アイテム番号: SCP-1282-JP |
レベル 4/1282-JP |
オブジェクトクラス: Thaumiel |
機密 |
SCP-1282-JP(1945年、蒐集院からの引き渡し時に撮影)
特別収容プロトコル: SCP-1282-JPは太平洋海上に建設されたサイト-8101内に収容されています。サイト-8101は海上プラント施設に偽装されており、SCP-1282-JPから半径100mの特別隔離区域(SIA-1282)の付近は常に機動部隊あ-41"あの日から消えた星"が警備し、許可なき侵入者を即時終了します。
以下の条件を満たした人物にはSIA-1282への侵入許可、及び当該報告書の閲覧資格(1282-JPクリアランス)が与えられます。
情報漏洩を防ぐべく、SIA-1282への侵入や当該報告書閲覧の試行が確認された際には自動プログラム"VENUS"が無警告で起動、試行者の精神状態を検査します。
SIA-1282において、担当職員はSCP-1282-JPの点検及びSCP-1282-JP-α群の状態の確認を行ってください。SCP-1282-JP-αやSCP-1282-JP-βに異常が確認された場合、機動部隊-ΟΡ(オミクロン・ロー)が投入されSCP-1282-JP-βの正常化を試みます。
SCP-1282-JP-μ事象の影響が確認された場合、偽装特別収容プロトコルによって被影響者全員にクラスA記憶処理が施されます。
説明: SCP-1282-JPは、高さ約760cmの木製の千手観音菩薩坐像です。放射性炭素年代測定の結果から、平安時代後期に製作されたと思われます。異常な物理的耐性は有しておらず、内部は空洞です。CTスキャンによる非破壊検査の結果、SCP-1282-JPの腹部内部には切断された人間の頭部が24個(SCP-1282-JP-αに指定)、SCP-1282-JP頭部には1個(SCP-1282-JP-α-1に指定)存在しています。全SCP-1282-JP-αは生命維持に必要な器官の殆どが存在しないにも拘わらず、昏睡状態で生存しています。この為、夢界実体はSCP-1282-JP-αの精神に進入可能であり、SCP-1282-JP-αの精神は接続されていることが確認されています。夢において、全SCP-1282-JP-α個体は前期中世日本語を用います。
SCP-1282-JP-αの夢の結合体(SCP-1282-JP-βに指定)内において、SCP-1282-JP-αはクラスⅣオネイロス型幽体の特性を示します。ほとんどのSCP-1282-JP-αは夢の中での姿が安定しませんが、SCP-1282-JP-α-1のみ常にSCP-1282-JPに酷似した姿をとります。本稿執筆時点まで、SCP-1282-JP-αがSCP-1282-JP-βから移動した例は確認されていません。
日本において、特定の条件を満たした球状空間(対象空間に指定)は消失しSCP-1282-JP-βに転移、SCP-1282-JP-αによる改変を受けた後に元の地点に再転移します。この一連のイベント(SCP-1282-JP-μ事象に指定)にはSCP-1282-JP-β内では30分~2時間程度かかりますが、SCP-1282-JP-β内部の時間の体感速度は非常に遅い為、現実では0.03秒未満の時間で終了します。SCP-1282-JP-μ事象の終了後、対象空間内部に存在する人間はSCP-1282-JP-μ事象を記憶し、対象付近では0.2Hm程度の一時的な現実性低下が観測されます。
SCP-1282-JP-α-1はSCP-1282-JP-μ事象を以下の条件を満たした対象空間に発生させていると主張しています。現在まで、この条件を満たさない空間が対象空間となった事例は確認されていません。
- 数日以内に日本国の政治機能が崩壊する原因となる実体/非実体が存在する。
- 当該実体/非実体の影響範囲に10人以上の人間が存在する。
- 付近にSCP-1282-JPが存在しない。
このことから、SCP-1282-JP-α-1或いは複数のSCP-1282-JP-α個体に何らかの未来予知能力が存在する、或いはSCP-1282-JP-μ事象の条件をSCP-1282-JP-α群の現実改変能力によって強制的に満たしている可能性が指摘されています。その真偽は現在まで研究中です。
