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財団日本支部理事-██ |
アイテム番号: SCP-079-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-079-JPは通常の人型オブジェクト規格の密室条件である収容用個室に収容してください。個室内には、危険物品即時処理用の常稼働焼却炉に通じる水流装置付きタンクと、半自律清掃ロボットの投入口を備えてください。清掃ロボットは、SCP-079-JPが個室内で嘔吐し、なおかつそれがタンクに向けて行われたもので無い時のみ、床面に設置されたセンサーの反応に基づいて投入してください。
タンクの点検と洗浄は、既に設置されている自動装置を起動させて行い、清掃ロボットの点検と修理は、専用の回収ロボットによる回収後行ってください。
SCP-079-JPの監視は、個室の外側からの監視に留めてください。実験目的以外でSCP-079-JPに直接関係する映像や音声の録画、録音は現在禁止されています。
説明: SCP-079-JPは40代半ばほどに見える日本人男性です。対象は自らを「██ ███」と名乗っており、同名の人物が████年に██県█町より行方不明になっています。対象の家族からは当時捜索願が届けられていた事が確認されてますが、その家族の現在の消息は判明していません。
SCP-079-JPは常に体調不良と吐き気を訴え、不規則に嘔吐を実行します。一日の平均嘔吐数は7回ですが、回数と発生時間にはバラつきがあり、対象自身も制御できていないように思われます。
SCP-079-JPによって吐き出された嘔吐物が、直接的であるか間接的であるかに関わらず他者に視認された時、視認者は現在の体調や事前に消費した食物の種類に関係無く即座に嘔吐します。視認者が発生させる嘔吐物の内容と分量は、視認された嘔吐物と全く同一です。
視認者はその後4〜6日に渡って強い吐き気と睡眠不足に苛まれますが、時間の経過によって症状は改善します。視認者が独自に嘔吐した嘔吐物には、SCP-079-JPの持つ異常性は付与されていません。
SCP-079-JPが嘔吐する物質は主に自らの胃液で溶けかけた複数の固形物からなり、これらは嘔吐の寸前にSCP-079-JPの胃腔内に突如出現します。
SCP-079-JPは20██年に███で発生した集団食中毒事件に於いて、全ての患者と食物から何の毒物反応や細菌も検出されなかったことで財団の目に留まりました。その後患者の証言からSCP-079-JPの存在が判明し、詳細な地域捜査の結果収容されました。発見時SCP-079-JPは乾いた吐瀉物に塗れた白衣を纏い、朦朧としたまま█████をさまよっていました。
補遺1: SCP-079-JPは給餌と睡眠を必要としておらず、またそれらを行いたいという欲求すら無いようでした。
しかし、常に憂鬱であるように見える以外に精神上の異常は無く、肉体的にも性質の解明となりうる異常は見つかっていません。SCP-079-JPは現在まで以下の物品を要求しました。
- 携帯用のビニール袋(却下)
- ████出版のホビー雑誌10冊(許可)
- インターネットにアクセス可能なパソコン(却下)
- インターネットにアクセス不可能なパソコン(却下)
- 替えを含んだ安眠枕3つ(許可)
- 市販の酔い止めの定期支給(却下 許可)
- ██████社製のプラモデルキット(許可)
- プラモデル製作に使用する工具一式(却下)
補遺2: SCP-079-JPの嘔吐抑制実験として、SCP-079-JPの胃袋の部分的な切除が行われました。
しかし切除から28秒で胃袋は完全に再生され、その後即座に嘔吐しました。
その後8度に渡って行われた消化器官の摘出実験でも、同様の結果となりました。SCP-079-JPは消化器官の即時再生能力を有しており、再生時にも何らエネルギーを消費していません。
補遺3: SCP-079-JPへのインタビューログ。元音声は神山博士の提言により削除済み。
対象: SCP-079-JP
インタビュアー: 神山博士付記: インタビュー中にSCP-079-JPが嘔吐を行っても問題が発生しないように、SCP-079-JPの口は十分な容量を持った合成樹脂製マスクで覆われており、発声は喉元に装着された咽頭マイクを介して行われる。その上でSCP-079-JPには、精神活動に影響が出ない範囲では最上限量の嘔吐鎮静薬剤を投与している。
<録音開始>
神山博士: こんにちはSCP-079-JP。
SCP-079-JP: こんにちは先生。そう呼ばれるのにも、もう慣れてきたな。神山博士: それは決して悪い事ではありませんよ。適応力を示すのは、あなたが普通の人間である証拠です。
SCP-079-JP: いやぁ、そうかな。お世辞でもいいことですな、先生。
神山博士: さて、それでは早速始めましょう。今日はあなたにとってはちょっと辛い事を思い出していただくことになるかもしれません。あなたがその病気にかかってしまった理由、についてです。あなたがそんな体になってしまう直前の事を、是非聞かせていただきたいのです。
SCP-079-JP: [5秒沈黙] そうか。とうとうそこまで来ちまったのか。
神山博士: 問題ありませんか?
