ウプイリ

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karkaroff 2018/11/16 (金) 22:11:41 #72416532


ウプイリっていうヴァンパイアの伝説を知っている奴はいるか?

ロシアの空想上の化け物なんだが人の体に蝙蝠の羽、ワイバーンの翼を持つクリーチャーよりの化け物の伝説があるんだ。私の部下にそれを狩りだして世界の秘密を暴くんだって馬鹿を言った奴がいてな、そいつの話をしようと思う。

私が今の職について落ち着いたころの話だ。私は極東の僻地……わかりやすく言えばシベリアのど田舎でちょっとした調査に携わっていた。外に出れば涙も鼻水も、ついでに眼球も凍る極寒の地で調査にいそしみ。仕事終わりの暖かなスープとインターネットで友人と話すのが数少ない楽しみになっていた時期だった。

仕事が終わり、宿舎の暖炉の前で同僚たちとカラシニコフブランドのウォッカを飲んでいたとき、あの愚か者、あの狂ったロシア人のNがあることを言い出したのが発端であった。何日か前にルサルカ っていう妖精についての馬鹿話をした同僚と同一人物なんだが、こいつがウォッカ片手に立ち上がって言ったのさ。

「同志たちよ、我らが母なる大地ロシアには独自の怪物、ユニークなクリーチャーが住んでいるらしいんだ。」

「その名もウプイリ、人間みたいな顔をしているくせにリトゥーチャ・ムイーシ(蝙蝠の意)の翼にワイバーンのごとき爪をもっているらしい。その上変身能力までもつ吸血鬼だ」

大げさな身振りで酒の入ったグラスを振り回しながら彼はそう言ったのだ。ほどほどに酒が入っていた私たちは酒の肴に投入された話に興味をもって言いたい放題言い出した。

「何処に住んでいるんだ?」

「普通の吸血鬼と同じように杭を打てば死ぬのか?」

なんてNに聞いたりするものだから彼は得意げになって自室から1枚の地図を持ってきた。羊皮紙に手書きで書かれた無駄に雰囲気のいい地図を暖炉の近くのテーブルに広げて言ったのさ。

「これはカレリア共和国(ロシアの北西部)の地図だ。現在では廃村と無人の砦が残っているだけの辺鄙な場所で、32年前まで人が住んでいた。」

「この地図によると、この廃棄された砦には血を吸う怪物が封印されているらしい、一緒に買った記録によるとそれはウプイリの一人だっていうんだ。」

ここで彼は皆の反応を楽しみ、無駄に長くためた。私はどうせ与太話で終わるだろうとその隙にサワークリームとオニオンのディップソースを添えた手作りポテトチップスの追加を取りに行ったんだが、戻ってくる途中で歓声が上がった。

戻ってみるとNは同僚の何人かと叫んでいた。

「ヴァンパイアハントだ!」

Corpser 2018/11/16 (金) 22:18:05 #72412581


ヴァンパイアハント!その愛すべき馬鹿は尊敬すべきオカルティストだな!

まあ問題はそのヴァンパイアを見つけたやつはいないって事だが……実在しない怪物を追ってバカンスとは言い御身分だな。羨ましいよ。

Wretch 2018/11/16 (金) 22:23:46 #72419634


まさにB級映画のオープニングだな。ポテトチップスとコーラ持ってきた、もちろんサワークリームオニオンだ。
BBQが至高だっていうやつがいるが俺はサワークリーム&オニオンが最強だと思う、みんなもそうだよな?

RAAM2018/11/16 (金) 22:24:23 #72413515


馬鹿を言うな、プリングルスのテキサスBBQソース味に決まってるだろ。それにビールだ。サワークリーム&オニオンは炭酸飲料と一緒に楽しむには悪くないかもしれないがあくまで最高はテキサスBBQに決まってる。

ちょっとコンビニ行って買ってくる。

Troika 2018/11/16 (金) 22:27:04 #72414487


まあ落ち着け、最強はスパイシーケイジャンだがそれよりも俺はヴァンパイアハントの方が気になる。
それでその同僚たちは本当にヴァンパイアハントに繰り出したのか?

karkaroff 2018/11/16 (金) 22:30:17 #72416532


当然だが私はサワークリーム&オニオン派だ。チリやピザやBBQも悪くないがサワークリーム&オニオンが別格だと思ってる。

ああ、それで奴らは盛り上がって計画を立て始めてな……結局のところ奴らは本気で馬鹿をしたかったのだろう。

それから数日後、恐るべき熱意で上司から7日間の休暇をもぎ取ったNと5人の同僚は仕事が終わると大量の荷物をまとめていた。あの日から彼らはハンティング用や趣味の銃火器をいくつか持ち出し何やら準備をしていたのを知っていたが、実際に見てみると現実離れした恐ろしい熱意なのが見て取れた。下記に示すものは彼らが準備していた装備のうち、私が自慢されたものだ。

