SCP-1121-JP
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アイテム番号: SCP-1121-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-1121-JPは、高さ3m以上のフェンスを設けたうえで24時間監視体制に置き、一般人の侵入を防いでください。万が一、一般人が侵入した場合は、即時拘束を行い、Aクラス記憶処理を行い、社会復帰が不可能な場合は行方不明者としての処理を行ってください。SCP-1121-JP内部への侵入はセキュリティクリアランス3以上の職員3人以上の許可を得たうえで行ってください。SCP-1121-JP内部に侵入する際の人員、機材は1965年以前に誕生、あるいは作成されたものに限定されます。

説明: SCP-1121-JPは、長野県諏訪郡に出現する、公式には確認されていない住宅街です。調査の結果、SCP-1121-JP内部は高度経済成長期の東京下町区域に類似している事が判明しています。際立った相違点としてはSCP-1121-JPに存在する建築物は全て廃虚であり、SCP-1121-JP内には雑多な廃棄物が散乱していることがあげられます。SCP-1121-JP内部には、現在存在しない、あるいは破壊された建造物も確認されています。また、豪雪地帯に存在するにも拘らず、一切の降雪が確認されず、同時に夜間において星の光が確認されないことも判明しています。

SCP-1121-JPの異常性は、1965年以降に作成された物品、あるいは誕生した生物を内部に持ち込んだ際に発生します。該当する物品を持ち込んだ場合、急速な風化、酸化が発生し物品は自然崩壊します。また、該当する生物を持ち込んだ場合、年齢が遡行し、最終的には卵細胞の段階まで遡行します。

これらの影響はSCP-1121-JP内部から退去することで停止させることが可能ですが、変化は不可逆的なものです。また、1965年以前に作成されたとされる物品を使用した場合においても、それらが1965年以降に作成された物品、方法を用いて新たに製造された物品である場合、同様の影響を受けることが確認されています。よって、1965年以降に製造された物品、方法はSCP-1121-JP内部の調査や記録に使用できないため、記録映像等の必要性から、1965年以前に作成された物品の収集要請が提出されています。同時に1965年以前に誕生した職員の確保の為、志願制による専任エージェントの設置、及び該当エージェントの医療的保存技術の研究が現在進行しています。

SCP-1121-JP内部には、約2000程の住人(以下、SCP-1121-JP-Aと指定)が存在し、コミュニティを築いています。SCP-1121-JP-Aの多くは人間ですが、一部SCP-1121-JP-Aは、世界の神話、物語に見られる仮想の生物を模しています。また、SCP-1121-JP-Aの約半数は神話、物語、歴史上の人物の名前を名乗ります。SCP-1121-JP-Aらには現在時点で老化の兆候が見られません。

SCP-1121-JP-Aの多くは友好的かつ享楽的で、財団職員を含める侵入者に対して歓迎の意を示します。しかし、SCP-1121-JP-Aのほとんどは酩酊状態、あるいは薬物中毒と思われる症状が確認されており、一部は伝染病に罹患しています。これらの特徴は、1960年代のヒッピー文化との共通点が確認されていますが、その本質とは大きく変化していると推測されています。現在時点でSCP-1121-JP-AがSCP-1121-JP外部へ移動する様子は見られません。

補遺1: 以下は、SCP-1121-JP-Aに行われたインタビュー記録の一部です。

インタビュー記録1121-JP-A-12 日付 20██/██/██

インタビュアー: エージェント・島

対象: SCP-1121-JP-A-12 20代の女性であり、街の清掃を行っている。

«記録開始»

エージェント・島: こんにちは

SCP-1121-JP-A-12: ああ、こんにちは。アンタ、見ない顔だね、この街は初めてかい?

エージェント・島: まあ、そんなとこです。此処がどういった場所か教えてほしいのですが、ついでに貴女の事も

SCP-1121-JP-A-12: アンタの事、だって。スカした言い方するね、アタシは灰被り、職業はまあ、表では言えないことさ

エージェント・島: 本名は? いや、何でそんな名前を?

SCP-1121-JP-A-12: ああ、名前? アンタ同世代だろ? 知らないのかい? 追憶のハイウェイ、転がる石。サイッコーだね、フォークとロック。そんなことどうだっていいじゃないか。あっちの痩せぎすはサロメ、この上に住んでいるのはアインシュタインのオッサンさ。お望みとあらば蒼褪めた馬でも見ていくかい? 弁天小僧もいるよ?

エージェント・島: 結構です。酔っているのですか?

SCP-1121-JP-A-12: そりゃあ、酔わなくちゃ。ここはラリってるやつらの癲狂院、救貧院じゃあないんだよ。何もかもいらない。アタシ達には今さえあればそれでいい。アタシ達の名前で分かるだろ? もうそこにはいないのさ、もうそこにはいない!

エージェント・島: …話すのが困難であれば、また別の機会に

SCP-1121-JP-A-12: そんなことはないさ、ないんだよ。えっと、この街だったね? この街はきっと星明りの届かない街だって

エージェント・島: 誰がそれを?

