by stormbreath
サンドとバッグ
犠牲者の1人が車を衝突させた様子。あいつらもこの写真に写ってる。目には見えない。
何者なのか
サンドマンとバッグマン (と言っても、皆“サンドとバッグ”とだけ呼んでいる) は、シカゴ・スピリットで働く二人組のブギーマンだ。最初のうちはどんな姿か全く分からない — ある特定の方法じゃないと見えない。俺自身は、燃え尽きそうな炎の薄明かりの中でだけ、それもほんの数回しか、こいつらを見たことがない。夜も遅くに身体の細かい部分まで見極めるのは難しいが、背は低くて5フィートに少し足りない程度。そして、長い間何も食ってないのかと思うぐらい痩せている。実際、これは俺たちの推測だが、奴らは全くメシを食わない。
俺よりもこの世界の秘密に通じてるスピリットの一部組員から聞いた話によると、奴らの餌の摂り方は狩りと殺しを兼ねている。つまり – 仕組みは分からないが – 獲物を眠れないようにして後をつけ回す。それでいきなり死ぬことは無いが、誰だろうとそう長くはもたない。最後には自殺するか、疲れ果ててボロボロになる。何をやっても無駄だ。奴らに魔法をかけられちまったら薬を盛っても効果が出ない。
俺たちの知る限りじゃ、それが奴らの栄養になる。どういうわけか。
個人の感想になるが、俺はこいつらが恐ろしくて堪らないんだ。同じ部屋にいたって分かりっこないし、間違っても出くわしたくない類の化け物さ。妙ちきりんな刺客コンビ。何かを言ったり、物音を立てたりするのを聞いた試しも無い。どうやら口も利けるし音も出せるが、狩りの最中だけのようだ。いつか聞いてみたいなんてお世辞でも言えない。
どうやって出会ったか
この辺りの事情を俺はほとんど知らない。サンドとバッグがどういう経緯でスピリットに加わったか、組員たちの噂話は色々と耳に入って来る。ある日突然現れて俺たちの標的を勝手にやっつけ始めたから、こっちで仕事を割り振る方法を考え出したら懐いたんだ、なんて言う連中もいる。俺にとって、そういう奴らは口先三寸で丸め込める良いカモだ。
もっと分別のあるスピリットの組員は、チャペルかカートライトかミスター・ナイトがやったんだと噂する。上の奴らほどじゃないが、ミスター・ナイトの名前を出す連中も、俺はそれなりにカモにしてきた。ナイトが単なるおとぎ話だってのは誰でも知ってることだ。俺は一番最初の説を支持してる。チャペルが地獄と契約を結び、悪夢を人間の形に縛り上げて働かせているに違いない。俺はあの人がそれより遥かにえげつない事をするのを見たことがある。
サンドとバッグの給料がどうなってるのかはまだ確認できてない。チャペルが二人組を連れてきたか、他の誰かが召喚したのなら、点数稼ぎを気にしなくて済むぐらい前払いしてあるはずだ。もしくは、俺たちから請け負う仕事が気に入ってるだけかもしれない。背筋が凍るような考えだが、筋は通ってる。捕食者は皆、狩りが好きだからな。
普段の仕事
サンドとバッグは始末屋だ。腕も良い。あいつらほどクリーンな仕事ぶりはこれまで見た試しがない。新手のゴタゴタはあるが、大抵の場合、気にかけなくて済む。獲物を選び出して目覚めたままにする時、奴らはお気の毒なバカの下には痕跡一つ残さない。実際の殺人は標的自身に任される — そいつが身体を酷使し、そいつが勝手に疲弊し、そいつが自ら命を絶つ。サツが現場に駆け付けたところで、見つかるのは傷一つ無い綺麗な死体だけ。
ただし、気を付けろ。サンドとバッグの仕業は取り返しが付かない。慈悲は一切無い。狙わせるのは必ず、魚と一緒に水中でお寝んねさせたい相手だけにしろ。前に何度か、標的がくたばるまでの数日間で、そいつを生かしておかなきゃマズいと気付いた事件があったんだ – だが、もうどうしようもなかった。チャペルの最高の手札でさえ、睡眠遮断は取り払えない。だから、お前が二人組を送り込む相手の名前を書き出す時が来たら、そいつが本当に永久に始末すべき野郎だってのをちゃんと確認しろ。
