サーキシズムへの人類学的アプローチ──ケーススタディ01: サルヴィのヴァシニャ
サーキシズムへの人類学的アプローチ
マシュー・デスマレMatthieu Desmarais博士、人類学部門
前書:
我々の サーキシズムへの理解はここ数十年で劇的に変わりました。この情報は、当初仮説付けられていたような単一の信仰系統からは全く違った、多様で変化していくパラダイムを明らかにするものです。我々は今では、サーキックの宗教、その様々なセクトと文化的伝統に関してより多様で、さらに詳細な像を描くことができます。
現代的なセクトは異なった解釈の産物であり、多くはその古代の前身となるカルトとの、単に表面的な類似を帯びるのみです。最も予測していなかったこと ― 特に私のようなサーキシズムの初期の研究者の間で ― はその創設者たちの、見かけ上は善なる意図でした。よく言われるように、地獄への道は善意で舗装されている ― 財団が常に心に留めおかねばならない警句ですが、我々と彼らの間には永遠とも言える距離があるにも関わらず、まさに同じ深淵を覗いているのです。
そして古代のサーカイトと同様、我々はそれが怪物に満ちていることを発見しました。
デスマレ博士は、自身を大きな危険に晒しながら、サーキシズムのより良い理解と、そのいまだに変化していくパラダイムを、現存するコミュニティの研究を通して ― 滅びゆくものや、アーティファクト、そして死すことのできない死者を明らかにして ― 探索しています。その手法は非典型的(少なくとも財団においては)ですが、彼の業績は否定できず、継続した支援に値します。
ジュディス・ロゥ博士、歴史部門上級顧問―宗教的GoI脅威分析担当。
ケーススタディ01:サルヴィのヴァシニャ
概要:
今日のノルウェー極北地方、スウェーデン、フィンランド、そしてロシアのコラ半島を取り囲むラップランドの北極圏内には、多数のフィン・ウゴル語派の先住民が居住しています。遠縁ではありますが文化の起源を共有しているため、サーキックのコミュニティーを現地のサミ人と区別することは困難ですが、精査すると全く異なった集団であることがわかります。これらの人々は自身をヴァシニャVaśńaと呼びます。これがこの研究の対象です。
あるヴァシニャのコミュニティはサルヴィSarviの村です。サルヴィの人々はフィンランドのラップランド圏内のイナリ湖の湖畔に位置し、孤立していますが自給自足しています。彼らは原始的ですが巧妙な罠を用いて魚を獲り、肉、毛皮、輸送力の目的でトナカイの独立した亜種を飼育します。サルヴィは北極圏全域の他のヴァシニャのコミュニティとの接触を保っており、そのうちの幾つかは完全に放浪性ですが、重要な宗教のイベントや先祖代々の土地の防衛では協力します。
温暖な時期におけるサルヴィの家。このような住居は地下に大部分の構造があり、実際には非常に広大です。
歴史:
ヴァシニャは北ユーラシアに典型的なY染色体DNAハプログループであるハプログループN(M231)に属し、イナリ湖畔に4000-6000年間居住してきたようです。ヴァシニャは、かつて北ウラルに居住し、崇高なるカルキスト・イオンの初期の信奉者にもいたフィン・ウゴル族である、いわゆる「アディ‐ウムAdí-ümのトナカイの仲間」の子孫もしくはそれと共通の祖先を持つと考えられます。
ノルウェーの伝説である「準備不十分なアスビョンAsbjørnの物語」はラップランドの侵攻の失敗と関連しており、その住人はフィン・ウゴルのサーカイトによく似ています。現地人は赤い色のルーンに覆われた幽霊のような青白い体(これは白いボディペイントを反映していると思われますが)として描写されています。血と肉は勿論、「血の魔術」、「陸のクラーケン」、「臓物の神」が頻繁に(しばしば必然性無く)言及されており、幾つかの節はノルウエーの将軍が「内と外が裏返えされた」描写に費やされています。
一時期、ラップランドの住民は、サーキックも非異常性のサミ人も、比較的平和に居住していました。スウェーデンとノルウェーがこの地域の支配権を15世紀までに確立しましたが、ヴァシニャの部族は北部で孤立していたため、大部分は影響を受けませんでした。第二次世界大戦中には、北部フィンランドのドイツ軍がこの地域に焦土作戦を行い、ヴァシニャとサミ人に破滅的な喪失をもたらしました。1946年から1961年の間、サルヴィ村はGRU "P"部局の占領下に置かれ、村の長老たちは残酷な実験と、その後の無慈悲な復讐について語っています。長老たちは何が起きたかの詳細は語りませんが、決まってそのためにGRU "P"部局は戻ってこないのだと言及しています。
文化、伝統、そして迷信:
ヴァシニャは彼らの宗教的な信仰をナルカNälkäと呼びます。「サーキック」という単語は侮蔑語として、地中海を起源とする古代の異常なカルト(同時に、おそらくは壊れた神の教会の前身でもあります)であるメカニトにより作られたものです。財団の用語からヨーロッパ中心主義的な誤った名称を取り除く努力は実を結びませんでした。サーカイトは「肉」も「肉の神」も崇拝しません。実際には、神々の存在を信じてはいますが、崇めるというより批判しており、不良神主義dystheism ― 神々や、あるいは唯一神は存在しているとするが、全てが良きものではなく、悪になることもあるとする信仰 ― の一例です。
