POI-46312は、ジャンニ・ヴェルサーチとして知られていたファッションデザイナーです。
彼は1997年、POI-53218「アンドリュー・クナーナン」に銃殺され死亡しています。
なお、POI-53218の殺害動機については、犯行後本人が自殺したため、現在も不明となっています。
事件の発端は、POI-46312からの財団に対する支援要請から始まりました。POI-46312は、自身のファッション・ブランドの商業的な成功を納めるとともに、イタリアの黒社会とも密接な関わりを持っていました。その代表的なものが、当時イタリア最大の規模を持つ〝コーザ・ノストラ〟です。ニューヨーク五大ファミリーの一つである「ジェノベーゼ一家」はPOI-46312の事業に表向きの投資を行いつつも、それを資金洗浄の手段として利用していました。なお、「ジェノベーゼ一家」はMC&Dと密接な関わりを持っており、時折ヴェルサーチ・ブランドの倉庫や流通網を自社製品の流通網として使用していました。
しかし問題はもう一つありました、彼はアメリカのハリウッドを始めとして多くのスターやファッションモデルと関係を持っていました。その最中、彼は「ジェノベーゼ一家」からのコネクションを利用し、大量の覚せい剤を定期的に仕入れ、それを時に個人的に楽しみ、あるいは知人にもそれを使用させていたのです。
POI-46312は財団にとってのペルソナ・ノン・グラータであり、それゆえに財団は彼を遠ざけていました。
そのため、当初財団は彼の申し出を断りました。いくら要注意団体が絡んでいるとは言え、彼は所謂「表の世界」で名の知れた人物でした。彼は資金援助と引き換えに、「ジェノベーゼ一家」との関わりを断つための工作を財団側に申し入れました。彼の申し出自体は魅力的でありつつも、財団が彼を守る事で、逆に財団の機密が漏洩する可能性も十分に考えられたからです。
しかし、彼が保護を求めているという情報は、瞬く間に世界中を駆け巡りました。そして、財団に出資を行なっている一部の富裕層は、彼の保護を行うべきであるという意見を口々に述べました。財団に出資している富裕層の中には、ヴェルサーチ・ブランドを心から信奉しているものも数多く、これが、のちの財団内部の収容の遅れに繋がったと思われます。なお、ヴエルサーチの保護を煽った背後にMC&Dの関与があったという事も確認されています。
SCP-1204-JPが同時発生した際、その発見された時刻がヴェルサーチ殺害の日時と一致した事から、ヴェルサーチ殺害に関する情報の収集が行われることとなりました。
その捜査線上に奇妙な小集団が浮かび上がりました。ヴェルサーチ殺害の犯人であるクナーナンの交友関係を洗い出した結果、GOI「44口径と聖ウィルクスの兄弟教会」が関連している事が判明しました。
「44口径と聖ウィルクスの兄弟教会」は、GoI「懐中銃教会」の流れを組む小会派です。
懐中銃教会とは、ジョン・ウィルクス・ブースによるリンカーン暗殺事件を「世界の再創造」と規定する超常的宗教団体です。彼らの教義とは以下のようなものです。
1:ジョン・ウィルクス・ブースのデリンジャー・ピストルから放たれた銃弾はリンカーンの頭部を貫通し、それによって銃弾は、我々の住む地球そのものとなった。
2:しかしながら、この世界はいずれ「弾道を逸れ、力を失い、地に堕ちる」ものである。
なお、「懐中銃教会」に連なる小会派は、上述の2つの教義に加えて、3番目の教義を持つ者たちも存在します。
3:失敗作の世界を再創造するため、ブースが暗殺したリンカーンに代わる暗殺対象が必要である。
彼らはいくつかのパラノーマルテクノロジーを所持しており、それによって世界を再創造しようと試みた形跡が確認できます。その最たるものがSCP-457-JPです。
「44口径と聖ウィルクスの兄弟教会」は、4人のメンバーで構成された小会派です。以下構成員を記述します。
姓名 |
性別 |
職業 |
ジェフリー・トレイル |
男性 |
28歳 元アメリカ海軍士官、プロパン販売会社セールスマン |
デイヴィッド・マドソン |
男性 |
33歳 建築設計士 |
リー・ミグリン |
