以下の報告書は、SCP-1210-JPが未収容の際に作成されたものです。
最新の特別収容プロトコルと概要は文書:1210-JP/レポート第7版を参照してください。
アイテム番号: SCP-1210-JP
オブジェクトクラス: Euclid(暫定的)
初期回収プロトコル: カバーストーリー「毒物流出」により、エリア-1210-JP付近の住民の避難は維持されています。1210-JP/初期回収プロトコルには、基底現実改変能力者回収プロトコル-004を適用し、実施は三上博士が指揮する現実改変能力者対応機動部隊が担任します。
説明: SCP-1210-JPは戸籍上は斉藤██と記録されている日本人男性で、現実改変能力者です。収容に至っていないため、詳細な内外現実性濃度は判明していません。SCP-1210-JPは発見時点(20██/08/10)から現在まで、「自宅守護神」という肩書きを自称しており、自身は労働のない社会の実現を目指す宗教団体「ニート教団」に属する最高位の聖職者であると主張しています。
SCP-1210-JPは日本の██県███市に位置するアパート「██████」の2-B号室(エリア-1210-JPと識別)を活動の拠点にしています。基本的にSCP-1210-JPは、常時エリア-1210-JP内部にこもっており、その外部に移動した事例は発見以降に確認されていません。SCP-1210-JPはエリア-1210-JPに近づく人間に非常に敵対的であり、現実改変能力を用いてそれらを追い払おうとします。
補遺1: 異常性発現前のSCP-1210-JP(以下、斉藤██氏と表記)は、エリア-1210-JPを生活の本拠としていましたが、同棲人などは居らず、長期間に渡って社会的交流を絶っていました。そのために人的情報源が少なく、今回の攻撃的行動の切欠に繋がると思しき情報は今のところ得られていません。
補遺2: 文書:1210-JP/インタビューログい-1
有知性異常存在取締法に従い、初期回収プロトコル実施前の自主的収容を要請する交渉がSCP-1210-JPに対して行われました。本交渉は、異常性確認前からエリア-1210-JPにて使用されていた家庭用固定電話機を通じて行われました。以下はその内容です。
日付: 20██/08/10
対象: SCP-1210-JP
インタビュアー: 三上博士
《記録開始》
SCP-1210-JP: もしもし。
インタビュアー: 君は斉藤██だな。
SCP-1210-JP: あなた様は私の警鐘と教義に耳を傾ける迷える子羊でありましょうか。
インタビュアー: 私は君が扱う超常的な能力の専門家であり、それに対応する部隊の指揮官だ。我々には保安上の理由により、君を捕獲する義務がある。現時点で、君は我々によって完全に包囲されている。君が行うあらゆる抵抗、または逃亡は必ず徒労に終わるだろう。今すぐ投降して部屋から出てきなさい。
SCP-1210-JP: 私を捕えることが、あなた様のお仕事なのでしょうか。
インタビュアー: そうだが。
SCP-1210-JP: それは、疲れませんか。ゆとりを持ちましょう。
インタビュアー: 投降するのか、しないのか、答えてもらおう。
SCP-1210-JP: なぜ私を捕獲する必要があるのです。保安上の理由とあなた様は申されましたが、私は自宅を守護しているだけで、外部からの干渉がなければ全くの無害な存在です。放っておいてくだされば良いのです。そうすればあなた様のお仕事も減り、私の惰眠も捗る。
インタビュアー: 強大な能力を保有しているという時点で君は大変な脅威だ。我々には超常的な脅威を収容する義務がある。
SCP-1210-JP: 私には自宅を守護する義務があります。あなた様も仕事など下らないことをしていないで、唯一神「母」を崇拝しましょう。さすれば「母」の加護により永遠に養われ、働く必要が無くなります。
インタビュアー: 君みたいなのがいるから私の仕事があるんだ。君が投降してくれるのなら、それも早く済むのだがね。
SCP-1210-JP: この聖域から私が離れることはありません。私には自宅を守護する義務があるのです。
インタビュアー: 投降する気はないようだな。では、幾つか君に質問をしたい。我々の間には何か誤解があって、それのせいで平和的な解決方法を見逃しているのかもしれない。君の目的はなんだね。
SCP-1210-JP: 惰眠と横着に満ちたこの聖域を守護することでございます。
インタビュアー: 拠点の防衛ということだな。君は強大な能力を保有しているようだが、どのようにしてそれを習得したんだね。
SCP-1210-JP: 「母」より寵愛を賜っているのです。見放されぬよう、愛に報いなければ。
[通話が切断される]
《記録終了》
記録文書:1210-JP/初期回収プロトコル — 日付:20██/08/11
1210-JP/初期回収プロトコルが三上博士の指揮のもと、現実改変能力者対応機動部隊によって遂行されました。目標であったSCP-1210-JPは問題なく回収され、現在はサイト-8181に収容されています。