崇高なるカルキストとそのクラヴィガルは日々の生活に重要な役割を持ちます。ロヴァタール(ヴァシニャはロヴァラッカLovarakkaと呼びます)は出産が近い女性やパートナーを募集中の者により祈られます。オロクは力、守護を提供し、彼の紋章を描いたアミュレットは幸運を祈って狩人たちが身につけます。ナドックス(ヴァシニャには「ナウ-ドック」と発音されます)は知恵を求めるものや、単に正しい選択を望むものによって祈られます。サアルンは一般的に呼びかけられることは少ないですが、敵を呪ったり復讐を誓うことを望むときに祈られます。そして崇高なるカルキスト・イオン(ヴァシニャは「ユォン」と発音します)は毎日祈られます(しかしながらヴァシニャが彼に要求することは稀です。彼の「御業」はあまりに重要であり、利己的な理由で彼の手を煩わせるべきではないと主張されています)。
人間の生贄の報告は見出されていません。コミュニティは葬送の儀式として内カニバリズムを嗜みますが、人を狩ることに言及されると侮蔑的な反応を示しました(しかしながら彼らはあらゆる遺体について、ただ腐らせるのは「無駄」であると主張します)。
サルヴィでの生活は比較的簡素です(寒さを楽しめるなら、牧歌的で良いとすら言えるでしょう)。部外者は最初は普通ではないものには気づかないかもしれませんし、私はこれらの人々も他のコミュニティに大きな問題なく溶け込める(もし彼らがそうしようと思えば)とも感じます。平和は尊重されており、時折起きるちょっとした口論を越えて乱されることは殆どありません。
清教徒的でもなく、享楽的でもなく、ヴァシニャは一般に愛と性に対して健康的な態度を持ちます。今日では彼らの観点は進歩的とも考えられるかもしれませんが、そのようなレッテルは相対的であり、彼らの規範と習俗の古代の起源を分かりづらくするものでしょう。性的指向は連続的(彼らはそのようには捉えていないでしょうが)とみなされており、異性愛や同性愛といった概念は奇妙で制限的であるとみなされます。一般的にはジェンダーを基準とした労働の割当に親和的である傾向がある伝統的な生活を営んでいるにも関わらず、ヴァシニャはそのような割当はしません。そしてこのことが、ジェンダーの概念を薄くする結果をもたらしている可能性があります ― もっとも、ジェンダーはもちろん、生物学的な性別でさえも、サーキックの伝統全体を通して非常に流動的ですが。
サルヴィの住人は人体をキャンバスとみなしており、入れ墨、切り跡、骨のピアス、時として肉体的改変を通して、芸術的に自身を表現します。伝統的衣服は実用的で田舎風ですが、楽しみとしての美観の要素も含んでいます。そのような衣服は通常、羊毛、皮、毛皮で作られています。現地では赤、青みがかった黒、黄色といった天然の染料が用いられ、衣服はサーキックの宗教と関連した印や模様で飾られています。
物理的には孤立していますが、サルヴィの人々は外の世界と完全に通じていないわけではありません ― ラジオはかなり昔から普及していましたし、若い世代は時折インターネットへのアクセスを通じてテクノロジーへのアクセスを持ちます。このような変化は加速しており、住人はテクノロジーを嫌うというより、金銭への極度の嫌悪を持っており、殆どの住民は外界人とは物々交換を好みます。一方でサルヴィはある種の原始共産主義として機能し、個人レベルでの貧困もまた完全に存在しません。
サルヴィに生まれた者は自由に去ることができ、また彼らの伝統をさらに人口の多い地域で注意を引かずに秘密裏に実践することも可能です。私が集められた例によると、殆どの者は帰りますが、外の世界に留まる者も、その選択を嫌悪されることはありません(私は明らかに失望を感じましたが、人により解釈は異なるでしょう)。現地人はこのような経歴を、ヴァルターノクValtaanok(あるいは「放浪」)と呼びます。ダヴゴンDávgonは20代中盤にヘルシンキにて大学に通学し、帰還した若者です。彼は微生物学の学位を得て、「奇妙な仕事」で生活費を稼いでいました。彼の文化と信仰に関して、私はインタビューを試みました。書き起こしは以下の折りたたみに記してあります。
インタビュー対象: 若者のダヴゴン
インタビュワー: マシュー・デスマレ博士
前書: ダヴゴンは他の住人ほどには財団に不安を示しません。彼の信頼と信用を得ることはサルヴィにおける私の仕事に有用です。知的で好奇心があり、彼は彼のサーキックの聖典の解釈と、彼らがいかに近代科学に適応するかを関連付けることを楽しんでいます。
<ログ開始>
デスマレ博士: こんにちはダヴゴン。いくつか質問したいことがあります。
若者のダヴゴン: 続けてくれ。
デスマレ博士: あなた達のコミュニティーは、リハクタァクlihakut'akの実践をどうみなしていますか?
若者のダヴゴン: 肉を導くことは部族の行いじゃない。そう、その操作に生まれつき適性がある者もいるが、それには瞑想や何年もの修練が必要だ。また力や魅力を得るために濫用するべきでもない。
デスマレ博士: それがどのように作用するのかわかりますか?
