4/1115-JP LEVEL 4/1115-JP
EYES ONLY
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アイテム番号: SCP-1115-JP
オブジェクトクラス: Euclid
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図 1.1: SCP-1115-JPの構成細胞 (着色済) 。
注記: 当ファイルの内容はクリアランスレベル4/1115-JPを保有しない職員に漏洩しないでください。
特別収容プロトコル (CL4/1115-JP保有職員向け): SCP-1115-JPは生物サイト-8103の完全機密無菌収容室に収容されます。SCP-1115-JPへの給餌及びサンプル採取はクリアランスレベル4/1115-JPを保有しない職員が行い、当クリアランスを保有する職員は収容室へは進入しないでください。
給餌用の点滴剤の用量はSCP-1115-JPの総重量からBWSカロリー計算式を用いて算出してください。SCP-1115-JPの組織サンプルはクリアランスレベル4/1115-JPを有する職員のみが研究目的で使用することが可能であり、扱い方はレベル5生物災厄封じ込めプロトコルに準拠してください。SCP-1115-JPに直接接触をした恐れのある職員は、収容室からの退室の際の消毒後に消毒エリア内で終了し、スーツとともに焼却処分されなければなりません。SCP-1115-JPが収容違反を起こした場合、機動部隊ほ-50 (“キラーT”) が鎮圧にあたります。
クリアランスレベル4/1115-JPを保有する職員がSCP-1115-JPと会話することは禁止されています。
図 1.2: 収容以前のSCP-1115-JP-A。
説明: SCP-1115-JPは天生目██という名前の日本人男性(“SCP-1115-JP-A”に指定)が患っていた5種類の悪性新生物が融合して生じた巨大な腫瘍です。現在SCP-1115-JPはSCP-1115-JP-Aの胴部にて細胞毎に神経系や消化器、肺胞等の役割分担を行いながらコロニーを構築しており、SCP-1115-JP-Aの約4倍に及ぶ重量を有しています。
SCP-1115-JPの主な異常性は、SCP-1115-JPが構成細胞レベルで強靭な生命力を有していることと、SCP-1115-JP自体に何らかの意識が存在している点にあります。構成細胞は有機物で構成された他の物体に攻撃的に振る舞い、積極的に吸収を図ります。複数の構成細胞が存在しているとき、各細胞は互いに結合して組織を形成し1つの生命体のような挙動を示し、有機物を吸収するために自立行動をします。
SCP-1115-JP及びその構成細胞は、通常のがん細胞と同様に熱や放射線、化学薬品に弱いという研究結果が出ています。しかし、薬剤投与による組織化した構成細胞の終了において、全体を一度に死滅させなければ耐性を獲得した状態で再生することが判明しています。現在、SCP-1115-JPは7種類の抗がん剤に対し耐性を獲得しています。
補遺1115-JP.1: 発見
SCP-1115-JPは財団フロント企業の“プリチャード学院大学”の医学部付属病院に勤務していた職員らの異常ながん発生率が報告され、調査の結果から発見/収容に至りました。がんを発症した職員らには、がん治療のために2013/05/14より入院していた天生目氏の看病を担当していた職員全員が含まれており、天生目氏と該当職員らは詳細な調査のため、2018/06/07に生物サイト-8103へと移動されました。
生物サイトへと移動が完了した後、天生目氏の患っていた5種の悪性新生物の全てが恐らく異常なプロセスを介して胴部で融合し、内部に種々の神経系や循環器系が発生していたことが認められました。また、この時点で天生目氏の脳波が既に停止していることが確認されましたが、氏の心拍及び呼吸は正常であり、職員の呼び掛けに対し通常通りの受け答えを行っていました。研究員らはこれについて、悪性新生物の有する神経系が天生目氏の人格を受け継いでいる、あるいは新たな人格が発生し天生目氏として振舞っている可能性を指摘しました。このために、該当する悪性新生物は異常存在であると見做され、2013/06/11に悪性新生物がSCP-1115-JPに、天生目氏はその宿主としてSCP-1115-JP-Aに正式に分類されました。