SCP-079-JP: ん [13秒沈黙] [えづく呻き声] 大丈夫。
神山博士: ではお願いします。
SCP-079-JP: ありゃあ、ね、夜だった。うん、そうだ、夜だ。俺は家で、パソコンをやってたんだ。うん、家で。
神山博士: ご自宅で、ですか?
SCP-079-JP: うん。
注:SCP-079-JPがかねてより「自宅だ」と主張していた住所には現在使用されていない持ち主不明の町工場がありました。SCP-079-JPが主張する時期に住宅があったとの記録はありましたが、その時SCP-079-JPの家族が居住していたことを証明する記録はありません。
SCP-079-JP: それで、俺はネットサーフィンを [呻き声] やって、た。趣味だったんだ、それが。毎日やってた。でも、あの日は [沈黙]
神山博士: 続けて。それとも、難しいことでしょうか?
SCP-079-JP: いや、大 [ゲップ] 大丈夫だよ。そう、あの日、だ。あの日はちょっと、おかしかった。いつの間にか、変なサイトに辿り着いたんだ。もの凄く派手で、キラキラしてて、丸っこい字でいっぱいのサイトだった。最初は変わったアダルトサイトかと思ったよ。
神山博士: そのウェブサイトのアドレスは憶えているでしょうか?
SCP-079-JP: 昔のことだし、流れて着いたサイトのアドレスなんて、いちい [しゃっくり] いちいち憶えてないよ。でも、サイトの名前はでかでかと表示されてたし、あんな事になったから・・・よく憶えてるよ。
神山博士: サイトの名前を教えていただけますか?
SCP-079-JP: ああ、たしか、そうだ、『博士のにんきもの大作戦!』って名前だ。よく憶えてる。『にんきもの』の部分が平仮名で、最後にビックリマークがついてたなぁ。
神山博士: それで、あなたはどうしましたか?
SCP-079-JP: んや、変なサイト開いちゃったと思って [えづく呻き声] すぐ閉じようとしたんだけど、カーソルを動かしてる時、間違っちまったんだ。クリックしちまった。
神山博士: どこをクリックしたのでしょうか?
SCP-079-JP: どこ、ってもんじゃない。間違って押した。うん、 [呻き声] それだけなんだから。でも、それでページが何かの動画に飛んじまったんだ。ありゃ俺が思うに、サイトの全体が、あの動画に飛ぶスイッチだったんじゃないかな。どこをクリックしたとしても、あそこに飛ぶ。そんなふうになってた、と思う。
神山博士: 表示されたのは、どこかの動画サイトですか?
SCP-079-JP: いんや、ただ、動画だけが、ぽつんとある、うん、そんなページだった。どこだかはわかんねぇ。
神山博士: それで、その後どうしましたか?
SCP-079-JP: どうするもこうするも、ねぇよ。動画は、いきなり [ゲップ] 勝手に [しゃっくり] 始まったんだ。俺は、目が釘付け、だったよ。動画は、色んな写真やら一枚絵やらが、めまぐるしくしゃかしゃかと切り替わってく、そんなつくりだった。
神山博士: 認識出来た限り、動画の内容を教えてください。
SCP-079-JP: ああ [呻き声] ちいさな、溶けたトカゲの写真。黒い年寄りのじいさんの写真。部屋の隅っこで丸まってる女の子の絵。遠くの爆発を眺めながらベンチに座ってる男の写真。棺桶の中で眠ってる男の絵。他にもたくさんの写真や絵があって、その中には全部何かの生き物がいた。そして、そいつら皆、吐いてた。口や鼻から、ゲロをぶち撒き散らしてた。俺が見たもの全部全部吐いてたんだ。
SCP-079-JPがマスク内で嘔吐を実行。想定済みの事態であったため、インタビューは続行。SCP-079-JPは嘔吐後2分間沈黙。
SCP-079-JP: そして、最後に、顔が、映った。いや、ただ単に緑と黒と赤の模様、だったんだが。それは、顔にしか見えなかった。ものすごく、不気味で気持ち悪かった。俺の胃袋がぐるぐる回って、今にも吐きそうになった。
神山博士: その時、最初に嘔吐したのですね?
