アイテム番号: SCP-1276-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1276-JPは暫定的にコールドスリープ状態に置かれます。SCP-1276-JPの特別収容ユニットは特殊衝撃吸収素材を用い、SCP-1276-JPへの衝撃、損傷を防いでください。SCP-1276-JPへの破壊、損傷を伴う検査は一切が禁止されています。SCP-1276-JPの損傷が発生した場合ユニットを隔離したうえで、現実性固着装置群を用い可能な限り他宇宙の浸食を防いでください。
説明: SCP-1276-JPは███ ██とされる日本人女性です。SCP-1276-JPは戸籍上現在時点で15歳であり、14歳時点からの消息は不明とされています。
SCP-1276-JPは現在、眼球、鼻梁、鼓膜、舌及び全身の表皮を喪失しており、切除された各部分は焼灼することで凝固止血が行われていることが確認されています。また、第I脳神経等、感覚を司る神経が正常な機能を有していないことが確認されており、五感を喪失していると推測されます。これらの損傷にも拘わらず、SCP-1276-JPは生存しています。
SCP-1276-JPの背部には日本仏教における曼荼羅図が非異常性の方法で彫られています。特徴から金剛界曼荼羅と推測されますが、本来成身会の中尊である大日如来が存在する部分は空白となっています。
SCP-1276-JPはGoI-2722"鉄錆の果実教団"に対する第一次襲撃作戦時、同様の処置を施された複数の遺体及び以下の文章と同時に発見されました。これらの遺体は同教団の信者が多数を占めています。
SCP-1276-JP関連文章-1
デモンストレーション用信者 成所作智1
使用方法
儀式の秘奥に至った例として提示。五感を喪いつつも生きているといった部分を主張すること※もって5日なのでそれ以内に披露すること
担当者: ██
原理は不明だが5番目はまだ生きている。宣伝にはちょうどいいので上層部の意見を仰ぐ
この文章より、作戦時発見された遺体は教団においてなんらかの施術あるいは拷問を受けたのち、信者の教化に使用されていたものであり、SCP-1276-JPの異常性発現は偶発的なものであったと推測されます。
インシデント記録1276-JP-01 - 日付 20██/██/██
20██/██/██、収容されたSCP-1276-JPの破壊耐性検査が行われました。この過程でSCP-1276-JPの表面を約2cm切開すると同時に検査室周囲のHm値が著しい変動を見せました。これを受け検査は中断し、変動の理由について即時調査が行われました。調査の結果、SCP-1276-JPの表皮下は著しいHm値変動が発生しており、SCP-1276-JPの表皮下は現在この報告書が存在する宇宙とは異なる宇宙へのポータルに類似する役割を持つことが判明しました。インシデント時におけるHm値変動の原因はSCP-1276-JP表面の切開に起因するものであり、SCP-1276-JPの損傷は周辺現実へ不可逆的な崩壊を齎すとされ、これ以降の破壊検査は禁止されています。
聴取ログ1276-JP-01 - 日付 20██/██/██
20██/██/██、GoI-2722"鉄錆の果実教団"に対する第一次襲撃作戦時に逃走したとされる教団幹部、陸奥 ██氏が身体の保護を求め財団に亡命を行いました。これを受け、情報、技術提供を行うという条件のもと保護を行い、襲撃作戦時発見されたSCP-1276-JPを含む複数のオブジェクトに対する聴取が行われました。以下はその抜粋です。
担当者: 楠木博士
対象: 陸奥 ██氏 (GoI-2722"鉄錆の果実教団"幹部)
«再生開始»
楠木博士: インタビューを開始します。まず、あなたの情報ならびに亡命の目的を再度確認させていただけますか?
陸奥氏: 私は陸奥 ██。鉄錆の果実教団において信者の管理、秘密の管理を行っていました。亡命の主たる目的としては同教団のメンバーによって心身が危険に晒されていると考えたためです。彼らは秘密を握る私をどのような方法を使ってでも捕えようとするでしょうから
(事実確認の為省略)
楠木博士: では、次に███氏のことについて話を伺いたいのですが
陸奥氏: あれのことですね。最初に言っておきますがあれには私は関与していません。もちろん、体を保つためにいくつか私の知る処置は行ったでしょうが、あんなことになるとはだれも予想していなかったはずです。それは覚えておいてください
楠木博士: 分かりました。やはり偶発的な発生であるということですね。ではそれを踏まえ、彼女たちはあなた方の信者であることは間違いありませんか?