若者のダヴゴン: これは魔術じゃない。実際の原理は俺にもわからないが……自分が遺伝子レベルまで全ての生体を知覚できると想像してみてくれ。細胞を操作して、それらを動かし、電灯のスイッチみたいに遺伝子をオンオフする。[対象は神経質に笑う。彼の顔は目に見えて赤くなっている。]すまない、だけど俺はこういうのはそんなに得意じゃないんだ。色を目の見えない人に説明するようなもんだ。正しく行われれば、これは形を変える体験になる。自然の綻びを利用して、布の糸みたいにそいつを引っ張って、目の前ですべてが解けるのを見るみたいになる。難しいのはその糸をなにか新しいものを作るために使うところだ。
デスマレ博士: それで、その操作の経験があると?
若者のダヴゴン: ああ、ある程度はな。あとで”巣穴”を見せる必要があると思うが、長老たちが気にするかもな。
デスマレ博士: とても面白そうですね。
若者のダヴゴン: 良し、良し。[対象は笑う]
デスマレ博士: 自分自身は変化させないのですか?私はあなたの宗教の他の実践者に会ったことがあり、彼は ―
若者のダヴゴン: [対象は割り込む]俺達は飽食家たちとは違う。
デスマレ博士: どういう意味ですか?
若者のダヴゴン: 財団の言うところの「ネオ‐サーカイト」だ。俺達が信じる全てを裏切った奴ら。あいつらはヴァルターVultaaと変わらない。奴らは神の支配の終わりには興味がない ― ただそれをすげ替えたいと思ってるだけだ。
デスマレ博士: 神格化はナルカの中心的な目的ではないのですか?
若者のダヴゴン: そういうものではない。崇高なるカルキストは全ての人々を上昇させたいとお考えだった。我々は肉と精神が飢えているからこそ空腹を感じる ― 奴らは多くのものが飢えている間に、その聖餐を貪るものだ。殺人者で強姦者、全員がだ。奴らはイオンとその道に唾を吐く。なぜ奴らと俺達を比べる?すまないがあんたの仲間が以前話しているのを聞いた。俺は英語を完全に理解できるんだよな。あんたの組織は俺達と奴らを一纏めにしてる、「サーキック」ってレッテルを貼ってな。ナルカは信仰だ。俺の信仰だ。俺が誇りを持つ何かだ。だがあの怪物たちは偽物だ ― あいつらは俺達の信仰を盗用して、もったいぶったファション野郎みたいに着ている。だがあいつらは俺達じゃない。
デスマレ博士: 彼らに会ったことはありますか?
若者のダヴゴン: [対象は目に見えて蒼白になり、目を逸らす]ああ、俺のヴァルターノクの最中にな。だがそれについては話したくない。代わりに”巣穴”を案内しよう。あんたもリハクタァクの伝統には興味があるだろう?
<ログ終了>
結語: ダヴゴンは2つの世界に生きていている人物です。神話と科学、過去と現在のギャップに橋渡しをしようとしています ― しかし私は苦闘を感じました。彼のアイデンティティの2つの面は、彼自身が信じるほど調和的ではありません。科学では答えられない答えを探すとき、多くの人は宗教を求めます ― 対して彼は、彼の信仰に提示された問いに答えることを望んで、科学を考えます。
村の下部には、古代の洞窟状のトンネルのネットワークがあります。紀元前第二千年紀のもので、ウラル山脈以西の最古のサーキックの構築物である可能性があり、ダエーバイトの支配の転覆の成功の前、あるいはすぐ後にアディ‐ウムの人々に居住されていたようです。壁は何千年分もの赤い色素による描画や石自体への彫り込みによる芸術的表現で飾られています。絵には動植物(そのうち幾らかは完全に同定不可能です)や変形中のヒューマノイドの姿が描かれています。アディタイトの象形文字もよく描かれていますが、殆どが経年により認識不可能なほど薄れており、その意味は不明です。
これらの洞窟は様々な菌類の栽培にも用いられます。財団の菌類学者は13種の固有で既知の報告のない種を同定しました。そのうちひとつは、近年Mycena candentis(現地では「イオンの炎」と呼ばれています)と名付けられ、この地域で見られるオーロラを思い起こさせる緑の光を発します。その生物蛍光は既知の非異常性の生物のどれよりも明るいです。この菌類は収穫され、村では夜間に照明として使用されます。もう一種のPsilocybe calixtinus(現地では「ナドックスの目」と呼ばれています)は宗教儀式で使用される効果の高い向精神剤です。
