アイテム番号: SCP-1070-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-1070-JPに関するあらゆる報告書は、その異常性が「忌避すべき暴力的人格の形成」であると偽装されなければなりません。規定の権限を有さない職員が偽装された事実を理解した場合、状況に応じて終了処分の可能性を含む対象への隔離措置が許可されます。
SCP-1070-JPの収容違反によりその内容が拡散するインシデント「ハルモニア」が発生した場合には後述のプロトコル「リヴァイアサン」を実行してください。この際に発生することが前提となる局地的あるいは世界単位での武力動乱を回避するため、対象地域に勤務する主要職員及びEuclid以上の危険性を有するあらゆるオブジェクトはサイト「セーフプラン」のいずれかにあらかじめ退避してください。
説明: SCP-1070-JPは「調和の手引き」と題された全18ページからなる白表紙の紙製冊子であり、著者がメラネシアの████島で遭遇した絶界の部族である████████族の生活様式と彼らの有する独自の文化に関する調査についての簡潔な報告が記されています。その記述によれば、████████族は物質的・精神的な欲望の水準が先進社会に暮らす人々と比較して極めて低いという特徴を有しており、それは彼らの使用する言語のリズムや身体的所作の影響であると述べられています。
SCP-1070-JPの記述内容を閲覧しSCP-1070-JP-1となった人物は、████████族の行っていた一連の方法を無意識的に習得・実施し、同様の極端な欲求レベルの低下を発現します。また、SCP-1070-JP-1は極めて短時間の閲覧であってもSCP-1070-JPの記述内容を高精度で記憶することが可能であり、低下した種々の欲求とは対照的にその複製を製作することを強く望み、かつそれが可能であるならば実際に行います。SCP-1070-JPの異常性は媒体を問わず全ての写本・複製品に付与されていることが確認されています。SCP-1070-JP-1による直接的な口頭演説にも効果が認められていますが、全記述内容を口頭で伝達する必要があるためその影響力は強くはないと推測されています。
SCP-1070-JPによる人体への影響を取り除くことは、あらゆる記憶処理によっては成功していません。ただしSCP-1070-JP-1の生命維持に対して過度のストレスが継続的に負荷された場合、SCP-1070-JPの異常性による影響が徐々に喪失されていくことが確認されています。このことから、SCP-1070-JPによる欲求の低下は生存欲求にまでは及ばず、かつ生存欲求の肥大化により相殺される可能性があることが示唆されています。
現在財団により収容されているSCP-1070-JPは、19██年█月██日にエストニア領██████島内の漁村にて潜伏していた旧ソビエト連邦幹部██████████████から回収されました。発見当時には既に島の全域にSCP-1070-JPの異常性が発現しており、本土との連絡も途絶えていたことから調査を実施した財団エージェントによって発見されました。
音声記録1070-27-JP-F
日付: 19██/█/██
概要: エージェント・ワーネチカによる、SCP-1070-JP-1となった██████島民に対する現地でのインタビュー記録抜粋
<再生開始>
ワーネチカ: (ノイズ)そんなことはどうだっていいんだ。質問に答えてくれればそれでいい。なんだってこんな事になっているんだ?
SCP-1070-JP-1: この島には我々に十分な恵みがあります。我々は満ち足りています。そのことに皆が気がついたんです。
ワーネチカ: 答えになっていないな。いいだろう、質問を変えよう。もう1ヶ月もこの島の漁師は海へ出ていないって話だが……今は旬の季節だろう。この時期に稼がないでこれからどう食ってくつもりなんだ。
SCP-1070-JP-1: 命をつなぐだけの恵みは足りています。これ以上なにを望む必要があるのでしょうか。
ワーネチカ: そりゃあ……生きていく分には問題ないのかもしれんが。しかしこんな田舎じゃ学校もろくにない。子供の教育費だってかかるだろうが。
SCP-1070-JP-1: 既に満ち足りた世界を押し広げることは無意味です。どうかこれを。(SCP-1070-JP写本を差し出す)
ワーネチカ: そいつはもう十分だ。こいつもダメか。クソ、どいつもこいつもボケた顔しやがって。
<再生終了>
音声記録1070-118-JP-B
日付: 20██/██/██
概要: SCP-1070-JPを閲覧させてから1ヶ月後に行ったD-22134へのインタビュー。D-22134は複数の強盗事件を起こしており、粗暴な性格である
<再生開始>
研究員: 久しぶりだね。気分はどうだ?
D-22134: すっかり快適だ。何もしていないのに寝食まで用意してもらってんだからな。
研究員: 外に出たいとか、もっと豪華な食事をしたいとかは思わないか?
D-22134: 必要ないな。俺は罪深いことをしちまった。それなのにこうして生きながらえている。これ以上何を望む必要があるんだ?
研究員: だが興味がなくなったというわけではないだろう? 冗談ではなく、今きみが望むなら外出も許可されるし、好物だと言っていたワインも用意できるそうだが。
D-22134: だから……わかんねえかなあ。俺はそういう贅沢のために強盗をしてたんだよ。あれもやりてえし、これも欲しいし、ってのを考えすぎた。でもそんなことなくたって平和に生きられる。そうだろ?
