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紛争が奴を起こした、故に戦った
1989年2月██日 アフガニスタン某所 GRU"P"部局 局長 ゲオルギー・ベリーエフ小将
砲声が空気を揺らす、大量の炸薬と破片がズメイよりも悪辣でバーバヤーガよりも邪悪な爬虫類に降り注ぐ。
あの無駄に硬い爬虫類は砂塵の中に消えてもう姿を現さない、そう確信した。
3時間前
それはアフガニスタンからの撤退戦の最中であった。我々GRU"P"部局は我らが親愛なるソビエト連邦の行ったアフガニスタン侵攻によって得た異常物品を第40軍の護衛の下に運びだす任務に従事していた。
ムジャヒディンのゲリラ戦を駆使した妨害は激しく、戦力の10%余りを喪失した我々は砂塵の中にあの爬虫類を放った。全てを憎み何もかもを引き裂くあの不死身の爬虫類は当時、我々が財団を名乗る異常物品の収集組織から奪取したもっとも大きな戦果の1つであったが、私と第40軍の司令官との間で持たれた合意の下で奴を解放し暴れ回る隙に撤退を済ませようという魂胆であった。
そして、我々は失敗した。
あの怪物はムジャヒディンをいとも容易く蹴散らし、返す刃で我々に襲い掛かった。異常物品を輸送する我々は第40軍の護衛と共に今もなお移動を続けているが、その戦力を奴はあらゆる方向から食い破りつつある。
銃声が虚しく響き、ああ、今もまた1台の装甲車が奴の顎に砕かれ爆炎に包まれる。解放した時はたった5mほどだったあの怪物はたかが2時間で15mほどの巨体まで成長し今や兵士も車両も逃げまとうのみだ。
仕方なく私たちの部隊ごと焼き払うように命じた、戦車と野砲で奴ごと薙ぎ払うようにと。私は局員に仲間を囮にして距離を取るよう命じそして……私の乗る車両が部隊を離脱した数秒後、味方による火力支援が始まった。
砲声が空気を揺らす、大量の炸薬と破片がズメイよりも悪辣でバーバヤーガよりも邪悪な爬虫類に降り注ぐ。
あの無駄に硬い爬虫類は砂塵の中に消えてもう姿を現さない、そう確信した。
砂煙が晴れ、車列の残骸と夥しい数の死体が私の目に映った。微かに生き残った生存者がよろよろと立ち上がり何が起こったのかと呆然と周囲を見渡しているのがわかる。
だが怪物の、あの爬虫類の姿が見えない……そう思った次の瞬間だ。何かが……いやヤツが、ヤツが私の車めがけて物凄い勢いで突っ込んでくるのが見えた。回避など出来る訳がなく、私は車外に放り出され車は紙のように引き裂かれた。
奴が厭らしい笑みで笑ったのが見えた。ボロボロの鱗とギラリと光る牙を見せつけ絶対的な強者であることを見せつけるイルベガンは目の前で私の部下を一飲みにする。
私は動けなかった。ただ打撲と裂傷だらけの体を無理やり奴に向け、睨みつけてやる事しかできない。
奴はあえて恐怖を煽るかのようにゆっくりと近づいてくる。車両の残骸からは無線のノイズが聞こえてくるのがわかるが、動くには少々遠すぎる。
故に私は切り札を切る事にした。ただ数列を唱えるのだ。
「11、88、91、35、34、24、7、93、12、11、11」
奴は丸のみにした私の部下によって破裂した。高性能爆薬が体内で炸裂しのたうち回る。
私は車両の残骸に駆け寄って無線に叫ぶ。
「財団を呼べ!奴は遺棄する!それまでこの場にとどめろ!野砲をありったけ今の座標に撃ち込め!生物兵器を撒け!手段を問うな!」
私はそれだけ叫ぶと無線からの応答を待たずに駆け出す。後ろからはアレの咆哮が聞こえる、なにがどうあろうともあれは世に放たれるべきではない、奴らに押し付けなくては、なんとしても。
20██年 サイト-[編集済] 施設監督官 ██博士
「以上がSCP-682が奪取され再収容されるまでの経緯だ。GRU"P"部局の証言によるとエアロゾル式の細菌兵器の散布と断続的な砲撃による抑止によって我々が到着するまでの間ヤツを釘付けにしたそうだ。そして無事に奴と車両の残骸に残されていた異常物品の数々は我々に引き継がれる事になった訳だ。」
ホワイトボードの資料を指し示しながら██博士は機動部隊の面々にSCP-682の収容手順と初期収容についての説明を行う。大体の理解が得られた事に安堵しゆっくりと締めの言葉を述べようとする。
「あれはおかげで今のサイズまで縮小しているが、あの初期収容によって現在の強大な防御力の基礎を得てしまった。ゆえに現在の収容措置が取られているわけだ。決して注意を怠ってはならない、さもなくば」
アラートが鳴り響く。轟音と共に非常事態宣言が全館放送によって告げられる。それはオブジェクトの収容違反による危機的な状況を示すものだ。
「さもなくばこうなる、諸君、さあ座学の時間は終了のようだな、仕事の時間だ。」