さらに別の領域は飼育場として用いられており、以前には知られていないSK-BIO種(SK-BIOタイプΘとして分類されました)を収容していました。このクリーチャーは我々が到着すると興奮してその尾(および触手)を振り、喘ぎました。彼らの振る舞いは一般的なイヌ科動物とはあまり変わりませんでしたが、外見は全く異なっていました ― 実際、それらが哺乳類であると認識するのも難しいでしょう(財団の生物学者が議論を続けているところです)。「ペーナルカpǟnalka」(あるいは「ウィッチ・ハウンド」)と呼ばれているこの種は、革状の赤い表皮、キチン質の白い甲と鱗、白い羽毛の厚い鬣、脊椎に沿った把握力のある一列の触手を持ちます。頭部は特色を欠いた白い頭蓋骨のようで、口は複数の筋肉と皮膚のフラップで構成されているため、多軸に開きます。その6つの脚は高い駆動力を持ち、足は猛禽の爪と蹄の中間のように見えます。彼らは視覚力のある目を欠いているにも関わらず、ダヴゴンは彼らの視力は鋭く、「人の視界を越えて」物を見ることが出来ると強調しました。
私はSK-BIOタイプΘの起源を質問しました。ダヴゴンは狼を祖先に持つキメラ種のようだと答えました。私はより深く考察しました ― もしかしたら私の役職でやるべきことよりも深く ― 肉の工芸に派生する倫理的問題へと。ダヴゴンはしばらく笑って頭を振り、答えました。
「彼らは狼より健康だよ。彼らは80の冬を越えても元気だ。そして烏と同じくらい賢い。外の人間に俺達のやり方を批判する筋なんてないさ。あんたたちのやり方は効果が低い上に残酷だ。自分の犬にも同じことが言えるのかい?パグなんて自然に対する犯罪だよ。」
私には彼の議論に間違いを見つけられませんでした。話題を変えて、私は彼の信仰について質問し、いくらかのサーキックの聖典を彼に訳すように説得する事ができました。財団は過去にサーキックの聖典に出会ったことはありますが、そのような文書はカルトごとに異なっていて、法典化を欠いたものでした。一方、そのような文書は矛盾に満ち、サーキックの宗教の多くの要素は ― その歴史、神話、儀式、教義 ― 失われ、あるいは意図的に取り除かれたという証拠があります。財団が保有する最も完成したサーキックの魔術書であるヴァルカザロンValkzaronは、数世紀前の総体的な改変の証拠を示しています。このことは元となる信仰(あるいは、ロゥ博士が提唱する原始サーキシズムUr-Sarkicism)がその最大の敗北に苦しんでから程なくして、他者が説話をコントロールし、それを彼ら自身のために利用した(これは非異常性の宗教のたどる道ですらあります)ことを示唆します。
ダヴゴンが翻訳できたものは、サルヴィの平和さの説明にもなりうると同時に、興味をそそり、サーキックのエトスの理解には重要であると判明しました。以下の折りたたみに例が示してあります。
黒海におけるイオンの説法:
もし汝が宝を、力を、そして名声を ― 征服と圧政を持って人を支配するために ― 求めるなら、今すぐに我らから去れ、汝自らの黒い野心の影に戻れ、そして汝は我らの光から逃れられぬことを知れ。
されど汝が知恵を学ぶことを ― 縛めの鎖を砕き人の秘められし力を見出すために ― 望むなら、我は汝を血族として抱擁し肉体を統べる策を教えよう。
汝は自らの勝利を誇りに思っている。汝はダエーワが倒されうる世界を ― 彼らが汝の土地から放逐されうる世界を示した。よってこれは期待できぬことではない。もはや汝の子らが彼らの非道なる機関の餌とされることはない。もはや汝が彼らの苦痛と支配の神々に供物を捧げることもない。多くの償いのため、反抗に立ち上がるのが我らの運命である。
常に気をつけよ、誇りは恐ろしい陥穽を作り出す。汝が虚無を覗く時、虚無が汝とならぬようにせよ。
我らの偉業は完成していない。神々が残る限り、我らは自由とはならぬ。ダエーワを憐れめ。彼らは壁の影に ― その闇を投げかけるものの予兆に過ぎず。そして闇は我らが必ず払いのける。
人々が分かたれている限り、彼らが神々の嘘を信じる限り、我らは勝利を知ること能わず。
我らは広大なる海を渡るだろう、我らは高き山々を進軍するだろう。我らは世界全てが我らの真実を知るまで広がるだろう。
そして真実の光は終わりなき夜を割いて輝くのだ。
ロヴァタールは堕ちる、ただ生まれ変わるために:
……そしてロヴァタールはイオンに言った、「この反乱もここで終わり。お前は求めていた殉難にも拒否される。お前は奴隷として生まれ、そしてそれ故奴隷に留まるのだ。
神々にかけて、私はお前を我が物と主張する。私はお前を知るだろう。私はお前を破壊するだろう。お前は自身の誓いを千回破り、ただ祭壇に祀られし我が最も神聖なるものを崇めるために炎をかき分けるだろう。お前は我が声の音に涎を流し屹立するだろう。我が快楽がお前の新たなる教えとなるだろう。
そしてその日が来れば、お前は我が手で死ぬことを名誉と感じるだろう。」
崇高なるカルキストは彼の杖を脇に置き、ローブを脱ぎ落とし、そして腕を広げて静かに立った。
「哀れな」ダエーワは言った。
しかし崇高なるカルキストはそのように降伏を意図したわけではなかった。見よ!彼の肉が新たなる形をとった。祝福されし触手が彼の上昇した形より沸き起こり、ロヴァタールを蜘蛛が獲物をとらえるように縛った。
