SCP-1088-JP
評価: +52+x
blank.png

アイテム番号: SCP-1088-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-1088-JPには一般人の立ち入りを制限し、定期的な補修・補強工事が行われます。SCP-1088-JP-Aは週に一度表面を洗浄する場合を除いてSCP-1088-JP内の所定の位置に設置されます。SCP-1088-JP-Aの精神状態がさらに悪化した際は心理カウンセリングを実施して下さい。SCP-1088-JP-Bは財団標準収容ロッカーの中に収容されます。

説明: SCP-1088-JPは長野県██市(旧████郡)に存在する████神社です。管理者が長く不在であったことから神殿には激しい経年劣化が見られます。SCP-1088-JP-AはSCP-1088-JP敷地内でのみ異常性を発揮します。

SCP-1088-JP-Aは全長172cmの人型石像です。衣服とみられる意匠は日本の16世紀頃の甲冑に類似します。SCP-1088-JP-Aの顔面部分は面頬のように彫刻されています。SCP-1088-JP-Aの材質は一般的な花崗岩と同じものですが、SCP-1088-JP-Aは意思を持ち、通常の人間と同様の自発的な挙動と発話が可能です。関節に当たる機構が存在しないため、こうした振る舞いはSCP-1088-JP-Aの関節部分が伸縮変形することによって行われます。

SCP-1088-JP-Aは任意で以下の3つの異常現象を発生させることが可能です。

  • 拳から炎を発生させる1
  • 表面温度を120℃まで上昇させる2
  • 顔面部分からの約100,000lx3の可視光線の照射

これらの能力は後述するSCP-1088-JPの神事に用いられていたようです。

SCP-1088-JP-Bは文楽人形に似た外見の木製の操り人形です。全体に多くの破損及び劣化が見られ、修復しなければ操作することは困難です。

SCP-1088-JP-Aの証言によれば、SCP-1088-JP-Bは操作者によって以下の3種の行動を行えます4

  • 右腕部分は鉄となっており、SCP-1088-JP-Aの拳を受け止める5
  • 左手には木剣を持ち、SCP-1088-JP-Aの接近を抑止する6
  • 胸部を開放すると鏡が取り付けられており、光線を反射する7

発見経緯: SCP-1088-JPは廃墟マニアからの「誰も居ないはずの████神社内から叫び声が聞こえた」という旨の通報を受けてエージェント松里が現場でSCP-1088-JP-Aを発見したことから異常性が発覚しました。SCP-1088-JP-Bはその後の調査で地元の郷土資料館8から回収されました。

SCP-1088-JP-A及びSCP-1088-JP-Bの起源の調査を目的とする旧████郡の元住人に対するインタビューは、当時の関係者がすでに死亡していることから十分な成果を上げられませんでした。このため、当時の状況はSCP-1088-JP-Aの証言とSCP-1088-JP内に残されていた記録からのみ推測されます。

補遺1: SCP-1088-JP神事
SCP-1088-JPでかつて行われていた神事の手順は以下の通りです。

1.男衆とSCP-1088-JP-B及びその選ばれた操作者を境内に配置する。

2.禰宜が神殿に向かい、村での不満9を述べあげる。

3.SCP-1088-JP-Aが神殿内から姿を現したのち、それらの原因はSCP-1088-JP-Aである10と述べる。

4.SCP-1088-JP-AとSCP-1088-JP-Bは互いに向かい合う。

5.禰宜の合図とともにSCP-1088-JP-AとSCP-1088-JP-Bは同時に3種類のうちどれかの技を繰り出す。

6-1.SCP-1088-JP-BがSCP-1088-JP-Aの技に対応する技を出せた場合、SCP-1088-JP-Aは倒れる。

7-1.男衆によってSCP-1088-JP-Aが神殿内に戻され、神事は成功と見なされる。

6-2.SCP-1088-JP-BがSCP-1088-JP-Aの技に対応する技を出せなかった場合、SCP-1088-JP-BはSCP-1088-JP-Aによって破壊される。

7-2.禰宜がSCP-1088-JP-Aを鎮める祝詞を読み上げ、SCP-1088-JP-Aは神殿内へ帰って行く。SCP-1088-JP-Bは修理され、次回に備える。神事は成功と見なされる。

年に一度、もしくは旧████郡に重大事が発生した際、この神事は行われました。この神事はSCP-1088-JP-Aを災いをもたらす悪神と見立て、その討伐、あるいは慰撫によって災いを祓う目的があると考えられています。