AK74Mと聖別された十字架を加工して作った5.45mmの銀の弾薬
オニオンソルトの散弾と12ゲージのショットガン
大型のクロスボウと物々しい杭とも矢とも銛ともいえるようなおぞましい何か
人数分の銀のダガーと30センチはありそうな杭
ガロン単位で用意されたタンク入りの聖水
20mm対戦車ライフル一丁(多分ラハティ L-39だ、橇がついた対戦車ライフルなんて他に知らない)

私は3重の意味で恐ろしくなった。どれだけ金をかけたのか?短い時間でどうやって用意したのか?いったい何処の映画の登場人物になるつもりだ?奴らは笑顔で言った。

「何をするにしても全力でやるものだ」

私はあきれ半分、羨望半分で彼らを見たが悲しいことに彼らの休みのしわ寄せは私に来ている。つまり奴らがハイテンションで楽しむ傍らで私は調査報告書を彼らの分もまとめねばならず、かけている資料や現地の写真を撮らねばならぬということだった。

それでも彼ら6人が戻ってくるまでの数日、私と仕事で残った(もしくは休みをもぎ取れなかった)同僚たちは平穏な日々を過ごすことができた。彼らがいないときに私の秘蔵のコニャックを開けてゆったりと楽しんだのはいまだに内緒だ。

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そしてヴァンパイアハントという名目でオカルティックな冒険を楽しみ、乱痴気騒ぎをして楽しんできたのだろうと思っていた彼らが戻ってきた。

彼らは一様に沈んでいて、その日、彼らからヴァンパイアハントの話を聞くことはかなわなかった。彼らはその後休んでいたように仕事に打ち込み、実際に話を聞くことができたのは数日後のことだった。宿舎の暖炉の前、またカラシニコフブランドのウォッカを飲んでいた時だ。

あの愛すべき馬鹿は他がまるで忘れ去ろうとしているかのように口を閉ざしていたウプイリ探しについて整理がついたとでもいうかのように明るく語ってくれた。

Troika 2018/11/16 (金) 22:44:54 #72414487


帰ってこれたんだな、結局ヴァンパイアには遭えなかったのか、それとも別のクリーチャーに遭遇したのか?
大層な装備を用意したんだ、何らかの成果があったんだろ?

アンチタンクライフルなんて代物を使うような怪物に遭遇できたのか?それともただのボアハントに?

karkaroff 2018/11/16 (金) 23:00:27 #72416532


何かに……多分何かに遭遇したんだろうな。

彼らは初日、カレリア共和国の空港、ペトロザヴォーツクに降り立つとあらかじめ手配していた2台のRVに分乗し、2日かけて目的地の廃村、地図でヒーシに囲まれし地と書かれた場所に向かったらしい。

そこは深い森と湿地帯に囲まれた場所で、ただ一つある線路沿いの道以外にその場所へたどり着くことは出来ないようになっていたという。人の手から離れて30年を経過した線路はかなり劣化していたらしいが、幸いなことに道自体はきちんと残っており、彼ら以外にも誰かが訪れた痕跡もあったと言っていた。

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村は20棟ほどの木造の建物と数棟のレンガ造りの家、焼き討ちされた痕跡のあるカトリックの教会と正教会の石造りの教会で構成されており、人が過ぎ去った今は自然に侵食されつつあり、ファンタジーとリアルの境界線上にある何処かという感じであったそうだ。

本来は砦もあったらしいが、そこにあったのは基礎となっていたであろう土台と見張りを立てていたであろう高台の見張り台あとだけであったらしい。

彼らは石造りの教会に野営地を作り、紫外線ライトと簡単なトーチカに対戦車ライフルを備え付けて陣地としたと言っていた。断言するがこれはNだけでなく他の5人の言っていたので間違いない、彼らは本気でヤル気だったようだ。

到着後、初日の夜、彼らは用意したウサギを教会の前のかつては集会に使われていたであろう広い空き地で血抜きをし、吸血鬼を呼び寄せるようにして夜通し交代で警戒したらしい。

その次の日は第一次世界大戦時代に使われた血漿(アンティークとして売られていたと言っていた)、その次はパックに収めた血液パック……最後はポーカーで負けた奴の血を少々……

