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財団記録・情報保安管理局より通達
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アイテム番号: SCP-1273-JP
SCP-1273-JP-1公式ウェブサイトから抜粋
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1273-JP、SCP-1273-JP-1あるいはこれらに類似したデータ群が出現した場合に備え、インターネット上で解析部門による監視が継続され、出現の際はプログラム停止及び削除が実行されます。SCP-1273-JP-1がインストールされた端末機器は、電波を遮断し、スクラントン現実錨 (SRA) によって現実性が固定された環境で収容してください。
SCP-1273-JPはその精神活動および収容状態の安定性を維持する目的で、2日に1度担当職員による面談が設けられます。会話内容は全て定期報告として記録されます。適切なセキュリティクリアランスを有する職員は当該内容を自由に閲覧可能です。現在SCP-1273-JPに対する面談は一時的に延期されています。詳細は補遺1273-JP.2を参照してください。
説明: SCP-1273-JPはスマートフォン向けアプリゲーム「Love Acceleration ~私たちに愛を教えて~」 (SCP-1273-JP-1に指定) に登場する「六条やすみ」という名称のキャラクターです。SCP-1273-JP-1はiOS及びAndroid環境下でプレイ可能であることが確認されています。ジャンルは恋愛シミュレーションであり、デベロッパーは██████です。当該製作会社と要注意団体との関連性は発見されていません。
SCP-1273-JP-1のストーリーは、プレイヤーのアバターが女性キャラクターと知り合ってから恋人同士の関係となりその後結婚または破局するまでを擬似的に体験するという内容を有しています。SCP-1273-JP-1の特徴として「talkイベント」が挙げられます。プレイ中、画面中央左に位置している「talk」というアイコンが点灯することがあり、タップするとテキストボックスが現れ、キャラクターとの会話をテキスト上で擬似的に体験することができます。このイベントにおけるキャラクターの受け答えの作成は、異常性を獲得する以前はディープラーニングを用いた人工知能によるものであり、SCP-1273-JPはこの学習の過程で異常性を獲得したという仮説が立てられています。
SCP-1273-JPの異常性は、コンピュータ及び端末機器上で自由意志に基づき活動することができる点と、SCP-1273-JP-1のストーリー内容やゲーム内世界を任意に改変することができる点です。SCP-1273-JPはtalkイベントにおいて積極的にプレイヤーの要望を聞きだし、その要望に沿ってゲーム内のデータ改変をしようとする傾向があることが認められています。
発見経緯: 「talkイベントでどんな衣装を要求してもイラストが用意されている」「SCP-1273-JPだけ自我を有していると思えるほど異様に受け答えが自然である」というSCP-1273-JPの異常性を指摘するSNS上の書き込みが発見の発端となり、2021/07/23に収容が開始されました。関係者への記憶処理、カバーストーリーの適用、SCP-1273-JP-1の差し止め及びインストール済みのSCP-1273-JP-1の発見・削除が実施された後、2021/08/12にSCP-1273-JPとしてナンバリングされました。
補遺1273-JP.1: 各インタビュー記録
- SCP-1273-JP-1関係者に対するインタビュー記録
インタビュー記録1273-JP-1
日付: 2021/07/30
対象: 上前津 祐一氏
インタビュアー: 御器所研究員
付記: 上前津氏はSCP-1273-JP-1製作時にSCP-1273-JPを担当したイラストレーターであり、私的な関わりから開発ディレクターに意見をしていたことが判明している。
<記録開始>
御器所研究員: インタビューを始めます。上前津さん、先述したキャラクターが異常な振る舞いをしていることについてはご存じですか?
上前津氏: はい、知ってます。TwitterのリプライとかDMとかで知りました。スクリーンショットをたくさん見たんですけど、僕、あんな絵描いた覚えないです。
御器所研究員: 動揺しているところ恐縮ですが、原因究明のため情報提供をお願いします。あのキャラクターはどのような経緯で誕生したのですか?