男性 |
72歳 不動産開発業者 |
ウィリアム・リース |
男性 |
45歳 墓地管理人 |
なお上記4名はPOI-53218に殺害されています。
POI-53218のPOI-46312殺害までに至るUIUの報告書です。
連邦記録法に則り、以下に電子コピーを掲載
UIUファイル1997-719: ケースファイル ""ヴェルサーチ殺し
概要: ジャンニ・ヴェルサーチを殺害した事により、奇妙なダンスクラブのポータルを発生させた。これが当該人物の能力によるものなのか、それとも所持品によるものなのかは不明。
姓名:本名アンドリュー・クナーナン
生年月日:1969年8月31日カリフォルニア州サンディエゴ
容疑:5人の男性を殺害
変則性相互参照: 人間、対人能力、誘発性
身体的特徴: 当該生物は人間の男性であり、「非常にハンサムな好青年」という印象を、それを見るもの全てに与える。言うなれば非常に清潔かつ精緻エレガントな興感を惹起させる。
性別 |
身長 |
体重/体格 |
人種 |
髪 |
目 |
特徴的属性 |
N/A |
5フィート9インチ(177cm) |
143ポンド(65kg)、平均的 |
白人 |
黒 |
黒 |
一般的な白人男性 |
能力: 人間と接触した際、対象の心理に入り込み一種の魅了を行う。だがしかし、それは見せかけである。自身が注目を集めるためならばどのような嘘でも平気でつき、またそれを相手に真実だと思い込ませるだけの話術を習得している。また、女装を得意としており、風景の中に違和感なく溶け込むことが可能。
なお、対象がジャンニ・ヴェルサーチ氏を殺害した際に発生させたカンについては、現状本人の能力であるかどうかの判定は一切行えない。
目的/動機: 自身の栄達、さらにくだけた言葉で言うのであれば「注目を集める」事。
活動規範: 生物は自分の栄達や快楽のためならば無制限に利用して良いと言う信念。
行動: 普段は温厚かつ紳士的に振舞うが自己愛が非常に強く利己的。自身の快楽のためならば残忍に振舞う。
証拠品データ1:タウルス社製PT-100拳銃
使用弾薬:44口径ホローポイント弾
所有者:ジェフリー・トレイル元海軍大尉
概要:クナーナンがヴェルサーチを殺害する際に用いた拳銃。トレイルを殺害後に、クナーナンが奪ったものと思われる。特異性は特段認められず、しかしながら、何らかのカンである可能性もあり。調査のため、財団に引き渡す予定。
証拠品データ2:トム・クルーズの写真のスクラップ
概要:クナーナンが借りていたホテルの一室の、壁一面のに貼られていた。クナーナンがどういった理由でトム・クルーズに執着していたのかは不明。しかしながら、クナーナンはマイアミに於いてモデルやハリウッドスターなどの著名人に接触していた形跡があり、これはクナーナンの虚栄心と執着心が産んだものであると考察される。
証拠品データ3:ジープ・チェロキー(赤)
所持者:デイヴィッド・マドソン
概要:クナーナンに殺害された際に奪われた。
証拠品データ4:トヨタ・レクサス
所持者:リー・ミグリン
概要:リー・ミグリン殺害時、クナーナンに奪われた。ナンバープレートに改造跡あり、もともとついていたナンバープレートを外し、他人のナンバープレートを盗んで車体に設置し直したものと思われる。
現状: 死亡
犯罪: 殺人罪及び車両窃盗
量刑: -
UIU活動記録:
1997/04/27:ジェフリー・トレイルの死体が発見される。ハンマーで撲殺されたものと思われる。
1997/05/03:デイヴィッド・マドソンの死体が発見される。死因は頭部への銃撃。
1997/05/04:リー・ミグリンの死体が発見される。死因はマイナスドライバーでの刺殺。
1997/05/09:ウィリアム・リースの死体が発見される。死因は頭部への銃撃
1997/07/15:ジャンニ・ヴェルサーチ暗殺。死因は後頭部への2発の銃撃
1997/07/25:クナーナンの遺体が発見される。拳銃自殺を図った模様。
グレッグ・マーク警部
あまりにも遅かった。上の連中がモタついている間に気づいたらカンが発生してやがった。
