クレジット
タイトル: SCP-1062-JP - 絞福論
著者: ©︎
izhaya
作成年: 2020
事例1062-JP-07,11,12において村上家の屋根裏部屋入り口から出現した輪縄を再現したもの。縄自体は大工道具の一部だったと見られる。
アイテム番号: SCP-1062-JP
オブジェクトクラス: Safe Neutralized
特別収容プロトコル: 異常の発生が非常に稀かつ限定的であり、またSCP-1062-JP-1が少数であること、SCP-1062-JP-1の収容自体がイベントを発生させる可能性があるため、当オブジェクトに関する活動はSCP-1062-JP-1の観察と保護、定期的なカウンセリングに留められます。予測されるイベントの発生にあたっては事前にエージェントの配置を行います。実際にイベントが発生した場合は標準死亡偽装プロトコルに則った適切な処理を行います。SCP-1062-JP-1に該当する人物の捜索を続けてください捜索は完了しました。
報告書記載にあたっての注意: SCP-1062-JPは観測例が少なく、またその性質上再現実験が不可能です。このため当報告書は主に異常現象を経験した複数の人物の主観的意見を元に作成されており、不確定な部分が多いことに留意してください。
説明: SCP-1062-JPは奈良県██郡に居住していた女性である田宮セツ(1923-1990)と血縁関係にある全ての人物(SCP-1062-JP-1と指定)が経験する異常なイベントです。SCP-1062-JP-1はSCP-1062-JPを生涯一度のみ体験します。SCP-1062-JP-1の該当者が少ない事、及び発生頻度の極端な低さから、SCP-1062-JPの異常性の詳細な研究は事実上不可能です。
SCP-1062-JPは、SCP-1062-JP-1が大きな幸福を感じ、かつ未知の複合的条件を満たした際に発生すると考えられています。SCP-1062-JPが発生した際、SCP-1062-JP-1の頭上に垂れ下がる形で先端が輪になった紐状の物体が出現します。この物体は周囲に存在する最も自然な物体が利用されますが、材質に関わらず成人男性1人以上の加重に耐えうる強度を有していると推測されています。この紐の出現と同時に、SCP-1062-JP-1は未知の方法により現在が自身の一生の内で最も幸福な瞬間であることを確信します。この確信は、以降のSCP-1062-JP-1の人生でこれ以上の幸福が発生しない事を容易に推測させるため、結果として多くのSCP-1062-JP-1はSCP-1062-JP発生時に出現した紐状物体を用いた縊死による自殺を行います。
特筆すべき点として、SCP-1062-JPによって行われた自殺に対して、SCP-1062-JP-1に直接関わる人物は如何なる状況で発生した自殺であっても違和感や負の感情を抱かず、幸福な死を祝福します。ほとんどのSCP-1062-JP-1は以前に身近な親族がSCP-1062-JPによって自殺しており、この時の経験からSCP-1062-JPによる自殺が誰にも悲しまれず祝福される事を認識しています。この事実は、SCP-1062-JP-1がイベント発生時に一般的な感覚よりも容易に自殺を選択する一因と考えられています。
SCP-1062-JP発生時に自殺を選択しなかったSCP-1062-JP-1へのインタビューにおいて、SCP-1062-JP発生後の人生においてSCP-1062-JP発生時以上の幸せを感じたことがあると答えたSCP-1062-JP-1は確認出来ませんでした。この結果から、SCP-1062-JPは未来に発生する出来事とそれに基づくSCP-1062-JP-1の主観的な幸福感の推移を非常に高い精度で予知・予測していると考えられ、SCP-1062-JPはSCP-1062-JP-1の幸福感が過去未来に渡って最大に達したタイミングで発生していると推測されています。
添付データ: SCP-1062-JP-1該当者一覧、及びイベント発生状況一覧
SCP-1062-JP-1の識別番号 |
名前 |
田宮セツとの関係 |
イベント発生年月日 |
イベント発生時の状況 |
SCP-1062-JPによる自殺の有無 |
現在の状況 |
0 |
田宮 セツ |
本人 |
1990年6月9日 |
不明 |
有 |
死亡 |
1 |
田宮 博 |
長男 |
2007年8月11日 |
田宮愛のピアノコンクール準優勝 |
有 |
死亡 |
2 |
大村 久恵 |
長女 |
1996年5月18日 |
次女である高橋 明子の結婚式 |
有 |
死亡 |
3 |
荒川 由美 |
次女 |
1990年6月9日 |
不明、田宮セツと同時 |
有 |
死亡 |
4 |
田宮 正志 |
次男 |
発生無し |
- |
- |
1955年6月9日に死亡した状態で発見された。 |
5 |
荒川 誠 |
孫 |
2009年5月2日 |
荒川 千佳の結婚式 |
有 |
死亡 |
6 |
田宮 修 |
孫 |
2007年8月11日 |
田宮愛のピアノコンクール準優勝 |
無 |
2008年11月3日に病死 |
7 |
村上 美和 |
孫 |
2002年5月12日 |
母の日のプレゼントを子供から渡された際 |
有 |
死亡 |
8 |
高橋 明子 |