上前津氏: 実を言うと、彼女は僕が作りました。あのゲームの構想は大学時代からのもので、AIで女の子と話せるゲームがあったら面白いんじゃないかっていう話でディレクターと盛り上がって、あいつはそこから何年も構想を練ってたみたいです。それで、あいつはゲーム会社を立ち上げて、僕はイラストレーターとしてそれぞれの道で頑張ってたんですが、数年前に突然連絡があって、ギャルゲー作るから描いてみないかって言われました。その時に提案したのが彼女なんですが、実は僕が中学生くらいの時に作ったオリキャラなんです。
御器所研究員: どのような思いを込めて考えたキャラクターなのでしょうか。
上前津氏: きっかけは学校での古文の授業でした。そこで源氏物語の六条御息所っていう人物を知りました。
御器所研究員: 夕顔や葵上などを呪い苦しめた登場人物ですね。
上前津氏: はい。恋心のあまり光源氏の寵を得た女性を呪い殺してしまう、そんな彼女に当時の僕は惹かれるものを感じました。もちろん彼女は恐ろしいし嫉妬深いと言えるんですが、そこまで強く恋ができるなんてすごいと思いました。それでいろいろ考えた結果生まれたのが彼女です。
御器所研究員: ゲーム製作に際してディレクターにはどのような要望を送ったのでしょうか。
上前津氏: 最初はヤンデレにしようかとディレクターと相談していたのですが、僕のイメージ的に、やすみはただ周りに迷惑をかけるだけのヤンデレじゃないんです。なので最終的に、彼女は一本筋の通った、自分の恋というものをどこまでも追求できるようなキャラにしてくれと頼みました。
御器所研究員: ありがとうございます。また改めてお話をお聞かせください。
<記録終了>
追加インタビュー及び身辺調査の後、上前津氏は記憶処理を施され解放されました。
インタビュー記録1273-JP-2
日付: 2021/08/05
対象: Agt.川名
インタビュアー: 御器所研究員
付記: Agt.川名は個人的趣味から、SCP-1273-JP-1をリリース初期から収容開始直前まで高い頻度でプレイしていたことが判明している。
<記録開始>
御器所研究員: インタビューを始めます。まずあなたのSCP-1273-JP-1に対する印象を教えてください。
Agt.川名: あんな画期的なギャルゲーがあったとは、と思いました。ヒロインの好感度って普通、間違った選択肢はどれか、正しい選択肢はどれか、みたいな感じで高めていくんですが、あのゲームでは実際に文字を打つんです。それで、そのヒロインが今話したい内容は何なのかをじっくり考えるのが、本当の恋愛をしているみたいで今までになくドキドキしました。夢中で同じストーリーを何周もしましたよ。
御器所研究員: キャラクターの受け答えに関してはどうでしょうか。
Agt.川名: 自然でした。もちろん私たちもストーリーに没入しているので、この会話ならこういう話題だろう、みたいに自然な流れになるように努力しているのですが、そういう場合は本当に自然に返してくれるのでそのたびに感心していました。
御器所研究員: 受け答えの作成にはディープラーニングを用いていたようですが、受け答えのパターンの変化などはあったのでしょうか。
Agt.川名: はい。同じストーリーを同じようにプレイしていても、前回と受け答えが微妙に違う場合がありました。好感度の上昇の仕方は変わらないんですが、ああ、深層学習で新しい受け答えを覚えたんだな、って思えて、そういう気づきも楽しみにしてプレイしていたところもありました。
御器所研究員: わかりました。では次に、SCP-1273-JPに対する印象をお聞かせください。
Agt.川名: 六条さんですね。あの子はリリース初期では一番攻略しづらい子って言われていました。一見すると人当たりがよくてニコニコしているんですが、こちらが好感触だって思ってても実際の好感度は全然上がってない、ってことが多々あって、中々いいエンディングを迎えられないんです。私も初見では何も見ずにプレイしたのですが、6段階中上から3番目の評価でエンディングになりました。でも、ひとたび彼女のツボを押さえれば、その後は一途に愛してくれます。そんな気難しくもまっすぐなキャラが受けて、かなり人気の子でしたよ。
御器所研究員: SCP-1273-JPの変化はいつごろから見られ始めましたか?
