アイテム番号: SCP-1256-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1256-JPは内部の水を完全に抜いた状態で、サイト-81██の収容倉庫内に保管されます。SCP-1256-JPを用いた検証/実験を行う場合、特殊試行時でない限りは、被験者に酸素ボンベ及び潜水服を装備させた上で睡眠を行わせてください。その際、必要に応じて被験者へ適量の睡眠薬/安定剤を投薬することが許可されます。
説明: SCP-1256-JPは20██年に████社から発売された、全長2.15mのシングルサイズ・ウォーターベッドです。後述する異常性を有する点を除けば、同型のウォーターベッドとの構造/構成上の差異は確認できません。
内部へと完全に注水されている状態で使用され、一定時間以上の断続的な睡眠1が行われた場合、SCP-1256-JPはその使用者(以下、被験者)に対して異常特性を発揮します。影響下に置かれた被験者は、徐々にSCP-1256-JPの内側へと向かって沈み込み始めます。この降下現象によるSCP-1256-JPへの破壊/損傷は一切発生せず、降下して行く被験者の引き上げには成功しません。
完全にSCP-1256-JP内部へと降下した被験者は、即座にその内部から消失します。この消失中、被験者に取り付けられていたGPS装置は、日本沿岸部から100km以上離れた海域の不特定位置座標を示し続けます。ここから更に20~30分程度が経過した時点で、被験者はSCP-1256-JP内部へと再出現し、徐々に上部へと浮上します。
この時、被験者の大半は溺死2した状態でSCP-1256-JP上へと帰還します。この状態にもかかわらず、各被験者の表情からは窒息等に由来する苦痛の様子は見受けられず、一貫して消失前の睡眠中と同じ表情が維持されています。また、司法解剖の結果、各被験者の肺が海水で満たされていた事実も確認されています。それに加え、肺に残されていた海水の成分と、各被験者の転移位置座標として示された各海域の海水成分がそれぞれ一致したことから、消失中の被験者は実際に海中へと転移されていると結論付けられています。
SCP-1256-JPは20██/08/26、京都府京都市██区████で発生した室内での異常な溺死事件を調査した際に発見、回収されました。更なる調査の結果、SCP-1256-JPは被害者である██氏が事件の5日前、ネットオークションサイトより購入した物品であったことが判明しています。その一方で、SCP-1256-JPを出品した人物を特定する試みは成功していません。
追記1: 20██/10/19に実施されたSCP-1256-JPの検証/実験において、被験者は日本沿岸部から███km離れた日本海上の位置座標へと転移されました。同時刻、近海にはSCPS"エヴァネッセント"が停泊中であったことから、一時的に同船が転移後の被験者の初観測/回収試行の任に就きました。
この3分後、同船は被験者の位置座標から1km手前にまで接近しました。しかし、距離が1kmを過ぎた時点から、船内において一部計器の異常、周辺海域の現実性濃度3の低下等の現象が観測され始めました。この状況を受け、被験者の回収試行が中止されるとともに、同船は速やかに低現実性濃度領域より離脱、被験者の観測試行のみがドローンを用いて継続実施されました。
ドローンが被験者から500mの地点に到着した際、同機の望遠カメラは所属不明の大型漁船(以下、SCP-1256-JP-α)の不鮮明な外観を捉えました。この時、SCP-1256-JP-αの姿形は低現実性濃度領域外から観測できておらず、各自動観測機器も同地点には船舶が存在しないとする解析結果を示すのみでした。また、ドローンの映像からは、SCP-1256-JP-αの船上で複数の人型実体が動き回る様子に加え、被験者が仰向けに寝かされていることも確認されました。その一方で、低現実性濃度領域による搭載機器への影響から、これ以上の接近ができず、更に映像のノイズのために各実体の詳細な外見・状態を識別するには至りませんでした。
観測開始から9分後、寝かされていた被験者は3体の実体に抱えられると、そのまま海へと投下されました。投下完了後、SCP-1256-JP-αは運航を開始し、100m程度前進した時点で映像が途絶えました4。また、映像の途絶から5分後に低現実性濃度領域は消滅し、それに同期する形でSCP-1256-JP内部には被験者が溺死した状態で再出現しました。
追記2: 20██/11/02、被験者の身体への影響及びSCP-1256-JP-αの更なる情報獲得を目的として、被験者に酸素ボンベと潜水服を装備させた上でSCP-1256-JPの検証/実験が行われました。この検証/実験の結果、転移後の被験者を生存した状態で帰還させることに成功しました。それに加え、睡眠から覚醒した被験者は、自身が「海と船」に関連する夢を経験したことを報告しました。以下は、上記の夢に関するインタビューからの抜粋ログです。
インタビューログ1256-JP - 日付 20██/11/02
対象: D-81125605
インタビュアー: 看得研究員
付記: 上記の検証/実験以降、被験者は軽度の不眠症状を訴えている点に留意ください。
<記録開始, 20██/11/02>
研究員: それでは、貴方が経験した夢についてお聞かせください。
被験者: 分かりました。まず最初、夢の中で気が付いた私は、何をするでもなく海の上に浮かんで波に揺られていました。そんな状況なのに恐怖や不安感もなく、ただそのままボーっとしていたら、いつの間にか船が近付いて来ていて。
研究員: 船とは、こちらでしょうか?