SCP-079-JP: いや、違う、違う。うん、違うよ。その顔を見た時、すごく不気味だった。正直怖かった。なのに、俺の頭の中にはある言葉が浮かんでたんだ。なんでそんな言葉が、浮かんだのか。今でも分からないんだ。あの、楽しげで、明るげな言葉。それが頭の中に浮かんでから、俺は最初に吐いちまったんだ。
神山博士: どのような言葉ですか?
SCP-079-JP: ああ、うん。
その後SCP-079-JPはうつむき、ちょうど1分間沈黙。
神山博士: SCP-079-JP? その言葉を教えてください。
SCP-079-JPは丸めていた背筋を伸ばし、目を大きく開いて真正面を見据え、咽頭マイク越しであるにも関わらずこれまでとは全く異なった声で喋り始めた。
SCP-079-JP: ワオ!よく見つけたね!君だけの秘密の場所に辿り着けたご褒美に、いいことを教えちゃおう!学校や[ノイズ音]パーティーで、なんとなーく自分が地味で注目されてない、なんて思った事はないかな?それともみんなに好かれて、みんなの真ん中でハシャぐ人気者のあいつがうらやましい、自分も注目され[ノイズ音]たい、なんて思ったことはないかな!?博士が[ノイズ音]君にだけ送る特別なものがあれば、ジャジャーン!明日から君も人気者!みんなから注目されちゃう事間違い無し!それが博士のにんきもの大作戦!さ!
待機していた保安要員が全員同時に嘔吐。
神山博士: これは、[罵倒] インタビュー中止、薬剤で意識を落とします。
SCP-079-JP: さあ、これで明日から君もクラスの人気者!みんなが[ノイズ音]君の噂をするぞ!友達もたくさん、幸せなことはもっとたくさん!さあ、楽しも [麻酔薬の一挙注入によって昏倒]
<録音終了>
終了報告書: 非常に危険でした。我々は見誤っていたのかもしれません。重要なのは「異常な影響を他者に及ぼす嘔吐物」ではなく「嘔吐物を介して異常な影響を他者に及ぼす一人の男」なのかもしれません。そしてSCP-079-JPの話の一部が真実だとするならば、あの異常な言葉を完全に知覚し、支配されてしまった者こそがSCP-079-JPと変異するのかもしれません。ひとまず必要なのは、特別収容プロトコルの改訂でしょう。SCP-079-JPは嘔吐の知覚以外の手段で、他者に異常な影響を与えられるかもしれないのですから。しかし、影響には僅かな個人差があるようで、今回は幸いでした。
神山博士の報告に基づき、SCP-079-JPの特別収容プロトコルは現在のものに改訂されています。SCP-079-JPは嘔吐物の視認以外の方法で他者に影響を与えうる可能性があります。この可能性が完全に否定されるまで、収容条件の緩和は行われません。
同時に、SCP-079-JPが閲覧したと証言したウェブサイトに関して、調査が開始されました。
補遺4: SCP-079-JPの証言したウェブサイトに関する調査は、長期間に渡って何の成果も上げられませんでした。その事実と証言者の素性から、証言そのものの信憑性が疑われ、財団日本理事会の命令によって調査は現在凍結されています。
SCP-079-JPの新たな個体は発見されていません。SCP-079-JPが発していた異常な言葉をDクラス職員のみに聞かせつつ、状況をDクラスから報告し続けさせるという実験が計画されていますが、実行は現在実験に相応しい能力を持ったDクラスの補充待ちです。
どうして見つからないのでしょう? 我々がこれだけ力を挙げて探したというのに、何故一般家庭からアクセス可能なウェブサイト一つごときを見つけられないのでしょう? SCP-079-JPは何者なのでしょう? 答えは分かりませんが、仮説は一つあります。「博士」たる人物がある要注意団体を模倣している可能性は前々から示唆されて来ましたが、その「博士」がより完璧な悪意ある模倣を実行したのならば・・・我々はあと10体以上の、似たようなオブジェクトと遭遇しなければならないのでしょうか。 ──神山博士