SCP-1121-JP-A-12: 知らない、……ってウソウソ、名前も誰だかも知らないけど、何かね、よくわかんない奴らだった。人みたいだけど、どっか人とずれてるっていうかね。まさしくアセンション、上位の存在ってとこかい?

エージェント・島: …では貴女は何処から?

SCP-1121-JP-A-12: 何処から? そんなの決まっているじゃあないか! ……あれ? 何処から、アタシ達は来たんだっけ? アタシ達は、あれ? 確か、……みんな、貧しかったけど幸せと活気の中で笑っていて。……アタシ達は

エージェント・島: 大丈夫ですか?

SCP-1121-JP-A-12: そう、アタシ達は、ずっと、ずっと、ガラスの靴を履き忘れていたかった。転がる石になることが怖かった、そこから飛び出すのは嫌だった。ああ、ここは良い街だろ?

エージェント・島: こんなガラクタまみれの街がか? ……いや、街がですか? 

SCP-1121-JP-A-12: ガラクタに見えるかい? ほら、見てみなよ。本当に必要なものは何だ? プラスチックの残骸? 半導体の中を走る意識? 加工された自由? それはきっとここにしかない。現代のフェアリーテイル、ディランが新幹線に乗り、去っていったこの街に

エージェント・島: アンタ、この街の外には出ないのか?

SCP-1121-JP-A-12: 出ないさ、ここにいればずっとアタシは変わらない。ここはアタシたちの生きた街で、この街を愛し続ける。此処は縛られている。でも、自由という鎖は常にアタシ達を縛り付けるんだ。さあ、歌おうよ、何がいい? グレイトフル・デッド? それともビートルズかい?

エージェント・島: なあ、ここはもう誰も来れなくなる。ここは閉じ込められた街になる、それでも、……誰からも忘れられるとしてもか?

SCP-1121-JP-A-12: ああ、いいさ。アタシは一緒に消える、アタシ達は星の輝きを信じていたが、光る星だって同じ場所で[編集済み]し続けりゃいつか消えるだろ? 夕焼けと煙の街。満天の星空の向こうに、降りしきる雪の先に。アタシ達は一体になり、煌めきになり、魂すら古き良き美しき時代のまま薄れていく。そしてこの街と一緒に行き着くのさ、あの街へ、雪と月あかりの街へ

エージェント・島: 夕焼けと煙の街。俺は、……インタビューを終了する

«記録終了»

この後、日時を改めてSCP-1121-JP-A-12へのインタビューを行いましたが、前回時の記憶が消失していることが判明しました。また、このインタビュー結果を受けた調査により、SCP-1121-JP-Aのうち数名が1965年以降に日本各地で発生していた行方不明事案の該当者と酷似した容姿を持つことが判明しました。該当者の共通点等は現在調査中ですが、そのうち数名は特定のカルト教団と関わりがあると判明しています。

補遺2: 20██/██/██、SCP-1121-JP内部調査を担当していたエージェント・島が無断でSCP-1121-JP内に侵入、即時の確保が行われました。以下は確保直後のエージェント・島に対するインタビュー記録です。なお、インタビューはSCP-1121-JP内に年齢の面で侵入不可能なエージェント・新田により行われました。

インタビュー記録1121-JP-A-18 日付 20██/██/██

インタビュアー: エージェント・新田

対象: エージェント・島

«記録開始»

エージェント・新田: これは公式記録となります。では、まず聞きたいのですが、なぜあんなことをしたんですか?

エージェント・島: (数分間にわたる沈黙)

エージェント・新田: 黙秘ですか?

エージェント・島: お前には言っても分からんだろうからな

エージェント・新田: それは私が決めることでしょう

エージェント・島: いや、分からない、絶対に分からないんだ。あの時代を生きていなければ。古き良き美しき、俺たちの時代を生きていなければ

エージェント・新田: つまり、貴方はあの時代に戻りたかったんですか?

エージェント・島: そうじゃない、戻りたいわけじゃない。お前には分からないだろう、俺たちはあの時代に生きていたんだ、必死に、我武者羅に、生きていたんだ。お前たちの時代を作るために

エージェント・新田: ……そうですか

エージェント・島: だがどうだ、今は。俺たちの時代は何処へ行った、俺たちの時代はあそこにしかないんだ。俺たちは薄れ、お前たちはお前たちがこの時代を造ったとばかりに我が物顔で。未来は俺たちを否定する、未来は俺たちを傷つける

エージェント・新田: 理解しかねます

エージェント・島: ああ、そうだろう。分からないだろう。進もうとするお前たちには。俺たちは疲れたんだ、俺達は戻りたいわけじゃない。あの思い出と一緒に、満天の星空、降りしきる雪の向こうへ、俺たちが帰り着く場所へ消えていきたい。忘れられるのならあの時代と共に忘れられたい。俺たちを忘れてくれ、あの時代と共に。頼む、俺たちを忘れてくれよ、思い出に酔える古き良き美しきあの時代と共に。俺たちは未来には必要ないんだ。お前たちがあの廃墟の街へ入れるなら話は別だが

