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要注意団体一般人接触記録

GoI-8150("夢見テクノロジー")


「やっぱりまだ生きてたいなあ」

無意識に出た質問への返答だった。


接触日時: 2021年11月21日

対象者: 加賀谷 華 (23歳)


手術の前日、「話がしたかった」って、中学からの同級生が訪ねてきた。お互いの近況について少し話をした後に、彼女がぽつりと質問してきた。

『何かさ、夢とか、やりたいことってあったりする?』

なんで、と聞き返すと、退院したらさ、二人でそれをしようよ、どこかに行きたければ車を出すし、何かを食べたければいい店を予約しておくから、と彼女は答えた。少しの間があって、大きい手術って聞いたからさ、楽しいこと考えてちょっとでも気持ちが楽になればなって思って、と呟いた。

無意識に出た返答に、彼女は一瞬固まってから、やっぱりそうだよね、と笑う。


入院が続いていたある時、あの人の存在を知った。最初にその姿を見たとき、一生懸命なその姿に心を引かれた。そこから初めてCDを買ったし、出演する番組なんかはこまめにチェックして、毎日の楽しみが少しずつ増えていった。無意識に出た「生きたい」は、あの人の存在があったから。

元気をもらったの。あの人の一挙一動に。あの人の一言一句に。感謝の言葉を言いたかった。一瞬でいいから、面と向かって「ありがとう」って言いたかった。真っ暗になった私の道をもう一度照らしてくれた、私の一番星に。


GoI構成員行動: 対象者との会話、軽度の現実改変の実行



華の口から出た「生きたい」の理由は分かっていた。そこに私が含まれていないことも、私なんかじゃ華の心の支えになれなかったことも、十分理解していた。私の心の支えは華だったのに。ここ最近口を開くと、あのタレントの話しかしてくれない。私との思い出はもう、真っ黒に塗りつぶされて何処にも無いんだろうか。

でも、でもね、華が心の底から笑顔になれたのを久々に見れたのも事実だったの。わかってたよ、無理して笑顔を作ってくれていたことも。どこまでも人のことを気にかけれる所が私は好きだったんだよ。華が幸せならそれで良いんだ。いや、それが良いんだ。華が幸せに生きていることが、私の一番の幸せだから。

手術、成功するよ。うちの会社の技術なんだ、これ。華の願いは叶う。まだまだ生きていける。変わりに私のことは綺麗さっぱり忘れちゃうけど。ごめんね。でも華を助けることができなかった私は、星になれなかった塵は、必要ないと思うんだ。

私は私で、華から貰ったものを大切にしながら生きていく。それじゃあバイバイ。元気でね。幸せな人生であることを、心の底から願ってるよ。


対応: 対象者への聞き込み及び病院内のカメラ映像の確認。対象者はGoI構成員との面識は無いと回答した。記憶以外に異常が発生してないことを確認したため、記憶処理を実施し解放。カメラには構成員が病院を出るまでが記録されていたが、それ以降の足取りは不明。病院にエージェントを1名臨時で配置し、構成員が再度出現した際は隣接サイトより機動部隊を派遣する。

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