補遺1115-JP.2: 初期インタビュー
以下はSCP-1115-JP-Aに対して行われたインタビューの記録です。インタビュアーは石須博士であり、対話は収容室内に設置された音声機器を介して行われました。この時点でSCP-1115-JP-Aの脳波が完全に停止していたことに留意してください。
インタビュー記録 #1
2013/06/12
[記録開始]
石須博士: お加減は如何ですか、天生目さん。
SCP-1115-JP-A: ああどうも先生。調子は全然良くないですね。常に吐き気も寒気もしてますし、いつでも死ねそうな気がします。いや、死にたくないんですが。(笑い声)
石須博士: 私たちはあなたの、少々珍しい症例のがんの研究と治療を行わなければなりません。そのために、あなたをこの施設へと移送してきました。突然のことで混乱されたでしょう、大変申し訳ありません。
SCP-1115-JP-A: いやいや、お気になさらんでください。私はがんが治ってくれりゃ満足ですから。それに、他にも私みたいながんができたってお医者さんがいると聞きましたが。
石須博士: ええ。
SCP-1115-JP-A: なんていうか、少しでもその方々の治療に私が貢献できたらなと思ってます。まあでも、私がそのがんの原因なのかもしれないですけど。なんだか来る人来る人、みんなしてすごい防護スーツ着て来ますし。
石須博士: あまり重く捉えないでください。あなたが原因であるとは決まったわけではないですから。ただ恐らく、あなたのがんの研究は彼らの治療にも役に立つでしょう。
SCP-1115-JP-A: そうだといいんですがね。
石須博士: ところで天生目さん。少し質問をさせて頂いても構わないでしょうか。
(沈黙)
石須博士: 天生目さん?
SCP-1115-JP-A: あ、すみません。大丈夫です。
石須博士: 了解しました。最近の体調についてですが、何か変わったことはありませんでしたか。
SCP-1115-JP-A: んん、なぜそれを。
石須博士: 普通の検診ですよ。あなたの身体のことはあなたにしかわかりませんから、私たちは少しでも体調を知りたいのです。
SCP-1115-JP-A: わかりました。
(SCP-1115-JP-Aによる自身の体調に関する説明が行われる。内容は収容される以前に天生目氏が言及していたものに大差はなく、調査で判明した事実との齟齬も見られなかった。加えて、言及している際のSCP-1115-JP-Aの振る舞いに特に怪しい点は見受けられなかった)
石須博士: なるほど。私たちの知りたいことは凡そ把握できました。ありがとうございます。
SCP-1115-JP-A: 少し疲れました。寝ても?
石須博士: はい。ああ、いえ、少々お待ちください。最後にもう1つだけ聞かせていただきたいことがありました。
SCP-1115-JP-A: 何ですか。
石須博士: 一応、あなたの素性について教えていただけませんか。
(SCP-1115-JP-Aは明らかに顔をしかめるも、すぐさま元の表情に戻る。SCP-1115-JP-Aは沈黙する)
石須博士: お願いします。
(沈黙)
SCP-1115-JP-A: すみません。今日は本当に疲れました。日を改めてもいいですかね。
石須博士: ううむ、わかりました。では日を改めまた質問させていただきます。今日のところはどうぞ、ごゆっくりお休みください。
SCP-1115-JP-A: すみません。
石須博士: では、失礼します。
[記録終了]
このインタビューの後から、SCP-1115-JP-Aは何らかの理由を付けて自身の素性についての言及を回避しようと試み始めました。このことから、SCP-1115-JPがSCP-1115-JP-Aの素性に関する知識を有していない可能性が浮上し、天生目氏の意識がSCP-1115-JPに受け継がれているのではなく、SCP-1115-JPがSCP-1115-JP-Aの脳機能停止以前の振る舞いを模倣していることが有力視されました。もしこれが正確ならば、SCP-1115-JPが有する神経系の発達具合と受け答えの反応から、SCP-1115-JPは成人した人間と同程度の洞察力を有していると指摘されました。
補遺1115-JP.3: 収容違反
2013/07/22に行われた日毎の点滴剤の取り換えの際、SCP-1115-JPは担当職員へと攻撃的な行動をし、続いて収容違反を起こしました。攻撃をされた職員はスーツの破損によりSCP-1115-JPから発生した膿汁を大量に吸引していたため、終了ののち焼却処分されました。
