遠く離れたところにあるなどで、休息を挟みつつ移動する必要があるなら、道中は何かを再生しながら入眠するといいでしょう。個人的なお勧めは安眠系の音声作品です、あらゆる人のニーズに対応した、ありとあらゆるジャンルがダウンロードされているファイルを作っておきました。この記録の奥に入れてあります。個人的なお勧めはラジオとゆったりとした音楽ですが、同じものを連続で聴き続けるのはやめた方がいいですよ。嫌になってしまわないように、ローテーションさせるべきです。
えー、次は。食事の話ですね。
基本的に十分なだけの支給があるのは、勿論ご存知でしょう。複製された僕たちが、まさか共食いなんて起こさないように……というのは冗談ですが。種類はあれど、食べていると飽きがくる日もあるものです。
しかし、スーパーやコンビニなんかに置いてある商品を勝手に取るとその後の隠蔽工作が必要。保存食品を材料に使って調理をしようにも特別収容室内にあるのはIHコンロと電子レンジだけです。
そこで、一つオススメなのは、焚き火です! そもそも財団職員にだって休日はあるものです。我々も例外ではありません 安全な任務ではありますが、毎日働いていれば疲れる。当然のことです。
この近くにだってキャンプ場は幾らもあります。そういった所で軽く薪を取って来て火をおこし、いつもの食事を焼いてみたり、炙ってみたり。楽しいですよ。先ほど言ったことにもつながりますが、火がパチパチと立てる音は良いものです。ただし、火の不始末にはよく気を付けて。ああそれと、燃えかすには土をかけて均すなどして、何もなかったように見せかけてくださいね。
他には ああ。
気晴らしに、何か趣味のことをするのも良いでしょう。多少の私物の持ち込みは許可されています、先任者が嗜好品やらCDやらを遺していった棚がありますよね。僕からは、個人的に好きな小説のシリーズを置いておきました。既刊は二四冊ですが、二ヶ月ほど後来年に完結編が出ると予告があったので、書店で見かけたら立ち読みぐらいしてもバチは当たらないでしょう。[作品を、四年前に完結したものに置き換えています]
うん、僕からはこれくらいです。改めてになりますが、何か気づいたことがあったら是非記録を残してくださいね。きっと後任の役に立ちます。
……そろそろ録音を終了します。僕の主観時間でもうしばらくしたら、そちらの時計もスタートするはずです。今回の任務時間も0分0秒。これが一番早い方法ですが、ぜひタイ記録を作ってください。