最初の殺人の事件で奴を捕らえる事もできたはずだ、だが証拠の見落としがあったらしい。
この乱雑に見える被害者を繋ぐ鍵は、まず第一にゲイ・コミュニティだ。
クナーナンとトレイルとマドソンはゲイだった。奴らを結びつけている絆はそれだ。トレイルとクナーナンはかつて関係を持ってた。それが「どこまで行っているもの」なのかは分からないが、とにかくその部分で繋がりはある。ヴェルサーチも同様だ。奴はマイアミの「ツイスト」によく顔を見せていた。あの店はマイアミのゲイ・コミュニティの象徴でもあった。奴があそこに来ることで、地元は活気付いた。無論、マイアミのゲイ・コミュニティについてもそうだった。そして、クナーナンもヴェルサーチもあの店の常連だった。
つまり、クナーナナンはヴェルサーチを知っていたんだ。
第二の繋がりは懐中銃教会だ。
ウィルクス・ブースを信奉するイカれ野郎ども。この情報がもっと早く明るみに出ていれば、ヴェルサーチは死なずに済んだのかもしれない。だがもう、後の祭りだ。問題はカンだが……あれは財団の連中に任せるほかない。あのカン自体は特に害があるとも言えない代物だ、だから俺たちの仕事はここまでって事になる。
だが問題は動機だ。奴はなぜ殺った?
トレイルは奴の元恋人だった、マドソンはトレイルの今カレって奴だ。殺したのは嫉妬か?それならなぜ後の3人を殺した?よりにもよって、あの世界的なファッションデザイナーを?きになるのは、奴が死ぬ直前に遺したメモだ。だが、あの快楽殺人者が「44口径と聖ウィルクスの兄弟教会」だなんて長ったらしい名前の連中の、カビの生えたイデアに共感するだろうか?それもまた怪しいところではある。
だが奴が死んでしまった以上、その理由は迷宮入りって事になりそうだ。
僕はついにやった。でも、僕が撃ち抜いた標的は正しくはなかった。
彼は言っていた、硝煙を吐き出す懐中銃こそが福音を齎す…だとか。
実際彼は僕の役に立ってくれた、彼あの銃を持っていなければ、彼を───ああ!彼を撃てなかっただろう。
これは全て運命だ、全ては繋がっている。僕は最後の標的を見つけた。
僕は気づいたんだ、僕こそが救世主だった。
ジャンニはリンカーンなんかじゃない。
リンカーンは、僕だったんだ。
上記の資料が示すように、当時の混乱した状況下の中で突然SCP-1204-JPが出現しています。なお、この状況にいち早く対応したのがGOCでした。彼らはポータルを確認するや否や、それを即座に破壊しました。それに他のGoIが続く形で、SCP-1204-JPは奪取されました。
初期収容にいち早く成功したのは日本支部のみでした。その理由は、日本人が国外の事情に疎く、またSCP-1204-JPの出現とPOI-46312の殺害を結びつける要素があまりにも薄かったため、「単なるオブジェクトの一つ」としてSCP-1204-JPを取り扱う事ができたためです。
これは、POI-46312の死が世界に大きな衝撃を与えたと共に、日本国民の大半はその事実に無関心であったという事でもあります。その結果、関連情報を含む全管理権限が、サイト-19より譲渡されました。
それと同時に、POI-46312殺害に使用されたタウルスPT-100も譲渡され、アノマラスアイテムとして登録されました。
以下は、サイト-19からオブジェクトが譲渡された際にやりとりされたメールの一部です。
from:ギアーズ博士
to:japan brunch
件名:少々スキャンダラスにすぎる
日本支部へこれを譲渡する事については大変心苦しい。
我々に資金援助を行なっている連中がこのような動きを見せるとは、計算外だった。
犯罪事件関連だったとはいえ、初動捜査・情報収集をUIUに依存したのも間違いだった。
我々が、かのオブジェクトを確認した時点で、かのオブジェクトに危険性はない事がわかっていた。
そのため、我々は特に警戒もなくとオブジェクトの収容を行おうとしていた。
しかし、先ほど述べた理由で初期収容の体勢には若干の遅れが生じてしまった。
ようやく収容に乗り出したと思えば、後の祭りだ。
あのほぼ無害なオブジェクトに、GOCの排撃班が強襲を仕掛けてくるなどと誰が考えるだろう?
