逃した砂は多い
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「姐さん、会った時から思ってましたけど、人相悪すぎませんか? 折角の美人が台無しです」
「……あなたと出会ったのはほんの数時間前だったと思いますけど」
「姐さんはそうかもしれませんけど、俺はもっと前からお近づきになりたい思ってたんですわ」

手足を拘束された状態でも身振り手振りをするように身をくねらせ、スモークガラスで隠された車内の空気とは場違いに明るい声で男は隣の女に話しかけている。柄シャツにチェーン、脱色で傷んだ髪に童顔を隠すためか口周りの無精髭。いかにも遊び人という風体で笑い方は騒々しく、関西風のイントネーションだがどこか白々しく演技臭い。土木作業でもしていたのか、柄シャツは砂まみれで動くたびにジャリジャリと音を立てる。そんな男の横で同様に拘束された女はキッチリとスーツを着込み、男の指摘する陰鬱な表情で運転席の方へ目をやった。反応が無いことに若干安堵した女に、休む間もなく男が話しかける。

「いやいや、こんなとこで出会ったんも運命って話ちゃうんかとね」
「運命の神様は皮肉ですね」
「ホンマホンマ、皮肉にも程がある。折角こんな美人に会うたのにこのままやったらドサーっと生き埋めでお陀仏」
「……あなたが密輸のルートを話したら私も解放されるのではないかと踏んでいるんですが、今宮さん」

女の名は梅田綾。ただ"財団"と呼称される秘密組織で世界の正常化に努めるエージェントの一人。男の名は今宮藤吉。関東一帯に影響力を持つ"指定暴力団有村組"の構成員。二人は揃って四肢を拘束され、車内に監禁されている。もう一度隔離された運転席の方向へ目をやった梅田に目ざとく気付き、今宮が苛立ち紛れにがなり立てた。

「気になります? なら説明しますけど、アイツらは最近うちのシマで火遊びし始めた半グレ共で、デッドラインなんて調子のいい名前の奴らですね」
「敵対しているのですか?」
「俺ら探っとったんでしょうに知らへんのですか? そういうわけやあらへんのですけど、末端でちょっとした小競り合いがあったんです。一応俺らはヤクザですからカタギ相手に手ぇ出すわけにもいかん。それを知って好きなように荒らし回って、ついにこっちのシノギまで土足で踏み込んできたんですわ。流石にそれは許されへんやろうと、少し〆たんですが甘かったらしい」

大げさに口をすぼめ、子どもの様に文句を垂れる今宮は運転席の方向目掛け唾を飛ばす。

「ガキの遊びの延長や思うたらあきませんね、仕事場を力づくで奪おうちゅうことで今回みたいな手ぇ打ってきたわけですわ。俺一人黙らせれば上手くいくと思うとんのかなあ、アホらし。いやホンマに話聞きに来ただけやのんに姐さんは巻き込まれる形になって、悪いなあ思うてますねん。気ィ悪くしたら堪忍してください、俺はあんまり学がのうて、思ったことすぐに口から出るんで、イラつくでしょ? 兄貴にもよお言われるんですわ」
「別に気にはしていませんよ、油断していた私も悪い」
「そらおおきに、で、どうしますか? このままやと俺も姐さんも、碌な目には逢わんと思いますけど」

どれくらいの距離を走ったかは分からないが、まかり間違ってもこのまま解放されることはないだろう。だが、すっかり暴力団関係に慣れたこともあってか、梅田は冷静さを保ち、逆に今宮へ切り込んでいく。

「あなたの言うシノギ、……仕事というのは砂の密輸で間違いないでしょうか?」
「御名答、はぐらかしてもしゃあないですね、まあこんくらいならええとこ弁当付きやし、姐さんとは協力しといた方がええ気もしますし」

