アイテム番号: SCP-1283-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1283-JPの区域外周及び後述のα方面・β方面両通路には、一般的なスチールフェンス及びゲートを設けて部外者の進入を阻止してください。公的にはこの区画は私有地であるとし、フェンス上にも同様の掲示プレートが等間隔に配置されます。フェンスならびに区域内要所には監視カメラを設置し、許可の無い進入に対しては警備職員による早急な対応が行われます。区域及びSCP-1283-JPを通過する鉄道線路は現役路線である事に留意し、この鉄道線路を介した接触に対しても常時警戒してください。進入者による当該オブジェクトの活性化過程は付近の職員による区域立ち入りにより強制的に中断させる事が可能です。活性化が成された場合は非活性化までの内部での様子を定点観測機器により記録し、その後に進入者への詳細な聴取を行なってください。聴取後の進入者へは進入/活性化に失敗した等の虚偽の記憶を植え付け、通常の進入事案と同様に解放されます。
説明: SCP-1283-JPは東京都八王子市郊外に存在する第1種甲踏切道です。外見・機能上は他の一般的な踏切道と相違無いものにみえ、後述の特異性の他に特筆する異常は現状確認されていません。███の丘陵上を緩やかに登る小径と、それを十字状に横切る████ ██線の鉄道路線の交点に位置しています。
SCP-1283-JPは以下に列記する1〜4の要素が全て重なる事をトリガーとして活性化過程に入ります。
- この区域への進入者が親しい人物との死別を経験していること。
- 通路のα方面1から区域へ進入すること。
- SCP-1283-JPの半径200m以内に進入者以外の人物が存在しないこと。
- 日本時間におけるAM2:00丁度からSCP-1283-JPの前で20秒以上目を閉じ、要素:1の故人との再会を強く念じること。2
SCP-1283-JPが活性化過程に入ると進入者は遮断機の降りる音、追って鉄道車輌の接近音を認識します。3この接近音及び活性化過程は進入者が途中段階で目を開く事、及び録音を除く稼働継続中の観測機器が存在する事でそのまま遠ざかり、中断・非活性化されます。この状態を経た場合、以降同日中にオブジェクトが再活性化する事はありません。進入者がそのまま目を閉じ続ける、加えて過程開始後一定時間内に上記の観測機器が停止されると、その接近音は進入者の前を通過したように認識されます。この音響は録音機器においても同様に記録可能です。この時点より通過音が遠ざかるまでのおよそ20秒ほどの間、進入者は目を開く事が出来ずに停止した観測機器の再起動も不可能な一時的硬直状態となります。オブジェクトはここより活性化過程から完全な活性化状態に入ります。
時間経過により上記の硬直状態が解けると、進入者は降りたままの遮断機を挟んだ自らの正面に要素:4にて再会を念じた故人の姿(SCP-1283-JP-Aと指定)を視認します。これは再起動された観測機器でも確認でき、その外見的特徴は概ね当該人物が生前心身の状態が安定していた時点の姿であるとされます。ただし硬直が解除されると同時に、活性化過程でも使用可能であった録音機器には、以降オブジェクトの非活性化まで由来不明の継続的なノイズ音のみが記録されるようになります。進入者は出現したSCP-1283-JP-Aが、自らが故人である事を認識した上での自身との明確なコミュニケーションをとる事が可能であると主張します。SCP-1283-JP-Aが出現している間、SCP-1283-JPの半径100m範囲への他者の進入は未知の効果により不可能となり、加えて進入者自身によるSCP-1283-JP-Aに対する遠隔的接触や攻撃行動、遮断機を越えた直接的接触等も同様の効果により阻害されます。
SCP-1283-JP-A出現から20分程度の時間が経過すると、β方面の通路奥よりSCP-1283-JP-Bに指定される未知の人型実体が出現します。SCP-1283-JP-Bは白い衣服を身につけた4歳前後の幼児に見え、現状その性別・民族・人種は不明です。SCP-1283-JP-Bは通常笑顔を浮かべながらSCP-1283-JP-Aの元へと接近し、主に上衣の裾や手の先などの末端部分を自らの出現した方向へと引き始めます。この行動に対してSCP-1283-JP-Aは多少の無視及び抵抗が可能であると推測されますが、この場合SCP-1283-JP-Bは次第に不満な表情を見せ、引き方に乱雑さが現れ始めました。結果としてこれまでの観測上長くともSCP-1283-JP-B出現後数分以内には、SCP-1283-JP-A側がSCP-1283-JP-Bの要求を渋々受け入れるようにして進入者とのコミュニケーションを終了させています。コミュニケーションが終了すると、SCP-1283-JP-Aは多くの場合SCP-1283-JP-Bと親しげな様子を見せ、手を繋ぐ・笑みや談笑を交わす様な仕草でβ方面へと移動を開始します。両者が曲線通路に沿って進行し立ち並ぶ木々によって視認不可能となると、それに続き活性化中降りたままであった遮断機が開きます。この時点をもって他者の進入及びβ方面への進行を妨げていた未知の効果が解除され、オブジェクトは非活性化したと判断されます。