他の地点に出現したポータルについても同様だ。全く遺憾であるとしか言いようがない。
しかも、このオブジェクトの関連情報にはスキャンダラスな点がいくつもある。
我々の失敗についてもそうだが、例えばヴェルサーチのマフィアとの繋がり、ドラッグなどだ。
これが今漏洩すれば、面倒な問題が再び発生するだろう。
しかも厄介な事に、かのフェッションデザイナーの死は、多くの人間の怒りを掻き立てていたようだ。
ニュースを見ればわかる。ダイアナ妃、エルトン・ジョン、ナオミ・キャンベル……多くの著名人が彼の死を悼んでいる。その関連事象であるという事が、GOCにこのオブジェクトの破壊を行わせたようだ。
GOC司令部に問い合わせたところ、彼らはクナーナンの関連情報も全て譲渡するよう私たちに迫っている程だ。 幸い、日本支部では確保に成功したと見える。それゆえに我々は、このオブジェクトの全情報を日本支部に譲渡する。だが、情報の取り扱いにはくれぐれも注意して欲しい。仮にこの情報が漏洩したとしても、日本人の国民性はあくまでも国内に向くという特性がある。これならば大した被害にはならないだろう。
しかし念には念を入れ、厳重に取り扱って欲しい。
補遺: おそらく、POI-53218によるPOI-46312殺害がオブジェクト出現のトリガーとなっていた事は確かだと思われます。
しかし、それを引き起こした原因を作ったと思われる「聖ウィルクスと44口径の教会」に関する情報は、ほとんど残っていません。元々は4人で構成された小会派でありその全員が死亡した点、またアメリカ国内に存在する「懐中銃教会」会派との接点も非常に薄かった点などがその理由です。
リーダーであったウィリアム・リースは南北戦争を再演するグループの集団である「第14ブルックリン協会」の創設者の一人でもあります。彼がここで、自らの会派に所属し得る人員をリクルートしていた形跡が発見されました。しかし、それ以上の情報は見つかっていません。
下記の資料は、ウィリアム・リースが残したオブジェクトに関する手記です。
これが、現存する「44口径と聖ウィルクスの兄弟教会」に関する唯一の現存する資料となります。
彼の撃鉄の落ちたる音は私の耳にも届いた。
これは私の遺書となるだろう。
「ガンスミスよ、街へ行け。戦地へ行け。銃火と共に歌うため、世界の果てまでも駆けていけ」
ガンスミスC.Yは、そう言ってかの懐中銃をJ.Tに託した。あの銃こそ、我ら兄弟教会の唯一の教義だった。
J.Tはもういなくなっているだろう。彼が関わっていた人間はあまりにも危険な男だった。
あの男は聖なるウィルクスのような紳士ではない。
だがそれゆえに、かの男は銃火を放ち、そして新たな世界を創造するだろう。
かの男は“Wicked(邪悪)”であり“Witch(魔女)”となるだろう。
だが、失敗を重ねてきた我々は、もう待つ事ができない。
これから起こることは明白だが、それが何を引き起こすかは神のみぞ知る(Gun only knows)。
願わくば、着弾的な終わり(Hitting End)を迎えるとき、最後に救い主が現れん事を。