そしてイオンはロヴァタールに言った、「汝の神たる女王と、その魔なる主の嘘を見通せ。身を任せ、我らの世界と、それを越える恐ろしき現実を見届けるものとなれ。
多くの者の痛みを、彼らの苦しみと悲しみを感じよ。そして我らは全て一つの肉であると知れ。」
古代の連祷はダエーワの心を満たし、彼女をその深淵へと引き込んだ。彼女は彼女の母、ダエーワの中のダエーワ、帝国の神たる女王を見つめ、そして彼女のあらゆる行動を操る真紅の紐を見た。
「彼女の力は代償をもって生ずる」イオンの声が言った。「彼女の意思は彼女のものではない。彼女は血に縛られ、血に形作られ、あなたも同じである。あなたが自由となったことはなく ― あなたは常に奴隷であったゆえの、あなたの力への思い違いが消えんことを。あなたの伝統、あなたが生まれ持つとされた権利、それらは全く無意味である。あなたの暴力と支配の仮面の裏に真に潜むは誰か?真実のみが残ったときに何が残されるか?」
ロヴァタールは更に深く落ち、闇から寺院が、神々に捧げられた偉大にして恐ろしきジッグラトが現れた。そのテラスから血の川が流れた。
そしてイオンの声が再び話した。「印は力を持つ。あなたはダエーワである。あなたはそれをよく知る。それは生きた化身があなたの民に教えたことである。しかしこれらの盟約は恐ろしき代償を伴うものである。代償はあなたの帝国を動かすものである。あなたは運命から逃れるために他者に代償を強いるものである。犠牲に次ぐ犠牲に次ぐ犠牲がある。
なぜに神々は血を渇望するか?なぜに彼らはあなたの信仰を求めるか?近寄って見よ、彼らの神性がひび割れていることを ― 彼らの捻れた策謀が働くさまを。」
そして寺院は石の細片へと砕け、ありえぬ形の波打つ肉を露わにした。彼女は現実、永遠、そして破滅のあらゆる反復 ― 創造と破壊 ― それらはすべて同じ形であった ― を通しそれらを見つめた。彼女の精神は叫び、狂気の淵で窒息した。これらは真の神々だった!宇宙の無貌の支配者達だった!
しかしさらなるものが ― 神々と彼らの黒い、口にするのもおぞましい野心を越えた何かがあった。運命の糸はすべて同じ方向へ引いていた ― 星々、月、そして海のように動いていた。
そしてロヴァタールは我らの現実の真実を見つめた。ここに我らの死産した宇宙の腫瘍に満ちた心臓があった。すべての始まりと終わり、父と母 ― 我らの恐ろしき祖先!その想像も及ばない秘密を十億の毒に浸された舌で永遠に絶叫する肉と腱に包まれた宇宙の虚無。その世界は開かれ貪る胃の腑であり、彼女は悲嘆と涙に横たわる数え切れぬ魂を見つめた。
そしてイオンは悲しみとともに言った。「死の中にさえも……彼らの痛みを感じぬか?苦しみなくして、共感はない。共感無くして希望はなく、そして希望無くして我らは決して超越しない。」
ロヴァタールは彼らの苦しみを感じた。そのような痛みを感じたことはそれまでなかった。
「そして悲しみの中に、愛の中に、我らは一つとなる ― 我らは古きものを奪う新しき肉。そしてこの宇宙的な冒涜を永遠に終わらせよう。私は真実を炎として掲げる ― これがあなたの偽りを燃やし退けんことを。」
ロヴァタールは現実に戻された。彼女は床に崩れ落ち、生きるもののために、死せるもののために、そして彼女がかつて傷つけた全てのもののために涙を流した。
「殺してください。」ダエーワは言った。「私はあなたの慈悲に身を委ねます。今終わらせてください。今ならできます。」
イオンは手を彼女の頬に当てた。
そしてイオンはロヴァタールに言った。「仮面をとりなさい。」
イオンはウラルトゥの人々の前に立つ:
ウラルトゥの人々は崇高なるカルキストを歓待しようと望んだ。戦争のため、彼は街の、命の、そして人々の運命の主であった。イオンは宮廷のバルコニーに行き、群衆に視線を投げかけた。人々が血と臓物にまみれているのを見て、崇高なるカルキストは彼らが何をしたところか聞いた。
「我らはあなたに我らの子らの血を捧げます!あなたの名のもとの偉大なる供物です!あなたのため、我らの救世主 ― 我らの生きる神のため!」彼らは狂喜して体を揺すり、真紅の手を挙げたので、イオンは彼らの行いの証拠を見つめたのだろう。「あなたの力と栄光のために!」彼らは叫んだ。
崇高なるカルキストはよろめき膝をついた。無垢なものの壊れた残骸が地面に撒き散らされ、彼らの母と父が恍惚として立っていた ― 彼らの目は狂信に見開かれていた。オロクがイオンの側に立ち、彼が立ち上がるのを助け、問いかけた。「このような獣たちが救済に値するのですか?彼らは贖われることすらできるのでしょうか?」
イオンは蛮行の輝きに目をくらまされて狼狽した。「そうだ。」彼は頬に涙を流しさえしながら言った。「彼らは見捨てられしものだ。ダエーワと、その過ちを認めぬ神々のやり方しか知らぬ。我らは彼らをこの暗闇から教え、導き出す。」