被験者にSCP-1256-JP-αの資料写真を見せる
被験者: 細かくは覚えていませんが、こんな感じの船だったと思います。確か、如何にも古そうな船だな、と暫く見つめていて。そうしていたら乗組員が私に気付いたようで、私はいつの間にか船の上へと引き上げられていました。
研究員: 乗組員たちがどのような外見、容姿であったのか覚えてはいますか?
被験者: 服装は全員が同じで、漁師が着ているレインコートみたいな格好でした。その格好のせいもあって、顔や身体の特徴に関してはあまり。
研究員: 分かりました、続けてください。
被験者: えっと、船に引き上げられてからのことですよね。まず、乗組員たちは私が着ていた潜水服を脱がせると、ストーブの傍に座らせて、何かのスープを振舞ってくれました。彼らは私を歓迎してくれていたようで、夢の中の私はただ漠然と安心感や喜びを覚えていた気がします。それから、彼らは同じレインコートをくれて、私は何も考えずにそれを身に着けました。
研究員: その際に、何らかの違和感や不信感などは抱きませんでしたか?
被験者: いえ、何も。夢から醒めるまでの間、ずっと安心を感じていました。むしろ、現実よりも活力に溢れていたというか、妙に自分に自信を持っていた気すらします。ただ、そのあとに彼らの仕事を手伝うことになったのですが、その仕事というのが目覚めた後から考えれば奇妙だったとは。
研究員: 奇妙とは?
被験者: その、船上に、私がもう1人いたんです。さっきまでの潜水服を着ていて、仰向けで寝かされたままの私が。乗組員たちは、もう必要のないものだから海に帰さなければならないと言っていました。それを聞いた私は、なぜか何も違和感を抱かず、むしろ、"ああ、これはいらないものなんだな。確かに、よく見ればこの私に比べて少しみすぼらしいじゃないか"なんて思ってしまったりで。
数秒間沈黙
被験者: そしてそのまま、彼らと一緒に潜水服の私を海へと投げ落としました。それから船が動き出したので、何故だか不思議と嬉しくなって海を眺めていたら、いつの間にか目が醒めていました。夢の内容は以上です。
研究員: ありがとうございました。それと最後に、前回の実験以降、不眠症のほかに心身への異常はありませんか?
被験者: 実は、その不眠症なんですが、寝ているときに"夢を見られなくなった"のが原因なんです。
研究員: 単に記憶していないわけではなく、夢を見られなくなった、ですか。
被験者: えっと、そうですね。覚えていないとかではなくて、何も夢を見ていないと分かるんです。寝ようとしてベッドで目を瞑り、次に目を開けた瞬間には朝になっている。そんな嫌な感覚が、最近ずっと続いていて。
研究員: 心理的な影響かもしれません。一先ず、検査へと回してみましょう。他はお変わりありませんか?
被験者: 他は大丈夫です。ただ、こんな状態だからかもしれませんが、何故だか"夢の中で船に乗っていた自分はあの後どうなったのだろう"と、そんなことばかり考えてしまうんです。あの船は、一体どこへ向かっていたんだろう。あんなにも楽しそうに、嬉しそうに笑っていた自分は、一体どこへと向かうはずだったんだろう、と。
被験者は深く溜め息を吐く
被験者: こんなことなら、もう少しくらい長く眠っていられれば良かったのに。
<記録終了, 20██/11/02>
終了報告書: このインタビュー後、複数に亘って同様の検証/実験試行が行われましたが、全てのケースにおいて酷似した「海と船」に関する夢見の経験が被験者より報告されました。また、同様に全ての被験者が実験以降に「夢を見られなくなった」と主張しており、各関連性についての調査が継続されています。