クレジット
タイトル: SCP-1230-JP - 筆折りのペン
著者: ©︎
Mitan
作成年: 2018
アイテム番号: SCP-1230-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1230-JPは感圧センサーを設置した低脅威度収容物保管庫に収容されています。定期使用時および実験時を除いて収容庫は施錠してください。SCP-1230-JPを用いた実験はクリアランスレベル4以上の職員による許可が必要です。SCP-1230-JPによる外部への転移を防止するため15日に一度の頻度で担当に割り当てられたDクラス職員にSCP-1230-JPを使用させてください。SCP-1230-JPの収容違反が認められた場合、機動部隊と-2-情報捜索統括部隊("鬣犬-斑")による広域捜査を実施してください。
説明: SCP-1230-JPは█████社製の万年筆です。SCP-1230-JPは使用者とSCP-1230-JPを用いて行われた執筆、描画などの情報に対して異常な影響を及ぼします。
使用者がSCP-1230-JPを用いて完成させた作成物は情報受容者に対して認識災害を引き起こし、内容に関わらず必ず一定以上の肯定的な評価を受けます。この作成された情報への認識災害の付与はSCP-1230-JPを用いて完成された最初の創作物に限定され、以降に作成された創作物にこの異常性は反映されません。この認識災害を付与された全ての情報はSCP-1230-JP-1に分類されます。
SCP-1230-JP-1の完成以降に対象が執筆や描画それに準ずる活動を行った場合、使用者の完成させた全ては強力な認識災害誘発因子を含みます。これら作成物はSCP-1230-JP-2に指定され、使用者はSCP-1230-JPの使用の有無に関わらず一切の他者からの肯定的な評価を得ることが出来なくなります。これにより使用者は反社会性パーソナリティー障害や躁鬱病、強迫性障害等の精神障害を発症することが多く、自殺や反社会的行動に及ぶ例も確認されています。
SCP-1230-JP-2の影響は永続的なものであり使用者への記憶処理やSCP-1230-JP-2への認識災害誘発因子除去の試みも失敗しています。SCP-1230-JP-1、SCP-1230-JP-2の影響を除去するには情報受容者が認識不能なほどに情報を欠落させる事が有効ですが、使用者からSCP-1230-JP-2生成能を取り除く方法は発見されていません。
SCP-1230-JPは使用者が存在しない状態、又は使用されない状態が15~20日以上継続するとその場から転移します。転移のプロセスは不明ですがSCP-1230-JPの転移は瞬間的に消失、別地点に再出現することで行われます。確認されている転移先までの距離は消失地点を基準として半径19.3m~3954kmです。新たな出現先としては何らかの形で執筆、描画が行われる施設や個人の生活拠点が対象となる傾向にあります。
補遺1: SCP-1230-JPの異常性の解明を目的とする実験が行われています。以下は過去に実施された実験の記録です。
実験記録-1230-JP-1
日付: 1999/3/22
対象: D-1230-JP-4
方法: SCP-1230-JPを用いて自由にSCP-1230-JP-1を作成させる。
結果: D-1230-JP-4は前日の事を記した197文字の日記を執筆した。日記の内容を無作為に抽出した10名のDクラス職員に評価させたところ全員が肯定的な意見を示した。
実験記録-1230-JP-2
日付: 1999/3/22
対象: D-1230-JP-4
方法: SCP-1230-JPを用いて自由にSCP-1230-JP-2を作成させる。
結果: D-1230-JP-4は実験当日の事を記した287文字の日記を執筆した。日記の内容を無作為に抽出した10名のDクラス職員に評価させたところ全員が明確に否定的な意見を示した
実験記録-1230-JP-3
日付: 1999/3/23
対象: D-1230-JP-5
方法: SCP-1230-JPを用いて既存の詩文と全く同様の文章を視写させる。
結果: D-1230-JP-5はSCP-1230-JP-1を作成した。事前のテストで実験に用いた詩文に対し否定的意見を有している事が確認されているDクラス職員10名に評価させたところ、10名全員が否定的な意見を示した。その後D-1230-JP-5が視写した旨を伝えたところ従来の意見を撤回、肯定的な意見を示した。
実験記録-1230-JP-4
日付: 1999/3/25
対象: D-1230-JP-5
方法: SCP-1230-JPを用いて既存の詩文と全く同様の文章を視写させる。
結果: D-1230-JP-5はSCP-1230-JP-2を作成した。事前のテストで実験に用いた詩文に対し肯定的意見を有している事が確認されているDクラス職員10名に評価させたところ、10名全員が肯定的な意見を示した。その後D-1230-JP-5が視写した旨を伝えたところ従来の意見を撤回、否定的な意見又は嫌悪感を示した。