SCP-1283-JPは19██年に設置されてから20██年に財団がその存在を認識、隔離措置を講じるまでの約██年の間地元住民により利用されていましたが、その特異性が設置後どの時点から発現したのかは不明です。SCP-1283-JPの異常性は一部の近隣住民ならびにインターネット上にて発祥元不明の都市伝説として扱われており、それらの証言及び実際にオブジェクトの活性化を経験した人物の存在を財団が認識、調査の結果噂として流布していたものと同様の異常性が発覚した事により収容に至っています。
SCP-1283-JP活性化記録: 以下に財団が把握しているSCP-1283-JPの活性化に関する情報を列記します。
記録1283-JP-1 - 日付20██/██/██
進入者: 10代男性
出現したSCP-1283-JP-A実体: 進入者の元交際相手
記録: 男性はSCP-1283-JP-Aを数ヶ月前に事故死した自らの交際相手であると主張。口頭でSCP-1283-JP-Bを天使と表現し、"天使に呼び戻される"までに再度の会話、お互いの意思の疎通及び現実では叶わなかった最後の別れをこの場で交わせたとして、この現象に好意的感想と感謝の意を述べました。
注1: 財団が最初に確認した、SCP-1283-JP収容以前に発生した活性化の証言です。男性は学内の知人から噂としてこのオブジェクトの存在を伝聞し、半信半疑で活性化行動を行ったと供述しました。言及された男性の知人への聞き取り調査も行われましたが、更に別の知人からの伝聞であると主張。話の出所には今だ至っていません。注2: 財団による聴取後、当該人物による再現実験が行われましたが、SCP-1283-JPが活性化する事はありませんでした。以降の検証も重ね、このオブジェクトで一度SCP-1283-JP-Aとして出現した故人は以降SCP-1283-JP活性化の対象とならない事が確認されました。
実験記録1283-JP-3 - 日付20██/██/██
進入者: 20代男性
出現した1283-JP-A実体: 10歳前後の男児
記録: 男性はSCP-1283-JP-Aを病死した自らの弟であると主張。事前に用意されていた外見資料等とも一致を示しました。男性にSCP-1283-JP-Aとの交流を指示したところ、問題無くコミュニケーションが成立しました。その後SCP-1283-JP-Bが出現するとSCP-1283-JP-Aは男性と別れを告げ、24分32秒時点で共に消失。
注: 以降、コミュニケーションの内容は実験終了後の進入者の証言より記述されます。
実験記録1283-JP-4 - 日付20██/██/██
進入者: 30代女性
出現したSCP-1283-JP-A実体: 推定60代前後の男性
記録: 女性はSCP-1283-JP-Aを数年前に死去した自身の実父であると主張。担当班の指示によりSCP-1283-JP-Aに対する各種聞き取り調査が行われましたが、その由来に関する明確な情報を得ることはできませんでした。SCP-1283-JP-Bに対しては"お迎えの子"という表現が使われ、抽象的ではあるものの好意的な反応が示されました。SCP-1283-JP-Aの言及する故人当人の情報や女性に関する記憶内容はその全てが正確であると確認されています。SCP-1283-JP-Aは女性の近況や健康状態について頻繁に問い、その息災を願う言動を繰り返しました。SCP-1283-JP-Bと共に23分50秒時点で消失。
実験記録1283-JP-7 - 日付20██/██/██
進入者: 90代女性
出現した1283-JP-A実体: 旧国民服を着用した推定20代前後の若年男性
記録: 女性はSCP-1283-JP-Aを戦没した自らの配偶者であると主張。年代の開きによる齟齬無く双方のコミュニケーションが成り立つ事、加えてSCP-1283-JP-Aは自らの死後に発生した事象について知識を持たないと再度確認されました。このインタビューにおいても、SCP-1283-JP-Bへの抽象的かつ強い好意表現が示されています。SCP-1283-JP-Aは女性に対して早世を詫び、自らの愛情と再度の別れを告げました。SCP-1283-JP-Bと共に21分58秒時点で消失。
実験記録1283-JP-10 - 日付20██/██/██
進入者: 40代男性、財団勤務職員
出現した1283-JP-A実体: 60代男性
記録: 男性はSCP-1283-JP-Aを20██/██/██のSCP-████-JP暴走時に殉職した、当時のオブジェクト管理官であった████実験主任であると主張。同時に観察映像を確認した担当班員もそれに同意を示しました。前述のSCP-████-JP暴走事案において、当該オブジェクト研究の重大な情報が その保持者であった██主任と共に喪失されていました。この交信において、SCP-1283-JP-Aから喪失した情報の汲み上げに成功、またその情報の正しさも後に証明されました。SCP-1283-JP-Bと共に19分18秒時点で消失。