回収の際、SCP-1210-JPは機動部隊員らによってエリア-1210-JP圏外に運び出されたと同時に、脳機能に重度の障害を発生させました。この脳機能の不全から、現在のSCP-1210-JPからは日常生活能力/コミュニケーション能力が失われています。加えて、脳部分からは現実改変効果の痕跡である内部現実性濃度の微細な変動性が確認されました。SCP-1210-JPが何者かの現実改変を受けていた可能性があります。
収容後の検査によりSCP-1210-JPは、保有する内外現実性濃度が正常値であり、自力にて現実改変能力が発揮できない状態であることが判明しました。
収容後の調査の結果、エリア-1210-JP内の空間現実性濃度は0.6 Hmと低い数値を維持していることが判明しました。これにより、エリア-1210-JPはクラスCの現実性希薄領域に分類され、SCP-1210-JPが根源と思われていた全ての現実改変は、エリア-1210-JPにSCP-1210-JPの表層意識が介入したことによって発生したものと結論付けられました。
今回のSCP-1210-JPの攻撃的行動の起源/目的は未だはっきりしていませんが、現在は現実改変能力を自覚したことによる誇大妄想及び精神異常であったと考えられています。
追記1: 更なる調査の結果、エリア-1210-JPの構造体である壁/天井/床面の内部現実性濃度は4.5 Hmと高い数値を維持しており、エリア-1210-JP内の現実性希薄の影響によって引き起こされる現実改変の効果流は、その壁/天井/床面を起点としていることが分かりました。
追記2: 斉藤██氏の身元を調査した結果、その母親に該当する人物が亡くなってから現在までの約4年の期間、個人の収入がなく、何処からも金銭的な援助や扶助も受けていなかったことが判明しました。手持ちの資産を生活費に転じた形跡も発見されておらず、斉藤██氏が現実改変を生活に用いていた可能性が示唆されています。
追記3: 斉藤██氏のSNS上の活動履歴を参照した結果、斉藤██氏は東京都江東区にて行われる規模の大きいイベントに、オリジナルのキャラクターの扮装を施して参加する計画を立てていたことが判明しました。そのキャラクターの容姿や設定が、収容以前のSCP-1210-JPの特徴とほぼ一致していることから、異常性の起源と何かしらの関連があると考えられています。
追記4:
研究者提言: エリア-1210-JPを現実性希薄領域に分類するには、余りにも例外的な要素を多く含みます。私はあれを無生物の現実改変オブジェクト(知性を持たないため自発的に現実改変能力を発揮することはなく、内部に存在する人間の表層意識を頼りに改変を行うもの)と認識すべきであると考えます。
また、SCP-1210-JPの攻撃的行動の起源調査においては、エリア-1210-JPにて改変の切欠となった人物が、その改変の対象となるか否かが重要であると思われます。
典型的な現実性希薄領域における現実改変の効果流の起点は、改変の切欠となったその人物の身体です。現実改変の強度は、改変の起点となるものの内部現実性濃度に強く依存します。内部現実性濃度は現実改変の耐性力としても働きますから、理論上、改変者が自分自身を改変させるほどの改変強度を発揮することは基本的にできません。
エリア-1210-JPの場合、改変の起点は改変の切欠となった人物の身体ではありませんでしたし、加えて、起点となる部分の内部現実性濃度は水準よりも遥かに高い数値でした。つまり、エリア-1210-JPで引き起こされる現実改変は、改変の切欠となった人物も対象とする公算があるのです。
斉藤██氏はコスプレの催しに参加する計画を立てていました。斉藤██氏が、エリア-1210-JPで扮装の練習をしていたとしたら、「架空の人物になりきる」という斉藤██氏の表層意識に反応して、エリア-1210-JPが現実改変能力を発揮した可能性も考えられます。
以上の点から、現実性異常対応部門監督下でのエリア-1210-JPを用いた実験を推奨します。
- 土橋博士 現実性異常対応部門上級研究員
現実性異常対応部門の要請により、エリア-1210-JPにて幾度かの実験が行われました。いずれの実験でも上記の仮説の実現性を示す結果が得られたため、エリア-1210-JPは現実性希薄領域のカテゴリーから外され、無生物の現実改変オブジェクトとして再識別されました。
現実性異常対応部門から、初期回収時に見られたSCP-1210-JPの脳機能不全の生じ方は、動作原理を理解されずに現実改変によって変異した物体が、現実性希薄領域を脱した際に見せる動作不良のそれと類似しているとの指摘がありました。これらを鑑みるに、発見の時点でSCP-1210-JPは自分自身の精神(脳の物理的状態)を無意識のうちに改変してしまっており、エリア-1210-JPから脱すると同時に脳機能不全に陥る状態にあったのだろうと考えられています。
自宅守護神とやらは、自宅を守っていたのではなく、自宅に守られていたのだ。-三上博士