状況の深刻さよりも梅田に話しかけられたことを喜んだのか、若干鼻の下を伸ばし、今宮はあっさりと曝露する。都市化が進む現代社会にとって建材の原料となる良質な砂の需要は非常に高い。しかし、その一方で過剰な砂の採取は地盤を変化させ深刻な環境破壊を引き起こす。その為、幾つかの国では資産である砂を巡り小競り合いが起こり、今宮のような裏稼業が関与することも多くある。

「いやあ、割と砂遊びも楽しいもんで砂運んで売っとばすだけで儲けられんねんからボロい話ですわ。何処に流すんか知らへんけど、金があって表の人間では触れんとこは俺らの仕事です」
「ええ、日本において砂は国有の資産です。窃盗の容疑は免れないでしょうね」
「そこをなんとか、……ならんわなぁ、正直事務所まで乗り込まれた段階で手ぇ引かなアカンとは思っとったんです、ホンマでっせ? ただ、そこであのガキどもが襲撃してくるとはヤキ回ったもんや。おかげさまでこんな美人とおんのに砂まみれで手ぇも出されへん。生殺しや、殺生やと思いませんか?」

セクハラめいた発言にも微動だにしない梅田の鉄面皮。
今宮はちぇっ、と舌打ちをして足元にたまった砂を靴の先で弄んだ。

「俺なあ、あの半グレちゅう奴らは嫌いですねん。何でか言われても困るんですけど、そうやなあ、アイツらは金を稼げれば何でもええってんでしょ? そのくせカタギと同じ顔で肩で風切って歩いとる。ヤクザの言えた口やないですけど、中途半端でしょうもない奴らですわ。姐さん、勘違いしたらアカンのですけど、俺らヤクザゆうんは弱いんです。弱いから人の目の当たらんところで人様に話せんことしてるんですわ。……あー、もしかしたらそういうとこがアカンのかな? なんというか、俺らは金持ちやぞー、強いんやぞー、いうんが」

ブツブツと一人で今宮は話し続ける。梅田は反応せず、拘束を解こうとしているのか身を僅かによじらせた。

「福島の兄貴はそういうんが気に入らんらしいんですけど、俺はそれが当然や思いますねえ。人様の目に触れられんもんは、人様の目に触れんもんが扱うんが道理でしょ?」

今宮が吐き捨てた言葉に梅田が僅かに目を細めた。

「あなたはそういう意見なんですね」
「? そういう意見も何も、道理とちゃいます?」

きょとんと目を丸めた今宮に梅田が何かを答えようとしたとき、車は乱暴に止まり、扉が開けられた。バンダナや目出し帽で顔を隠した数人の男たちが物のように二人を担ぎ上げ、器用に椅子へ縛り上げる。二人が拘束されたのは使われていない倉庫か、窓は曇り、外は見ることができない。背後には巨大なコンテナがあり、異様な存在感を放っている。ギャーギャーと文句を喚く今宮の頭へリーダーらしい男が鉄パイプを振り下ろした。鈍い音が響く。

「ぐげっ」
「手荒な真似してすいませんね、今宮さん。ちょっとお話したいんですけどいいですか?」
「話すも何も初手から暴力やないか、ガキどもが。金が欲しいなら額に汗流して働かんかい、俺を見てみい、こんなに砂まみれで頑張ってんのにこんな酷い目におうて、親が見たら泣くわ。死んだけど。というよりガキども、後ろのコンテナ、俺が使っとる奴やないか。商売道具やぞ、なんや、盗みよったんか、人の風上にもおけんやつらやで、あー、悲し、ほんの数年しか違わんうちに日本はこんなにダメになったんがふっ」

さらに一発が今宮の腹に叩き込まれた。空気が肺から押し出される異音。反射的な呻き声に覆面の集団が笑っている。梅田が思わず声をかけた。

「大丈夫ですか、今宮さん」
「大丈夫ちゃいますねん、姐さん。……しゃあないなあ、話だけでも聞いたるわ、何の用やねん」
「分かってるでしょう? あなたの握っているドラッグのルートをちょっと譲ってほしいだけなんですよ」
「……ドラッグ? 今宮さん。確か有村組では薬物の類はご法度では」