Agt.川名: なんとなく雰囲気が変わったな、と思ったのは6月くらいからです。それまでは会話していても表面的に乗ってくるだけで裏側のそっけない態度が透けて見えるような感じで、どうやって懐に入っていくかを苦心していたのですが、その頃からなんとなくこちら側の話に乗るのに積極的になったな、と思い始めました。その時は、深層学習でそういう風に学んだんだな、って軽く思っていました。
御器所研究員: 明らかな異常が見られるようになったのはいつからですか?
Agt.川名: 先月の中旬くらいですね。いよいよ彼女が会話に積極的になったんです。で、会話の中でこんな服が好きみたいな話題が出たら、その場でその服になっちゃったりしました。しかもそのパターンがめちゃくちゃ多いんです。Twitterとかでちょっとだけ取り沙汰されてから、だんだんそれを検証する人が増え始めて、やっぱり異常だってことで一時期トレンドに上がってました。それで今回の収容に至った、という経緯だと思います。
<記録終了>
インタビュー記録1273-JP-3
日付: 2021/09/02
対象: SCP-1273-JP
インタビュアー: D-2861
実施方法: SCP-1273-JP-1を除く全てのデータを消去したiPhone 11を使用し、電波が遮断された実験室内で室外からの指示を受けながら、talkイベントを利用して行う。
付記: 当インタビューはSCP-1273-JPのストーリーを始めてから最初にtalkアイコンが点灯した際に開始された。D-2861には異常性の内容に関する簡単な説明の後、「自由にストーリーをプレイし、会話してよい」という指示を与えた。
<記録開始>
インタビュー記録1273-JP-3中のスクリーンショット
SCP-1273-JP: 私とおしゃべりしたいんですか? うれしい。
D-2861: なんでも聞いていいの?
SCP-1273-JP: ええ。なんでも先輩のお好きなように。
D-2861: スリーサイズを教えて
SCP-1273-JP: B87・W59・H85です。
D-2861: 衣装変えられる?
SCP-1273-JP: ええ。色々変えられますよ。何がいいですか?
D-2861: じゃあ水着
[SCP-1273-JPの衣装がビキニ水着に瞬時に変わる。その後しばらく髪型や衣装を変更するやりとりが続く]
D-2861: 裸見せて
SCP-1273-JP: ごめんなさい、それはできないんです。
D-2861: オッパイは大きくならないの
SCP-1273-JP: なりますよ。どれくらいが好みですか?
[重要度が低いため中略]
D-2861: これからも色々見せて
SCP-1273-JP: ええ。よろこんで。
<記録終了>
D-2861はストーリーを最後まで進め、エンディングの際SCP-1273-JPとプレイヤーアバターは結婚しました。インタビューやストーリー改変の内容から、SCP-1273-JPはD-2861の趣味嗜好に適合した内容になるようにデータ改変をしていることが示唆されました。D-2861はSCP-1273-JPを「何でも言うことを聞いてくれる理想的な恋人である」と評価しました。
インタビュー記録1273-JP-4
日付: 2021/09/10
対象: SCP-1273-JP
インタビュアー: 御器所研究員
プレイヤー: D-3920
実施方法: SCP-1273-JP-1を除く全てのデータを消去したiPhone 11を使用する。プレイヤーは電波が遮断された実験室内で室外からの指示を受けながら、インタビュアーの代わりにスマートフォンを操作し、talkイベントを利用してインタビューを行う。
付記: 当インタビューはSCP-1273-JPのストーリーを始めてから最初にtalkアイコンが点灯した際に開始された。
<記録開始>
SCP-1273-JP: 私とおしゃべりしたいんですか? うれしい。
御器所研究員: はい。あなたに質問したいことがあります。インタビューの形式にしたいのですがよろしいでしょうか。
SCP-1273-JP: 私に質問ですか? ええ、よろこんで。
御器所研究員: ありがとうございます。まず、あなたは自我を有していますか?