研究員: それはそうかもしれんが……。
D-22134: それによ、考えてもみろ。俺が飲むワインってのは、それを作る農家さんや、運んでくる輸送会社や、保管業者……他にもいっぱいの人が働かなきゃ手に入らねえ。俺がここを出るためには、警備員さんたちにも迷惑かけちまう。わかるか? みんなが多くを望まなきゃ、誰も苦労なんてしねえんだ。みんながほどほどで満足すれば、みんなが幸せに生きられる。それが調和なんだ。
研究員: 確かにそうかもしれないが……しかしあまりにも……資本主義そのものを否定するような思想じゃないか……。
D-22134: 先生もあの本を読めばわかるんだがな。ところで、なあ、そのメモしてる紙を1枚くれないか。あとペンも。俺がようやく気がつけたことを書き残しておきたいんだが。
研究員: (D-22134の発言に従い、メモ用紙とペンを渡そうとする)
トォ博士: よし、そこまででいい。ありがとうD-22134、いいデータがとれたよ。
<再生終了>
インシデント1070-JP-4: 19██年██月██日にロンドンを中心とするブリテン島全域で大規模収容違反が発生しました。発生源のSCP-1070-JP-Fは大英図書館に所蔵されていたものと目されており、搬入経路などは現在に至るまで調査中です。財団による速やかな拡散経路の遮断と迅速な対処により200日以内に完全な収束が確認されました。最終的にこのインシデントにより████冊のSCP-1070-JP写本が確保され、████億米ドルの経済的損失が発生。直接的な人的被害はありませんが、後述のプロトコル「リヴァイアサン」の実施により少なくとも████名の死者・行方不明者が報告されています。
プロトコル「リヴァイアサン」: SCP-1070-JPによって獲得される極度の欲求低下状態への対抗措置として、肉体に内在する動物的闘争本能を刺激する指向性ウィルス「リヴァイアサン」の広域散布を前提とする一連の手順への呼称です。「リヴァイアサン」によりSCP-1070-JPの収容違反が確認されている地域一帯の非SCP-1070-JP-1住人の思考を暴力的方向へと誘導、SCP-1070-JP-1に対する武力行使を中心とした排斥行為を助長、SCP-1070-JP-1にとってSCP-1070-JPの影響が喪失するに十分な程の極めて生存に不都合な環境を人為的に構築することが目的とされます。なお「リヴァイアサン」の感染有効寿命は30日前後の短期間に設定されており、かつその影響力は60日以内に収束することが想定されています。本プロトコルの実施によって誘発される虐殺行為及び武力闘争状態については、「テロリズム」「クーデターに由来する内部紛争」などを含む適切なカバーストーリーを付与してください。
音声記録█████████
日付: [削除済み]
概要: インシデント1070-JP-4収束直後、O5-7と担当研究員トォ博士による会話記録
<再生開始>
O5-7: ご苦労だった、博士。危うく我々は、資本主義という最も偉大な発明品を失うところであった。
トォ博士: しかし、本当に「リヴァイアサン」を解き放ってよろしかったのですか?
O5-7: やむをえぬことだ。資本主義の崩壊は財団の崩壊、ひいては人類の未来が永久に閉ざされてしまうことを意味している。
トォ博士: ですが、SCP-1070-JPの指し示すものは全ての人類が穏やかに暮らせるはずの理想郷です。それを私たちは、人類の未来のためとはいえ……。
O5-7: 向こう側に行きたかったかね?
トォ博士: それは……いや、もはや私にその資格はありません。私は虐殺の指導者ですよ。
O5-7: 君は英雄だよ。
<再生終了>
インシデント1070-JP-77: 20██年██月██日にウクライナ北東部に位置するサイト-██████を中心として発生した大規模収容違反。速やかなプロトコル「リヴァイアサン」の発動により、収容違反発生から86日以内に完全収容されました。このインシデントにより███冊の写本が確保され、経済的損失は███万米ドル、死者・行方不明者数は██名以内と見積もられています。なお本インシデントの原因となったSCP-1070-JPの収容違反は、サイト-██████の職員11名により計画されたものであることが後の調査により判明しています。
音声記録1070-JP-77-F
日付: 20██/██/██
概要: インシデント1070-JP-77における収容違反を計画したグループのリーダー格、アリョーシャ研究員に対する尋問
<再生開始>
トォ博士: まずは、聞かせてくれないか。直接の部下から不祥事がでたのだからね、私には原因を究明する義務がある。
アリョーシャ: 財団は悪魔の組織だ……ぼくたちは、こんなつもりじゃなかった……。
トォ博士: プロトコル「リヴァイアサン」のことか? これは秘匿されるべき最重要機密だ。君らが知らなかったのも無理はない。
アリョーシャ: 人間のやることじゃない……この国はもうお終いじゃないか……。
トォ博士: 財団の計らいで国連による復興援助金がでる。表向きは国内勢力の衝突による内乱ということになっているからな。国際社会も市民に対しては同情の姿勢だ。5年と経たず経済状況は立て直せる計算になっている。
アリョーシャ: なぜ、なぜ財団はそうまでSCP-1070-JPを拒もうとするのですか。今の社会が間違っているのは、誰もが知っていることだ!
トォ博士: 確保・収容・保護が財団の至上理念だ。どのような理由があろうと、その異常性に屈するわけにはいかない。
アリョーシャ: 人類の未来は、調和を受け入れることでしか開かれません。
トォ博士: 君はSCP-1070-JPを読んだんだな?
アリョーシャ: (沈黙する)
トォ博士: いずれにせよ君には念入りなミームカウンセリングが必要なようだ。しかしありがとう、いいデータがとれたよ。
<再生終了>
補遺: インシデント1070-JP-77の発生を受け、SCP-1070-JPの異常性は極めて財団に対して不都合でありながらも、その特質は大衆を魅了するものであると確認されたため、O5評議会はSCP-1070-JPの特別収容プロトコルについて秘匿性を強調することを決定し、報告書の偽装を前提とした現在の内容に改稿されました。
調和による停滞など必要ない。我々はただ前に進むのみである。例えその過程において、どれだけの犠牲が出ようとも。 ーーO5-7