孫 |
1996年5月18日 |
自身の結婚式 |
有 |
死亡 |
9 |
荒川 千佳 |
曾孫 |
2000年3月4日 |
大学の合格発表日 |
無 |
生存中 |
10 |
荒川 幸助 |
曾孫 |
2006年12月24日 |
プロポーズの成功直後 |
有 |
死亡 |
11 |
村上 健太 |
曾孫 |
2002年5月12日 |
SCP-1062-JPを用いた母の死亡時 |
有 |
死亡 |
12 |
村上 美佐子 |
曾孫 |
2002年5月12日 |
SCP-1062-JPを用いた母の死亡時 |
無 |
2007年5月29日に事故死 |
13 |
田宮 愛 |
曾孫 |
2007年8月11日 |
出場したピアノコンクールにおいて準優勝 |
有 |
死亡 |
田宮セツが死亡した1990年6月9日同日に荒川 由美がSCP-1062-JPイベントを体験している事、また聞き込みによってそれ以前にSCP-1062-JPが発生した記録は無い事から、SCP-1062-JPの異常の開始は1990年6月9日と考えられています。田宮セツの自室及び仏間や遺品からは儀式的な行為の痕跡が複数発見されており、異常の起源、及びその異常性は田宮セツと密接に関係があると考えられています。
前記: 当映像は高橋 明子(以下、SCP-1062-JP-1-08)と大村 久恵(以下、SCP-1062-JP-1-02)が結婚式中に死亡した事例1062-JP-08,02の式場映像記録である。本件は発生から11年後の2007年に田宮博(以下、SCP-1062-JP-1-01)が家族内での閲覧用にYoutube上に公開設定でアップロードし、これによって財団がSCP-1062-JPを認識した。知名度の無い一般アカウントからの投稿であり、アップロード後すぐにWeb上の記録を抹消、元データを回収した為、異常映像は拡散されていない。
<記録開始>
カメラは式場内中央に固定された状態で高砂の花嫁、花婿を中心に映している。
(中略)
司会者: 新婦、明子さんは今日この日の為に、お父様、お母様へのメッセージをご用意しておられます。それでは明子さん、お願いします。
SCP-1062-JP-1-08: お父さん、お母さん、これまで25年間、大切に育ててくれてありがとう。
(中略)
SCP-1062-JP-1-08: これからは、そんな私の事を理解してくれる敏さんと一緒に、幸せな家庭を築いていこうと思います。この年になっても仲が良くて、一緒に買い物に出かけられるような、お父さんとお母さんのような夫婦になれるよう、お互いを理解しあって歩んでいきます。最後に、敏さんのお父さん、お母さん、
(SCP-1062-JPが発生。スピーチの途中で異音が発生し、SCP-1062-JP-1-08の顔の少し上に輪になった黒い紐が垂れ下がる。解析から、式場の天井に配線されていたコードであることが解っている。発生したイベントに対して、新郎新婦や参列者の動揺は見られない)
SCP-1062-JP-1-08: 皆様、今までありがとうございました。
(SCP-1062-JP-1-08が椅子の上に立ち、出現した輪に首をかけ、椅子から落ちる。コードは破損せずに体重を支え、SCP-1062-JP-1-08は特に抵抗せず縊死する)
(二度目のSCP-1062-JPが発生。参列していたSCP-1062-JP-1-02の頭上に輪になった黒い紐が垂れ下がる。先程のイベントと同様に、新郎や参列者の動揺は見られない)
SCP-1062-JP-1-02: 明子、幸せで良かったねぇ。
(SCP-1062-JP-1-02が椅子の上に立ち、出現した輪に首をかけ、椅子から落ちる。コードは破損せずに体重を支え、SCP-1062-JP-1-02は特に抵抗せず縊死する)
(会場内から拍手。)
司会者: 明子さん、ご自身の言葉でしっかりと幸せな思いをお父様、お母様に伝えて下さいました。
(以後、通常通り式次第が進行する。)
追記: 上記イベントの際、二人の遺体は式典終了後に下ろされ、病院に連絡された。当該事例については自然死と同様に処理されており、警察等の機関が対応した記録は残っていない。
インタビュー対象: 荒川千佳(以後、SCP-1062-JP-1-09)
インタビュアー: 大森研究員
前記: SCP-1062-JP-1の一人であるSCP-1062-JP-1-09は現在SCP-1062-JPイベントを経験し、自殺を行わなかった唯一の生存者である。定期的なカウンセリングの際に了承を得てインタビューを行った。
<記録開始>
大森研究員: では、インタビューを始めます。答え辛い質問には答えなくて構いません。まずは以前お話頂いた、2000年3月4日に異常な出来事が起きた際の状況を教えてください。
SCP-1062-JP-1-09: ええ、大学の合格者発表を一人で見に来た時でした。私は合格していました。中学や高校の受験は失敗しちゃって、それで高校は3年間、必死に勉強してたんです。頑張ってきたことが報われた、そういう気持ちになりました。今まで部活も習い事も、上手くいかなかったので。すぐに両親に連絡しようとした時、上にあった木、桜の木だったかな、とにかく上から植物のツルでできた輪っかが下りてきたんです。
大森研究員: なるほど。その時、何を考えましたか?
