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PoI-9332の家宅で発見された絵画。SCP-1104-JPと似た内容の絵画だが、異常性は確認されていない。「心地よい眠り」とタイトル付けされている。 |
PoI-9332の家宅で発見された絵画。「2002年13作目」とタイトル付けされている。直接の視認はLevel1心理的脅威であると鑑定された。 |
文書αはPoI-9332が日記として使用していた合計5冊のノートです(文書α-1~5と分類)。文書αにはPoI-9332がAre We Cool Yet?の構成員であること、Are We Cool Yet?によって小規模なイベント("会合")が1ヶ月に1度だけ行われていたこと、PoI-9332がそのイベントによって生活費を得ていた事が繰り返し明白に述べられています。しかし具体的な住所/電話番号/その他Are We Cool Yet?にアクセスし得る情報は記載されていませんでした。回収時、文書α-1~4は棚に収納されており、文書α-5は机の上に広げられた状態でした。
文書α-5についてはSCP-1104-JPの経歴について示唆していると推測されるため、当報告書に記載されています。
文書α-5
7/27
今回の作品はかなり時間が掛かってしまった。植物と人間の「死」を同時に表すという発想は良かったが、形にするのに時間が掛かった。次の会合でこの作品が金持ちの目に入れば、来月も安泰だろう。
8/2
昨日の会合で、私はちょっとした人気者になった。自分で思っていたより好評だった。これで今月は大丈夫だろう。それに、私にもようやく箔がついてきたってことだ。私を馬鹿にしていた奴等め、その罵倒が私の原動力になったんだ。
こうして評価されると、ますます次の会合に向けて何を作ろうか迷う。個人的には魚類と人間の「死」の合わせ技、窒息?溺死?を表現してみたい。明日にでもいつもの場所でアドバイスを貰おうか。
8/7
・筆ペン
・腐臭絵具(寒色系)
・キャンバス
・テーマ:半魚人の水死体
8/13
大分早い完成だが、腐臭が抜けないように注意しなければ。この深く圧迫的な臭いが次のコンテストでのアピールポイントになるだろう。しかし、本物の臭いを取り寄せてくれるとは思わなかった。この界隈は本当に何でも良く揃うもんだ。
8/26
贈り物が届いた。宅急便じゃないし、本部からでも無いみたいだ。作品の管理もあるが、明日にでも開けてみようか。
8/27
これを書いている今でも信じられないのだが、贈り物は生き物だった。生き物と言い切るには早いかも知れないが、とにかく時々風鈴のような音を出しながら家の中を浮遊している。私は誰かにこんなものを頼んだ記憶は無いし、私の芸術の役には立ちそうに無い。しかしこの生き物を見ていると、なんだか心がかき乱されるような感じがする。
こちらを監視しているような情報は感じられないし、攻撃もされていない。何の目的で送られてきたんだ?
8/28
作品の管理をしなければならないのに、随分とあの風鈴クラゲの観察に時間を費やしてしまった。
せめて手紙か何かが付いていると助かったのだが。差出人が分からない、私が引き取り手ということなのか? しかし作品の管理も怠らないようにしなければ。
8/29
どうやらあの風鈴クラゲに食料は必要ないようだ。そして、どうやら私の家から出ていくつもりは無いらしい。逃げ出されても困るのは確かだが。クラゲは私が作品を置いている部屋に近づこうとしない。考えてみれば、腐臭がするのだから当然か。でもだからといって私の寝室に入り込もうとするのは考え物だ、猫だと思えば可愛いものなのかも知れないが。
風鈴の音は私にとって少し珍しいような懐かしいような感じだ。普段は「死」の追及のためにその方面の音楽やオペラなどを鑑賞したりするから、あんまり癒し系の音楽は聞こうって気になれない。しかし、こうして風鈴の音を聞いていると、息抜きにそういう音楽を聞くのは悪く無いかもしれない。
8/30
昼飯を買って帰ると、クラゲが机の資料に何かしていた。漁っていたのかと思ったが、今思えばあれは整理していたのだろうか。現に資料は一つも無くなっていない。
私はクラゲのために腐臭を取り除いてやろうかと考えている。臭いだけがこの作品の重要なディティールでは無いと思うし、クラゲは弱っているように見えるんだ。風鈴の音が鳴る回数が心なしか減っている気がする。私はこのクラゲから何か得られるものがあるんじゃないかと思う。
8/31
悩んだが、クラゲにはあと一日だけ我慢してもらうことにした。せっかくの特注だし、どうせ明日には腐臭はこの家から無くなるんだ。会合が終わったら、ちょっとはコイツと向き合う時間が作れるかも知れない。会合も楽しみだが、その時間も楽しみだ。
9/2
皆が私の作品を楽しんでくれた! もちろん一番の値を提案したマダムに譲った。これで今月は大丈夫だろう、クラゲとの時間が作れたぞ。
9/3
撫でられるのが好きみたいだ。撫でると風鈴の音を響かせる。その音を聞く度、何だか妙な安心感? 満足感? を感じる。もしかすると、これは新しいテーマに出来るかも知れない。このクラゲを題材に絵を描いてみても良いかも知れないが、折角なら会合に繋がるような絵にしたい。その場合は「死のアート」の要素を削ることも視野に入れなければ。