梅田の言葉に今宮は露骨に顔を背ける。知らなかったのか、とでも言うように覆面の男が梅田を見ながら、今宮の顔を掴む。

「今宮さん、俺たちが知らないと思ってんですか? ここんところ裏回ってるあのヤバい薬、どこで取ってるんですか?」
「知らんわー、俺クスリなんかやらんもーん、信じてや姐さん! 姐さん俺のこと調べとったんやろ!?」
「今宮さん、これはもうお願いじゃないんですよ、なあ、今宮よお」

狼狽する今宮の腹に蹴りが叩き込まれる。カエルが潰れたような声をあげ、今宮が椅子ごと倒れ込んだ。調子に乗ったのか、覆面の男たちがコンテナの扉を破壊し、充満していたのだろう、内部の砂が溢れ出る。その砂に今宮の顔が半分まで埋まった。容赦なく暴力が振るわれる。

「このままだと商売道具で窒息死しちゃいますよ、今宮さん。さっさと言えばもう少し楽かもしれませんよ」

幼さの残る丁寧な口調で執拗に暴力を加える。ぐげっ、げふっ、といった鈍い声が続き、その度に砂を呑み込んでいるのか激しく咳き込んでいる。

「止めてください、このままだと本当に今宮さんが死んでしまいます」
「……お姉さんもツイてないですねえ、こんな人に関わっちゃったから」

梅田の冷たい声に男たちが振り向いた。暴力に当てられ興奮しているのか、男たちの視線は明らかに下卑ている。その視線に嫌悪感を催しつつも、梅田は静かに、そして的確に。

「いえ、あなたがたと今宮さん、関わった度合いで言えば同じくらい後悔していますよ」
「……アァ?」
「お砂場遊びは楽しいですか?」

あからさまな挑発。一瞬で沸騰したリーダー格の男が鉄パイプを振り上げようとして止まる。動かない理由を確認しようと振り向いた男に、煙草の香りが届いた。

「……はあ、いや、ホンマしょうもないな、お前ら」
「ハ?」

いつの間に拘束を解いたのか、砂の中からゆっくりと今宮が立ち上がる。血まみれながら振り上げた鉄パイプの端を掴み、煙草を咥えたその表情は先ほどまでのそれと違い酷く冷めていた。今宮と梅田の視線がぶつかる。その目は感情のない虫のような目だった。

「姐さん、内緒でお願いします。一応商売で使うてるわけやあらへんので」

それだけ言い、煙草を吹き捨てる。砂の上に落ちた煙草は消え、最後の煙が伸びた一瞬、今宮は握った鉄パイプをぐるりと回す。剣道で言う巻き上げに近い動きは男の体勢を崩し、その喉へ渾身の突きが叩き込まれた。骨の砕ける音。目にもとまらぬ早業、梅田の知る名人でも対応できる人間は少ないだろう。軽薄な言動からは想像もできないその動きにどよめきよりも先に沈黙が満ちた。

「峰打ちですわ。まあ、骨の一本二本砕けたかもしれませんけど」

峰打ちと言うにはあまりにも殺意の籠った一撃。梅田を背に静かに鉄パイプを八相の形に構え、今宮は困惑を隠さない覆面の男たちにその切っ先を向け。

「あんな? かかわらんでええもんは一生かかわらん方がええねんで? それにあえてかかわろういうんやったら」

おそらく、笑った。


「なんか捨てる覚悟くらいはせえよ」


そこから先は嵐だった。今宮はたった鉄パイプ一本で20人近い男たちを叩き潰していく。
弁明の余地はなく、逃走すら許されず、丹念に、蟻を一匹ずつ踏み潰すように。その動きは尋常のそれから僅かにずれている。蒼褪めながら梅田はそれを見届け、最後の一人の肋骨が折れる音を聞いてようやく大きく息を吐く。自分の出血と返り血で赤く染まった今宮がゆっくりと近づき、梅田の拘束を解く。

