クレジット
タイトル: SCP-1030-JP - 海賊船虫
著者: ©︎
crow_109
作成年: 2017
アイテム番号: SCP-1030-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1030-JPはサイト-815█の標準小動物収容室内にて飼育用水槽に収容して下さい。飼育方法はLigia exoticaと同様ですが、水場の作成及び定期的な清掃には水道水ではなく、薬品等で汚染されていない自然由来の海水を用いて下さい。水槽は最低二つを用意し、水槽一つ毎に10匹を飼育して下さい。繁殖行動が見られた場合、妊娠した個体は新しい水槽に隔離し、新たに生まれた個体は特に実験上の必要が無い限り焼却処分して下さい。いかなる場合においてもSCP-1030-JPの総数を百匹以上にしてはいけません。
野生のSCP-1030-JPの群体は可能な限り早く破壊しなければなりません。財団は必要に応じて海上保安庁やその他の海洋研究機関と連絡し、偵察衛星を駆使してSCP-1030-JPの生息地の追跡と調査を試みます。担当エージェントは定期的な沿岸の水質調査を実施し、不自然な水質の改善が為されていないか調査する必要があります。発見された生息地の付近にはSCPS”うみねこ”を中心とした機動部隊ろ-12"海鳥船団"が速やかに派遣され、対象の無力化と適切なカバーストーリーの流布が行われます。
説明: SCP-1030-JPはフナムシ(Ligia exotica)の亜種である体長40mmの甲殻類です。基本的な身体構造は標準的なフナムシと差異がありませんが、人為的な遺伝子操作の痕跡があります。確認された異常性は下記の通りです。
- 耐衝撃性に優れたコロイド分散体を内部に備蓄できる外骨格
- 口内に新たに生成された、Thunnus orientalisに酷似したイオンチャネルとポンプを持つエラ。長時間の游泳を可能にする他、デトリタスを濾過摂食する機能も果たす
- 幅500μmの微小水路と、海水を汲み上げるペダル状の細胞構造を有する第六脚及び第七脚。脚は他の個体の胴部とフック状の爪にて連結可能であり、汲み上げた海水は尾部から噴出される
- 腸及び上述の水路内部に存在する網目状の生体超分子構造体。生殖器官付近にある未知の器官と直接接続されている
SCP-1030-JPは游泳により体内に海水を取り込み、濾過作用によって有機水銀、PCB、BHC、鉱油、マイクロプラスチック等のあらゆる海洋汚染物質を除去します。合成洗剤に含まれる有機リン等、通常の海洋にも一定量が存在する物質は、水質が海洋生物の生存に適した状態になるまで除去されます。濾物は生殖器付近の器官に一旦蓄積され、クチクラ内部の分子コロイドとして後述の擬態に用いられるか、未知のプロセスで無害化・分解されイオンとして排出されます。これらの有害物質が持つ毒性に対し、SCP-1030-JPは抵抗力を持つことが判明しています。
SCP-1030-JPは通常のフナムシとの遺伝的類似性から異種交配を行うことが出来、また上記したような異常性質を繁殖によって子孫に継承することが可能です。これは野生個体の駆除が困難な理由の一つとなっています。SCP-1030-JPは現在、石川県以南の本州~九州地方沿岸に幅広く生息していると考えられています。駆除を目指す財団の努力にもかかわらず、この分布域は徐々に拡大する傾向にあります。
SCP-1030-JPは海岸に数百~数万匹のコロニーを作って生活します。コロニー初期段階のSCP-1030-JP群は一見して標準的なフナムシのコロニーと差異はありません。コロニーは集団的知性を持っており、総数が百匹を越える毎に知性の水準は指数関数的に増大していきます。一万匹のコロニーが持つ知性はシャチ等の大型海生哺乳類に匹敵すると考えられており、群れで協力し天敵であるカニやチドリを撃退する他、食料や船舶を求めて海岸付近を約10ktで游泳します。
コロニーの総数が一万匹を越えると、コロニーは群れが全体を覆い尽くせるサイズの小型船に取り付き、船舶に”擬態”する特性を得ます。この状態となった群れをSCP-1030-JP-Aと呼称します。擬態は夜間に行われ、クチクラの内部でコロイド状成分が凝集されて黒色の光沢を帯びると共に、個体が隙間無く船舶表面を覆い尽くすことで、SCP-1030-JP-Aの耐衝撃性は飛躍的に向上し、最大で200kN程度の衝撃に耐えられるようになります。
船体への取り付きが完了すると、SCP-1030-JP-Aは船体下部に全没型ハイドロフォイル様の水中翼を形成します。水中翼部分を担うSCP-1030-JP群は、第六脚及び第七脚のフックを用いてお互い強固に連結し、尾部から全個体が同時にハイドロジェットを行うことで高速推進を可能としています。現在観測されている最高速度は約54ktです。SCP-1030-JP-Aは海上に存在するあらゆる人工構造物に対して激しい敵対心を持っており、衝突によって航路標識や係留船舶を破壊する他、外洋にて小型船舶に激突し沈没させることもあります。沈没により拡散した燃料等は濾過によって無害化されます。付近の人工物をあらかた排除すると、SCP-1030-JP-Aは擬態を解いて元の生息地に戻ります。
擬態した船舶はその独特の外貌から容易に通常船舶との区別が可能であり、標準的な火炎放射器による処理で直ちに死滅・無力化することが判明しています。その為、SCP-1030-JP個体が確認されている海岸に木造の廃船を放置し、引き寄せられたSCP-1030-JPを無力化する方法が実施されています。
しかしながら、SCP-1030-JPの個体数の多さと異常な繁殖能力のため、これまでに約10%のSCP-1030-JP-Aが財団の捕捉を逃れ、外洋にて民間船との大規模なインシデントを引き起こしています。
インタビュー記録1030-JP-01: 人為的な遺伝子操作の痕跡から、当オブジェクトは発見当初より要注意団体である日本生類創研との関係が疑われていましたが、財団の調査の結果、██大学の非常勤講師で環境エコロジストである██ ███氏が、五年前に日生創に研究者として勤務し、当該オブジェクトの製作に関わっていたことが判明しました。財団は直ちに██氏を捕縛し、尋問を実施しました。
対象: ██氏
インタビュアー: 九里浜博士
<録音開始>
九里浜博士: ██さん、本日はよろしくお願いします。昨日のインタビューの確認になりますが、日本生類創研には一時期在籍していただけだと?