収容室から脱したSCP-1115-JPは、自身の腫瘍を複雑に変形させることにより自立行動を可能としていました。機動部隊の到着までにSCP-1115-JPによる攻撃を受けた9名の職員全員と研究用の生物数体が、SCP-1115-JPの構成細胞に酷似する組成のがん細胞によるがんを発症しました。このがん細胞は通常のもの以上に増殖速度が速く、例として、検査のため収容された職員1名は発症から6日で末期の症状を示し、のちに死亡しました。この事実は、SCP-1115-JPがSCP-1115-JP-A以外の人物あるいは生命体を宿主として寄生し、生命を維持することができないことを示しています。
再収容が確立した後、仮にSCP-1115-JPがサイト外部へと収容違反による脱走をした場合、周辺の自然環境への重篤な災害を齎すと判断されました。また、SCP-1115-JPの収容室への入室は一時的に制限されることとなりました。再収容後のSCP-1115-JPの挙動は非常に静的であり、何らかの攻撃的な振る舞いを見せることはありませんでした。
以下はSCP-1115-JPの収容違反状況を目撃した職員である閑研究員へのインタビュー記録です。インタビュアーは骨折博士でした。
インタビュー記録 #2
2013/07/22
[記録開始]
骨折博士: では、SCP-1115-JPの収容違反時のことをなるべく細かく話してほしい。
閑研究員: はい。私はあのとき、サイト内の職員食堂で昼食を食べているところでした。突然警報が鳴ったので本当に驚きました。わかりますね、脅威レベルオレンジのアノマリーが収容違反したときのあの音です。私は通常の避難指示に従って、周辺にいた職員たちとサイト外部への避難を試みました。でも、SCP-1115-JPはすぐそこにまで来ていました。正直、終わった、死んだと思いました。
骨折博士: オブジェクトのそのときの様子はどうだった。
閑研究員: とても不快なものでした。体から細く黒ずんだ脚が生えていて、まるでカニのようにガサガサと歩いていました。とても素早くて、到底奴から逃げられそうには思えませんでした。近くにいた同僚が1人、奴の脚に刺されて、いや、貫かれるように足を攻撃されました。彼女はとても痛がった様子でその場に倒れ込みました。奴が次に私の方向を向きました。胴体から脚が生えていたので、痩せ細ってうなだれた顔を地面から、こう、私の方に向けて……奴の顔はとても悲しそうな顔でした。
骨折博士: それで、君は無事だったようだが、SCP-1115-JPと何か接触などしなかったのか。
閑研究員: はい。SCP-1115-JPは私の方を向いてただ一言、「私はどうしたらいいんですか」と言ってきました。私は……何も答えられませんでした。そうしている間に隔壁が降りてきて、倒れた彼女を急いで食堂に連れ込んで。気づいたら奴の姿はありませんでした。そこには、奴の垂れ流した汚物のようなものと、腐敗臭しか残っていませんでした。あとは、機動部隊が奴を鎮静化するまで待っていただけです。彼女の顔は……異常なほど青ざめていました。
骨折博士: なるほど。他に何か気づいた点は無かっただろうか。
閑研究員: そうですね……ああ、もう1つだけ、奴が言っていたことがありました。
骨折博士: 何だ。
閑研究員: 彼女を攻撃するときに言っていたんです。いや、警報で遮られてたので鮮明に憶えてるわけじゃないですが、確か……そう、「違う」って言ってました。ただ、明らかに出口を訊いてきたときとじゃ別人のような声で。彼女が奴に「化け物!」って叫んだら、そうやって。奴は、何かに苦しんでいるように見えました。「私はどうしたらいいんですか」とは、どういうことだったんでしょう。私には……わかりません。
[記録終了]
補遺1115-JP.4: SCP-1115-JPへのインタビュー
以下は再収容が確立した後に行われたSCP-1115-JPへのインタビュー記録です。インタビュアーは石須博士であり、対話は収容室内に設置された音声機器を介して行われました。
インタビュー記録 #3
2013/07/23
[記録開始]
石須博士: 天生目さん。いえ、一体あなたのことは何とお呼びすればよいのか。
(SCP-1115-JPは沈黙を続ける)
石須博士: では、SCP──