「ホンマ堪忍なあ、こんなとこ見せるつもりやなかってんけど。でも姐さんが気ィ引いてくれて助かったわあ、あんくらいやったらちょちょっと逃げられてんけど、流石に油断させななあ」
「そして、秘剣ドラッグを使ったわけですね」

拘束が解かれた瞬間、梅田は跳ね、胸元のホルスターから拳銃を取り出した。SCP-221-JP、吸飲者に記憶に基づいた剣術の技能を与える煙草。近年不明な存在により流布されている異常ドラッグの成分がこのオブジェクトと一致し、梅田は調査に駆り出されていた。その結果、ルートの末端に炙り出されたのが今宮であり、砂の密輸に見せかけ薬物の輸送を行っていると推測された。そこで彼を狙う半グレ組織を半ば利用する形の計画が財団により計画、立案され、梅田の参加が求められた。つまり自分は疑似餌ということだ、と梅田は心の中でため息を吐く。対峙する今宮も一瞬で鉄パイプを構え、二人の視線が交錯する。ざりり、と今宮の体から砂が落ちた。

「えぇ……、この流れでそういう話なります? ここはほら、助けてもらったしこの短い間で関係が深まったとかで。というか、最初からこれが狙いやったん?」
「ええ、どこに隠しているのかが分かりませんでしたが、砂の中に隠していたわけですね」
「そんな怖い顔せんといてえなあ、せっかくの美人さんが台無しやで、猫みたいな別嬪さんやねんから」

軽口を飛ばしながらも、梅田は全身にピリピリと殺気を感じている。目は笑っていない。ただ静かに、自分を見ている。梅田はその目にかつての蜘蛛とは違う別のものを見た。
どれくらいにらみ合っただろうか、梅田の位置情報は常に作戦本部へ伝えられており、これ以上の沈黙は機動部隊の突入が有り得る。そのタイムリミットで、ふっと今宮が力を抜いた。

「……しゃあないか。ただまあ、捕まんのは勘弁してもらいたいんで、手打ちでどうでしょ?」
「交渉の材料があるとでも?」
「とりあえず、ハッキリ言えばまだこの距離からでも姐さんの首は狙えます。でも流石にそっちと殺し合いするんは本意やない。なんで、今回輸送してたモンは全部譲ります、そっから探れば優秀なそちらさんのことや、製造元やルートも分かるやろ。それと、転がってるこのガキども、死んではおらんけどほっといたら死にまっせ。だからもうなーんも手ぇ付けんと帰りますんで。それで手打ち、どうです?」

梅田は沈黙する。SCP-221-JPの持続時間はおよそ3時間。物理法則を超えた動きを可能にする場合もあり、銃撃したとしても終了までに被害が広がる可能性は高い。やり取りを聞いていたのだろう、小型インカムから了承の指示が出され、梅田は渋々と頷いた。今宮が鉄パイプを肩に回し、やれやれと両手を挙げた。

「おおきに、それじゃあ姐さん。追っても無駄ですんで、ホンマは俺、隠れるの得意ですねん」
「……ええ、そうでしょうね。私が蝶なら、あなたも虫のような目をしていますから」

梅田の例えに今宮は笑う。今までに見せたことのない満面の笑みで。

「……おお怖、姐さん、そんな怖い顔で睨まんといてや。俺は虫やとしたら可愛いおケラちゃん。土ん中でジージー鳴いてるのが精一杯ですわ」

その笑みのまま振り向き、砂を払いながら今宮は倉庫の外へと向かっていく。

「それじゃあ」
「ええ、お元気で」
「俺ねえ、猫は嫌いやねん。アイツら砂にクソしますもん。二度と会わんよう祈ってますわ、子猫ちゃん」

一切振り向くことなく今宮は呟く。その呟きに梅田は無性にバニラの姿を見たくなった。




『オッカム』のカウンター席に二人の男が座っている。一人は柄シャツの男、今宮。もう一人は長身の男、有村組の若手幹部、福島。酒が飲めないのか牛乳の入ったグラスを片手に今宮が雰囲気を壊すような軽薄な笑い声をあげた。関西風のイントネーションのわざとらしさが増している。

