アイテム番号: SCP-1001-JP
オブジェクトクラス: Thaumiel Keter
特別収容プロトコル: 全国各地に存在するSCP-1001-JPの補修作業は早急に行われる必要があります。SCP-1001-JPの保全に関わる職員は、SCP-1001-JPの持つ反ミーム性への対策を施したゴーグルを装着した上で、蒐集院の元構成員と協力し、SCP-1001-JPに確認できる異常を調べ上げ、補修を行ってください。
SCP-1001-JPによる被害を防ぐため、収容されているオブジェクトの情報を把握できる数は、職員1名につき250件までに制限されます。また、日本支部理事会による指示のない限り、他者に自分の知るSCPオブジェクトの情報を伝えることは禁止されています。イベント-セキエンと思われる現象に遭遇した職員は、直ちに報告を行ってください。
説明: SCP-1001-JPは、蒐集院によって日本全土に張り巡らされた術式です。SCP-1001-JPは古墳などの史跡に、視認に対する反ミーム性を施された状態で存在しています。現在は正常に機能しておらず、誤作動によってイベント-セキエンを引き起こします。
イベント-セキエンは財団日本支部において、職員がオブジェクトの情報を100件把握するごとに発生する異常な現象です。イベントの内容には個人差がありますが、全ての例で発生する度に程度が悪化していきます。ただし、職員Aがイベントを3回発生させた後に別の職員Bが1回発生させた場合、職員Bが遭遇するイベントは職員Aが1回目に遭遇したイベントと同程度であるため、イベントの発生回数の計算は個人ごとに分けられていると考えられています。また、初期のイベント-セキエンは他者には観測できない場合があります。加えて、特別収容プロトコルのみの把握であればイベント-セキエンは発生しないことが明らかになっています。記憶処理によって報告書の情報を忘れさせることでは、イベント-セキエンの発生を防ぐことはできませんでした。
イベント-セキエンの発動する条件が「100件を超すオブジェクトの情報を知ること」であるため、Dクラス職員を用いた実験は却下され、長らくその性質を詳しく研究する実験は行われていませんでした。しかし19██年、土橋博士より実験の志願がなされ、倫理委員会による入念な協議の結果、実験が許可されました。土橋博士の志願による実験の結果により、現在まで最大で9回のイベント-セキエンの発生が確認されています。これより、財団が許容できるイベントの発生は2回までであると判断され、現在の特別収容プロトコルが確立しました。
以下の文章は、イベント-セキエンを観測する実験に立候補した土橋博士の残した手記です。
19██/03/12
本日より、私はSCP-1001-JPの引き起こすイベント-セキエンに関連する実験を開始することとなった。その異常性より、Dクラス職員を用いることのできない実験であったので、財団をこよなく愛する私が身を賭すことにしたのである。本日は手始めに100件の報告書を読破した。読破した直後、大きな地震が発生し、実験室が大きく揺れた。同じ部屋にいた職員ともその規模を話の種にした後、収容が崩れてはいないかサイト内の他の職員に連絡を取った。曰く、そのような地震は発生していないそうだ。つまりは、そういうことなのだろう。
19██/03/16
本日で累計200件の報告書に目を通したことになる。このようなオブジェクトが存在していたのかと思い、若干楽しみながら読み終わったところ、激しい頭痛に襲われた。余りにも強烈な痛みに思わず声を上げてしまい、救護班を呼ぶ羽目になってしまった。薬を飲んだ後も痛みは引くことはなく、今夜は寝付けないでいる。一体いつになればこの痛みは引くのか。
付記: 結局頭痛が引くのに1日かかった。
19██/03/22
合計で300件の報告書を読み終えた。その瞬間、何かが腐ったような臭いが鼻をついた。続いて吐き気を催すような味が口の中に広がり、大きな耳鳴り、視界の暗転と続き、最終的に全身を火箸で刺すような痛みが襲った。この感覚は数日ほど続いたものの、今日、何とか五感が正常に戻った。非常に苦しかったが、この程度で報告書を読むことを止めるわけにはいかない。止めてなるものか。
19██/03/29
今回の実験で400件の報告書を読んだことになる。今回は自分の身体に直接被害が及ぶことはなかった。が、実験の終了が宣言され実験室より退出するというときにそれは起こった。施錠されていないにも関わらず実験室の扉が開かなかったのである。無線で助けを呼ぼうにも通じない。今回は異常を察知した実験室外の職員の通報により、機動部隊が救出に来たので良かったものの、もしこれがなかったらと思うとぞっとするものがある。
19██/04/05