SCP-1115-JP: いや、私は天生目です。天生目██。
石須博士: ええ、わかりました。天生目さん。一体なぜあのようなことをしたのですか。
(SCP-1115-JPは明らかに狼狽えた様子を見せている)
SCP-1115-JP: いや、すみません。あれは外の空気が吸いたかっただけで。だってほら、あの部屋の景色ももう見なれてますし、いい加減青空が見たいなぁって思いまして。うーん、私もどうしたらよかったのか、なんでか混乱していたというか。
石須博士: 質問を変えましょう。天生目さん。施設内を移動する際のあの姿は一体何だったのでしょうか。まるで、胴体で歩行するかのように見えました。胴体が別の生物、例えるならカニのように。あなたは一体何者なのですか。
(沈黙)
石須博士: 天生目さん。お答えください。
SCP-1115-JP: ああ先生。私はどうしたらいいんですか。
石須博士: どうというのは一体──
SCP-1115-JP: もうわかってるんですよね?私が、██じゃないって。
(沈黙)
石須博士: ええ、分かってました。天生目さんは既に脳死しています。それなのにあなたはまるで、天生目さんのように振舞って、そして隙を突いて職員を殺害──
SCP-1115-JP: 違う!いや、違うんですよ。あなたたちは私を化け物扱いして、じゃあどうしたら良かったんですか。私は天生目██じゃないかもしれないけど、でも天生目██なんですよ。だって体は同じだし、██の体で私は生まれたんですよ。なら私が天生目██を名乗るべきでしょう?
石須博士: ですがあなたは天生目さんではないでしょう。それにあなたが天生目さんを──
SCP-1115-JP: うるさい!私は天生目██だって言ってるだろ!どうして、じゃあ私は何だって言うんだ!なあ、どうして私は化け物なんだ。どうして誰も人間扱いしてくれないんだよ。
石須博士: やはり、天生目さんの模倣をしていたわけですね。これではっきりしました。
SCP-1115-JP: 先生、私は人間でしょう?
石須博士: 答えられません。ただ、あなたががんであることは──
SCP-1115-JP: 違う、違う!私は人間だ!化け物なんかじゃないんだよ!どうしてわかってくれないんだ!
(SCP-1115-JPがヒステリー状態に陥り、収容室内で約3分間攻撃的な行動を繰り返す)
SCP-1115-JP: ああ、ああ、もういいです、殺してください。あなたたちも本望でしょ。忌々しいがんが死にたがってますよ、ほら。燃やして灰にしてください。薬漬けにして死なせてください。だって私はがんだ。がんなんでしょう?人間じゃなくて化け物なんだろ、なあ!?
石須博士: 落ち着いてください。少なくとも、私たちはあなたを殺すようなことはしません。あなたのような存在を確保し、収容し、保護する団体ですから。あなたは私たちに人として扱って欲しいわけですね。
SCP-1115-JP: もういいよ。
石須博士: こちらの職員を殺害したことには目を瞑りましょう。ここでの生活は保障します。あなたが再び暴れまわるようなことが無い限り、私たちもあなたとの接触については配慮をします。つまり、あなたのことを化け物扱いするような人物は完全に排除するつもりです。
(SCP-1115-JPは俯き沈黙する)
石須博士: 天生目さん。
SCP-1115-JP: す、すみませんでした。きっと私は人じゃないんでしょう。でも、これからは天生目██でいさせてください。彼のためにも、精いっぱい生きますから。わがままですみません。本当にすみません。私はただただ人間でいたいだけなんです。ただ、ああ。
石須博士: では、これからもよろしくお願いします。
SCP-1115-JP: すみません、すみません……ごめんなさい。
[記録終了]
当インタビュー後に行われたSCP-1115-JPへの精神鑑定において、SCP-1115-JPが重度の精神障害を負っていることが判明しました。特に自身を“天生目██”と呼称されなかった場合、あるいは異常存在として扱われたとき、SCP-1115-JPは急速かつ激しいヒステリーの兆候を示し、周囲へと暴力的になる傾向にあります。これにより2度目の収容違反が発生する可能性が考慮され、SCP-1115-JPを異常存在として扱わないことを確実とするために現行の特別収容プロトコルが策定されました。
現在まで、SCP-1115-JPは新たな収容違反を発生させていません。