補遺1282-JP.1: 収容経緯
SCP-1282-JPは、1945年に蒐集院が財団に吸収される過程で引き渡されました。蒐集院によれば、SCP-1282-JPは1300年代から神奈川県の光明寺にて「呪われた観音像」として管理されていましたが、後に蒐集院が回収、「死なない生首を内部に有する仏像」として管理していました。当時、蒐集院は夢から夢への移動手段を有しておらず、SCP-1282-JP-μ事象に関する異常性を認識していませんでした。その為、SCP-1282-JP-α/-β/-μに関する情報は全て財団及びファウンデーション・コレクティブによる調査によって判明したものです。
以下は、蒐集院がSCP-1282-JPと共に回収していた木簡に存在した記述の内容です。光明寺以前に管理していた団体によって書かれたものと思われますが、現在までその団体は判明していません。
養和元年、良カラヌ事ドモ治ムル為ニ、千手観音菩薩此処ニ置ク。阿弥陀如来ガ託宣ニ拠リテ、現御神ガ御首二十五奉レリ。[判別不能]此レヲ給ハリテ、掟ツコト承ハレリ。
SCP-1282-JPの作成時期や、SCP-1282-JP-μ事象の内容から、日本各地の妖怪伝説にはSCP-1282-JP-μ事象が含まれると推測されています。この推測の真偽を確かめる調査は、調査対象となる伝説の多さや、経過した時間の長さ、そしてその判定の困難さから実施されていません。
補遺1282-JP.2: Thaumielクラス指定の経緯
蒐集院からの引き渡し後、SCP-1282-JP-μ事象の発生条件から、SCP-1282-JPは日本国をその範囲に含むK-クラスシナリオへの有効な対抗手段になると考えられました。これにより、当時のO5評議会によってSCP-1282-JPは暫定的なThaumielクラス指定を受けました。
引き渡しの翌年、後にSCP-1282-JP-μ-1に分類されるインシデントが発生しました。以下はその内容です。
分類番号: SCP-1282-JP-μ-1
発生年月日: 1946/01/01
場所: 静岡県賀茂郡、雲見浅間神社が存在する烏帽子山山頂
概要: 烏帽子山の地中から、灰色の肌をした全長100m程度の女性に見える人型実体が出現し、近くの神社を破壊する。直後、上空から細く巨大な手が出現し人型実体を掴み、強引に烏帽子山の地中へ押し戻した。その後、巨大な手が山に手をかざすと神社が修復され、手は上空へと移動し消失した。
被影響者数: 34名
付記: SCP-1282-JP-μ-1における巨大な手は、後の調査でSCP-1282-JP-βにおけるSCP-1282-JP-αの1個体であることが判明している。
このインシデントを受け、O5評議会はSCP-1282-JPを正式なThaumielオブジェクトとして分類しました。また、ファウンデーション・コレクティブとの合同調査の結果SCP-1282-JP-βやSCP-1282-JP-μ事象の詳細が判明した為、現在の特別収容プロトコルが制定されました。
補遺1282-JP.3: インタビュー記録1282-JP
インタビューログ1282-JP.2
対象: SCP-1282-JP-α-1
インタビュアー: 大和田おおわだ吉江よしえ博士
記録者: 坂上さかがみ忠文ただふみ研究員
付記: インタビューはSCP-1282-JP-βにおいて前期中世日本語で行われ、全て大和田博士によって現代語訳されている。記録は坂上研究員によってリアルタイムで行われた。
<記録開始>
[SCP-1282-JP-βの光景は不安定に変化しており、非常に多くの色が確認できる。時折、眼球に見える模様が出現する]
SCP-1282-JP-αの1個体(SCP-1282-JP-α-2に指定): [額に角のある人間の姿で]どこだ、どこだ……!どこに、私は、どこへ……。
SCP-1282-JP-α-1: 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……。
[大和田博士及び坂上研究員はSCP-1282-JP-α-1に接近する。SCP-1282-JP-α-1は2名に気付き、振り向く]
SCP-1282-JP-α-1: ……誰だ?