SCP-1062-JP-1-09: 考えたというより、解っちゃった、みたいな感じなんですけど。それを見た瞬間に、あ、今が私の人生で一番幸せな時なんだ、と思ったんです。これを逃したら、これ以上幸せな事はもう起きないことが解っちゃった、というか。
大森研究員: 根拠が無くても信じられた、そういうことですか?
SCP-1062-JP-1-09: そうですね。その後も実際、そうでしたし。
大森研究員: 実際そうだった、と言うと。
SCP-1062-JP-1-09: あの輪っかは正しかったんだ、という事が解りました。自分の努力が認められて成果が出せたのは、あの時ぐらいでしたし。迷ったんです、輪っかが来た時。これ以上の幸せが起きない私の人生って、生きてて意味があるのかなって。明子お姉ちゃんも、おばあちゃんも、ひいおばあちゃんも、皆輪っかで幸せに人生を終わったのに。せっかく幸せに人生を終えられる機会を逃して良いのかなと思ったんですけど、私の人生のピークがここだなんて信じたくなくて。大学で頑張れば、就職すれば、結婚すれば、子供ができれば、何かもっと、もっと幸せな事が起きるんじゃないかって。
大森研究員: 大丈夫ですか。落ち着いて、話さなくても良いので、呼吸を楽に。
(SCP-1062-JP-1-09は嗚咽し、インタビューは数分間中断する。)
大森研究員: 落ち着きましたか。
SCP-1062-JP-1-09: はい、すみません。
大森研究員: 話しづらいことを聞いてしまい、申し訳ありません。ですが、最後に一つ、質問させてください。先程のお話ですが、ツルの輪が下りてきた時よりも幸せだと感じる事は、これまで経験されていない、そういう事で良いですか。
SCP-1062-JP-1-09: そうですね。就職も上手くいかなかったし、結婚も、コレですしね。心の底から幸せだと思えたのはあの時が最後かもしれません。ただ、まぁ結果的に子供が出来て、今ではそれでも良いかなと思えました。
大森研究員: と言いますと。
SCP-1062-JP-1-09: きっと子育ては辛いですし、彼との結婚もこれからどうなるか解らないです。でも、子供が育ってから少しでも幸せになってくれれば、私もそれなりに幸せになれるのかな、と。パパも、きっとそう思ったんだと思います。私が一番幸せだったのは、きっとあの合格発表の時だったんです。でも、二番目や三番目の幸せがこれからも続いていく。後悔はしても、いつか終わってみればそれなりに幸せなんじゃないかなって。今ではそう思っています。
大森研究員: 良く解りました。長く話させてしまってすみません。お疲れ様でした。残りのインタビューはまた次の機会にさせて下さい。
<記録終了>
事例-1062-JP-未採番: 2009年9月16日、妊娠中のSCP-1062-JP-1-09の胎児が臍帯巻絡により胎児機能不全を起こし、死亡・死産しました。関係者は違和感や負の感情を抱かず、幸福な死を祝福するような言動を行ったため、この事例は臍帯が輪と見なされたSCP-1062-JPイベントと考えられています。これまでのSCP-1062-JP発生時に見られたような一般的な「大きな幸福」を妊娠中の胎児が経験したとは通常考えられない為、イベント発生原因を調査中です。
補遺-1062-JP-1: 2009年12月2日、SCP-1062-JP-1-09が自室で縊死しているところを配偶者である宮崎翔が発見、警察に通報しました。関係者が一般的な情動的反応を示したことから、当事案は異常性の無い自殺と考えられています。これによりSCP-1062-JP-1該当者が存在しなくなった為、オブジェクトクラスはSafeからNeutralizedに修正されました。
ページリビジョン: 17, 最終更新: 10 Jan 2021 18:41