実験記録1283-JP-11 - 日付20██/██/██(incident-1283-JP-01)
進入者: 30代女性、財団勤務職員
出現した1283-JP-A実体: 30代男性
記録: 女性職員の志願による実験。女性はSCP-1283-JP-Aを事故死した婚約者であると主張。この時点までに浮上していた疑問点解消の為の各種追試験が行われました。しかし、それまでの平均時間を大きく縮めてSCP-1283-JP-Bが出現。さらに、この際完全に同一の姿をした2体目のSCP-1283-JP-Bが出現しました。両者共にSCP-1283-JP-Aの衣服をβ方向へ引く行動を取り、それによりこれまでの前例よりも大きく早まった12分20秒時点でSCP-1283-JP-Aはコミュニケーションを終了。1283-JP-B群に挟まれるようにして左右両手を繋ぎ、β方面へ移動を開始しました。13分08秒時点で消失。
記録1283-JP-112
incident-1283-JP-02-A: 予定されていた20██/██/██の実験準備及びリハーサルの為、前日23:00より担当班が区域での作業を開始しました。作業開始から1時間弱が経過した00:14に、一切の活性化要素 及びSCP-1283-JP-Aの出現が満たされていないにも関わらず、β方面よりSCP-1283-JP-Bが出現しました。4SCP-1283-JP-Bは前回実験時から更に数を増やした計8体であり、その外見はすべて完全に同一のものでした。この事態を受けて、担当班は急遽SCP-1283-JP-Bとの意思疎通を試みました。担当班職員によりSCP-1283-JP-Bに対してその出自や起源などがインタビュー形式で問われましたが、SCP-1283-JP-Bは全個体がインタビュアー及び背後の担当班職員に対しひたすらに無言で笑顔を向けるのみであり、一切の情報収集には至りませんでした。以後活性化時刻である2:00を迎えるまでSCP-1283-JP-Bはその場に留まったままであり、止むを得ずSCP-1283-JP-B群が既に出現した状態での実験開始が許可されました。
進入者: 40代女性
出現した1283-JP-A実体: 20代男性
記録: —-
incident-1283-JP-02-B: 活性化過程にはこれまでの前例との差異は無く、通常通りに手順が成されました。進入者が目を開く 並びに観測機器が再稼動されると、SCP-1283-JP-B群は出現したSCP-1283-JP-Aに群がるようにして、その身体の各所を強く引いている様子が確認されました。数秒後にはSCP-1283-JP-Aはその体勢を崩し転倒。SCP-1283-JP-Bは転倒したSCP-1283-JP-Aの衣服や手足・頭髪などを掴み、半ば引きずるようにして移動を開始。この際SCP-1283-JP-AやSCP-1283-JP-Bは その状況にありながら共に始終満面の笑顔を浮かべ、なおかつSCP-1283-JP-Aは何らかの談笑を行なっているかのような仕草を消失までの間見せ続けていました。活性化後2分40秒時点で双方β方面に消失。
付記: incident-1283-JP-02以後の実験は現在延期されています。しかし、この事案以降SCP-1283-JP区域内に上記実験に携わった担当班職員 および関係者が立ち入る事で、実験の有無や時間帯に関わらず数十分以内にSCP-1283-JP-B群がβ方面より出現する事が確認されるようになりました。SCP-1283-JP-B群との意思疎通は依然として成されておらず、観察される行動は一律に、接近した職員に対する満面の笑顔のみです。区域内の職員が外部へと退出することで、SCP-1283-JP-B群は数分以内に自発的に移動・消失します。SCP-1283-JP-B群の出現個体数は実験後複数回に分けて増加しており、現時点で15体までが確認されています。
補遺1: SCP-1283-JP収容に繋がった都市伝説の伝播経路を遡るうち、過去ある時期より以前の噂には「出現した故人は鉄道に乗り帰ってゆく」という付加情報が存在していた事が確認されました。この情報がいつどのような過程で失われたのかは不明ですが、担当班はその背景に未確認かつ複数のオブジェクト活性化事案が存在するとして、調査を継続しています。加えて上記の付加情報より、SCP-1283-JPの異常性が過去何らかの要因により変異した、もしくはSCP-1283-JPとSCP-1283-JP-Bの存在が本来起源を異にするものであるという推論もなされています。現状これらの議論はその裏付けまでに至っていません。
補遺2: 20██/██/██、SCP-1283-JP-A出現から消失までに録音されるノイズ音には共通する同一のパターンが存在する事が音響班により確認されました。確保している録音記録群を解析したところ、そのすべてが同一の形式で強く歪んでおり 上記のパターンを元にその構造を解析することで、これまでに録音されていた個々のノイズ音から、本来の音響を推測・復元する事に成功しました。
復元された音声データは現時点確認される限り その全てが、███に類似した未知の音響と、実験当時出現していた故人のものと一致する絶え間ない絶叫でした。