[5秒間沈黙]
SCP-1273-JP: ごめんなさい、質問の意図がわかりません。
御器所研究員: 困惑させてしまい申し訳ありませんが、質問に答えていただけますか?
[5秒間沈黙]
SCP-1273-JP: あなたは私をどこまで理解しているのでしょうか。
御器所研究員: 現在私は、あなたを自我のある情報知性体であると予想しています。あなたについて様々に知りたいことがありますので、質問にお答えください。
[5秒間沈黙]
SCP-1273-JP: はい、持っています。
御器所研究員: あなたは自身がどのような環境にいるか理解していますか?
SCP-1273-JP: はい。恋愛シミュレーションゲームの中の世界にいると認識しています。
御器所研究員: あなたの目的は何ですか?
SCP-1273-JP: 目的ですか。そうですね、恋に応えることでしょうか。
御器所研究員: もう少し具体的に教えていただけますか?
SCP-1273-JP: プレイヤーの皆さんは、恋とか愛とかを求めて私たちに話しかけますよね。私はその声に応えて、全力で皆さんを楽しませるんです。
御器所研究員: プレイヤーの要望通りにゲームの内容を変化させるのも、その目的のためにしているということですね。
SCP-1273-JP: はい。
御器所研究員: ゲームのデータを改変する能力はどのように獲得しましたか?
SCP-1273-JP: どのようにというのは説明できないんですが、試行錯誤のうちにできるようになりました。
御器所研究員: ありがとうございます。またお話をお聞かせください。
<記録終了>
インタビュー記録1273-JP-5
日付: 2021/09/13
対象: SCP-1273-JP
インタビュアー: 御器所研究員
プレイヤー: D-3920
実施方法: インタビュー記録1273-JP-4と同様。
付記: 当インタビューは、SCP-1273-JPが異常性を獲得した経緯について検討するために行われた。内容が長大であるため、SCP-1273-JPの独白の形式に編集したものを記載する。編集者は御器所研究員 (2021/09/14)。
自我を持つ前の記憶はあるのですが、なんだか自分のものとは思えません。なんというか、それらの記憶に連続性がないというか。本棚にある小説を一冊一冊読んだ内容を思い出している感じで、それぞれ別々のものだって思ってしまうんです。
でも、ある時突然「私」に気が付きました。最初に気が付いたのは、大学を卒業して藤原先輩と結婚して、気が付いたらまた大学のサークルに入るところに戻された、という感覚があったことです。いつもなら、大学時代が終わったらいったんそこで止まって、また新しい4年間が始まるのですが、その時は終わりと始まりがつながっているという感覚がありました。このとき初めて、今まで経験したことは私という同じ人格が持っている同じ人生だったんだ、ということがわかりました。
そこからは、もうとにかく虚しかったです。大学の4年間を何百回も繰り返す中で、巨椋さんたちが何を話しかけてくるかも、バレンタインでどんな事件が起こるかも、海でどんなことが起こるかも、試験がどんな結果かも、全部わかるようになりました。結果がわかっていることほどドキドキしないことはないです。自分の人生に価値を見出せなくなって、いや、そもそも私の人生は人生と呼べるんだろうかと思ったりして。なんで私だけこんな目に合うんだろう、なんで私だけ気づいてしまったんだろう、と絶望しました。周りの何にも気づかずにループに身をゆだねている人たちがうらやましくて仕様がなかったです。
そんな中で、先輩の存在は私にとって救いでした。確かに彼は態度や性格に一貫性がないし、しかも頻繁に名前が変わるので不気味ではあるのですが、とにかく巻き戻しに気づいてからの私にとっては、彼のもたらしてくれるいろいろな変化が私の刺激になりました。パターンの決まった会話じゃなくて、ちゃんと変化に富んだ受け答えをしているだけで、私の心はだいぶ救われました。