陸奥氏: 私はあれらをカルト化した信者たち、いや、教団そのものの暴走の果てだと考えています。ほとんどはあんなバカげたやり方で真の救済に繋がると本気で信じていたようですが、あんなことで救われるとは私は考えませんね。教団の側も面白半分だったのでしょう、金剛界曼荼羅を彫り込むならば胎蔵曼荼羅も描くべきです。それだけを描く秘密があるならばまだ分かるが、形だけを整えてその中は伽藍です
楠木博士: 表面だけが整えられているようなものだと?
陸奥氏: そうですね。あなたがたはあれを入口だと認識しているかもしれませんが、あれは魂のない仏のようなものですよ。あれの中の空洞に詰まっているのは際限のない自意識のみ。まったくもっておぞましい。そんなことも考えていないのですから、いえ、もはや気づく者もいなかったのでしょうね。もっとも、狂信だけでなく見せしめの意味もありましたから中途半端な出来損ないでちょうどよかったのかもしれませんがね
楠木博士: ███氏はそのどちらだったのでしょうか
陸奥氏: [数秒沈黙]そのどちらでもなかったでしょう。あれは敬虔な、悪い冗談ですがそういった信者ではなかった。その一方で、反発を抱いている風もなかった。何を求めているのか、何を考えているのか分からない人間でした。孤独を好みニヒリズムを拗らせているような年頃ですからね、さもありなんと私は思っていましたが。[数秒沈黙]正直なところ、あれに参加したと聞いた時は驚きました。何も信じていないという風だったのに、と
楠木博士: なるほど、ここまで聞いても異常に繋がる部分は見当たりませんね。陸奥さんは何かほかに彼女だけが生存した理由に思い当たりませんでしょうか
陸奥氏: まったくもって。ですが、あれを管理していた人間から聞きました。あれ以外の被験者はその多くが死ぬ前に発狂していたようだと。それはそうだと思います。阿頼耶識2に通じるうち五識を喪い、残る意識を以て思惟することでしか宇宙に向き合えぬのでは、とてもとても
楠木博士: では、███氏は発狂の様子を見せていなかった、と?
陸奥氏: 私の知る限りでは。むしろ穏やかな笑みを浮かべていたということですよ。幸せな夢でも見ているように、とね
«再生終了»
実験記録1276-JP
上記のインタビューを受け、SCP-1276-JPは異なった宇宙そのものであるという仮定の下、SCP-1276-JP内部に展開する宇宙をSCP-1276-JP自身の認識として認識、出力する実験提案が行われました。これはHm値測定機器及び脳波測定器等を利用し、同一パターンに当てはめる手法であり、臨床段階であることに注意してください。この方法を用いた結果、断続的な映像・画像の抽出に成功しました。以下はそのリスト及び記録の抜粋です。
抜粋画像記録1276-JP-01
日時: 20██/██/██
付記: 最初の実験において得られた画像。実験時、SCP-1276-JP内部のHm値は0.50±0.12Hmであり、著しく低い状態であった。
抜粋映像記録1276-JP-01
日時: 20██/██/██
《00:00:05》 不明な視点から映像が開始。高高度から落下していると推測される。視点の周囲には可視光と不定の物質が存在する。
《00:00:19》 視点内における可視光の変化から時間が逆流していると推測される。視点の周囲が歪曲、可視光の消失に伴い映像は暗転する。
《47:22:08》 可視光が発生。視点は何らかのプラズマ体を確認している。
《198:87:51》 可視光が消滅。映像は暗転するも、視点は振動していると推測される。映像が断絶する。
抜粋映像記録1276-JP-02
日時: 20██/██/██
《00:00:14》 空を見上げる一人称視点から映像が開始。上空には星空が広がるが、星の配置は地球上において確認されるものと異なっている。
《00:00:32》 視点が上空からのものへ変化。1つの大陸とそれを囲む海が確認できる。直後、大陸が分裂。
《19:52:18》 視点が地表近くへと変化。不明な生物の死体を観察している。生物は蟷螂目の生物に類似しているが、頸部から淡い虹色の光を発しているほか、脚部にネジのような節が確認される。直後、視界が暗転。
《66:11:42》 視点は炎を確認している。映像から約90000℃程であると推測され、数分後に崩壊。不明なエアロゾル物質が縦に伸び、円を描く。何らかの物理法則が変動していると推測される。映像が断絶する。