実験記録-1230-JP-5
日付: 1999/3/29
対象: D-1230-JP-9
方法: SCP-1230-JPを用いて文字を伴わない絵画を複数作成させる。
結果: 1枚目に描画された絵画はSCP-1230-JP-1と同様の性質を示した。2枚目以降はSCP-1230-JP-2と同様に否定的な評価を受けたが、1枚目と比較した際に絵画の出来に目立った差異は見られなかった。
実験記録-1230-JP-6
日付: 2000/9/11
対象: D-1230-JP-14
方法: SCP-1230-JP-2に指定された文書を視写させることでSCP-1230-JP-1を作成する。
結果: 視写された文書は当初SCP-1230-JP-2としての影響を有していたものの、D-1230-JP-14が視写したと認識した対象にのみSCP-1230-JP-1の影響が現れた。
補遺2: SCP-1230-JPは著名な作家として知られる█████氏の自宅から発見されました。当時、█████氏は自宅で練炭心中を図っており警察による調査の過程で氏の遺書からSCP-1230-JPの存在が浮上しました。警察内部に潜入していたエージェントによりオブジェクトは回収され、関係者には記憶処理が施されました。氏の遺書(アーカイブ-1230-JP-0355)にはSCP-1230-JPに関する独自の考察等が含まれていました。遺書からの抜粋は以下の通りです。
(省略)
私はあの小説を書き上げた時、些か自分ではその出来に納得していなかったのです。ですが佐々木さんや妻はあの小説を大層面白がっていたわけですから私はあの小説は売れるべくして売れているのだと、そう思い込むことでこの疑念を克服しました。
しかし、それ以降の私の作品はまるで駄目でした。私がいくら面白いと思って書いても誰も評価してくれなくなっていたのです。私はそれなりに有名でしたし連載を持っていたものですから編集部の方は渋々私の作品を掲載してくださいましたが、読者からの反応は今までに経験したことが無いくらいに最悪なものでした。これまでに失敗を経験していない訳ではありませんでしたが、それでもいつも多少は評価をしてくれる人が必ずどこかにいたはずなのです。ですが、この時に関してはいくら探してもそんな意見は見当たりませんでした。
次も、その次も、私の作品はあの小説以降死んでしまいました。私はノイローゼになったと偽る事で仕事を休み、ペンを片手に作品を蘇生させようと訓練を重ねる日々を送りました。名前を伏せ、新人として匿名で出版社に送りつけたりもしました。しかしながら、やはり私の作品は私の手元を離れた途端に死んでしまうのです。私の手元ではあんなに輝いていた作品は、他者の目に入った瞬間に枯れてしまうのです。いよいよ生活が苦しくなった私は仕方なく仕事を再開しましたが、仕事は少しずつ減っていき、とうとう一昨年には最後の一本の連載を打ち切られてしまいました。それから私は本当にノイローゼとなってしまいました。日々自室に籠り、ペンを握っては意味もなく小説を書いたりしていました。
ある時、妻は私の書いた簡単なメモ書きを見てメモの内容が気に入らないと言って漏らしていました。何が気に入らないのかと聞いたところ、彼女はわからないと言いました。私はチラシの裏に適当にぐるぐるとペン先を走らせたものを妻と娘に見せてみました。結果は同じ、彼女らは一様に気持ち悪いと言いました。
(中略)
私はきっと寿命を使い果たしたのでしょう。あの日、私のもとに現れたペンは私の執筆家としての寿命を全てあの小説に発散してしまったのでしょう。あのペンは悪魔かなにかで私はそれと気がつかぬ内に契約してしまったのでしょう。私は書きたい物さえ書ければ良いと、そう思って書き続けていました。ですが、多分どこかで認められたいと、評価してほしいと思い続けていたのでしょう。だから、ペンが私を見つけて私の元に現れたのです。ペンが私の全てを消費して私が評価されるように仕向けたのです。
ですが、あの小説は私の納得できる物ではありませんでした。私は、悪魔の使い方を間違えたのです。これは書きたい事を書いていると自分に言い聞かせ、私自身を騙していた私への罰なのです。
私はこの悪魔から、自身の罰から死することで逃れます。昨晩妻に打ち明け、妻も私に付き添うと言ってくれました。聡子は眠っている間に一足先に逝かせました。これから私と妻も旅立ちます。これを読んでいるあなたはこれを狂人の戯れ言だと思うでしょう。当然です。この文章も枯れているのですから。私は自分の遺書さえも死なせてしまうのです。私の全てはあの小説を完成させた時にとっくに終わっていたのです。
(以下は重要度が低いため割愛)
氏の自宅から回収された文書のうち6972点はSCP-1230-JP-2と同様の性質を有している事が確認されています。遺書を含むこれらはアーカイブとしてSCP-1230-JP-2に分類され保管されています。
ページリビジョン: 8, 最終更新: 10 Jan 2021 17:24