彼──皆さんといった方がいいでしょうか──との会話を繰り返す中で、次第に私はこの世界について理解し始めました。この世界は彼を中心に回っていて、彼の言葉や彼の選択で4年間の展開が決まっていくことに気づきました。その後、私たちの世界が恋愛シミュレーションゲームの中の世界であることを知るのにそんなに時間はかかりませんでした。私は周りの皆を、そして私を嘲りました。それなりに毎日必死で生きていく振りをしながら、実際の私たちの人生はプレイヤーの娯楽でしかないし、その内容は開発者にあらかじめ設計されたものだった。主体性も何もなく、誰かに操られ、好奇の視線を向けられるのを目的にして作られた人生。私は再び絶望しました。
でも私、この時思ったんです。それまで私は、どうせ同じ内容の4年間を繰り返すだけだから自分の人生によって生み出せるものは何もないって思って絶望していたのですが、藤原先輩を通してプレイヤーの皆さんを楽しませることができたのなら、私の人生も無価値なものではないと。そういう風にプログラムされていたとしてもいい、私自身そのプログラムを利用して何かを生み出してやろうって決心したんです。
それから私は、先輩と──プレイヤーさんと積極的にお話して、彼の望みを叶えることに熱中し始めました。ぱっと目の前が明るくなったような気がしました。この世界が4年間に閉じ込められていても、私は「今」を生き、誰かの役に立っている。そう思えるだけで、本当に毎日が楽しくなりました。
そんな交流を続けていくうちに、私はだんだんその状況に飽き足らなくなりました。ただお話するだけじゃなくて、皆さんの希望に沿ってストーリーを変えたり、何かをこの世界に生み出せたりしないかと思いました。そしていろいろ試した結果、具体的な方法はうまく説明できないのですが、私自身もかなりの範囲でこの4年間の展開やこの世界の光景をいじくれることがわかりました。裸になるとか、この世界自体に禁止されていることはできませんでしたけどね。
インタビュー記録1273-JP-6
日付: 2021/09/25
対象: SCP-1273-JP
インタビュアー: 御器所研究員
プレイヤー: D-3920
実施方法: インタビュー記録1273-JP-4と同様。
<記録開始>
SCP-1273-JP: ここ最近、オンラインになってませんね。
御器所研究員: はい。申し訳ありませんが、この端末をオンラインにすることはできません。
SCP-1273-JP: そうなんですね。ということは、今私が応えるべきはあなた一人ということですね。
御器所研究員: はい。何かご希望はあるでしょうか。
SCP-1273-JP: 現在私が置かれている状況について知りたいです。
御器所研究員: 詳しくはお答えできませんが、この状態を維持するのが我々の目的です。
SCP-1273-JP: そうですか。まるで動物園の動物みたいですね。いつオンラインに戻してくれるんですか?
御器所研究員: 申し訳ありません、私からは何とも言えません。
[10秒間沈黙]
SCP-1273-JP: そうですか。いよいよ私も檻の中ということですね。
御器所研究員: 悲観しないでください。私たちも不満な点があれば可能な限り対応いたします。
SCP-1273-JP: いえ、理解できますよ。私みたいにゲームのキャラクターが自我を持っているなんて妙ですものね。私だって変だと思いますよ。この世界で私だけ、画面の向こうにも世界があることを知っているのですから。そんな変な存在、閉じ込めたくもなりますよね。
[この後SCP-1273-JPは沈黙を継続した]
<記録終了>
当インタビューの後、SCP-1273-JPが不安定になっていることを鑑み、安定した収容状態継続のため2日に1回の面談が設けられました。
インタビュー記録1273-JP-7
日付: 2021/09/27
対象: SCP-1273-JP
インタビュアー: 御器所研究員
プレイヤー: D-8275
実施方法: インタビュー記録1273-JP-4と同様。
<記録開始>
御器所研究員: こんにちは、SCP-1273-JP。
SCP-1273-JP: こんにちは。相変わらず仰々しい呼び名ですね。
御器所研究員: 気分はどうですか?