平和な音楽も意外に捨てたものではないし、平和な芸術にも価値があるかも知れない。
9/4
私はすっかりあの音に夢中になっている。
9/5
朝に起きて夜に眠ることが、音一つでこうも素晴らしくなるとは。私のインスピレーションはあの子に刺激されて止まない。私の芸術は進化している。今、私の頭にあるのは「死」なんかよりもっと素晴らしい題材だ。この子は私の助けになるぞ。
題材を変えるのだから、普通の画材も買い揃えておこう。明日は題材をより具体的に決めるためにあの子と触れ合ってみよう。
9/8
一日中一緒にいるようにしてみたが、流石にお風呂にまではついて来なかった。
次のテーマは「安寧」に決めた。あの子が私の元に訪れてから、私はイライラすることが減ったし、労働のように感じていた絵を描く作業も全く苦にならない。まぁ最近はあの子の絵しか描いていないが。この子ほど「安寧」の二文字が似合う子も居ないだろう。
9/12
こんなにもモチベーションに溢れたのは久しぶりだ。反面、私がこの子から得た感情をどう効果的に表現しようか迷っている。明日いつもの場所でアドバイスを貰おうか。
9/13
アドバイスは貰えなかった。どうやら彼らには、私の目指すものがピンと来ていないらしい。だが、それでも得られるものはあった。要は会合に出す作品は出来るだけテーマが理解しやすいものにすれば良いのだ。
この子の感情がなんとなく理解出来るようになったかも知れない。私の幸せがこの子の幸せにもなっている。そしてその逆も:)
9/14
前まで使っていた特別な絵具やキャンバスはとりあえず倉庫にしまった。シンプルなテーマだから、凝った仕掛けは必要ないだろう。
9/16
今月だけで何枚もの絵を描いている。あの音は私を骨抜きにするんだ。
9/18
風鈴の音で、あの子の感情を測れるような気がする。私が家を出る時と家に帰って来た時とでは、明らかに後者の方が明るい音を鳴らすのだ。あの子に寂しい思いをさせてしまっているのだろうか。
9/21
手を差し出しただけで、撫でやすいように近づいてくれるってことに気付いた。なんて愛らしい。
9/26
納得出来る作品が完成した、とても苦労した。しかしこの作品は間違いなく傑作だ、あの子の象徴といっても過言では無い。
私は未だにこの子の素性や贈り主を突き止められていない。だが、それならそれで良いんだ。贈り物には本当に愛が込もっていた!
9/30
この子に構ってばかりで、作品の管理が少しずさんになったかも知れない。まぁ今回の作品には特別な仕掛けも無いし、問題無いだろう。明日は待ちに待った会合だ。
10/3
今も手が震えている、何がダメだったんだ。ずっとこの子を抱いてる、何も手に付かない。私は酔っていたのか? 金銭感覚も狂っていた、三ヶ月と生きられないぞ。どうやって信頼を取り戻せば良い?
10/5
届いた手紙を読んだ。でも自分がどうすべきか分からない。
文書βはAre We Cool Yet?内においてPoI-9332より上位の身分であろう人物から、PoI-9332に向けられたものです。回収時、文書βは文書α-5の傍に置かれていました。
文書-β
KI-4-12、調子はどうかな、KI-4-4だ。まず最初に、私は君を心配しているし、会合で君に浴びせた厳しい言葉をもう一度浴びせようとは思ってない。私がこの手紙を出すのは、君にちょっとした提案をしたいからだ。
君が方向性を改めたことを残念に思ったよ。君の「死のアート」は私の個人的な楽しみでもあったし、新しい作品は私にはあまり傑作だとは思えなかった。オブラートに言ってもアレは甘ったるい、皆が何に涎を垂らすのか理解していない作品だ。周りの皆も、お得意様も同じように思っていただろうね、君が一番良く分かっているだろうけど。
あの日、君はすぐ帰ってしまったよね。言い辛いことだけど、あの後も君の批判は続いていた。それを聞いてた限りじゃ、メンバーやお得意様からの君への信頼はすっかり振り出しに戻ったようだ。どころかマイナスかもしれないね。
どうするべきか迷っていることだろうと思う。ただし、表社会に戻ろうとか、そういう愚かな考えは捨ててくれ。君には表社会に復帰するだけのキャリアもツテも無い。そして私達も、君が表社会に戻ろうというのなら補助しないよ。ただ私は君が信頼を取り戻すのを支えてあげたいんだ。
私の推測なんだが、君が方向性を改めたのには何か理由があるよね? その理由を説明してくれないか? もしYesなら、私は暇を見つけて君の家に向かうつもりだ。君が変革した理由そのものを否定するつもりは無いよ。でも君があの会合で再び生計を立てるつもりなら、少し初心に帰らないといけないと思う、違うかい?
どの道、来月の会合に君は参加出来ないよね(参加禁止のペナルティは皆の総意だ、分かってくれ)。だから考える時間は十分にあると思う、良い返事を期待している。
文書γはPoI-9332の家宅捜索時、PoI-9332の遺体が着ていたズボンのポケットから回収されました。文書γは文書α-5から千切り取ったものであると考えられます。
文書γ
なにがCoolだ。