20██/██/██、スペインのバルセロナ北西部にて突発的なヒューム変動災害が発生し、地中2km地点に小規模の地下空洞が発生しました。空間内部は太陽光が存在しないにもかかわらず牧草地帯の様相を維持しており、その地理的特徴はSCP-1129-JPの主張する飼い主の牧場とほぼ一致したことから、現実改変能力、またはそれに類する現象によって本来の地点から消失、再出現したものと推測されます(以下、便宜上地下空洞をSCP-1129-JP-Aに指定)。また、SCP-1129-JP-A内部に存在した木造の小屋から成人男性の遺体が発見されました。SCP-1129-JPの飼い主本人であったと思われます。
SCP-1129-JPに遺体が発見されたことを報告すると、SCP-1129-JPは三日間カウンセリングと食事を拒否しました。三日目の早朝にSCP-1129-JPは体調を崩し、財団の医療部門から適切な処置を受けて以降、身体的には回復しつつありますが、精神的な回復は芳しくなく、インタビュー再開の目途はたっていません。現在SCP-1129-JPはカウンセリングに集中することとされています。
以下はSCP-1129-JP-A内部から回収された物品のリストです。
回収された物品 |
発見地点 |
備考 |
32頭のジャージー種の乳牛(Jersey)及び800頭の牛の白骨死体 |
SCP-1129-JP-Aの牧場地帯 |
死体は全て自然死によるものと見られる。放射性炭素年代測定によると、一番古い死体は死後98年経過しているとされる。 |
23点の低危険度異常物品 |
SCP-1129-JP-Aの小屋 |
Anomalousアイテムとして収容済み |
40点の用途不明な物品 |
同上 |
内6点はSCP-1129-JP-1の未知の部品と同様のもの |
手書きのレシピノート全722冊 |
同上 |
古今東西の魔術的観点から延命を目的とした料理がまとめられている。その内35万ページにチェックサインが確認されており、一度摂取した料理で複数回の延命効果を得ることは出来ないとされている。また全てのレシピにナンバリングがなされており、摂取する順番も指定されている模様。実際の効能について現在研究中。 |
男性の死体 |
同上 |
320年前から生存していた形跡が確認されるほか、遺体には魔術的な保護を目的とする刺青が施されている。死後一か月ほどとされ、SCP-1129-JP-A出現から遺体検査までの期間と符合することから、男性の死亡に前後したタイミングで転移が発生したと思われる。死因は餓死。発見された時点から全身の筋肉と脂肪が収縮しており、加えて極度に乾燥、ミイラ化していた。 |
骨格に異常がみられるアルパカ(Vicugna pacos)の白骨死体 |
小屋の床下 |
死後70年、死因は不明。また腹部の骨に刃物で付けたような損傷個所アリ。 |
下半身が切断された男性の白骨死体 |
同上 |
死後102年、死因は不明。切断された下半身の骨も発見されているが、こちらは長さ数cmに切断されており、足の先から少しずつ輪切りにされたものと推測される。 |
床下から回収された男性やアルパカの白骨死体はSCP-1129-JPが供述していた「サンドウィッチ・ピーター」「イシュケンベ」であると思われます。SCP-1129-JPが日本へ転移した時期と、SCP-1129-JP-A内から回収された死体の死亡推定時期に矛盾が生じることについては、SCP-1129-JP-Aは基底世界とは異なる時間速度の空間に存在していたためのものと推測されています。
小屋の内部には至る所に牧場主のものと見られる吐血の痕跡が確認されたことから、牧場主は体調を崩していたと思われます。また、遺体の近くには遠方を確認するために魔術的な加工が施されたアイテムが多数散乱しており、これを用いて死の直前までSCP-1129-JP、あるいはSCP-1129-JP-1の行方を捜していたと思われます。
722冊のレシピノートの内容には異常な食材が記載されているケースも確認されており、それらには料理に使用する異常な食材を調達するための魔術的工程に関するメモが添付されていました。以下はその一例です。
料理名: 牛乳とハリッサのドリンク
添付されていたメモ書き: 毎日欠かさず摂取すること。
備考: この料理に使用する食材を確保するために牧場を営んでいたと思われる。
料理名: 骨を曲げて育てた羊のイシュケンベ
添付されていたメモ書き: スペインの星の巡りと相性が悪いことから、羊からアルパカに変更。
備考: ブルガリアの原住民族に伝わる伝統料理に酷似。
料理名: 人肉の足輪切りハムサンドウィッチ
添付されていたメモ書き: 注意点、半年間にわたり同一人物の肉を食すこと。
備考: ポーランドのカルト教団における儀式からの引用とされる。
料理名: [削除済み]と魚介のパエリア
添付されていたメモ書き: 食す前日に3時間の日光浴と88回の断髪を済ませること。
備考: サーキック・カルトが行う断食前の儀式との共通点が指摘されている。
料理名: 空飛ぶ河童の香草煮
添付されていたメモ書き: 浮遊する神通力を持つ河童が用意できない場合、河童に航空機で空を飛ばせて熟成させることで代用可能。この時、操縦は河童自身に行わせるなど、極力肉にストレスが掛からないように配慮すること。また航空機はイタリアの████社が1943年に製造した航空機を改造した物を与えること。注意点、他に現存する機体の所在はわからないため代用不可。管理には注意すべし。
添付されていたメモ書き2: 河童が用意できない場合、人語を解すカワウソで代用可能。
備考: 日本古来の仙道的儀式に由来すると思われる。尚、このページは大半が乱雑に破り捨てられていた。
バルセロナの牧場主がSCP-1129-JP、もといSCP-1129-JP-1を手元に置いておきたかった意図が判明したことにより、SCP-1129-JPとSCP-1129-JP‐1が財団の監視下に入ったことは彼にとって不測の事態だったことが伺えます。SCP-1129-JP、SCP-1129-JP-1がスペインから日本まで転移した現象については完全に別の要因が存在すると判断され、超常現象記録にナンバリング、今後も調査は継続される見通しです。-塚原博士