オロクは嘆息して頭を垂れた。「一度弱さを見せれば、彼らは彼らがそうであるところの貪欲な獣のようにあなたを裏切るでしょう。夜の間はお隠れになるよう注進いたします ― 群衆はただ予測し難いです。我らに彼らの熱狂を鎮めさせてくださるのが最良です。そしてもし彼らがあなたを害そうとすれば、私が彼らを破壊します。」
「彼らは救われることができる。」彼はもう一度言った。「そうでなくてはならぬ。」
サーキックの暦は天文現象に重きを置き、太陽(グレゴリオ暦のような)や月/月と太陽の関係(伝統的な中国の暦のような)よりも天体の並びを基準としています。正確さは重要ではなく、暦は日ではなく季節と年を表します。暦は基本的には動物の移動や聖節を測るために使用されます。
暦は3つの季節に分けられます。カトケアKätkea(「揺り籠」)は春と初夏に該当し、トゥリシヤTulisija(「囲炉裏」)は中夏から晩夏と初秋に該当し、カルマーKalmaa(「墓」)は中秋から晩秋と冬に該当します。
聖節はヴァハヴーサヤットvahvuusajat(「力の時間」、単数形: vahvuusaika)として知られ、記念日の概念に近いです。私はそのようなヴァハヴーサヤットのうち、ロヴァスカLovaskaと呼ばれるものを見ることができました。
カトケアの初め頃に祝われるロヴァスカはロヴァタールを讃え、性と多産に関連付けられます。12日間のパートナーのいない個人間の交流の奨励に始まります。この時期、儀礼的にパートナー(複数であることも)と結びついていない者は性行為を禁じられます。贈答が行われ、害のない悪戯が遊ばれ、好意が周知のものとなります。ヴァシニャは一般に性役割を欠きますが、女性の参加者は男性より断言的で積極的です。同様に、男性には恥ずかしがり、より抑制的であることが期待されているように見えます。崇高なるカルキスト・イオンと彼の恋人であるクラヴィガル・ロヴァタールの性格が、このような動態の発展に影響している可能性があります。これは一般的ではなく、男女間の関係についてのみ見られることです。サーカイトは人の性的関心についてはアブラハム宗教の影響を受けていない考えを持っており、連続的な性的傾向を持ち、「異性愛」や「同性愛」と言った語彙を欠いていることに留意することは重要です。
12日目に、パートナーのいない個人は日没時に集められ、「狩人」と「獲物」に分かれます。獲物役の人間は枝角を模した頭飾りと薄布のスカーフを身に付ける以外は全裸になります。狩人役は動物の血をペイントし、熊と狼の頭蓋と毛皮を着ます。誰がどの役割を演じるか、誰が誰を「狩る」かには、ある種の言外の理解があるようです。
「獲物」はPsilocybe calixtinusを使って淹れた茶を消費し、「狩人」より一日早く近くの森に入ることを許されます。 「狩人」はラーヴュlaavuを設営し、ロヴァタールの印を描く仕事が割り当てられます。狩人たちは夜明けとともに起き、同様に向精神性の茶を消費し、森を探索しに入ります。彼らは続く数日の間に、獲物を肩に抱えて帰還します。これらのカップルの組み合わせは様々であり、同性同士のペアも異性ペアと同数近く含まれます。数組はペアですら無く、2人の狩人が1人の獲物を共有したり、1人の女性が男性と女性を両肩に載せて ― むしろ体力を見せつけるために ― 運んできた例もありました。 獲物と狩人は、彼らの不在の間に他の住人たち(長老たちやすでにパートナーがいる者たちなど)によって飲食物を運び込まれたラーヴュに入ります。
備蓄が尽きると、新たに結ばれた関係とともに彼らは村に戻ります。祝賀会は狩りをモチーフとしますが、長老たちは私に、この行事は完全に合意のものであると語りました(帰還した者の中に、1人で顔をしかめているような者は見られず、私が彼らを彼らだけにする前には全員がとても幸せに見えたことを記しておきます)。
ダヴゴンは、サルヴィでの最も年長の住人であり、コミュニティが最もリーダーに近いものとしてみなしているヴォルタール・ヤスカVõlutaar Jaskáとのインタビューを設定することを申し出ました。私は同意し、日暮れ時に彼女のところへ案内されました。
インタビュー対象: ヴォルタール・ヤスカ
インタビュワー: マシュー・デスマレ博士
前書: ヴォルタール・ヤスカは村の長老として尊敬されている。100歳を越えており、若いときにカルキストの直接の後見のもとサーキシズムを学んだ。
<ログ開始>
デスマレ博士: ルーシャキャルフLušakälv、ヴォルタール・ヤスカ、若者のダヴゴンが私にあなたと会うことを提案しました。
ヴォルタール・ヤスカ: 質問をどうぞ、外の方よ。
デスマレ博士: 単刀直入ですね。結構です。まずあなたについてもう少しお伺いしたいのですが。