SCP-1088-JP-AとSCP-1088-JP-Bの関係は東南アジアなどで見られる「バナナと石」型の対立構造に類似したものだと考えられます。すなわち、永遠を象徴する石は神を示し、滅びを免れないバナナ(SCP-1088-JP-Bの場合は木材ですが)は人間を示すというわけです。
SCP-1088-JP-Aが発揮する諸現象は炎・熱・光といった普遍的な太陽の象徴要素を含んでいます。ここから、SCP-1088-JP-Aは太陽信仰をあらわす目的で作成されたものと思われます。それに対してSCP-1088-JP-Bは鉄や鏡という要素から、自然を超克する人間文明のイメージをもって作成されたものだと考えられます。

  財団民俗学部門の分析

SCP-1088-JP内部記録から、この神事は昭和15年頃までは成立していたことが判明しています。しかし、旧████郡の人口減少によって次第に実行が困難になり、SCP-1088-JPの管理者である禰宜の後継者問題とSCP-1088-JP-Bの制作及び操作技術の継承ができなかったことで完全に断絶したようです。

補遺2: SCP-1088-JP関連文書

インタビュー記録:SCP-1088-JP-1

回答者: SCP-1088-JP-A

質問者: エージェント松里

前書: 発見直後にSCP-1088-JP神殿内で実施されたSCP-1088-JP-Aへのインタビュー。

<記録開始>

エージェント松里: では、これからあなたにいくつかの質問をしていきます。よろしいですか?

SCP-1088-JP-A: [返答なし]

エージェント松里: まずは、あなたのことを教えて貰えないでしょうか。

SCP-1088-JP-A: ・・・・・・我は████████11災いをもたらす神なり。

エージェント松里: なるほど、どういった経緯でここにいらっしゃるのか説明できますか?

SCP-1088-JP-A: ・・・・・・お前は誰だ?当代の男衆にはお前のようなものは居なかったはずだが。

エージェント松里: 質問にお答え下さい。

SCP-1088-JP-A: 不敬であるぞ、お前がここに我を連れてきたのだろう。

エージェント松里: 私はそのようなことをしていません。

SCP-1088-JP-A: ではここはどこなのだ?

エージェント松里: ████神社です。あなたの神殿では?

SCP-1088-JP-A: そんな、はずはない。我の神殿にはこんな・・・・・・黴びた柱はなかった。庭も・・・・・・下草が伸び放題ではないか。

(SCP-1088-JP-Aは立ち上がる)

SCP-1088-JP-A: おい!██はいないのか!なにをやっている!

エージェント松里: 落ち着いて下さい。ここには我々しか居ません。

SCP-1088-JP-A: (悲鳴)いったい何が起こっている!我はどれだけ眠っていた?!

(SCP-1088-JP-AはSCP-1088-JP外に走り出し、不活性化する。)

<記録終了>

後書: インタビュー後SCP-1088-JP-Aは苦悩を示した。██とは、████神社の記録上最後の禰宜である。

文書記録: SCP-1088-JP内文書-2、3、412

今日、正式に████郡の名は消えた。すでにわずかな住民もここから去って行くだろう。それだってのに未だに石像は神様気取りだ。

災いから皆を守るために████████の神事は行っていた。だがもう何から何を守るって言うんだ?

████████は封印する。たかが石っころに力を与えすぎたな。もう人形は必要ない。

██の覚え書き

インタビュー記録: SCP-1088-JP-13

回答者: SCP-1088-JP-A

質問者: エージェント松里

前書: SCP-1088-JP-A自身の希望で実施されたインタビュー。

<記録開始>

エージェント松里: -A、話とは何ですか?

SCP-1088-JP-A: おお、よく来てくれた!松里よ。

SCP-1088-JP-A: 実は・・・・・・我の力は以前から失われつつある。

エージェント松里: そうなのですか?

SCP-1088-JP-A: ああ、この神殿の瓦1枚落ちるごと、壁に苔がむすごとに、失われていく。

SCP-1088-JP-A: 我の神としての権能が・・・・・・いや、この体が言うことを聞かなくなっていく。

SCP-1088-JP-A: そしていずれは・・・・・・。(SCP-1088-JP-Aは頭を抱える)

SCP-1088-JP-A: 神殿が完全に崩れたらどうなる!?永遠にあの闇夜の中13で閉じ込められるのか!?