██氏: ええ、半年だけですね。私は当時、勤めていた大学の教授と揉めてクビにされてしまいまして、食い扶持に困っていたんです。求人誌を探していたら、エコロジーの専門研究者を募集する旨の広告がありまして。彼らは「第二次エコロジー・キャンペーン」と称して、自然環境を守る生物の作成を目指していました。理念に深く共感した私はすぐに応募したんです。私以外にも何人かの研究者を雇っていたようですが、何度も言っているように、組織の詳しい内情は知りません
九里浜博士: 組織の話は後日改めてお聞きします。今回はあのフナムシを作成した経緯についてお聞きしたいのですが
██氏: わかりました。多分他の研究者も同じだったと思うんですが、私は日生創の本部からキャンペーンの意向に沿うような生物を作るよう依頼されて、██市の██ビルの一室を与えられ、研究に臨みました。私は海洋生物学が専門ですので、フナムシを対象として選択し、認可を貰いました。ビルには何人か助手みたいな人がいて、彼らは極めて高度な遺伝子操作技術を持っていたようです。プロセスは理解不能でしたが、結果的に私の理想通りのフナムシを見事生み出してくれました
九里浜博士: 貴方が助手達に指示してアレを作らせたのですね?
██氏: そうです。ところが、日生創の上司達はあの子らのことが全く気に入らなかったようでして、「肝心のゴミを食べられないんじゃ意味が無い。当初の報告とも異なる」とえらく怒り出したんです。まあ、確かに私の我儘で性質を色々と変更したのは事実なのですが。可愛いあの子らに醜いゴミなど食べさせたくなかったので。ついには「別の生物を開発しろ。このままフナムシの研究を続ける気ならクビにする」と。でも、私はあの子らを見捨てることが出来ませんでした。そういうわけで、早々とあそこを退職したんです
九里浜博士: あの子ら、とは?
██氏: 勿論、あのフナムシたちのことですよ。可憐なる私の天使たちです。失敗作となった可哀想なあの子らを、上司達は処分するように求めてきましたが、どうせ辞めるのだからと、私はこっそりあの子らを引き取ったのです
九里浜博士: では、その後は独力で研究を続けたと?
██氏: いや、世話をしていただけですね。自分の子供として育てていました。貴方はあれをただのフナムシだとお思いかも知れませんが、違います。あの子らには、人間にも匹敵する知性があります。あの子らは数を増やす毎に自身の知性を増大させていく能力があるのです。あの子らが百匹を越えた時、私はあの子らに教育を施すことにしました
九里浜博士: 教育?
██氏: そうです。私は水槽ごしに見えるあの子らに、これから為すべき事について教えました。愚かな人間どもが環境を破壊し、海洋を汚染し尽くしていること。醜い人工物を美しい自然の中にバラ捲き、沢山の生き物を苦しめて殺していること……あの子らには人間が作り出した醜い物たちを排除し、豊かで美しい自然を取り戻す使命があると。その為に君たちは生まれてきたんだと、何度も諭しました。多くの瞳が私を見つめ、あの子らは真剣に私の話に聞き入っているように見えました。それから数ヶ月が経過し、私にとっては名残惜しくもあったのですが、あの子らが更に子孫を増やし、与えられた使命を果たすためには、あの子らを水槽から解放してあげる必要がありました
九里浜博士: ……それでは、貴方は意図的にアレを海岸に放棄したのですね? 私見では、人為的遺伝子汚染に該当する行為ではないかと思料致しますが
██氏: 放棄ではありません。遺伝子操作を施したとは言え、自然から生まれたものは自然に帰すべきです。何より、あの子らには果たすべき崇高な使命があるのですから
九里浜博士: わかりました。一つ質問をさせて頂いてもよろしいでしょうか?
██氏: 何でしょうか?
九里浜博士: 先日、██沖で大型ボートの転覆事故があったのをご存じでしょうか。我々の調査の結果、あの事故は貴方が育てたフナムシ達の子孫によって引き起こされたと断定されています。事故により12名の命が失われました。これも貴方が意図していた結果なのですか?
██氏: 何を仰っているんですか? 地球を汚しているのは人間でしょう
<録音終了>
終了報告書: これまでのSCP-1030-JPの研究成果から、 ██氏の発言は概ね真実であると評価できます。元々の日本生類創研の開発意図からしても、SCP-1030-JPの持つ高度な擬態能力は後天的に獲得されたものだと考えざるを得ません。僅か五年で生息域を大幅に拡大したことも含めて、オブジェクトの潜在的脅威は極めて憂慮すべき水準にあると断言できます。早急なプロジェクトチームの増員と研究予算の増額を申請します。―九里浜博士
付記1030-01: インタビューの後、██ビルの調査が実施されましたが、既に別のテナントが入居しており、日生創の足取りを追跡するあらゆる試みは失敗に終わりました。尚、三ヶ月にわたる尋問の後、██氏はこれ以上の有益な情報を持っていないと判断されたため、現在Dクラスとしての雇用が検討されています。