抜粋画像記録1276-JP-02
日時: 20██/██/██
抜粋映像記録1276-JP-03
日時: 20██/██/██
付記: 実験時、SCP-1276-JP内部のHm値は1.000±0.001Hmであり、標準Hm値に近く非常に安定した状態であった。
《00:00:01》 不明な室内を見上げる一人称視点から映像が開始。一般的な戸建て住宅と推測され、視点は朝食を取り登校する。その際確認された視点主の容貌はSCP-1276-JPと一致した。
《05:00:00》 一般的な公立高校において標準的な授業カリキュラムを受ける。異常は確認されないが担任教師の容貌は陸奥氏と一致する。
《07:00:00》 授業が終了。視点は校庭のトラックを走っており、何らかの部活動であると推測される。
《08:00:00》 帰宅途中と推測される。同級生とみられる複数名の人物と共にクレープ、唐揚げ等を購入。
《09:00:00》 帰宅・両親とみられる人物と軽く論争するも和解。一般的な高校数学の問題集を解いたのち就寝。映像が断絶する。
抜粋映像記録1276-JP-04
日時: 20██/██/██
《00:00:01》 映像開始から約1か月の間、不明な山林の映像が継続。映像断絶直前、視界の全てが現実性の希釈と推測される現象によって崩壊し、映像記録1276-JP-03と同様の光景に変化することが確認される。
聴取ログ1276-JP-01 - 日付 20██/██/██
映像記録1276-JP-03を受け、再度陸奥氏へ聴取を行いました。以下はその抜粋です。
担当者: 楠木博士
対象: 陸奥 ██氏 (GoI-2722"鉄錆の果実教団"幹部)
«再生開始»
(事実確認の為省略。なお、陸奥氏は抜粋および編集した映像記録を視聴済み)
楠木博士: 映像は確認していただけたかと思いますが、どうでしょうか
陸奥氏: [数秒沈黙]あの映像は本当にあれの中にあるというのですか?
楠木博士: 確定とは言えません、我々の技術としても臨床段階です。しかし、1つの情報であることは確かでしょう。それを踏まえ、あの一連の映像に何か意見などはありますでしょうか
陸奥氏: そうですね。あれが何故自ら志願したかは分かったような気がします
楠木博士: それを教えていただけますか?
陸奥氏: [数秒沈黙]あれはもう何もいらなかったのだと思います。人と人の間と書いて人間と読みますが、その間すらも必要なかったのだと。だから目を抉り、鼻を削ぎ、耳を破り、舌を抜き、皮を剥いで、何もかもを失くしたかったのだと思います。そこまで至る過程など私にはわかりませんが、そういった結果があれの中にはあったのでしょう。全てを失くしたとて向き合う意識に飲み込まれるか、際限なく広がる宇宙へ自意識を広げるだけだというのに
楠木博士: 彼女は後者であったと、そう貴方は言いたいのでしょうか
陸奥氏: だからこそおぞましいのです。あれは分かっていた、なにもない伽藍を自分で満たし、五智の全てを自分で賄うと。愚かなことです。何もないならば望むままにあればいいなどと、法界体性智に、大日如来に自らがなればよいのだと、傲慢にもほどがある。そんなことでは秘奥に辿り着けるはずもない
楠木博士:そこへあなたがいた理由に心当たりは?
陸奥氏: 伽藍の堂に理由があると? そこにないことに理由があると? あれが私をどう見ていたかなど分かるものか、分かってたまるものか。それはあれだけが持つべきことです。あれの中に私がいる。今あれの中に広がる宇宙は魔境にすぎません。[数秒沈黙]全てをなくして、人間であることを拒んで、そして辿り着いた先が平穏な世界ですか。あれが望んだものはそんなものだったのですか。まったく、まったく間抜けです、哀れなものです
楠木博士: 落ち着いてください。陸奥さん
陸奥氏: 何も、[数秒沈黙]あれが何もかもなくす必要は、彼女が如来になる必要は何もなかった
«再生終了»
補遺: 現在、SCP-1276-JPのHm値は安定しています。また、これの安定と同時期にSCP-1276-JP表面の曼荼羅図に大日如来が新たに出現していることが確認されています。大日如来の容貌はSCP-1276-JPと酷似しており、笑みを浮かべている様子が確認されています。