だが結局のところ彼らは滞在期間中、ウプイリに遭遇することは出来なかった、滞在期間中は……

問題は撤収後、帰る途中の話だ。

交代で車を運転し、たまにはさむ休憩で装備のチェックをしていた時に、Nがあることに気が付いたらしい。

「なあ、なんで装備が8人分あるんだ?」

「滞在中使った消耗品も、食料のごみも、服やジャケットに至っては俺たちとサイズが違うものがある、こりゃあ一体なんだ?」

場は騒然となったそうだ。そりゃあそうだ、6人で冒険に言って8人分になるなんてありえない。

Wretch 2018/11/16 (金) 23:13:38 #72419634


やっている事も本気すぎて面白いが奇妙な話だな、ジャパニーズ『カミカクシ』みたいだ。
日本じゃゴーストもフェアリーもどれもこれも神様で、俺たちの世界でないどこかに気に入ったやつを連れて行ってしまうとか……

場合によっちゃ連れていかれたやつらは俺たちの世界じゃなかった事にされるらしい。

Senesca 2018/11/16 (金) 23:17:38 #72419614


僕はどちらかと言うとチェンジリングの方を思い浮かべた、イギリスやらの妖精が起こす存在の入れ替えさ。荷物が増えた二人はきっと別の何かの概念に入れ替えられたのさ『虚無』とかね。

karkaroff 2018/11/16 (金) 23:26:57 #72416532


さて……どうなんだろうな。私は日本の出身だが日本で暮らしている頃は『カミカクシ』を意識した冒険なんてしたことがなかったよ。

ただ、自分たちのものでない銃に着替え、果てにはコンドームまで出てきたら誰だってそうなると思う……彼らは村に引き返したそうだ、奇妙な荷物の正体を確認するために。

そして……そこには信じられない光景が広がっていた。

村にあったのは『崩れた正教会のものらしき教会』と『カトリックの自然に侵食されつつある古びた教会』だった。彼らが野営したはずの教会は瓦礫と化しており、代わりに木造の教会が建っていたのだ。

彼らは持ちうる限りの武器を持ち出し、教会を探索した。そこにはさらなる光景が広がっていた。

扉は銃撃で破壊され、教会の中には長椅子の残骸や瓦礫で作ったらしきバリケードが構築されていて床には大量の5.45mmの薬莢と、数発の散弾の空が転がっており、奥に建てられた十字架にはダガーが突き刺さっていた。十字架の裏は大量の血痕が残っており、貯蔵庫らしき地下に続いていたそうだ。

彼らは躊躇するなく地下に入ったらしい。

床にも、壁にも、そして事もあろうに天井にも血痕が付いていて、そこはもうパニックホラーものの映画を追体験するような光景だったという。

奥にはワインセラーが広がっており、誰かがもたれかかっていたかのように大きな血だまりが一つ分、それに.44マグナム用のリボルバー、スーパーブラックホークが一丁落ちていたと言っていた。

そして……ただ一言のメモがあったそうだ。

「アルマンを忘れるな、俺は砦に行く」

見つかったのは以上だ、地下も、地上でも何も発見することができず、当然ながら砦にも何もなかった。それで結局彼らは休暇のタイムリミットで帰ってきたというわけだ。

二人分の荷物の謎も、薬莢も、ブラックホークもあるのに持ち主は見つからずじまい
アルマンという名前の同僚に私たちも彼らも心当たりはないし、どうしたものかと狩りに行った連中でここ数日間悩んでいたらしい。

結局のところは、これを与太話にしてしまうしかなかった、というのが彼らの結論だった。

確かに酒のさかなにはもってこいの話であった。重武装してヴァンパイアハントに行った奴らと存在したかもしれない二人、RPGのシナリオにするには十分すぎるくらいだ。

だが、私はどうしても引っかかっている事がある、彼らはまったく気が付いてなかったが地下のブラックホークについて話したとき、Nは一人の名前を言っていたんだ。

「ボリスのブラックホーク」

と当然ながら同僚にボリスなんていないし、あんな大型の銃を使う知り合いは……いや、そういう知り合いはいるがわざわざそんな事をしに行く知り合いに心当たりはない。心当たりがないはずなのに……何故か知らない奴の顔がチラっと脳裏をかすめる感覚に私は今でもちょっとした恐怖を覚える。

あの場所には何かいる。それはウプイリかもしれないは、たまた何か別のクリーチャーかもしれない・
それが何かわからないが、ただ一つ言えることがある。

あそこは人が入ってはいけない場所だ。友人を大切にせず、失った事を嘆く段になってはもう遅いのだ。

なにせ奴は我々の認識そのものを喰らうのだから。

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