アイテム番号: SCP-1076-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1076-JPは、栽培地を財団の現地フロント企業の契約農場というカバーストーリーのもとに運営することで収容されます。担当職員は、SCP-1076-JPを通常のコーヒーノキと同様に管理し、SCP-1076-JPおよびSCP-1076-JP-1の総量を毎日観察・記録して、毀損および遺失がないかどうかをチェックしてください。外部にて発見されたSCP-1076-JPおよびSCP-1076-JP-1は、報告の上で速やかに焼却処分してください。
収穫されたSCP-1076-JP-1は、研究に使用する分だけ現地フロント企業にて脱穀・選別された後、企業の専用倉庫に収容されます。担当職員は、SCP-1076-JP-1の総量を毎日記録し、余剰および劣化したものは焼却処分して下さい。
研究・実験目的以外でのSCP-1076-JP-1の利用は、原則として禁じられています。
説明: SCP-1076-JPはアラビカコーヒーノキ(学名:Coffea arabica)の変異種と考えられる植物です。現在までに3株のSCP-1076-JPが発見され、管理されています。
通常のアラビカ種のコーヒーとの主な形態的相違点は、その果実(SCP-1076-JP-1)のほぼ全てがピーベリーであることです。
SCP-1076-JPの異常性は、SCP-1076-JP-1の抽出液を飲用した生物の内部ヒューム水準を高め、またヒューム値の拡散に対して緩衝作用をもたらすことです。SCP-1076-JP自体の内部ヒューム水準も、通常空間の現実性濃度と比較してわずかな高値にあり、クラスE現実性濃厚存在の基準を満たします。この性質は、SCP-1076-JP内に含まれる未知の成分(SCP-1076-JP-A)によるものと考えられていますが、成分の同定および分離は未だできていません。
SCP-1076-JPは、20██/██/██に、インドネシア・スラウェシ島██████州█████県███の山岳地帯に存在する██集落にて栽培されているものを、現地フロント企業に派遣されていたエージェント・██が発見しました。██集落は、かつて19世紀のオランダ植民地時代に東インド会社によるコーヒーの強制栽培が行われていた場所の中でも最も高地に存在していた地域の一つであり、発見当時、周囲半径10km圏内にコーヒーの栽培が現在まで行われている場所はありませんでした。
このコーヒーは現地集落で『コピ・メラヤカン(Kopi Merayakan:祝するコーヒー)』と呼ばれており、その他のコーヒーの株とは分けて育てられ、集落の人々が祝祭の折に健康・長寿等を祈念して少量を消費するほか、煎じ薬として内服するに留まっていました。██集落のコーヒーは、他の種と交雑することがなく、19世紀に輸入されたアラビカコーヒーノキの原種が遺伝的にほぼそのまま保たれていました。SCP-1076-JPは、こうした隔離された環境下で100年以上自家受粉を繰り返していたために突然変異を起こし、現在の性質を獲得するに至ったと推測されています。内部ヒューム水準が高値に保たれていることは、過酷な環境下での生存に有利に働くと考えられます。
集落の住民はSCP-1076-JPの効果に対して、「コピ・メラヤカンで淹れたコーヒーは味わい深く美味であり、飲むと、頭がはっきりして思った通りに体を動かせる。病気や怪我の痛みも改善する」と評しており、他のコーヒーとの違いを認識しているようでした。しかしながら、SCP-1076-JPから取れる豆がほとんどピーベリーである性質上、現地のブローカーからは買い叩かれることが多く、これまで市場にはほとんど出荷されていませんでした。
エージェント・██は飲用時の体感からSCP-1076-JPに何らかの異常性が有ることを認識し、SCP-1076-JP-1を直接購入して持ち帰りました。検査の結果、前述の性質が確認され、SCPとしてのアイテム番号が割り当てられることとなりました。██集落の住民は「企業によるスペシャルティコーヒーの買収と移住支援」というカバーストーリーのもと、記憶処理の上で麓の街に移住させられ、集落のコーヒー株はその全てが財団の管理下に置かれました。検査の結果、SCP-1076-JPとしての性質を有していた株は3株でした。
SCP-1076-JP-1の抽出液の味は、飲用した職員には概して「香り高く、後味がすっきりとしてキレがあり、甘み・苦み・酸味のバランスが良い」と評されています。
実験記録1076-JP-1
目的:SCP-1076-JP-1の抽出液を飲用したことによる異常性の確認
対象:エージェント・██
方法:身体診察、血液・尿検査、および各種検査機器による全身スクリーニングにて、如何なる身体的異常が生じているか確認する。