SCP-1088-JP-A: 灯りをともすことも身じろぎすらもできない闇夜に!? ああ!ああ!

エージェント松里: 落ち着いて下さい。神殿の修繕については上に申請をしておきます。

SCP-1088-JP-A: (平静をとりもどして)あ、ああ・・・・・・いつも感謝する。松里、お前だけが頼りだ。

エージェント松里: (微笑んで)そんなに気にしないで、もっと神様らしく堂々としていてください。

SCP-1088-JP-A: [返答なし]

エージェント松里: -A?

SCP-1088-JP-A: ・・・・・・お前は最初にあったとき我を何者かと聞いたな。

エージェント松里: ええ、そうですね。

SCP-1088-JP-A: ・・・・・・我は己のことを神だと思っていた。

エージェント松里: それはなぜですか?

SCP-1088-JP-A: 石でできたこの体は決して朽ちず、老いず、脆弱なあの操り人形とは比べものにならなかったからだ。

エージェント松里: SCP-1088-JP-Bのことですね。

SCP-1088-JP-A: そうだ。我はあれをいともたやすく砕くことができた。やつの技は我にかすり傷すら与えることができないのにだ。

SCP-1088-JP-A: あの儀式とて、我は児戯のようにやられたふりをしておったのよ。だが今は・・・・・・。

SCP-1088-JP-A: お前にはどう見える?松里。

エージェント松里: は?

SCP-1088-JP-A: 神社を一歩出れば身動きもままならぬこの体。時の流れから置き去りにされたこの体。

SCP-1088-JP-A: 教えてくれ、我の権能は借り物だったのか? あるいは・・・・・・。

SCP-1088-JP-A: 我こそがただの操り人形にすぎなかったのか?

<記録終了>

後書: インタビュー後SCP-1088-JP-Aは激しい苦悩を示した。後日カウンセリングが実施される予定である。

カウンセリング結果: SCP-1088-JP-Aは当初の精神分析で財団精神学類型における「驕る神」14に分類されていました。この自己認識と現実とのギャップがSCP-1088-JP-Aのアイデンティティを揺るがし、精神状態の悪化に繋がっているのではないでしょうか。「自身が神格である」とSCP-1088-JP-Aに再認識させる何かが必要かもしれません。

補遺3: プロジェクト祭天について

プロジェクト祭天

概要: SCP-1088-JPの度重なる補修・補強工事にもかかわらず、SCP-1088-JP-Aが不調の訴えを続けていることを受けて、SCP-1088-JP研究班はオブジェクトの異常性保護の観点から、SCP-1088-JP神事を復活させる「プロジェクト祭天」を提言しました。

プロジェクト祭天はSCP-1088-JP神事の要素を以下のものに変更したうえで実行されます。

  • 男衆 → 体力テスト平均以上を記録したDクラス職員8名
  • 禰宜 → 神職の経験をもつ████研究員
  • SCP-1088-JP-B → 財団標準ヒューマノイドマシン「撫子」15
  • SCP-1088-JP-B操作者 → 「撫子」を制御するエージェント松里

20██/04/14にプロジェクト祭天は認可され、20██/06/17に実行されました。

補遺4: インシデント1088-JP
プロジェクト祭天実行時に、SCP-1088-JP-Aが予期せぬ行動を起こしました。以下はその書き起こしです。

映像記録1088-JP


日付: 20██/06/1716

注記: 神事手順3.(06:03~)からの抜粋。


[記録開始]

