サンディは思ったより冷たい
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アイテム番号: SCP-9L14
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: ボーリング協定に詳述されているように、SCP-9L14-1群はGoI-466(ウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューションズ)によって収容されています。担当職員は1ヶ月に1回、収容状態の監査を行なってください。また、新規に発生したSCP-9L14-1は収容は行わず、定期的な観察を行ってください。

 


 

「……とのこと」

そうサイト-64の搬入口でエージェントであるアラン・グリフィスは報告書の映った画面をスクロールしながら言った。そこにはトラックが何台か止まっており、そのうちの一台の前で二人は話していた。

「いくらWWSが動物系のオブジェクトの収容に長けているからといって、わざわざ国外……しかも収容体制が安定しているイタリアから運搬する必要はないんじゃない?」

同様にエージェントであるメラニー・ラパポートはラベルに目を通して問いかけた。

「見てみなよ」

アランはリアドアを大きく広げた。内部には金属の箱が敷き詰められており、どうやらその一つ一つに"対象"は収容されているようであった。

「えーと、これって見ていいやつなの?」
「あぁ。担当者である僕が許可しよう」
「そうじゃなくて」

メラニーはため息をついて、トラックの中の暗闇にやっていた目線をアランのほうに向けなおした。

「見たり聞いたり知ったりしたら頭が爆発したりしちゃわない?」

認識はしてるからもう手遅れかもしれないけど、とメラニーはおどけて言った。

「まさか!壁を駆け上がることができる分ゴキブリの方が厄介かも」

メラニーは箱を一つ暗がりから運び出し、慎重に蓋を開けた。中には砂の塊が入っているだけであった。動物だと思い込んでいたせいか、それは面白くないジョークのように思えた。メラニーは怪訝な目でアランを見つめた。

「まぁまぁ。特別収容プロトコルが制定されているのに説明が無い報告書なんてないさ。今からWWSに届けにいくんだけど、一緒に来るといい。というかメラニーにも来て欲しいんだ。もし僕に何かが起きた時のために、業務を引き継げられるようにしておきたい」

メラニーは午後の予定は特に無いことを脳内で確認してから、己の好奇心に従いトラックの助手席に乗り込んだ。

 


 

説明: SCP-9L14は700〜800gの土砂の集合体(SCP-9L14-1)が自律的に活動する現象です。SCP-9L14-1は地面を擦るように移動する際に、SCP-9L14-1を構成する土砂は徐々に分離し、最終的に崩壊します。バッタ等の昆虫類を内部に取り込み、未知のプロセスで土砂に変換することで体積を増加させることができます。SCP-9L14-1は15℃以下または40℃以上の環境下では移動が低速になり、5℃以下または50℃以上になると完全に停止し、気温が変化しても再び移動を開始することはありません。また、水と接触した部位は分離するため、水との接触をできるだけ回避します。SCP-9L14-1は発生してから30日以降に無条件に自壊します。SCP-9L14-1はNx-489"ラツィオ州ヴィーノ"で定期的に発生するだけでなく、生じたSCP-9L14-1同士が接触することで発生することがあります。

SCP-9L14-1は財団の収容下では活動を行わなくなり、結果的に新規に発生することがなくなるため収容体制を維持することができません。この理由は現在研究中ではありますが、Nx-489などのネクサス地域に住む異常存在に対して日常的に関与する人間の周囲では通常のように振る舞うことが分かっています。

 


 

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「説明終わり!」

二人を乗せたトラックはオレゴン州の豊かな自然の中を進んでいた。車道はコントルタマツの林に囲まれており、その切れ目からは湖と山々が顔を覗かせていた。メラニーは窓に肘をついてそれらの光景を眺めなから相槌を打った。

「なるほどね。というか多分、その"研究"ってのも終わってんじゃないの。研究者たちが大きな謎が残ってる状況で外部に収容を任せたりしないでしょ」
「正解!補遺ってのがある。けど、それは帰りに話そう。今からはちょっとばかし集中しなきゃいけないから」

アランがそう言った途端ガタン、と車体が揺れる。トラックはアスファルトで舗装された道を飛び出し、雑草に隠された轍をなぞるようにして走り出した。メラニーは何かを言ったりしない。サイト-64に所属する人間ならだれでもこの手順を知っているからだ。右。左。左。左。右。そして最後に左。こうして林を抜けた先にある普通の人間なら運転を遠慮するであろう斜面を登った先にその町、ボーリングはある。目を凝らすと緑の盆地の中にポツポツと人家があるのが分かる。その家々の集まりの一つのクラカマス郡にウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューションズは存在する。