[他のSCP-1282-JP-αが2名の方を見る]
大和田博士: 初めまして、皆さん。私は大和田という者です。あなたたちに危害を加えるつもりはありませんし、そのような力も有していません。
SCP-1282-JP-α-1: [10秒程度沈黙]……そのようだな。皆、気にしないで良いぞ。
[他のSCP-1282-JP-αが2名から離れる]
大和田博士: ご理解いただけて感謝します。
SCP-1282-JP-α-1: うむ。お前は私たちとは違う。夢で何もできないが、夢を夢と知ることはできる者だ。争いにはならないだろう。
大和田博士: あなたは、夢の存在の能力を感知できるのですか?
SCP-1282-JP-α-1: ここは、何度も何度も侵攻を受けた。あの悪鬼羅刹どもを見て、夢を動かせる者と動かせない者の違いは知った。それに、ここ数日の救済で見たこの世の風景から、あやかしどもを封じ込める者たちがいることは知っている。お前はそこから来たのだな?
大和田博士: [沈黙]
SCP-1282-JP-α-1: ……恐れることはない。私はむしろ、お前たちが私たちを見つけたことを嬉しく思っている。特に、まさかこうしてこの場所へ訪れることができる者たちに千手観音菩薩が渡るとは、阿弥陀如来にもお伝えしたいものだ。
大和田博士: ……ありがとうございます。
SCP-1282-JP-α-1: うむ。それで、何の用でここへ来た?
大和田博士: はい。私たちは、あなたにSC — 千手観音菩薩について、お話を伺いにやってきました。
SCP-1282-JP-α-1: 話か……。わかった、知っていることを話そう。
SCP-1282-JP-αの1個体(SCP-1282-JP-α-3に指定): [首が7つ8つ存在する蛇の姿で、号泣しながら]私たちをお忘れになったのですか。ここにおります。聞こえていらっしゃいますか。私たちは。私。私。私。私。
[以下、補遺1282-JP.1とほぼ同じ内容である為省略]
大和田博士: — では、あなたたちは何故、千手観音菩薩の人柱として選ばれたのでしょうか?
SCP-1282-JP-α-1: 簡単なことだ。私たちは、阿弥陀如来の託宣を受け、真理の断片をいただいた者だからだ。この世を動かす力を持つ者として、千手観音菩薩になる使命をいただいた。それで、私たちは首を捧げたのだ。
大和田博士: しかし、あなたたちはこの世を動かす力を持っているはずです。それなのに、何故わざわざ夢へとこの世の一部を移動させるのですか?
SCP-1282-JP-α-1: 私たちは浄土ではなくこの世の者だ。例え菩薩であろうとも、如来でなくては大きくはこの世を変えられない。西方の女神のようなことを、阿弥陀如来はなされなかった。致し方ないことだ。しかし、私たちは一切衆生とは異なり、教化を受けた菩薩である。ならば、私たちはこの世を救わねばならない。南無阿弥陀仏の誓いの下に。
大和田博士: なるほど。つまり —
SCP-1282-JP-αの1個体(SCP-1282-JP-α-4に指定): [巨大な唇の姿で、絶叫して]南無阿弥陀仏!南無阿弥陀仏!南無阿弥陀仏!南無[判別不能]![以降、インタビューが終了した後も不明な言葉を叫び続ける]
大和田博士: [沈黙後]つまり、教化を受けたあなたがたには、人々を救済する使命があると?