06:03: SCP-1088-JP-Aが神殿内から姿を現す。

06:14: SCP-1088-JP-Aがわずかによろめき、Dクラス職員が補助に入るよう指示される。

06:23: SCP-1088-JP-Aと「撫子」を互いに向かい合わせる。

06:30: ████研究員がSCP-1088-JP-Aと「撫子」を制御するエージェント松里に準備を促す。

06:34: SCP-1088-JP-Aとエージェント松里がいくつかの言葉を交わすのが確認できる。

07:07: ████研究員による開始の合図。

07:09: SCP-1088-JP-Aは拳から炎を発生させ、「撫子」を殴打する。

07:10: 「撫子」は胸部を開放する。

07:12: SCP-1088-JP-Aの拳が「撫子」の右腕部を破壊する。

07:18: 「撫子」は転倒する17

07:20: ████研究員が祭文を取り出し祝詞の詠唱が始まる。

07:25: SCP-1088-JP-Aが████研究員の持つ祭文を握りつぶし、焼却する。

07:26: その場の人間は驚愕を露わにする。

07:31: ████研究員がSCP-1088-JP-Aを取り押さえるようDクラス職員らに指示18を出す。

07:34: Dクラス職員らがSCP-1088-JP-Aに向かう。

07:39: SCP-1088-JP-Aは顔面部から可視光線を照射する。

07:41: Dクラス職員らは強い光を目視したために即座に昏倒する。

07:46: ████研究員がSCP-1088-JP内から脱出する。

07:48: SCP-1088-JP-Aはエージェント松里に向き直る。

07:51: エージェント松里は携行拳銃をSCP-1088-JP-Aに向ける。

07:54: SCP-1088-JP-Aの表面温度が上昇し始める。

07:56: SCP-1088-JP-Aとエージェント松里が言葉を交わすのが確認できる。

08:03: SCP-1088-JP上空19がにわかに曇り始める。

08:54: SCP-1088-JP-Aが両腕を広げ、エージェント松里へ近づく。

09:06: 「撫子」が突如として転倒状態から立ち上がる20

09:11: 「撫子」の木剣がSCP-1088-JP-Aの胸部を貫く21

09:13: SCP-1088-JP-Aは仰向けに転倒する。

09:15: SCP-1088-JP-Aが言葉をつぶやく。

09:19: 雨が降り始める。


[記録終了]

SCP-1088-JP-Aは当インシデント後、継続的な不活性化状態に陥っています。

インタビュー記録: SCP-1088-JP-19

回答者: エージェント松里

質問者: ██監察官

前書: インシデント1088-JPの直後、事実確認のため実施された。

<記録開始>

インタビュアー: それではインタビューを始めます。

エージェント松里: ・・・・・・はい、よろしくお願いします。

インタビュアー: まず、あなたから見たこのインシデントの原因は何でしょうか。

エージェント松里: -Aの暴走と、その可能性を軽視していたことだと思います。

インタビュアー: そうでしょうね。危険性軽視によって事態への対処が間に合わなかったのは事実です。

エージェント松里: ・・・・・・はい。

インタビュアー: では、-Aの暴走についてはなにか心当たりがありますか?

エージェント松里: -Aは、例の儀式が始まる直前、私に「今日は我の晴れ舞台だ」と言っていました。

インタビュアー: では、最初から-Aはインシデントを起こすつもりだったということでしょうか。

エージェント松里: ・・・・・・はい。私はそう思います。

インタビュアー: ふむ。上層部では、-Aは精神状態の悪化を演じることでSCP-1088-JPの修理と神事を再開させて自身の権能を取り戻そうとしたのではないかと考えているのですが  

エージェント松里: いえ、それは違います。

インタビュアー: なぜそう言い切れるのですか?

エージェント松里: 私は、インタビューでの-Aの怯えようは本物だったと思います。

インタビュアー: それだけでは  

エージェント松里: あのインシデントの時、私も-Aが我々を欺いていたのだと思っていました。

エージェント松里: だから銃を向けた。

エージェント松里: -Aはこう言いました。「やっと力が戻った。お前たちすべてに災いをもたらしてやろう」と。

インタビュアー: では、やはりこの考察は正しいのでは?

エージェント松里: いえ、これはSCP-1088-JP神事で-Aがいう口上の一つです。

インタビュアー: つまりどういうことですか?

エージェント松里: おそらく、-Aは無力化されようとしたのです。SCP-1088-JPの異常性を利用して。

エージェント松里: 示唆される-Bの機能は構造上操り糸のみでは不可能な動きを含んでいます。

エージェント松里: これを可能にするのがSCP-1088-JPの異常性なのではないかと。

インタビュアー: それと同じことが「撫子」にも起こったと?

エージェント松里: はい。そして、-Aはその異常性を利用しようとした。

インタビュアー: “自然を超克する人間文明”ですか。

エージェント松里: ええ、最後まで人間に挑まれる神として振る舞おうとしたのでしょう。

インタビュアー: ううむ・・・・・・。

エージェント松里: -Aが最後になんと言っていたか、記録に残っているでしょう。

インタビュアー: ・・・・・・「天晴れ」と。

エージェント松里: -Aは神として死ぬために、最後の力を振り絞ってこのインシデントを起こしたのだと思います。

インタビュアー: 本当にそんなことをするでしょうか? 愚かな選択のように思えますが。

エージェント松里: しかし、それでも-A自身が選んだのです。例え操り人形にすぎなかったとしても。

<記録終了>

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。