今日で500件の報告書に目を通したことになる。本日は読了した報告書を整理していると、枚数が明らかに合わないことに気が付いた。報告書を読んだ場所は実験室なので、報告書が紛失するなどということは万に一つもないはずである。実験を監督していた研究員たちと共に報告書を捜索したが、ついに発見には至らなかった。一体どこへ行ってしまったというのだろう。イベント-セキエンはこんなことも起こせるというのか。……加えて、今回の騒動の報告を受けた上層部より、本日から通常業務を停止するようにという命令を受けた。通常業務で紛失等起これば大事である、という理屈は分かる。これからは実験に専念しなければ。
19██/04/13
サイト-81██にて重大な収容違反が発生。原因不明の機器の故障により多くのオブジェクトが収容違反する結果となった。機動部隊の尽力により1日のうちに全てのオブジェクトを再収容することには成功した。……私が実験を行い600件目の報告書を読了したこと、加えて収容違反したオブジェクトが、悉く本日私が読んだ報告書に記されていたものであったことは、流石に偶然であってほしい。
19██/04/20
私はイベント-セキエンに関する実験を行うために今までに700件の報告書を読んできた……らしい。しかし、現在の私にそのような記憶はない。そもそも、オブジェクトに関連する詳細な記憶が一切思い出せないのだ。私の字で書かれているこの手記が頼りだ。私の愛したものを取り返さなければならない。報告書を読まなければ。読み進め、イベント-セキエンの謎の追究をしなければ。私はここで歩みを止めるわけにはいかない。
19██/04/30
手記の内容、そして実験を監督していた研究員たちの言うことが正しいのならば、読み終えた報告書が遂に800件を越した、らしい。今、私のいるサイト-81██は未曾有の水害に見舞われている。防衛機構の働きによって施設内への浸水は免れているものの、パイプラインは絶たれてしまい、サイト-81██は文字通り孤島となってしまった。加えて施設内では原因不明の疫病が蔓延しており、現在その対処に追われている。これが全てイベント-セキエンによるものであるとすれば、これ以上に悪いことが起こりうるということだ。未だ、報告書は底をついていない。
土橋博士はその後、19██/05/██に行われた実験において、実験室内に突如出現した未確認のSCPオブジェクトに襲われ死亡しました。出現したオブジェクトは直ちに待機していた機動部隊によって確保され、SCP-████-JPと分類されました。SCP-████-JPが出現した原因は状況から推察するに、イベント-セキエンと考えられています。また、イベント-セキエンの発生に呼応するように、全国各地において物理的に観測不能と化した地点の出現が9██箇所確認されています。
SCP-1001-JPが蒐集院より委譲されたのは、他の多くのオブジェクトと同じく18██年であり、その当時はイベント-セキエンの発生は確認されていませんでした。元々は蒐集院に長く伝わっていた、蒐集物の機密保持に用いる術式であり、財団に加入した蒐集院の元構成員の提案によって日本支部でも暫くの間運用されていました。
以下の文書は、蒐集院より財団にSCP-1001-JPが委譲された際に、同時に譲渡されたものです。内容は現代語訳がなされています。
蒐集物加護及天罰之術式は1428年、室町幕府6代将軍足利義教の発案した術式である。義教は各地を治める守護大名が蒐集院の所持する蒐集物を利用し、幕府転覆を企むことを怖れ、日本全国に「認められた人間以外が蒐集物の情報、もしくは蒐集物そのものを手にした際に天罰を下す呪法」、「[判別不能]として蒐集物を隠し通す呪い」を施すよう指示した。
義教は呪術師を集め、前記した効果を備えた大規模な術式の基礎を構築することに成功した。続いて全国に術式を施す作業を開始したが大雨などの要因により難航し、完全に敷設するのに13年の月日を要した。義教はこの術式を利用し恐怖政治を行う気でいたらしい。しかし術式の効果を全国に適用した直後、嘉吉の乱により義教は暗殺される。その後着任した7代将軍足利義勝は「恐怖政治を行うつもりはない」として術式の存在を秘匿。義勝は10歳にしてこの世を去るものの、8代将軍足利義政も同様の方針を示し、暫くの間この術式の存在は伏されることとなった。
安土桃山時代に天下に覇を唱えた織田信長は、室町幕府15代将軍足利義昭を通じて術式の存在を把握。それを疎ましく思い、術式が存在すると思われる寺社仏閣に対し焼き討ちを繰り返したが、1582年に突如翻心した明智光秀により本能寺において討たれている。[中略]その後も破壊を行おうとした者は数多く確認されているが、その全てが天罰に遭い命を落としている。1707年、その性質を危険視した蒐集院幹部、████により撤去が試みられるが、同年に宝永地震、続いて宝永大噴火が発生。術式の撤去は蒐集院や国に大きな災いをもたらすとし、以降蒐集物加護及天罰之術式の撤去は如何なる事情によっても禁止されることとなった。