ヴォルタール・ヤスカ: アタシは老婆の退屈な唸り声を聞くためにアンタがこんな風に来るとは思ってなかったよ[対象は乾いた含み笑いをする]だけど話に乗ろうじゃないか。アタシはこの村に136年近く前、オロクの狩りの前夜に生まれたよ。
デスマレ博士: めでたい生まれですね、間違い無く。
ヴォルタール・ヤスカ: [対象はインタビュワーの膝を節くれだったステッキで叩く]アンタが生まれたところじゃ礼儀を教えないのかい?アタシが喋り終わってから話すんだよ![対象はかすかな笑みを一瞬見せる]
デスマレ博士: 申し訳ありません、ヴォルタール・ヤスカ。あなたが話し終えるまで静かにします。
ヴォルタール・ヤスカ: フン、そうしてちょうだいよ!何の話だったか……人生はシンプルだよ。アタシは若いのがやたらと欲しがるようなステキな機械と一緒には育たなかった。機械が嫌いってわけじゃない。でも外の世界は ― 外は心を奪われる。サルヴィの血は枯れてしまう。村がなくならないようにするには、機械を壊しちまえってことさ。[対象は呟く、彼女の言葉は不明瞭に、無関係になっていき、インタビュワーの質問に戻る]ああ、だけどアタシの人生は良かったよ。良くてシンプルだ。アタシは幸せだった。
デスマレ博士: あなたは実際にカルキストのもとで学んだと聞きました。
ヴォルタール・ヤスカ: ああ カルキスト・ヴァリスだよ。彼はアタシらをロシア人から救ったあとに姿を消した。彼は烏のように賢く、殺せなかった。アタシは彼がまだ生きていることはほとんど疑ってないよ。芝居がかったサプライズ好きの彼の愛が無いのは寂しくないけどね。
デスマレ博士: 興味深いですね。あなた方がどのように世界とその創造を見ているのか、より理解したいと思います。崇高なるカルキストはそれを「失敗した、堕落した創造」とみなしていましたが、この宇宙Universumiの欠損の根源とは何なのですか?
ヴォルタール・ヤスカ: 宇宙Maailmankaikkeusかい?
デスマレ博士: はい。失礼しました。
ヴォルタール・ヤスカ: [対象は肩をすくめる]それはそれ。単なる事実だよ。アタシ達は神々を否定しない。イオンその人は彼らの肉を見つめた。それでいまだに、神様の慈愛の証拠は見つかってないのかい?ただひとつの受け入れやすい結論があるだけだ。アンタは世界の最も古い嘘とは何か知ってるかい?
デスマレ博士: 何ですか?
ヴォルタール・ヤスカ: 神々とは良いものであるという信仰さ。それが嘘だと受け入れることがアタシらの道を理解する最初のカギさ。
デスマレ博士: なるほど。
ヴォルタール・ヤスカ: [対象は乾いた含み笑いを発する]彼らを擁護しようとはしないのだね。かと言って膝をつき、アタシのローブを掴んで啓発を乞いもしない。アンタは神を信じちゃいないんだろう?
デスマレ博士: ええ、信じていません。
ヴォルタール・ヤスカ: 愚かだね、だけど外なる恐怖the outer horrorsに仕えてるのでない限り、アンタは少なくとも善人みたいだね。アンタは善人かい、デスマレ?
デスマレ博士: 本当には自分でもわかりませんね。
ヴォルタール・ヤスカ: まあまあ賢い答えだね。アタシはアンタが不信心だからって詰りやしないよ。アンタは神々の証拠を欲しいんだね。
デスマレ博士: 証拠はあるに越したことはありません。ええ、それで、このことはもうひとつ疑問を生じさせます。もし世界が欠損しているというのなら、もし全ての生命が悪意のある神々の子孫だというのなら、どのように善が存在しうるのでしょうか?
ヴォルタール・ヤスカ: 怪物たちの血が我らの血管を流れている。このことは疑う余地もない。兄弟と遊ぶ仔犬、笑う子供、古き友の抱擁。この世界には美と善があるが、これは反抗の産物だよ。
デスマレ博士: 反抗?
ヴォルタール・ヤスカ: 殺人と強姦、闘争と狂気 ― それが命の真のサガさ。我らの種族は我らの創造主をあまりによく反映しすぎている。美があるところ、愛と憐れみがあるところには常に、反抗がある。そして命のサガを見る時、反抗は珍しいものじゃない。
デスマレ博士: 「創造主」とはどのようなものだと考えていますか?
ヴォルタール・ヤスカ: 御大層な科学を嗜んで、アンタにはまだわからないのかい?
デスマレ博士: あなたの観点からのそれをお聞きしたいのです。
ヴォルタール・ヤスカ: アタシもアンタの科学を知っている。アンタたちが全ての命のつながりを見つけたこともね。
デスマレ博士: 我々の共通の祖先のことですか?
ヴォルタール・ヤスカ: ああ、アンタ達はアタシらみんなが、目には見えない、小さな心のない獣の子孫だと信じている ― そしてアンタ達は正しいのかもしれない。変化と適応 ― それが全ての命の道。だけどアンタ達は真実の一部に気がついただけだ。アンタ達はその起源について何も知らない。
デスマレ博士: 生命の起源とは何ですか?
