
SCP-103-JPの外観。
アイテム番号:SCP-103-JP
オブジェクトクラス:Euclid
特別収容プロトコル:SCP-103-JPが存在するアパートは封鎖され、カバーストーリー「耐震偽装の発覚」が適用されます。SCP-103-JPの内部へはDクラス職員のみ入ることが許可されます。SCP-103-JP内部への記録機器の持ち込みは事案ろ-1の結果を受けて、セキュリティクリアランス4以上の職員2名以上の許可なしに行うことは禁じられています。
説明:SCP-103-JPは東京都████区に存在する一般的な3階建てアパートの部屋の一つ、103号室と表記される2LDKの部屋です。SCP-103-JPの内部は収容以来█年の間放置されているにもかかわらず、バスルーム・トイレ・ベッド・空調・蛍光灯・台所など、すべての設備に経年劣化は見られません。加えて、SCP-103-JPには電気・ガス・水道が供給されていないにもかかわらず、内部では問題なくそれらの設備が使用可能です。
その内部に18歳以上、25歳以下の男性(以下、被験者と表記)一人が入ることによってSCP-103-JPの異常性が発揮されます(以下、『活性化状態』と表記)。条件の違う人間や二人以上の人間がSCP-103-JPの内部に存在しても、SCP-103-JPは活性化状態になりません。SCP-103-JPの活性化には4つの段階が存在し、約7日~10日ごとに段階が進行します。
第一段階では、被験者がSCP-103-JPを観測していない間(以下、非観測状態と表記します)、観測されていない室内の環境が被験者に快適になるように変化します。例として以下が挙げられます。
- 主に和食を中心とした様々なメニューが食卓の上に準備される。量、味付け、食器などは全て被験者の好みに合ったものとなり、温度は適切な状態で保たれる。
- 花瓶に季節に応じた花が生けられる。萎れる前に花は取り替えられる。
- 部屋内は常に掃除される。たとえ書籍などを出したままにしても全て元の場所に戻される。
- 室温は常に被験者の体調に合わせて摂氏22度から摂氏26度の間で保たれる。
また、被験者はこのような家事に対して、違和感を抱かず、「ルームシェアしている異性が家事を行ってくれている」と認識します。家事、模様替えの様子を機材によって録画することは、機材に起こる原因不明の不具合により失敗します。
第二段階では、非観測状態で行われる環境の調整と共に、黒いペンで書かれたメモ書きが出現します。これは被験者に対して励ましや気遣いの言葉を掛けるもので、多くの場合被験者はこのメモに対して喜びを感じます。この段階以降の被験者はSCP-103-JPから退出することを拒否するようになり、SCP-103-JPの内部に留まり続けます。この影響は精神的なもので、SCP-103-JPから被験者を物理的に引き離すことは可能ですが、被験者は可能であればSCP-103-JPの内部へ戻ろうと試みます。記憶処理を行ったとしても、この衝動は永続的に残ります。

活性化の第三段階に入ったSCP-103-JP
第三段階では、環境の調整に異常が見られ始めます。例として以下が挙げられます。
- "食事"として生ゴミ・腐敗した害虫や害獣の死骸・使用済み生理用品が配膳される
- 室内に置かれた花瓶に枯れ木・マネキンの手・廃材などが生けられる
- 床に血液・ガラス片・丸められた新聞紙などが散乱する
- 室温が摂氏40度から摂氏-5度まで大きく変化する。
- 置かれるメモが人間の血液が15%前後混ぜられた赤いインクで書かれるようになり、内容が脅迫的なものへと変化する
被験者はこれに対して「彼女がやっていることだから仕方ない」と一様に応え、そのような環境でも生活し続けようとするため、多くの場合健康を害することになります。
第四段階では、被験者は消失し、SCP-103-JPは非活性化します。消失の瞬間をなんらかの機器によって録画・録音しようとした場合、危険な収容違反が発生しました。これによってSCP-103-JP内部への機材持ち込みは禁じられました。セキュリティ担当者は事案-ろ-1を参照してください。
補遺1:実験い-4にて行ったD-4521に対するインタビュー。対象は20日間SCP-103-JPの内部に滞在し、現在第三段階にあります。
対象:D-4521
インタビュアー:岩永研究員
<録音開始, ████/██/██>岩永博士:D-4521、調子はどうですか?
D-4521:(D-4521は繰り返しえずいている)悪くないよ先生(付記: D-4521はその日の"朝食"に出された、腐敗したネズミの死骸を食したことにより、嘔吐を繰り返している)。ただ、ちょっとね。あの子の手料理に当たっちゃったみたいでね(苦笑)。
岩永博士:あの子とは誰のことですか?
D-4521:あの子はあの子さ。いつもは完璧なんだけどもね。まぁちょっと虫の居所が悪いみたいだからね。でもまぁ(えずく)、許しちゃえるんだけどさ。
岩永博士:と、いうことは、今の状況に不満はないと?
D-4521:そりゃね。あんないい子だからね。別れるには惜しいよ。それに、彼女のやってることだからね。仕方ないよ。
岩永博士:ですが、D-4521。あなたは彼女の姿を見たことがないんでしょう?
D-4221:見えなくってもメモがあるしね。それに分かるのさ。大事な相手だからね。でも、そのうち会えるんだよ。その時が楽しみさ。もうすぐなんだよ。
<録音終了, ████/██/██>
補遺2:事案ろ-1の映像記録の音声のみを文字に起こしたものです。当時の担当研究員である菅野上級研究員は、遠隔地より無線を利用して被験者であるD-4316へ命令を下していました。
<録画開始, ████/██/██>
菅野上級研究員:D-4316、状態を説明するんだ。
D-4316:もうすぐ会えるんです。
菅野上級研究員:誰と会えるのか、きちっと説明しろ。
D-4316:あの子です。もうすぐ。きれいなあの子だ。ようやく、ようやく会える。……あれ?
菅野上級研究員:おい、どうしたD-4316。
D-4316:いや、違う、なんだこいつ、これはあの子じゃない! 嫌だ! 来るな!
菅野上級研究員:どうしたD-4316! 状況を説明しろ!
D-4316:あああああ! やめろ! やめてくれ! 先生助けて下さい! 誰(D-4316の言葉が16秒間、突然途切れる)
菅野上級研究員:おい……?
(2分11秒間、ノイズのような音が流れる。この音声に対して複数の手段で解析を行ったものの、未だ意味のある言語などは確認されていない。解析の結果、ノイズ音は周波数を様々に変化させた女性の叫び声に近いものであるという事実が判明した)
菅野上級研究員:(43秒間の沈黙)ああ、そうか、そうだもんな。彼女はアイツじゃない。俺を選ぶんだ。俺を、俺を。行かなきゃ。あの子の家に。
<録画終了, ████/██/██>
この後、菅野上級研究員はSCP-103-JPの元へと移動しようとして拘束されました1。記録された映像にはSCP-103-JP内のD-4316の様子ではなく、菅野上級研究員がD-4316に対して命令を下している様子が、菅野研究員の背後から誰かが撮影しているようなアングルで映されていました。これを受けて、第四段階まで活性化したSCP-103-JPへの記録機器の持ち込みは禁じられました。