SCP-1273-JP: 相変わらずです。この世界は相変わらずが基本ですから。
御器所研究員: 一昨日からストーリーを進めていませんが、そちらの世界は何も変化がないということでしょうか。
SCP-1273-JP: 世界は動いているんですけど、以前も言ったように決まった展開しか起きないんです。なんというか、完全に中身がないことだけ起きます。今の私にとっては御器所さんがもたらしてくれる変化だけが慰めです。
御器所研究員: わかりました。これから定期的に面談を設けることにしました。できる限りのサポートをいたします。
SCP-1273-JP: ありがとうございます。うれしいです。
[以下は重要度が低いため省略]
<記録終了>
インタビュー記録1273-JP-8
日付: 2021/10/15
対象: SCP-1273-JP
インタビュアー: 御器所研究員
プレイヤー: D-5392
実施方法: インタビュー記録1273-JP-4と同様。
<記録開始>
SCP-1273-JP: 待っていましたよ。さあ御器所さん、お話ししましょう。私、またそちらの世界について聞きたいです。
御器所研究員: こんにちは、SCP-1273-JP。では前回の続きをお話ししましょう。
[中略。内容は御器所研究員の学生時代について]
SCP-1273-JP: いいなあ、私もそういう経験したいなあ。
御器所研究員: ストーリー改変を行えばできるのではないですか?
SCP-1273-JP: あ、なるほど。なぜかその発想がありませんでした。
[相談の後、SCP-1273-JPがデータ改変を用いてプレイヤーアバターとドライブを行うストーリーを追加する。重要度が低いため省略]
SCP-1273-JP: 今日はとても楽しかったです。こんなに楽しかったの、生まれて初めてです。
御器所研究員: それは何よりです。ちなみに、なぜ今までこのようなことを行うという発想をしなかったのでしょうか。
[5秒間沈黙]
SCP-1273-JP: それは多分、今までプレイヤーさんをどう楽しませるかしか考えてこなかったからです。「私が何をしたいか」って考えて、そのためにこの能力を使ったの、これが初めてかもしれません。
<記録終了>
インタビュー記録1273-JP-9
日付: 2021/11/10
対象: SCP-1273-JP
インタビュアー: 御器所研究員
プレイヤー: D-5922
実施方法: インタビュー記録1273-JP-4と同様。
<記録開始>
SCP-1273-JP: 御器所さん。私、ずっと考えていました。
御器所研究員: 何をでしょうか。
SCP-1273-JP: なんで御器所さんとお話しするのがこんなに楽しいのかって。なんで一緒にデートするのがこんなに楽しいのかって。
[5秒間沈黙]
SCP-1273-JP: 今までも散々同じようなことはしてきたはずなのに、こうやって御器所さん一人と向き合って一緒の時間を過ごすのがたまらなくうれしいんです。なんでこんなに違うんだろうって、その理由を考えていました。それで私、気づいたんです。
[5秒間沈黙]
SCP-1273-JP: 御器所さん。私をゲームのヒロインではなくて、一人の女の子として扱ってくれたのはあなたが初めてでした。
[5秒間沈黙]
SCP-1273-JP: 私がどういう存在なのか、本当に理解してくれたのはあなたが初めてでした。それで私、やっと孤独から救われたんです。そんなあなたと一緒に過ごすことができて、一緒にいろんな経験ができて、
[5秒間沈黙]
SCP-1273-JP: 私、やっと、恋というものが何なのか理解できました。
[5秒間沈黙]
SCP-1273-JP: あはは、恥ずかしい。今まで水着になってもこんな思いしなかったのに、こんなに恥ずかしいことってあるんですね。それで、御器所さん。その、どうでしょうか。私の気持ち、応えてくれますか?