やり方はこうだ。まず、標的の名前と、サンドとバッグがそいつを見つけるための助言を、紙切れに書き留める。シカゴ・スピリット (俺たちの名前の由来になったバー) の裏路地のレンガ塀、地面から大体4フィート半ぐらいの位置に割れ目がある。サンドとバッグの目の高さだ。紙切れを折り畳んで、そこに押し込んでおけば、夕暮れ前にはもう仕事が始まってるだろう。
やれやれ、まさかこんな話を書き足す羽目になるとは。
チャペル 対 カポネ
今は景気がいまいち宜しくない時期だよな? “暗黒の火曜日”以来、ぐっと冷え込んでやがる。勿論、俺たちの稼業は順調だが (俺たちは物事の正規の構造から大分離れた位置にいるからな) 、世間一般の雲行きは穏やかじゃない。善良で真面目な連中が大勢職を失った。不憫なもんだぜ。制度ってもんは、人が自分から働きかけなきゃ人の面倒を見てくれない。こんなクソみたいな事が起こるのも当然だ。
だが、俺たちの他にも、こんなご時世を上手く渡り歩いてる奴らがいる。アル・カポネのシカゴ・アウトフィット、昔からの宿敵。アウトフィットはこの街を俺たちより広く牛耳っちゃいるが、電力を掌握してるのは疑いようもなく俺たちだ。ともかく、カポネは新たに無料の炊き出しを始めた。あいつは名前を表に出さないように努めてるが、事情通 (つまり俺たち) は炊き出しの裏に誰がいるか分かってる。これは単なる慈善事業だ、地域社会への貢献だとカポネは言い張る。
さて、この話を聞いたチャペルは怒り狂った。俺はたまたまチャペルと同じ部屋にいたんだ。カポネ如きが自分より上等な慈善活動を始めるなどとは怪しからん、とあの人は言った。そして自分がカポネより遥かに貧しい孤児として、この街の路上でどんな風に育ったかを語り始めた。もしこの街の面倒を見る奴がいるとしたら、それはチャペルに他ならないと。チャペルは振り向き、俺たちに命じた — スピリットでも慈善事業に着手しろ。今すぐ。
リチャード・チャペルに歯向かう奴は誰一人いない。誰一人。チャペルが跳べと言ったら、どれぐらい高くですかと訊くのが当たり前だ。俺たちはすぐさま取り掛かった。
サンドとバッグの新しい仕事
なんでこんな小話がサンドとバッグの資料にホチキス留めされてるか、不思議に思ってるだろうな。
実は、あの時チャペルと同じ部屋にいたのは俺だけじゃなかった。どうやら (誰の目にも見えないから確かなことは言えないが) サンドとバッグもいたらしい。そして理由はどうあれ、あいつらはチャペルに従って今回の新しい活動をやることに決めたようなんだ。何故かって? 俺に訊かれても困る。誰も見当が付いてないんだ。あの部屋にいた他の皆と同じように、チャペルが死ぬほど怖くて、怒らせたくないからできる限りの手助けをしようと思ったのかもしれない。チャペルこそがあいつらの主人かつ召喚者で、指示の何処かに命令が紛れていたかもしれない。さもなきゃ、あいつらがある日突然現れて俺たちの代わりに敵をやっつけ始めたという噂は正しくて、今回もそれと変わらないのかもしれない — サンドとバッグは単に仕事が好きなのかもしれない。
俺たちの炊き出し場のキッチンに入ってみろ、鍋やフライパンがそこら中を飛び回るのが見られるぜ。サンドとバッグは、どういうわけか、天下一のとんでもねぇ料理人でもあったのさ。何故? どうやって? どういう事だ? さっぱり分からん。とにかく、あいつらはたったの二人きりでキッチンを小鬼みたいにあくせく走り回り、シカゴの街の半分を養ってる。一流シェフか? いや。美味いか? まぁ、毎日ご馳走を作ってはいる。そこは評価していいだろう。
俺? 相変わらず怖いよ。あいつらは未だに料理と並行して俺たちが依頼する暗殺業をこなしてるし、できる事ならあの二人とは同じ部屋にいたくない。
少なくとも、今なら日中の居場所は分かるがな。
