
SCP-1258-JP-Aのホロタイプ
(財団海洋生物標本館所蔵標本)
アイテム番号: SCP-1258-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: 捕獲したSCP-1258-JPは低危険度生物収容槽に収容してください。収容槽内の環境設定およびSCP-1258-JPへの給餌は添付資料『SCP-1258-JP: 推奨される飼育条件および感電防止策』に準じて行ってください。
汎世界的に分布するSCP-1258-JPの莫大な個体数、および大規模な収容が水圏の生態系に及ぼす影響を考慮し、SCP-1258-JPの一括的な収容計画は現時点では検討されていません。
説明: SCP-1258-JPは異常な性質を示す発電魚の総称です。SCP-1258-JPの体内では非異常性の発電魚と同様に、筋肉組織から分化した多数の電気細胞(electrocyte)がゼラチン状の物質を挟んで整列することで1本の電気柱(prism)を形成し、これが集積して発電器を形成しています。
SCP-1258-JPの異常性は放電時に発現し、しばしば周囲の海水または淡水の電気伝導度が未知の要因によって極度に増加します。電気伝導度の急激な増加はSCP-1258-JP個体を起点とした直線上の水域に発生し、最短で33m、最長で99kmまでの範囲に影響が及ぶことが報告されています。
自然下の生息地から収容槽に移送された個体には、上記の異常性が発現しなくなることが明らかとなっています。SCP-1258-JP飼育個体が異常性を喪失する原因について財団魚類学部門による機能解剖学的研究が進行中です。
また、SCP-1258-JPの表皮には結節型の電気受容器が広く分布しており、他の動物が発する微弱な生物電気を感知することができると考えられています。
SCP-1258-JPには複数の分類群1に属する8種(SCP-1258-JP-A~-Hに指定)が含まれます。8種ともごく近年までは非異常性の近縁種と同種とされていました。しかし、世界各地の水圏で観測される原因不明の電気伝導度の変動の起点が発電魚であることを示唆した財団魚類学部門は、その後の分類学的研究により、現在知られている8種のSCP-1258-JPの存在を見出しました。SCP-1258-JPはいずれの種も形態学的な特徴から近縁種と区別することが可能です2。アイテム番号 | 分類 | 分布域 | 発電器の位置 | 起電力 |
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SCP-1258-JP-A | Torpedinidae・Tetronarce3 | 西太平洋 | 体盤 | 50~60V |
SCP-1258-JP-B | Rajidae4・Raja | インド洋 | 尾部 | 1V未満 |
SCP-1258-JP-C | Mormyridae・Gnathonemus | アフリカの淡水 | 尾柄 | 1V未満 |
SCP-1258-JP-D | Gymnarchidae・Gymnarchus | アフリカの淡水 | 尾部 | 1V未満 |
SCP-1258-JP-E | Malapteruridae・Malapterurus5 | アフリカの淡水 | 胴部 | 300~450V |
SCP-1258-JP-F | Gymnotidae・Electrophorus6 | 南米の淡水 | 胴部~尾部 | 500~600V |
SCP-1258-JP-G | Gymnotidae・Gymnotus | 南米の淡水 | 臀鰭基底 | 1V未満 |
SCP-1258-JP-H | Uranoscopidae7・Astroscopus | 西大西洋 | 眼後部 | 5V |
補遺1: SCP-1258-JPが示す異常性の機能について行動生物学的側面から考察した論文が、███博士によって発表されました。以下はその概要です。
SCP-1258-JP-F野生個体の行動,および異常性の機能に与える示唆
目的: これまでSCP-1258-JPの異常性が果たす役割については,捕食者からの防御,餌動物への攻撃,周辺の探査など,複数の仮説が提示されてきた.しかし,いずれも野生個体の行動観察に基づいた研究ではない.そこで本研究では,野生下でのSCP-1258-JPに対して詳細な行動観察を行い,その異常性が果たす機能についての考察を行った.
