SCP-1150-JP
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財団記録・情報保安管理局より通達

現在閲覧中の報告書は第1版です。
森山博士による 2026年6月26日 18:05 (UTC) 時点の版であり、
現在の版と内容が大きく異なる場合があります。

— RAISA管理官、マリア・ジョーンズ


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SCP-1150-JPが最初に確認された水田

アイテム番号: SCP-1150-JP

オブジェクトクラス: Keter (暫定)

特別収容プロトコル: 分布の拡大を防ぐため、発見されたSCP-1150-JPは破壊が許可されています。SCP-1150-JP生育土壌への除草剤投与、SCP-1150-JP自体の遮光などは有効性が未確定であり、積極的検証が求められています。

SCP-1150-JPの確保に成功した場合、当該個体はサイト-8102の植物収容房に収容してください。SCP-1150-JPの過剰な増殖が確認された場合は可能な限りの破壊を試みてください。

説明: SCP-1150-JPは高い繁殖力と破壊耐性を示す極めて侵略的な植物群です。本稿執筆時点でイネ(Oryza sativa)とススキ(Miscanthus sinensis)およびエノコログサ(Setaria viridis)の該当が確認されています。SCP-1150-JPには強固な侵略性を実現する複数の適応が見られます。特筆すべき形質として、高い伸長性を持つ地下茎の発達、一次細胞壁に含有される未確認有機化合物とそれに伴う構造、表皮上の莫大なケイ酸塩化合物の蓄積が挙げられます。

SCP-1150-JP形態形質概略


1. 地下茎

SCP-1150-JPは地中を水平方向に走る地下茎を持ちます。当該地下茎はススキや野生イネ(O. longistaminata)などの一部イネ科草本に見られるものと相同の関係にあると考えられます。一般の植物において地下茎は乾燥環境や寒冷環境の回避に貢献しており、植物の増殖に適した成長様式とされます。

SCP-1150-JPは地下茎を介して異常な速度での栄養繁殖を行い、爆発的に生育範囲を拡大します。地下茎の最大伸長速度は██m/dayと推定されており、これは同様に地下茎を利用する非異常性侵略的植物であるクズ(Pueraria montana)やナガエツルノゲイトウ(Alternanthera philoxeroides)の成長速度を上回ります。SCP-1150-JPの地下茎はアスファルトやコンクリートといった障害物を成長応力で貫通・破砕しながら伸長しており、本稿執筆時点で路面や家屋への甚大な被害が報告されています。


2. 細胞壁

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一般的な植物細胞の一次細胞壁拡大モデル。ペクチン多糖類(橙)と、セルロース微細繊維(水色)・架橋グリカン(緑色)の、2種類の網状多糖構造を示す。

一般的な植物の一次細胞壁は多糖類で構成されており、主に以下の多糖類を主成分とする2種類の網状構造が共存します。

  • セルロース微細繊維および架橋グリカン
  • ペクチン類

グリカンとペクチンが枝分かれ構造を持つ不均質な構造多糖であるのに対し、セルロースは2つのβグルコース残基が1単位として反復して重合し、枝分かれの少ない鎖状分子をなします。セルロースと架橋グリカンは引張、ペクチンは圧縮に対する強度の向上に寄与します。

エネルギー分散型X線分析装置により、SCP-1150-JPの細胞壁には由来不明の未確認有機化合物の含有が確認されています。当該化合物は上記の構造多糖と化合し、本来水素結合による架橋を高エネルギーの共有結合に変換していると推測されます。このため細胞壁を構成する各繊維は強化されており、SCP-1150-JPに破壊耐性が付与されていると考えられます。2026年6月26日時点で、SCP-1150-JPを伐採する試みはSCP-143の使用を除いて成功していません。

また、SCP-1150-JPのセルロース様微細繊維は新化合物を含有する化学基に修飾されています。このため、セルロース様繊維は部分的に甲殻類のキチンと類似した性質を示しており、セルロース分解酵素であるセルラーゼへの抵抗性を有します。この他にも多くの化学的性質がSCP-1150-JP-Aにより変化して安定性が高上しており、2026年6月26日時点でSCP-1150-JP細胞壁を分解可能な化学薬品は確認されていません。


3. ケイ酸被膜

SCP-1150-JPの根・茎・葉の表皮細胞の内外には、非異常のイネと比較して約█.█倍の非晶質二酸化ケイ素(シリカ)が蓄積し、これを主成分とするガラス質構造が形成されています。当該シリカは植物組織に由来するカリウムイオンが付加されることにより、内部のナトリウムイオンとの交換が行われます。イオン半径の大きいカリウムイオンはガラスの原子構造を強化するため、上記の過程を経て表皮に異常な靭性を示す強化ガラスが形成されていると推測されます。また、植物体内不純物の混入によりガラスの熱膨張率は低下し、耐熱性が獲得されていると考えられます。このため、SCP-1150-JPのシリカ層は耐熱強化ガラスとして機能し、物理的生体防御や細胞強化に寄与しています。SCP-1150-JPを焼却する試みは成功していません。

またSCP-1150-JPは一般のイネ科草本の生育に適さない環境にも耐性を示すことが示唆されています。シリカが非異常のイネと同様の機序を有すると仮定する場合、SCP-1150-JP体内の多量のシリカはナトリウム吸収抑制および蒸散抑制を行い、塩類に富む土壌においても体内の塩濃度を維持することが考えられます。加えて、シリカが過剰マンガンの吸収阻害や二酸化炭素の取り込みの促進といった生化学的作用を持つことから、SCP-1150-JPの総合的な環境適応能力を上昇させていることが推測されます。

2026年6月26日、SCP-143を用いて採取されたSCP-1150-JPサンプルを用いた全ゲノム解析では、SCP-1150-JPと非異常のイネ科草本の塩基配列に差異が検出されませんでした。このためSCP-1150-JPは塩基配列自体の変異を伴わない所謂エピジェネティックな変異を遂げていることが推測されています。非異常のイネ科草本において、地下茎の伸長はBOP遺伝子、根のケイ酸吸収はLsi1遺伝子により調節されており、これらの遺伝子はイネ科草本以外の植物にも広く共通します。このためSCP-1150-JPの異常性もこれらの遺伝子自体ではなく発現に変化が生じていると考えられ、当該仮説と矛盾しません。

発見経緯: 2026年6月26日午前8時頃、岡山県倉敷市の水島にて、水田沿いの車道のアスファルトを貫通したイネを原因とする交通事故が発生しました。当該事案は岡山県警の無線を傍受した財団の関心を引き、同日の調査において当該のイネの急速拡大と耐久性向上が確認されました。拡大を鑑みて財団は当該のイネをSCP-1150-JPに指定し、カバーストーリー「不発弾の撤去」「ガス漏れ」を適用し午前9時15分に周辺地域を封鎖しました。

午前10時11分、SCP-1150-JPの駆除を試みていた作業員により、隣接しない水田で同様の異常性を示すエノコログサとススキが報告されました。SCP-1150-JPの未発見個体が存在する可能性が高く見積もられます。日本国内では広く水稲栽培が行われ、また野生のイネ科草本も多く生育することから、財団はSCP-1150-JPをKeter指定し、財団植物学部門と土木学部門を中心に対処を急いでいます。

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