 


 

「よう。監督者!ロバート・ダンだ、よろしく」

半刻ほど経った後に施設の駐車場で降り立った二人を迎えたのは栗毛で、銀色のピアスをつけた目つきの悪い青年だった。顔だけを見れば不良のようであったが、"WWS""Where All Critters Are Welcome"と書かれた緑色のつなぎはその不安を吹き飛ばすのに十分であった。

二人はトラックに乗り直し、ロブの用具などが載せられた軽トラックの後を追った先にある"囲い場"の監査を行い、研究者たちが指示していたことが守られていることを確認してから、最後に三人で実体を"囲い場"に解放することにした。

「うーん、でこん中にサンディがいるってわけだな?えらくちっちぇえ箱だし、動きもしねーし、ほんとにいんのか?」
「サンディ?」
「あぁ、砂(sand)って聞いてたからサンディ(sandy)。シンプルイズベストってやつ。わお、予想以上に砂だな。普通に手で掬い上げていいんだよな?っておい……」

軽快に話していたロブは突如起きた出来事に思考を集中させ、言葉を止めた。先ほどまで静止していた9L14-1がロブの差し出した腕に蛇のように巻き付きながら登り始めたのだ。こんな性質は事前に聞いていない、そこにいた誰もがそう思った。最初に動いたのは財団の二人であった。

「振り払え!」

アランはそう叫び、9L14-1を己の手をも用いて振り払おうとした。メラニーはトラックのリアドアを閉め、他の9L14-1個体が脱走しないようにした。オブジェクトの報告書に書かれていない未知の性質。それは命を脅かしうるものであり、財団のエージェントにとっては臨機応変に対応すべきものとして脊髄にまで刻まれているのだ。

「ちょい待ちな」

だが、WWSの飼育員であるならば話は別である。ロブはもう片方の腕をアランの方に手のひらを向けるようにして伸ばした。そうしてできた隙に9L14-1はロブの首に巻き付いた。あぁ、こいつは窒息で死ぬことができればいいだろう。アランはよりむごい死に方をした同僚を思い出し、諦めかけた。だが、実際には9L14-1の行動は首の周りで回るだけであった。

「うお、これはかなり"重い"愛情表現とみた!」

ロブはバランスを崩し少しよろめきながら言った。アランとメラニ―はほっと胸をなでおろし、ため息をついた。

「よし、これからよろしくな!クレイシー!」
「ん、サンディじゃなかったのか?」
「あぁ、触った瞬間に思ったんだ。メールで見た内容には書かれていなかったことだけれども、サンディは思ったより冷たい!なんていうか、砂っていうより泥(clay)みたいな感じがしないか?」

 


 

oregon_sunset

 

「ロバートって、あの時私たちみたいに危機感を感じなかったのかな」

二人を載せたトラックは行きと同じ道を逆走していた。だが世界を染める色のみが異なっていた。朱色の光が山並みを燃やしていく。

「さぁ。でもあの時の考え方の違いがきっと9L14…クレイシーの収容につながっているんだろうな」
「でも、報告書では『擦るように移動する』って書いてあるのにどうしてあの時あんな流動的に動けたんだろう?」

助手席の窓から冷たい風が入り込む。これは3月の出来事であった。

「うーん……補遺によるとあれも考え方の違いによるものなのかな……」

 


 

補遺: 研究の結果、周囲の人物がSCP-9L14-1を異常な存在として捉えているかどうかが性質の変化の条件だと結論付けられました。財団職員や一般人が周囲にいる場合は停止するのに対して、異常な動植物が生息するネクサスの住民が周囲にいる場合では活動を行います。Nx-19"オレゴン州ボーリング"やNx-489の住民は異常な存在と日常的に遭遇しており、SCP-9L14-1を異常であると見なさない傾向が存在するため、SCP-9L14-1はより活発に活動します。また、異常現象は日常的に経験しているが、異常な生物には遭遇したことがないなどの性質が異なる他のネクサスの住民が周囲にいる場合は対象者によって活動するかどうかは変わるため、個人の価値観が強く関係すると考えられています。

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