イベント-セキエンが正式に確認されたのは19██年であり、当時は原因が不明であったためにSCP-███-JPと分類されていました。その後、詳細な調査によってSCP-1001-JPの主要な術式である「天罰」など多数の術式が数多くの改変により誤作動を起こしていたことが蒐集院の元構成員によって確認され、SCP-███-JPの再分類がなされました。蒐集院が財団に併合されることになった際、反対派の残党が各地のSCP-1001-JPに対し、時間が経過するにつれて術式に異常が発生するよう細工をしたものと考えられています。現在修復作業が進められていますが、加えられた改変の総数が不明であるため終了時期は未定です。
以下の文書は、蒐集院の元構成員である██研究員に対し、SCP-1001-JPについて質問を行ったインタビューのログです。
対象: ██研究員
インタビュアー: ███博士
<録音開始>
███博士: こんにちは、██研究員。今回はSCP-1001-JPについて訊かせていただきます。
██研究員: はい、分かりました。私が分かる範囲でのことならできる限りお答えさせていただきます。
███博士: ではまず、蒐集院においてSCP-1001-JPとはどういう存在だったのですか?
██研究員: はい。私が蒐集院に加入した際には既に運用されておりました。財団にも伝えられているように、元々は蒐集物の情報を外部に漏らさないための術式でありまして、一部は神として崇めてもいたようです。
███博士: 神、とは?
██研究員: はい、神道に精通していた私でも聞いたこともない名前だったので、独自に産み出され、発展していった神だとは思うのですが……すいません。名前がどうも思い出せないようです。
███博士: そうですか、では次にイベント-セキエンについて教えていただけますか?
██研究員: はい、といっても私にもあまり分かっていない部分はありますが……イベント-セキエンはSCP-1001-JPの本来の機能と一部共通点があるように見受けられます。誤作動ですから、理解のできない現象も多々ありますが……
███博士: その点を詳しく教えて頂けますか?
██研究員: ええ、蒐集物の情報を盗み出した外部の人間に対し下す天罰と似通っているのです。といっても現在の所有権は財団にありますから、本来は財団に害を為すものではありません。おそらく、報告書を読むごとに微々たる歪みが堆積していき、100件になった時点で一気に暴発しているのではないかと考えています。
███博士: なるほど、では最後の質問なのですが、SCP-1001-JPはなぜオブジェクトを出現させたのでしょうか?
██研究員: 土橋博士の件ですね……実のところ私も信じられないのです。SCP-1001-JPの下す天罰にあのようなものはなかったですから……あれは本当の異常だと考えてよいと思います。……ただ、少し考えるところはあります。
███博士: 詳しく。
██研究員: はい。実はSCP-1001-JPには長い年月に渡って伝えられていくうちに詳細が失伝した箇所があるのです。蒐集物を隠し通す、という余りにも曖昧な内容の箇所で……実際に蒐集物の存在自体は隠し通せきれてはいなかったものですから、意味のない部分だと思っていたのですが……
███博士: 簡潔にお願いします。
██研究員: あれが出現したのは900件の報告書を読破した瞬間。蒐集院に納められていた蒐集物の過半数にも匹敵します。すると蒐集物の存在がほぼ財団に知られることになる……SCP-1001-JPは蒐集物を隠し通すため、その術式を、異常のある状態で起動させたのでは、と……
███博士: その情報を知っている人間を消すために、オブジェクトを出現させた、と?
██研究員: ……いえ、隠し通すべき蒐集物を増やしたのだ、と。そう考えると、イベント-セキエンに呼応するように増加した観測不能な地点、あれも詳しい調査が必要かと思います。
███博士: なるほど、ありがとうございました。これでインタビューは終了します。
<録音終了>
終了報告書: 以上の内容を鑑み、イベント-セキエンを10回以上発生させることは非常な危険を伴うと予測されたため、いかなる場合であっても1000件以上のオブジェクトの情報を把握することは禁止する。加えて、各地に出現している観測不能地点は重点的に調査を行うこと。
補遺: 日本に駐留するGOC極東支部の人員より、イベント-セキエンに類似した現象の発生が報告されました。GOC極東支部に対しては協力を願い出ています。SCP-1001-JPの補修は最優先されます。
ページリビジョン: 10, 最終更新: 10 Jan 2021 16:31