エージェント・新田: インタビューを終了します

«記録終了»

エージェント・島はこの後、クラスA記憶処理を受け、SCP-1121-JP関連の職務からは外されたものの、現場に復帰しました。この事案から、SCP-1121-JP内部に侵入可能な人物は、侵入回数に比例しSCP-1121-JPへの回帰願望と類似した精神影響が及ぼされる可能性が指摘され、特別収容プロトコルの見直しが進められています。また、特別収容プロトコルが見直された場合、その異常性から医療的保存技術の発展が無いと仮定すると、約100年後にはSCP-1121-JP内部への侵入は不可能になると推測されます。

補遺3: SCP-1121-JP内部において「有限会社 如月工務店」と書かれたロゴが散見されるため、該当企業の調査が進められています。また、内部調査の結果、関連性が推測される手紙が内部で発見されました。以下は発見された手紙の複写文面です。

SCP-1121-JP関連文章-01 - 発見日付 20██/██/██

拝啓

ようやく寒さも緩み、おだやかな陽気が続く中、いかがお過ごしでしょうか? そちらではまだ変わらず雪が降り続けているのでしょうか? 皆様、ますますご健勝のことと存じます。

突然のお手紙、申し訳ありません。このたびは、皆様にお別れを申し上げようと筆を執らせていただきました。
皆様は我らの祖が行き着いた場であり、また、離れた場所です。我らの祖は光の下では消えゆく定め、忘れゆかれる定めでした。それ故に、我らは皆様から離れた後も郷愁の念は絶えず、夜半の雪を見ては思い出し、涙を流すこともありました。

我らは隠からなるもの、隠となったもの、角を生やし、牙を生やし、元が何であったかも忘れたなれの果て。
皆様同様、我らは未来を忘れ、ただ自然がままに、我らの良き時代にこびりつき、忘れられゆく者達でした。
忘却し、漂着し、酩酊し、そして未来など無意味と嗤う、停滞と慕情の民でした。

しかし、我らは皆様にこれ以上囚われるべきではないのだと気づいたのです。どうか勘違いしないでください。我らは皆様を嫌っているわけではありません。むしろ、感謝し、愛しています。だからこそ別れなければならないのです。地獄は心地よく、酩酊もまた楽しきもの。ですが、我らは安寧に陥ってはいけないのです。光の中で、消えゆきそうな激痛に怯えながら、それでも、と新たなものを造っていかねばならないのです。

この廃墟の街はその証。新たな時代を生んだ詩人の描いた街。過去に、星灯りに囚われ、いつまでも先に進めない古き良き、美しき時代の忘れ形見。いずれ燃え尽きる星の煌めき、落ち行く夕日。それを止め、進歩を忘れ、解脱を謳うこの美しき街ならば、きっと手紙も届くでしょう。歩みを止め、郷愁と慕情に浸かれば、あとは忘れられるだけだから。

我らは何も知りません、何も分かりません。我らが知るのは契約と対価、そして古来の技法のみ。しばらくは苦労も続くでしょう、誤解もあるでしょう。ですが、我らは転がる石のごとく、新たな世界を生きると決めました。古き良き、そして美しき我らの、…そう、我らの時代に涙を拭いながら背を向け、決して忘れず歩いていこうと決めました。

皆様は忘れていくのでしょう、忘れられていくのでしょう。皆様はそれを愛と歌う。慕情に溺れ、忘却に酔い、停滞を救いと嗤う。それはおそらく人も同じ、郷愁に溺れ、諦めに酔い、回帰を救済と見なす。

我らはそれを愛と信じない。

傷を負っても、傷を負わせても、苦しんでも、苦しめても、進み続けることが、生み出し続けることが、それこそがきっと、本当の愛なのです。我らは隠からなるもの。隠から来るもの。しかし、我らの懐かしき陰から出で、光の中へ、我らを傷つける未来の中へ向かいます。

これは感謝の手紙です。

どうか皆様にこの廃墟の街を。 未来を忘れ、今に溺れ、過去に止まった街を。

これは決別の手紙です。

一方的な思いなど、独りよがりな善意など、愛など、我らには必要ない。

どうかこれ以上手紙を送らないで。

愛を込めて。

敬具

如月工務店

███1様へ

この手紙と同時にロングコートと中折れ帽を着用している長身痩躯の高齢男性を中心とした集合写真が█枚発見されています。財団POIデータベース内において、これらの人物は該当人物が存在しませんでした。

補遺4: 20██/██/██、第7次SCP-1121-JP内部調査において、同一内容のメモが███枚発見されました。以下はその内容です。

SCP-1121-JP関連文章-02 - 発見日付 20██/██/██

いろんなことにあきたらかえっておいで


ずっとまってるよ


酩酊街より、愛を込めて

この文章の発見により、SCP-1121-JPと酩酊街、如月工務店の間には何らかの関係があると推測され調査が進められています。

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