記録1299-1
艦内で異常が発生した。異常を簡単に報告する。
まず、私以外の乗員がいなくなった。そして、外側から船体を叩く音が響いている。両方とも原因は不明。
私だけが残った理由も不明。私は今から約12時間前に調子が悪くなったので、医務室で寝ていた。目覚めたのが大体2100頃であることを鑑みるに、12時間の間に何らかの事象が発生したのだろう。また、目覚めてから皮膚と肉の間に不快な感覚がある。例えるなら、虫が蠢く感覚だ。ただ、確認したが原因はわからない。何かの病気なのかもしれない。
外部への影響を考慮し、私は外に出ないでおく。通信もこのメールのみとする。
記録1299-4
異常発生4日目。外部が我々の状況に対処しようとしているのは潜望鏡で確認している。しかし、内部に変化はない。何らかの特異性による異常と考える。
新たな異常性が確認された。私が認識していない間に何者かが設備を通常時のように操作している。例えば、動力部ではエンジンが動き続けているし、食堂では食事が出る。特に食事は約6時間ごと、つまり1日に4回出ており、昨日は1200にカレーが出た。私は非常食の缶詰で済ませた。
現在、私は医務室で生活している。明日より内部を調査する。
このメールは私の調査書兼日記としたい。私が感じた些細な出来事がこの状況を解決できる事態の糸口になると考えたからだ。また、潜水艦という密閉された環境における精神的ストレスが与える影響を考慮した際、こういった気晴らしも必要だ。特に、何もしていなければ痒みとあの音が私を襲う。慣れなければ。
記録1299-5
艦長の部屋から鍵を借りて、乗員の荷物を確認した。特にこれといって問題はなかった。
体が痒い。かゆみ止めをいくつか拝借して使用したが、治まらない。
昨日の今日、ではあるが、食堂で缶詰を食べるのは失敗した。食事が出る瞬間を私は確認していないのだが、缶詰を食べている最中に出現した。よりにもよってステーキだった。あのたれの匂いを嗅ぎながら缶詰の五目飯を食べていると落語を思い出す。我慢だ。きっと、開放される手段があるはずだ。
食後、艦内の備蓄を確認した。冷凍牛肉が減っている。これが増えることはあるのだろうか。
記録1299-11
問題が発生した。備蓄が増えた。当然、今まで安全だと考えて食べてきた缶詰も含まれている。
そして、昼食時の私は冷静さを欠いていた。ストレスのせいだ。今日出されたカレーを食べてしまった。お腹一杯に食べてしまったんだ。
あのカレーは間違いなくうちの味付けだった。だが、この異常の一端を垣間見た気がする。
うちのカレーは一部を桂木3曹が個人で持ち込んだ香辛料を使用して作っていた。そのカレー鍋には決まって「超激辛」と書かれた紙が貼り付けられていた。乗員の何人かはこれを楽しみにしていたのを覚えている。私もその1人だ。だからこそ、同じものだとわかる。
桂木3曹のロッカーを確認した。前回の調査で発見されなかった香辛料が入っていた。一緒に入っていたメモ帳で筆跡を確認したが、おそらくあの紙は桂木3曹が書いたもので間違いない。だが、何故だ。見えないだけでいなくなった乗員は存在しているのか。わからない。
今日は魚雷室で寝ることにする。新入りの頃、暑いときはここでよく寝たものだ。体を冷やせばこの痒みは治まるだろうか。ただ、痒みにも音にも慣れてきている自分がいるのは確かだ。
記録1299-28
今日で28日目だ。艦内の様子がおかしい。何というか、出港の前触れのような空気だ。
昨日から音がいつもより騒がしい。何かが起ころうとしているのだろうか。
今日はもう休む。最近弱まっていたあの感覚が体を蝕んでいる。