材料と方法: 南米アマゾン川の自然生息地においてSCP-1258-JP-F野生個体を捕獲し,放電を感知・記録する装置を搭載したデータロガーを背部に装着したのちに放流した.個体周囲の電気伝導度変動の計測は塩分計を改造したものを用い・・・(略)
結果: 行動を追跡した個体はメガネカイマンからの防御,餌とする魚類への攻撃の際に高電圧で放電した.またしばしば微弱な電気を発しており,濁った川の中で周辺の探査を行っていると考えられる.しかし,防御,攻撃,探査のいずれの行動にともなう放電に際しても電気伝導度の増加は観測されず,異常性をともなう放電はランダムに生じていた.電気伝導度の変動が生じた際,データロガーを装着している各個体の位置情報を照合した結果,いずれの場合でも,放電したSCP-1258-JP-F個体を起点とした線状の伝導度異常水域の先端に他のSCP-1258-JP-F個体が存在していたことが明らかとなった.すなわち,SCP-1258-JP-Fの異常性をともなう放電は他個体へ指向されている様子が確認された.また放電を受けた側の個体は,これに応答するように放電し返していることがデータロガーの記録から確認できた.
考察: 本研究の結果は,SCP-1258-JPの異常性が他個体とのコミュニケーション手段として機能していることを示唆するものである.どのような機序で周囲の電気伝導度を変化させているのかは依然として不明であるが,遠距離に存在している他個体へ向け放電することで,天敵の出現などの情報を伝達している可能性がある.この仮説は,SCP-1258-JPが極めて微弱な生物電気でも感知できることによっても裏付けられる.
補遺2: ███博士の仮説を検証した寺本研究員から、この説に対して異論が提唱されました。以下は寺本研究員の論文の概要です。
SCP-1258-JPコミュニケーション仮説の再評価
目的: 先行研究において,SCP-1258-JPの異常性が他個体とのコミュニケーションに用いられている可能性が提示された.しかし,███博士が行った実験は,捕獲した個体にデータロガーを取り付け放流するというもので,個体の行動に与える影響が完全には排除できない.また,対象種はSCP-1258-JP-Fのみであり,用いた個体数は7匹とやや少ない点も指摘されている.そこで本研究では,SCP-1258-JPの異常性の機能に対して示されたコミュニケーション仮説を,最新の研究設備を用いて再評価した.
材料と方法: 追跡機能と種同定AIを搭載した極小型水中無人探査機(AUV)約1500機をSCP-1258-JPが生息している西太平洋,インド洋,西大西洋,アフリカ・南米の河川の300ヶ所で放流した。AUVは自律的に行動し,SCP-1258-JP個体を発見するとただちに追跡を開始するようプログラムされている.AUVのサイズは同地に生息する小型魚類と同大またはそれ以下の大きさであり,追跡目標の行動に及ぼす影響は十分に排除することができる.また,・・・(略)
結果: ████個体の追跡に成功し,合計14000時間以上の映像記録および詳細な行動履歴を得ることができた.解析の結果,先行研究では指摘されてこなかった特異な行動が確認された.
AUV-27は全長約140mmのSCP-1258-JP-Bの未成魚を発見し,追跡を開始した.約7時間後,当該個体は大型の魚類に捕食された.捕食される際に放電が記録されたが,異常性をともなわない通常の放電であった.
AUV-10は水中の岩陰に潜んでいる全長約130mmのSCP-1258-JP-Gを発見した.約3時間後,当該個体はSCP-1258-JP-Fに捕食された.当該個体は終始岩陰に潜んでいたが,捕食される30秒前に異常性が発現した.付近を通りかかったSCP-1258-JP-Fに向けて放電を行ったと考えられる.
考察: 新知見として,他個体へ指向される異常な放電が,異なる種のSCP-1258-JP個体間でも生じていることが示された.また,本研究の結果は先行研究が示してきたコミュニケーション仮説に再考を促すものである.SCP-1258-JPの異常性が個体間のコミュニケーションに用いられているならば,AUV-27が追跡した個体は天敵に襲われた際になんらかの警報を発するはずである.さらには,AUV-10が追跡した個体は,岩陰に隠れることができていたにもかかわらず異常性を発現して,自らの隠れ場所を天敵である他種のSCP-1258-JPに暴露してしまっている.