結果:カント計数機にのみ異常値が記録され、対象のヒューム値は1.001/1.087を記録していた。対象は飲用直後から明らかな思考の明晰化と集中力の増大、巧緻運動性と視聴覚・平衡感覚の向上を自覚しているほか、高地に登る間に感じていた気分不良が消失したと訴えた。検体検査および画像検査には明らかな異常が確認されなかった。検査時、エージェント・██は抽出液の飲用後およそ9時間が経過していた。
記録されたヒューム値が、自然空間のヒューム水準変動幅の95%信頼区間を逸脱していたため、SCP-1076-JPの異常性が、SCP-1076-JP-1の抽出液を飲用した者の内部ヒューム水準を上昇させるものであると推測された。
実験記録1076-JP-2
目的:SCP-1076-JP-1およびその抽出液の現実性濃度の確認
対象:約400gの焙煎済みSCP-1076-JP-1群と、そのうち10gをペーパードリップした抽出液200ml
方法:対象のヒューム値をカント計数機にて測定する。
結果:焙煎済みSCP-1076-JP-1群および抽出液のヒューム値は、共に1.000/1.024を記録した。
補遺:後に、SCP-1076-JPの株自体も1.016~1.037の内部ヒューム水準を有していることが確認された。
SCP-1076-JP自体の現実性濃度は、飲用した人体よりも低値であった。このため、SCP-1076-JP-1の成分が生体と何らかの相互作用をすることで現実性濃度の増幅が行われていると考えられた。
なお、SCP-1076-JP株の内部ヒューム水準の変動幅の99%信頼区間は1.0275±0.0169(SD:0.0066)であり、自然空間のヒューム水準変動幅の99%信頼区間1.00±0.09(SD:0.0349)[1]よりも明らかに有意差を以て小さく(p<0.0001)、かつ平均値が高値に保たれていることから、クラスE現実性濃厚存在の定義を満たした。
実験記録1076-JP-3
目的:SCP-1076-JP-1の抽出液が作用する用量とその動態の推測
対象:各群5匹×6群のマウス
方法:対象群にそれぞれSCP-1076-JP-1の抽出液を、1ml/kg・2ml/kg・4ml/kg(体重60kgの者がコーヒー約一杯240mlを摂取するに等しい)・8ml/kg・16ml/kg・32ml/kg経口摂取させて観察し、1時間ごとにヒューム値を測定する。
結果:
1ml/kg群: |
平均ヒューム水準 1.000/1.059 |
2ml/kg群: |
平均ヒューム水準 1.000/1.112 |
4ml/kg群: |
平均ヒューム水準 1.000/1.258 |
8ml/kg群: |
平均ヒューム水準 1.000/1.585 |
16ml/kg群: |
平均ヒューム水準 1.000/1.712 |
32ml/kg群: |
平均ヒューム水準 1.000/1.734 |
全体の傾向:摂取直後からヒューム値が上昇し、全例が2時間以内にピークに至った。安静にしている場合、ヒューム値は横ばいから緩やかな下降傾向を示していたが、ヒューム値がおよそ1.05を下回ると急速にその下降速度は早まり、その後の1時間で実験前の数値にまで戻った。全ての個体でこのプロセスは24時間以内に終了した。なお、運動・排尿・排便によりヒューム値の減少は早まった。
補遺1:24ml/kg群を改めて作成しヒューム値を測定したところ、平均ヒューム水準は1.000/1.708を示した。ヒューム値が実験前の数値に戻るまでの時間は、16ml/kg群と32ml/kg群との平均時間におおよそ等しかった。
補遺2:6ml/kg群を改めて作成しヒューム値を測定したところ、平均ヒューム水準は1.000/1.413を示した。
SCP-1076-JP-1抽出液による内部ヒューム水準の上昇は人体のみならず他の生物でも引き起こされることが確認された。
SCP-1076-JPの異常性は少量の摂取からでも生じ、摂取量を増やしてもヒューム値の上昇が頭打ちになることから、その何らかの含有成分(SCP-1076-JP-A)は酵素のように体内で作用すると考えられ、それは肝・腎および汗腺にて代謝ないし排泄されるものと推測された。マウスにおけるヒューム値の上昇限度はおおよそ1.7であった。
なお、内外のヒューム値差0.5以上の存在はProbableな低レベル現実改変存在の基準を満たすため、標準的な抽出法でのSCP-1076-JP抽出液の摂取安全限界を8ml/kg未満と定め、以降の実験は、必要がない限り抽出液4ml/kg程度までの摂取で行われることとした。
実験記録1076-JP-4
目的:SCP-1076-JP-1の抽出液の人体における作用の解明。
対象:Dクラス職員20名
方法:対象群にSCP-1076-JP-1を浸漬式抽出したホットコーヒー240ml(深煎り豆12g。生豆換算17g)を経口摂取させて観察し、1時間ごとにヒューム値を測定する。