「兄貴、ええ女でしたね」
「会ったのか」

静かにグラスを口元へ運ぶ福島に今宮は頷いた。砂がバラバラとバーカウンターに散る。

「はい、兄貴の好み違うか思うてましたけど、最後に話した時、あの目を見て分かりましたわ」
「そうかよ、……で、仕事は上手くいったか?」
「ええ、そりゃあ万事順調で。アホのデッドラインには痛い目見てもらいました。あと、あの薬もちゃんと潰しときました、あくまで譲歩の形で流してる連中を掴ませましたんで。今頃摘発されとんのちゃうか思いますけど、それにしても吹っ飛ばすのは中々爽快でしたけど変なとこにバレたら破門されるんちゃうかと冷や冷やしてましたわ」
「お前がそんなタマかよ」

ケラケラと笑いながら今宮は懐に手を突っ込み、何本かの煙草をカウンターへ突き出した。福島はそれに目をやることもなくゴミ箱へ放り込む。

「ただまあ、しばらく禁煙せなあかんのが厄介ですけどね」
「これで大國組んところは弱るだろ。東南系のマフィアと組んであんなもん流されちゃ親父に合わせる顔がねえ」
「そんなこと言って、兄貴この前も東栄んとこの仕事潰したんでしょ? 兄貴の異常嫌いはどうにかならへんのですか?」
「俺は嫌いなんじゃねえよ、ただわけの分からねえとこで分からねえことされるのが嫌ってだけだ。まあ、とりあえずよくやったな」

含みのない称賛に今宮は頭を下げる。砂がまた飛び散った。

「へへ、ありがとございます。親父にもこれから挨拶しに行きますんで」
「上手くやれよ。それと」

福島が今宮の体を軽く叩こうとする。同時にその体から砂が溢れ出し、手に絡みついた。生き物のように蠢くそれを払うと今宮の胸元へ滑るように帰っていった。残った砂を払い、胸元を指差す。

クレイシー、付けて動くんじゃねえぞ。親父の前なら俺より機敏に動くからな、それ」
「そりゃもちろん、こいつらは俺の飯のタネですから。こないだもコイツが気ィきかして手やら足やら自由にしてくれたんでね。砂に混ぜて建土やいうて通して、珍奇なもん好きな金満家に売れば金になるし、繁殖させるんも簡単やし。コイツの動き見るにあの姐さん方もこっちには気づいてないみたいですし、俺にとっての福の神ですわ。コイツがおればこれ以上捨てることはない」
「……好きにすりゃいいけどよ」
「ええ、好きにします。それと兄さん、クレイシーいうんはどこぞの保護団体が勝手に付けた名前やから、別にこだわらんでええんですよ?」

ヘラヘラと笑う今宮からグラスに視線を移し、福島は手持無沙汰に弄ぶ。砂が混ざっていないか持ち上げて、そこでふと気づいたように問いかけた。

「お前、ケラを名乗ったって?」
「へへ、ちょっとした洒落です」
「よく似合ってると思うがな、何処でも平気の平左で潜り込んでやっていける。そして知らねえ間にその根を食い荒らす。いいじゃねえの」

悪口のようにも聞こえるその言葉に、今宮は唐突に牛乳を飲み干し立ち上がる。

「ははは、蜘蛛には負けますわ。それにほら、蜘蛛だろうと螻蛄だろうと、子猫の玩具に過ぎませんやろ」
「……ま、それもそうか」
「それじゃあ、おあとがよろしいようで」

扉に付いた小さな鐘が鳴る。今宮が姿を消し、カウンターに残った砂粒を丁寧に弾きながら福島はため息を吐いた。
砂上の楼閣、ふとそんな言葉が頭をよぎり、何故だか無性に懐かない猫に会いたくなった。

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