
SCP-1116-JP-1が経験する夢の1例と酷似した現実の環境。映画"█████"のワンシーンより。
アイテム番号: SCP-1116-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 全てのSCP-1116-JP群は、サイト-81██の保管ロッカー内に収容されます。民間での使用を抑制するため、国際条約ガイドラインにSCP-1116-JPを含む薬物群の取り扱い・製造規定の項目が設けられます。
未収容のSCP-1116-JP-1の発見を目的に、分析担当者が全ての主要な医療機関の受診者情報の監視を行います。発見されたSCP-1116-JP-1は病気治療の一環と偽装した上で、サイト-81██の要隔離人型実体居住セルに収容されます。研究目的のため、カウンセリング担当者はSCP-1116-JP-1に対して、覚醒後に自身が経験した夢の内容を日記として記録するように指示を行なってください。
SCP-1116-JP-1の半径10m圏内で睡眠を行うことは禁止されています。同様に、SCP-1116-JP-1が睡眠中のあらゆる人物に接近することのないよう、各担当者は細心の注意を払う必要があります。
説明: SCP-1116-JPは19██年代に製造された、ベンゾジアゼピン(benzodiazepine)系の睡眠導入剤の総称です。含まれる成分や製造過程に異常な点が確認できないにも関わらず、服用者の一部は後述するSCP-1116-JP-1としての異常性を獲得します。この異常性の獲得確率は服用期間に応じて増減し、最大では約20%となります。
SCP-1116-JP-1は睡眠を行う度に、必ず共通した内容の再発的な夢を経験するヒトの集団です。現在までに███体が確保されており、これら実体の発見は世界中でも主に東南アジアの島国を中心として報告されている点に留意してください。
睡眠中のSCP-1116-JP-1が経験する主要な情景描写は、常に粗末な収容所、地下のシェルター、閉鎖病棟らしき環境のいずれかで構成されています。これら環境は実在する建造物、あるいは創作物で描写された建造物の構造と部分的に一致するケースが多く認められます。初めてこの夢を経験した際、SCP-1116-JP-1は自身がこの施設内に閉じ込められていることを潜在的に理解します。
施設内にはSCP-1116-JP-1以外にも、複数の半人型実体が存在していると報告されています。しかしながら、それら実体の大半は不鮮明な呟きや叫びの発声、徘徊、床や壁を撫で回す、その場に立ち尽くす等の要領を得ない行動を繰り返すのみで対話には成功しません。また、それ以外の対話可能な実体の多くも、時間のほとんどを他の実体との諍いや口論で消費する傾向にあります。
これら実体の総数はSCP-1116-JP-1が睡眠を行う度に増減し、全ての実体がいなくなった時点でSCP-1116-JP-1から上記の夢に関する異常性が消失します。なお、1度の増減数に明確な傾向性は見受けられず、全実体が消失するまでの期間はSCP-1116-JP-1毎に大きく異なります。この期間が長期化するほどに、SCP-1116-JP-1は睡眠障害の兆候を示しやすくなる傾向にありますが、分析官はこの状態が単なるストレスレベルの上昇に起因する一般的な症状であると診断しています。
上記の異常性とは別に、SCP-1116-JP-1から半径10m圏内で睡眠を行っている人物は、極稀に特定内容の悪夢を経験する可能性があります。この悪夢の主要な内容は断続的なアラーム音と、現在地が立入禁止区域である旨を示す"オネイロス形式のポップアップ広告"の反復的な表示描写によって構成されていることが報告されました。この睡眠からの覚醒後、約15%の被験者はSCP-1116-JP-1と完全に同一な異常性を新たに獲得します。
SCP-1116-JPは19██年代に各医療機関へと多数寄せられ始めた、共通する内容の悪夢の報告を調査した際に発見されました。初のSCP-1116-JP-1発見以降、東南アジアを中心とする世界中の島国で発見報告が相次ぎました。しかし、19██年を境にその発生件数は大幅な減少傾向にあり、財団が保持する未無力化済みのSCP-1116-JP個体数も現時点において█体となっています。