結果:事前の検査では、試験対象となったDクラス職員の内外のヒューム水準に差は見られなかった。飲用後2時間で、ヒューム水準の平均値は1.0000/1.265(標準誤差0.000171/0.008115)へと有意に上昇(p<0.0001)し、安静時はほぼ横ばいから緩やかな下降傾向で推移した。ヒューム値の著明な減少は運動・排尿・排便等の行為の後に発生し、24時間後には全ての個体の内部ヒューム値が実験前の状態に戻った。
動物実験とほぼ同様の結果が得られ、人間とマウスにおける効果に有意差はないものと言えた。飲用に伴うヒューム値の変動以外の身体的異常は確認されなかった。動物実験の結果を外挿し、人間における標準的な抽出法でのSCP-1076-JP抽出液の摂取安全限界を8ml/kg未満と定め、以降の実験は、必要がない限り抽出液4ml/kg程度までの摂取で行われることとした。
実験記録1076-JP-5
目的:低および高ヒューム環境への曝露に対するSCP-1076-JP-1抽出液の有効性の確認
対象:Dクラス職員12名
方法:対象を6名ずつの群に分け、Ⅰ群にSCP-1076-JP-1の抽出液を飲用させ、内部ヒューム水準が1.1~1.4に保たれるようにし、Ⅱ群は対照として同量の白湯を飲用させた。それぞれの群を3名ずつ、スクラントン現実錨によって外部ヒューム水準が低値(0.316)および高値(3.16)に保たれている環境下に3時間曝露させた。
結果:Ⅱ群の対象者は、どちらの環境に暴露された者も、全員が2時間以内に嘔気・眩暈・頭痛などの体調不良を訴え実験続行不能となった。Ⅱ群の対象は環境下から救助された時点で全員が低ヒューム群で0.5以上、高ヒューム群で1.0以上の内部ヒューム値の上下動を蒙っており、うち低ヒューム環境に曝露されていた対象のうち1名は、救助時に転倒し、8箇所を粉砕骨折した。
- 追記:この対象のヒューム水準は実験中止時点で0.316/0.381であり、後のMRI検査にて骨密度がYAM42%まで低下していることが判明した。
Ⅰ群の対象者は、3時間経過後も一切の身体的異常を訴えなかった。実験終了時のⅠ群の対象のヒューム水準はそれぞれ以下のようになった。
低ヒューム群: |
0.316/1.103 |
0.316/1.132 |
0.316/1.078 |
高ヒューム群: |
3.162/1.235 |
3.162/1.388 |
3.163/1.575 |
明らかに、SCP-1076-JP-1抽出液を飲用した群はヒューム値の拡散に対する高い抵抗性を示した。これはSCP-1076-JP-Aが内外のヒューム値に対する一種の緩衝作用を有することによると考えられた。
この実験により、現実改変能力を有するオブジェクトの収容・管理に対してのSCP-1076-JPの有用性が示唆された。
インシデント事例1076-JP-1
実験1076-JP-5の終了後、Ⅰ群高ヒューム環境曝露者であったDクラス職員1名が脱走を試みた。当該Dクラス職員は、付近にいた研究員3名に軽傷を負わせ、収容棟のドアを蹴破った後、およそ9秒で100メートルの廊下を駆け抜け、3メートルの外壁を跳躍して乗り越え、警備員の発砲した銃弾3発を躱した。サイト敷地内においておよそ8分間、出動した機動部隊による追跡が試みられたが、当該Dクラス職員はそれを振り切ると思われた。
しかしながら、脱走の開始からおよそ10分後、当該Dクラス職員は突如全身の粘膜から血液を噴出させ死亡した。病理解剖の結果、6か所の脳出血、2か所の大動脈解離、多数の破裂した動脈瘤が発見された。
当該Dクラス職員は実験終了時に内部ヒューム値1.575を記録していたが、死亡直後の内部ヒューム値は1.002であった。死亡直前の血圧は、少なくとも[編集済]以上であったと推測されている。
調査班は、当該Dクラス職員の活動は、SCP-1076-JP-Aによって高い内部ヒューム水準が維持されていた間に(恐らく無自覚的に)自己の肉体を改変していたがために可能であった事象であろうと結論付けた。当該Dクラス職員は、脱走に伴う過激な運動でSCP-1076-JP-Aが急速に代謝されヒューム水準が正常に戻った際、相対的に低下した現実性濃度では改変された肉体の機能が維持できなかったために死亡したものと考えられた。
エージェント・██は、音韻の類似から、SCP-1076-JPがかつて『コピ・メラジャカン(Kopi Merajakan:王にするコーヒー)』と呼ばれていた可能性を指摘した。SCP-1076-JP-1抽出液の大量摂取は、摂取した対象を低レベル以上の現実改変能力者にしうるため、██集落においても直ちにその危険性が気づかれ、その真名が秘匿された上で、利用が制限されながら伝えていたものと推測されている。
このインシデント事例を受けて、対象に人間を用いたSCP-1076-JPの実験は現在見合わされている。