ヴォルタール・ヤスカ: 人の言葉ではこの真実は言い表せない。だけどアンタに見せることはできる ― もしアンタが望むなら。
<ログ終了>
私は彼女の申し出に同意しました。儀式はPsilocybe calixtinusで淹れた茶を用いる予定でした。不十分な準備のために、私はこれを数日間の入院のあと書いています。Psilocybe calixtinusを用いたさらなる実験はD-クラス職員を用いて行われるべきです。私は起こったことに関してはサルヴィの人々を悪くは思いません。彼らは成分に対して耐性を育ててきているらしく、外部の人間の反応を予測する判断基準を持っていませんでした。
ヤスカは正しかった。言葉は上手く出てきません。言いようのない概念と内臓の感覚です。
そして歴史 ― あまりに多くの歴史。時間の染みは血とサビのものでした。申し訳ない、暗号めいたものを書きたいわけではないのです。私は自分にそれは幻覚だと言い聞かせ続けています ― 夢と変わらない ― そしてそれを少しでも信じる理由などありません。
しかしそれはとても現実的に見えました。私自身がDNAthe helixをほどくのを感じたときでさえも。一瞬の間、宇宙との一体を感じました。そこにハーモニーはありませんでした。魂の至福も。ただ痛みの明瞭さだけがありました。私は計り知れない大きさの宇宙の生命 ― 知性のない癌の波打つ広大さの中で何か小さな変化しやすいものとなりました。
これこそが真の肉でした。
私は黒い海から赤いリヴァイアサンが立ち上るのを見ました。長く見るほど、この怪物とその暗い水はひとつであり同一であると実感しました。おそらくは見慣れたものの慰めを求めて、星へ目を向けたのを覚えています。
星々は黒曜石の祭壇の上に流れたばかりの血の粒のように見えました。星が動くと、夜空のインクのような黒さの中で螺旋を描きました。私は下を見ました ― リヴァイアサンはどこへ行ったのでしょう?海はどこに行ったのでしょう?赤と黒、肉と虚無。全てはどのようにしてか接続されていました。螺旋は捻じれ速度を上げて紡ぎました。狂気の中に悲嘆の声がありました。それは私の聞いたことのない言葉を喋りましたが、その簡潔な意味は明瞭でした。
「運命the wheelは再び回る。」
そして全ては消えました。光も、音も ― ただ暗闇だけがありました。思考と記憶が私の精神から、開かれた血管からの血液のように流れました。私が無気力の無思考へと沈む間、残った全ては儚い記憶の記憶でした。
痛みに目を開けると、ある女司祭が見えました ― 彼女の皮膚は白亜のように白く、目は彼女の衣服を殆ど身につけない体を飾る宝石や装身具のように金色でした。彼女の美しさは畏怖を感じさせましたが、その存在は恐怖と、自分は取るに足らないものであるという感覚を掻き立てました。私の裸の体には見慣れた気がするような印が書き込まれていました。私は彼女への生贄であり、彼女の信仰のための残酷な道具がすでに私の胴体深くに挿し込まれていました。
私がそれを引き抜こうとしてもより自らを裂くだけで、私は膝をつきました。生贄の女司祭と目が合い、彼女は嗜虐的な笑みを大きくし鮫のような歯が露わになりました。彼女は裸足の足を私の肩に当てて僅かに力を込め、私は彼女の黒いジッグラトの階段を転がり落ちました。
苦しみに満ちた落下の間、吐き気を催す割れ目のあるその構築物の基部に当たるまでに、私にはわずかに見えました ― 私自身の臓腑、血と胆汁の染み、命のないツンドラ、見物人の笑顔。
これが終わりのようです。これは夢でした。ビジョンは繰り返し、女司祭と寺院は再登場しましたが私の死の原因は違いました。この苦しみと恐怖のループは何度も何度も繰り返しました。私は泥沼のようにそれに囚われ、死してもそこから抜け出すことはできませんでした。私は斬首され、去勢され、窒息し、強姦され、叩き潰され、目を潰され、串刺され、解体され、皮を剥がれ、生きながら焼かれ……その他数え切れない残虐が行われました。
しかしこれは私の落ち行く螺旋の始まりに過ぎませんでした。体験はますます説明するのが難しくなっていきました。私は常に赤の影が移ろう死体の山を覚えています。傷口と切開口を貫き、新たなおぞましき生命を宿す死者に食物を与えて廃墟を探る触手。遠くの声が私に語りかけました。「肉と形。肉は変化し、形は練り直される。変化はなされねばならぬ。」
そして私は死体が融合し新しい形をとるのを見ました。それは赤いリヴァイアサンへと変化しました。「神々は変わらぬ。神々は存在せぬ。真には。しかしそうありたいと望む。虚無は決して来ぬ母を求めて絶叫する。命は腐敗した死体にたかる蝿のように虚無へ溺れる。虚無は命を模写し、腱と骨と血に自らを包む。
虚無は神の形をした穴。それは飢えしか知らぬ。」
そして私は赤いリヴァイアサンが真に何であるかを見ました。言葉では言い表せません。申し訳ありません。私は震えています。涙は流れ続けています。私にはまだ宇宙の鼓動が聞こえます ― 犠牲と闘争の原始の律動。宇宙は機械です。金属と歯車ではなく、肉と星とそして虚無の。それは自動化された屠殺場です。
そして我々?我々は神々に食べさせる肉です。
広範な治療を受け、私は再び仕事を続けられるようになりました。私を中傷する者もいますが、私は精神を失調したわけでもなく、「現地人化した」わけでもありません。私の体験は幻覚であり、化学物質により変調した精神の働き以上のものとして提示されたわけではありません。