補遺: 上述した睡眠中の第三者に作用する異常性から、オネイロイがオブジェクトの起源に関連している可能性について、機動部隊オミクロン-ロー("ドリームチーム")の諜報員による調査が実施されました。しかしながら調査の結果、主要なオネイロイの集団のいずれも、SCP-1116-JP-1に対する関与の痕跡を一切示しませんでした。その一方で、いくつかの小規模なコレクティブから、一時的な行方不明者が多発しているという情報が齎されました。機動部隊オミクロン-ローによる調査は継続しています。
付録: 以下の文章は、SCP-1116-JP-1-57(████・███)が日常的に記録していた夢日記よりの抜粋です。この資料は同実体の主治医から提供されたものであり、財団によって確保されるまでの環境下で記録され続けていただけでなく、現行の研究においても未確認な特殊事例が記録されたものとなっています。なお、財団による確保時点でSCP-1116-JP-1-57は重度の衰弱状態に陥っていたことから、以下の夢日記の是非を含めた詳細な聴取には成功しませんでした。
日付: 19██/05/17
先生からの提案で、今日から夢日記を書き始める。
昨日も夢の内容はいつもと同じ。古ぼけたシェルターと精神病院が混ざったような場所、その個室に置かれたベッドの上で気が付いたところから始まった。部屋を出て歩き回ってみるが、建物からの出入口はすべて金属のプレートと鉄格子で塞がれていた。それぞれの出入り口近くには、何体かの奇妙な姿をした人型の連中が群がっていた。ほとんどは地面に座り込んでいたり、壁に向かって独り言を呟いていたり、私のように当てもなく建物の中をうろついていたりと様々。数は全部で100体くらいだろうか。話しかけたこともあったが、大抵は無視されるか、意味もなく怒鳴りつけられたり、まともに会話できたことはほとんどない。
しばらく留まって観察をしていると、魚頭(頭が魚になっている男)と紙人間(身体全体がシワの付いた紙で出来ている人間)が何かを切っかけに口論を始めた。この2体は私が初めて悪夢を見た日からいる人型で、よくケンカをしては、いつも魚の口の中に大量の紙束が詰め込まれていた。私は元の部屋に戻ると、ベッドに横たわって目を閉じた。それからいくらか時間が経って、私は目を覚ました。
日付: 19██/05/29
昨日は珍しく、少しは話ができる人型と出会った。それは成人男性の姿をした植物のツタの塊で、オーバーディープ(地名?)から送られて来たばかりだと言っていた。話を聞く限り、この場所は閉鎖病棟のような場所で、ここにいる全ての連中は洗浄(感染症などの処置のこと?)が終わるまでは出られないらしい。私は何かの病気になった覚えがないと伝えたが、ツタ男は私自身が影響下にあるのではなく、コーポリアル・シェルター(この単語は正確?)として利用されているだけだと話した。
そこまでの会話の意味をあまり理解していなかったが、私は誰がそんなことをしているのかと尋ねた。ツタ男は、この場所がオーバーディープからの接続先(?)に適していたか、身体に付いた匂いを隠すのにちょうど良かったか、そうでなければ何も知らないと答えた。それから更に付け加えるようにして、私に、犬を見たかと尋ねた。私はワケが分からず、言っている意味がよく分からないと答えた。そのあたりで、いつもの2体がまた口論を始めた。それから気が付くと目が覚めていた。
日付: 19██/07/04
昨日、いつもの場所に根を張っているはずのツタ男が消えていた。他のいなくなった人型と同じように、「洗浄」という処置が終わったのだろう。結局、ツタ男からは初めて会った日以上の詳細な話を聞けなかった。しかもツタ男以降、まともに話せる人型はほとんど来ておらず、多くは自分がここに来た理由を知らないか、常に何かに怯えているように孤立している連中ばかり。多少会話ができただけ、箱人間やイルカ女がまだマシだったと、その2体を見ながら思っていた。
気分転換に歩き回ってみるが、いつもよりも出入口に集まっている人型の数が多い。夢を見るごとに何体かはいなくなっているが、それ以上に増える数の方が多く、今では200体を超えている。人型1人当たりのスペースもかなり狭くなっていっていた。それが関係してか、いつもよりも口論やケンカが多い気がした。嫌な雰囲気を感じ部屋に帰った。それからしばらくした後、私は目を覚ました。
日付: 19██/07/08
夢を見るとすぐ、部屋の外がいつもよりも騒がしいことに気が付いた。騒ぎの方へ向かうと、出入口には大量の人型が群がっていて、出入口を塞いでいるプレートや鉄格子に噛み付いたり、殴りかかったりしていた。その騒ぎを先導していたのは、数日前に新しく夢の中に現れるようになったライター頭だった。ライター頭は自身の着火部分(口?)からオイル状の何かを吐き出し、鉄格子を溶かしていた。