SCP-1282-JP-α-1: その通り。この日の本の国を、阿弥陀如来が愛された国を守護し、救済することこそ、私たちの使命である。この世はまことに動きにくい。しかし、夢なら容易く動く。ちょうど、向こうの霧がやっているように。だからこそ、この世の一部を夢へと連れ去り、私たちは動かすのだ。釈迦の手のひらほどは広くない、この観音菩薩の手のひらの上で。
大和田博士: なるほど、概ね理解できました。質問にお答えくださり、ありがとうございます。
SCP-1282-JP-α-1: いや、気にするな。むしろ、こうして会話ができるのなんて随分と久しく、堪らないのだ。
<記録終了>
インタビューログ1282-JP.3
対象: SCP-1282-JP-α-1
インタビュアー: 大和田博士
記録者: 坂上研究員
付記: 実施方法はインタビューログ1282-JP.2(以下、このログでは前回と呼称)と同一。
<記録開始>
[SCP-1282-JP-βの光景は不安定に変化している。前回とは異なり、比較的暖色が多いように思われる]
SCP-1282-JP-α-3: [前回と同様、首が8つ存在する蛇の姿で]見せてください。託宣が私ではありません。隣に。下は、下は嫌なのです!私は下、右、左、いや、下では、ああ……。[首が2つ破裂する]
SCP-1282-JP-α-1: 南無阿弥陀仏、南無阿……[2名の方を向いて]おお、大和田か!
大和田博士: お久しぶりです。
SCP-1282-JP-α-1: 随分と長く来なかったじゃないか、寂しかったぞ!で、今日は —
SCP-1282-JP-αの1個体(SCP-1282-JP-α-5に指定): [巨大なムカデの姿で]匂いがした!味は足袋だろうか?涅槃の石は柔らかい!誰が私を殺した?艶やかな[判別不能]が回っている![笑い声]
SCP-1282-JP-α-1: — 何を語れば良い?
大和田博士: 今日は、あなたたちが何故このような……[数秒沈黙]支離滅裂な心の状態になってしまっているのかを伺いに来ました。
SCP-1282-JP-α-1: ああ……。これは、そうだな、発狂だ。わかるか?
大和田博士: はい、そう見えますね。
SCP-1282-JP-α-1: うむ。私たちは、非常に長い時をここで過ごしてきた。目覚めることもなく、この空うつろな夢の中で — この世を置くために、ここには常に何も無いのだ — 気が遠くなるような時間を味わった。何度かの侵攻は癒しだったが、それもある日途絶えてしまった。
大和田博士: それは、お辛かったでしょうね。
SCP-1282-JP-α-1: その時の心を覚えてはいない。だが、覚えているのは、1人発狂し、1人発狂し、1人発狂し、[計23回繰り返し]……そして、1人発狂したこと。
SCP-1282-JP-α-2: [SCP-1282-JP-β内を走りながら]暗い、暗い、暗い、見たい、上を。上を見せて、上を、ください。
SCP-1282-JP-α-1: 私は最後になったが、観音菩薩の使命を貫くには、私だけは発狂してはならなかった。だから、私だけは耐え続けたのだ。……見ての通りの、生き地獄の中で。
大和田博士: あなたには、他の方と違った特性があったのでしょうか?
SCP-1282-JP-α-1: あった。私は幼い頃、阿弥陀如来の化身にお会いした。人の形の光のようなお姿で顕現され、「あなたは観音菩薩になりなさい」と仰った。そして、阿弥陀如来はお目覚めになった。
大和田博士: お目覚めになった、とは?
SCP-1282-JP-α-1: お目覚めになったのだ。そして、浄土へ帰られた。今でも化身として、この世のどこかにおいでになるだろう。私は感じる。私たちは感じる。
SCP-1282-JP-α-5: 目を閉じた!来るぞ!南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……[以降、インタビューが終了した後も念仏を続ける]
SCP-1282-JP-α-1: そして、いつか私たちをもお救いになるのだ。それまで、私は待ち続ける。
大和田博士: ……なるほど、ありがとうございます。では、最後に「浄土」についてお話ください。
SCP-1282-JP-α: 浄土は清らかな場所だ。何も動くことがなく、何も死ぬこともなく、何も生まれることもない。ただ在ることが許される場所だ。
<記録終了>