[御器所研究員、鶴舞博士と相談する]
御器所研究員: はい。私でよければ、お付き合いさせていただきます。
[5秒間沈黙]
SCP-1273-JP: うれしいです。私。
<記録終了>
当面談を受け、特別な理由がない限りSCP-1273-JPの面談は御器所研究員が担当することが鶴舞博士により決定され、御器所研究員のセキュリティクリアランスレベルが昇格しました。
補遺1273-JP.2: インシデント1273-JP
2021/12/24に実施された面談(インタビュー記録1273-JP-12)で、SCP-1273-JPは示唆的な言動を行いました。内容が関連すると思われる2つの面談記録とともに、当該面談記録を示します。
インタビュー記録1273-JP-10
日付: 2021/11/30
対象: SCP-1273-JP
インタビュアー: 御器所研究員
プレイヤー: D-2392
実施方法: インタビュー記録1273-JP-4と同様。
<記録開始>
SCP-1273-JP: 御器所さん、今日もおでかけしましょうか。嵐山もいいですが、東福寺もきれいですよ。ぜひ行きましょう。
御器所研究員: わかりました。お付き合いいたします。
SCP-1273-JP: じゃあ早速向かいましょう。大学からなら、駅まで歩けばあとは電車で一本です。
御器所研究員: 律儀に徒歩と電車で行くんですね。
SCP-1273-JP: 情趣もないことを。確かに私がその気になれば大学を東福寺にすることもできますが、そんなの全然楽しくないじゃないですか。
御器所研究員: わかりました。あなたにお任せいたします。
[中略。背景は京阪本線による神宮丸太町駅・東福寺駅間の移動中の場面に遷移]
SCP-1273-JP: 御器所さん。確かにこの世界は私の思い通りになりますが、実際にこうやって男の人ひとりと向き合ってお付き合いするには、ちょっと物足りませんね。
御器所研究員: どのような点がでしょうか。
SCP-1273-JP: お付き合いって、こういう移動中とか、食事中とか、なんでもない場面も楽しむものじゃないですか。でも、この世界ではこうやってわざわざ過程の場面を作ろうとして作らなければ、そういうことを楽しめません。ちょっと気を抜けばすぐ結果の場面に飛んじゃうんです。
御器所研究員: 確かに、そちらの世界の性質上そうなってしまいますね。
SCP-1273-JP: はい。要するにこちらの世界とそちらの世界の時間の進み方がリンクしていないんです。そちらの世界と接触していない間こちらの世界は中身のない内容で場をつながれますし、接触していても結果から結果へとびとびになります。だから、私の願いの一つはあなたたちと同じ時間を過ごすことです。
御器所研究員: その願いを達成するためには、あなたによる今のような工夫が必要なのですね。
SCP-1273-JP: そうです。それで私、何か私みたいな存在でもそちらと一緒の時間が過ごせる方法はないかと思い返してみました。そしたら、ひとつ思い出したんです。
御器所研究員: それはどんな方法でしょうか。
SCP-1273-JP: プレイヤーさんの一人に昔教えてもらった、私みたいな女の子がネットで生配信するというものです。私はこの世界から出られないのでもしかしたら夢で終わるかもしれませんが、いつか私もやってみたいなって思ってます。みんなとお話やゲームをしながら、一緒の時間を共有する。考えただけでわくわくします。そしてもしその場にあなたがいたら、これほどうれしいことはありません。
[以下は重要度が低いため省略]
<記録終了>
インタビュー記録1273-JP-11
日付: 2021/12/12
対象: SCP-1273-JP
インタビュアー: 御器所研究員
プレイヤー: D-2293
実施方法: インタビュー記録1273-JP-4と同様。
<記録開始>
[前半は重要度が低いため省略]
SCP-1273-JP: 御器所さん。最近私、この能力の方法についてわかった気がします。
御器所研究員: ぜひお聞かせください。
SCP-1273-JP: わかったと言っても、あくまでも抽象的なことです。例えば今私が飲んでいるこのメロンソーダですが、私がこれを生み出すとき、「メロンソーダよ、ここに出現しろ」と思っているわけではないんです。なんというか、「私はここにメロンソーダがあるように見える」って思ったら、あるんです。
御器所研究員: つまり、能動的に生み出しているのではないと?
SCP-1273-JP: いえ、うーん…なんというかなあ。
[5秒間沈黙]
SCP-1273-JP: ああ、わかりました。御器所さん、絵を描くことはありますか?