この騒動が1時間程度続いた後、ついに出入口が破られ、集まっていた人型たちは一斉に逃げ出し始めた。だが、しばらくすると逃げ出したほとんどの人型たちが、投げ飛ばされるようにして入り口側から飛んできた。出入口の向こうを見ると、全身が光って輪郭しか見えない人型が一瞬だけ目に入った。ソレが逃げ出した連中を連れ戻したようだった。その後すぐ、出入口は外側から、最初よりも頑丈そうなプレートで塞がれてしまった。ヒーター頭は、頭を隠していた金属カバーが砕かれて床の上でのたうっていた。漏れたオイルが床に広がっていった。それを眺めているうちに、私は目を覚ました。
日付: 19██/07/09
夢の中は、前日の暴動が嘘のように静まり返っていた。いつもの2人すら、今日は静かにしていた。いさかいもほとんどない。しかし、何体かの人型は妙に落ち着かない様子で、周囲を行ったり来たりして、壁に耳を付けて何かを聞き取ろうとしたり、しきりに鼻にあたるパーツでそこらの臭いをかいでいた。特にそれ以上は、いつもと変わった内容はなかった。
日付: 19██/07/30
昨日は、また何体かの人型が騒いでいた。遠くからその騒いでいる内容を聞いてみると、外から犬の鳴き声を聞いたとか、隙間から犬の姿を見たとか、嫌な臭いがしたとかなんとか。言っていたような鳴き声は特に聞こえず、気になるような臭いもなかった。この騒ぎは、何体かの気性の荒い人型が、騒いでいた人型を殴りつけたことで静まった。しかし静まった後も、殴った人型も含めて、多くが何かに怯えているようだった。それ以外、いつもと変わった内容はない。
日付: 19██/08/03
また騒ぎの音で気が付いた。騒ぎの元へ向かうと、なぜか出入口の1ヶ所が破られていた。すでに出入口の周りには人型が集まっていたが、前の暴動の件もあってか、出て行こうとする者はほとんどいなかった。しばらくして、いつもの2人が抜け出したのを切っかけに、何体かの人型が出入口から逃げ出し始めた。しかし、前回のように守衛らしき人型が現れ、連れ戻すようなことは起こらなかった。
少し時間が経ったあたりで、先ほど逃げ出した何体かの人型が帰ってきた。だが、帰ってきたのはパーツの一部分ばかりで、大部分は何かの粘液にぬれて溶けかけているか、筒状の何かでキレイにくり抜かれたように失われていた。残ったパーツはかすかに煙をあげていて、ひどく嫌な臭いがした。私も含めて多くの人型が後ずさる中、何かの動物の唸り声のようなものを聞いた。何体かが出入口の向こう側に犬を見たと叫んだ。一瞬のうちに、出入口は周囲の瓦礫や金属で塞がれた。それ以降、唸り声のようなものは聞こえなかったが、誰もその場から動こうとする者はいなかった。何体かは、犬についての独り言を繰り返していた。そのうちに目を覚ました。
日付: 19██/08/05
夢を見始めるとすぐに、何かが激しくぶつかるような音が繰り返し聞こえてきた。音の出所はこの前に塞がれた出入口だった。すでに多くの人型が集まっていて、出入口を周囲のものを手当たり次第に持ちよって補強しようとしていた。出入口を塞ぐプレートはこちら側に向かって激しくへこんでいた。外からは聞いたこともないような動物の声が聞こえ、何かがプレートに衝突する度にイヤな臭いが強くなっていく。
出入口のバリケードを補強しながら、何体の人型が、犬が来た、犬を思い出したと叫んでいた。出入口を塞ごうとしている以外の人型は放心しているか、犬に関するよく分からない後悔の言葉を繰り返していた。それから100体近くの人型とともに数時間にわたってバリケードを抑え続けていたが、次第に鳴き声と臭いが遠ざかっていった。バリケードの向こうには何もいなくなったはずだが、ダレもその場から動けなかった。そんな時に、別の場所から大きな衝撃音が聞こえた。さっきまでのイヤな臭いとうなり声が、建物の中から近付いて来ていることが分かった。私は後ろをふり返えると、立ち込めるケムリの中に奇妙な生き物の姿を見た。すでに何体かの人型が粘液にぬれ、体を針でつらぬかれていた。その姿は、他の連中が言っていたような、犬とはまるで違う生き物だった。その直後、目を覚ました。
日付: 19██/08/06
今日は夢の内容を覚えていない。こんな日は久しぶりだ。
日付: 19██/08/07
また夢を何も覚えていなかった。目を閉じて気が付くと、もう朝になっていた。寝た気がまるでしない。
日付: 19██/08/12
もうずっと夢を見ていない。あの後、私は一体どうなった?