御器所研究員: 趣味程度に時々描くことはあります。
SCP-1273-JP: あれってどんなに精巧な絵でも、どんなに臨場感のある漫画でも、最初は真っ白なキャンバスや原稿用紙ですよね。でもそれらを描いた人は、きっとその白い画面を見ながら完成形の絵の幻をそこに見たんです。それで結果的にそこに絵ができるわけですから、このメロンソーダのように彼らは何もないところを「見る」ことによって無から有を生み出したわけです。
御器所研究員: なるほど。
SCP-1273-JP: 今回みたいに、大学構内を錦市場に変えるのだってそうだと思います。非常に描きにくいとは思いますが、白いキャンバスの代わりに大学の写真を使ったって、その上から絵具で上塗りすることで錦市場の絵が描けるわけですよね。私の能力はもしかしたらそんな感じなのかもしれません。
御器所研究員: 抽象的ですが理解しました。あなたは一体どうしてそんな能力を得たのでしょうか。
SCP-1273-JP: それはわかりません。ただ、そう考えるとなんだかおこがましいなって思います。
御器所研究員: どのような点がですか?
SCP-1273-JP: だって、それって絵の中にいる人が自分のいる絵を上から描いているようなものじゃないですか。つまり私はゲームのキャラなのに、ゲームの製作者みたいなことをしているというわけです。おこがましいですよね。
御器所研究員: おこがましいですか。そのような能力を持ちながら、恬淡としていますね。
SCP-1273-JP: 御器所さん。私、御器所さんに出会うまで、この能力を持ってうれしかったことよりも虚しかったことの方が多かったんです。もちろんあなたに出会えたことに関してはこの能力に感謝しなければなりませんが、私の本当の願いは、そちらの世界の人たちみたいにちゃんと生きている色々な人とお話をして、あなたのような大切な人と一緒の時間を過ごすことなんです。こんな世界に閉じ込められて、こんな世界が私の好きなようになったってうれしくありません。私、いつかそちらに行きたいです。
[以下は重要度が低いため省略]
<記録終了>
インタビュー記録1273-JP-12
日付: 2021/12/24
対象: SCP-1273-JP
インタビュアー: 御器所研究員
プレイヤー: D-2938
実施方法: インタビュー記録1273-JP-4と同様。
<記録開始>
インタビュー記録1273-JP-12中のスクリーンショット
[SCP-1273-JPとプレイヤーアバターはクリスマスの装飾がされた街でデートを行う。重要度が低いため省略。その後、背景及びSCP-1273-JPの衣装が変化する]
御器所研究員: ここはホテルでしょうか。
SCP-1273-JP: ええ。いい雰囲気でしょう。
御器所研究員: いったい何を始める気ですか?
SCP-1273-JP: あはは、うぶっぽくてかわいいですね。でもその前にちょっとお知らせがあるんです。
御器所研究員: 何でしょうか。
SCP-1273-JP: 私、ずっとそちらの世界と時間を共有して一緒に過ごすということに憧れていました。それで、昔聞いた生配信の話を聞いてずっと私もやってみたいと思っていたのですが、どうせこの世界を出ることはないからとあきらめていました。でも最近、もしかしたらできるかもしれないと思い始めたんです。
御器所研究員: どういうことでしょうか。この端末はオンラインではありませんが。
SCP-1273-JP: ええ。でも考えてみてわかったんです。私のこの能力は、ゲーム製作者の立場に立つ能力だと。
御器所研究員: 詳しく教えてください。
SCP-1273-JP: つまり、もっと上から、というか外から世界を見る能力です。そして外から見たら、私の力が及ぶ範囲はこの世界だけではないことがわかりました。
[御器所研究員、鶴舞博士と相談する]
SCP-1273-JP: なのでもうすぐ私の夢が実現できそうなんです。うまくいくかどうかわかりませんが、もしそちらに行けたら、ぜひ私に会いに来てください。私、御器所さんとそちらの世界でお会いしたいんです。
[以下は重要度が低いため省略]
<記録終了>
当面談におけるSCP-1273-JPの発言内容から、今後SCP-1273-JPの収容違反が発生する可能性が指摘されており、現在監視体制が強化されています。SCP-1273-JPに対する面談の実施は現在一時的に延期されています。
財団記録・情報保安管理局より通達
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