SCP-1328-JP
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██地区の北東部区画住居群に設けられた用水設備。██山から流れる湧水を引いたものであり、昭和後期の宅地開発時から各家庭で日常的に用いられる。殆どは木樋やU字溝を設置したのみの簡素なもの(上)だが、浄水器や蛇口を接続した例(下)も存在する。

アイテム番号: SCP-1328-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: 当該事象の影響域並び曝露者(2020年現在42名が確認済)は区域内外に多数設置された観測機器による継続観察下に置かれています。影響域への新規転入並び家屋造築は自治体への背後操作を用いて阻害し、担当班を経て申請された曝露試験等の名目においてのみこれを認可します。WEB媒体や出版物において███湧水とその関連事物に関する情報は不自然でない範囲内の隠匿がなされ、公開される場合は極めて重要度の低い存在と認識される様にその内容を制限してください。曝露者が何らかの形式で外部に対しSCP-1328-JPに通ずる言及や発信を行なった際には近隣駐在のエージェントによる簡易情報統制措置を執り、現場状況に応じ記憶処理等の使用も許可されます。曝露者の異常認識、並びに伝達された情報は基本支給品のクラスAキットにより容易に除去可能です。

説明: SCP-1328-JPは長野県安曇野市の特定区域に居住する民間人のみを対象として共有される異常事象です。これは同地区在住の住民が持つ認識内に、実際には存在しない近隣住民(SCP-1328-JP-α)の架空概念を付加します。SCP-1328-JP-αは常に「ミズタニさん」と呼称される20代~30代女性として表現され、前述した異常下にある当事者(以降曝露者と呼称)からは同じ共同体に所属する親しい人物である様に扱われます。曝露者がこの事象に対し自力で何らかの違和感を察知した例は報告されておらず、また極めて偶然発生したとされる個人間のトラブル1 を除いて、区域外部の人間が異常察知に至った例も過去存在していませんでした。

SCP-1328-JP-αは非実在であるにも関わらず、曝露者は一様にこの存在を連日実際に日常生活を送っているかの様に認知、証言しています。2各主張に述べられるSCP-1328-JP-αの行動が空間的・時間的に矛盾する例は過去みられず、複数人の曝露者が立ち会う環境下で同時に接触した旨の報告も存在する事などから、当初調査班内では当該オブジェクトが光学的・情報的不可視実体であるとの仮定の上で検証が実行されていました。しかし複数種の観測機器を用いてもその様な実体が捕捉確認されなかった事、並びに後述する曝露者の行動観察記録をもって、SCP-1328-JP-αが概念上のみの存在であるとの考えを得るに至っています。

インタビューログ 2017.10.22

対象:清水真悠実

インタビュアー: サイト-8108所属調査員 小林まこと

付記: 清水真悠実は異常性下にある██在住の40代主婦であり、事前の調査において曝露者であることが確認されている。

<録音開始>

小林: お時間頂き有難うございます。

清水: ええ、いえいえ。

小林: 早速ですが「ミズタニさん」を、ご存知でいらっしゃいますでしょうか。

清水: ミズタニさん。あーあの、この近くの、若い長髪の女のかた。

小林: 恐らくそれでしょう。

清水: 何か、あったんです?警察の方3が調べるなんて、あの子が何かしたとか。[対象の音声にはわずかに訝しむ様子がみられる]

小林: いえ、そういう訳ではありませんので、どうかご心配なく。あくまで情報収集の一環でして、あまり深くはお尋ねしませんし、簡単な印象等だけお伺いできたらいいのです。よく、お見掛けになるのですか。

清水: お見掛けっていうか、よく話しますよ。御近所さんですからねえ。ほら、そこの道路とか、よく通るのでその時に声掛けたりだとか。爽やかな方でねえ。まだ若いのにお淑やかっていうか、静かで落ち着いてしっかりして。

小林: 外見について、どの様な方かお聞かせ願えますか。

清水: 外見ですか?心配になっちゃうくらい華奢な印象の子ですよねえ。ちょっと幸薄いというか、病弱そうな空気があって、でも鼻筋通って綺麗な顔してて。まだお若いし、長めの黒髪が綺麗なんですよね。

小林: そうですか。普段どのような会話をなされるのですか。何か特徴的な事などは。

清水: どのようなって、そう何かアレって挙げる様なものでもないですよ。今日もお散歩ですかとか、最近寒くなってきましたねとか、元気にやってますかとか。特徴的って言ったって。[しばらくの思案]ああー。

小林: どうかなさいましたか。

清水: いやね。そういえば、男の人探してるって言ってたんですよ。

小林: 男の人。

清水: そうだ、警官さん。“██ ██”って名前聞いた事あったりしません?警官さんならもしかしたら顔も広いかなって。

小林: いいえ。その方が探しているという方ですか。

清水: ええ、ええ。もし何処かで聞いたら教えてくれ、って何度か。何かずっと探してるみたいです。何でかは知りませんけれど。まあ、それだけですね。

小林: 情報を有難うございます。ちなみに御近所さんと仰られていましたが、「ミズタニさん」のお住まいはご存知なのでしょうか。

清水: あー。そういえば詳しくは知らないですねえ。この、宅地のこの辺りだろうとは思うんですけれど。地区会では見掛けた事なかったですね。ただ、確かお山のほうって前に話してたので、もう少し坂を上がっていったあたりなんだと思います。アパートとかかな。多分。

小林: 最近はミズタニさんとお会いになりましたか。

清水: あー、ええ、昨日お昼頃に。そこを下りた角あたりで、しばらくお話しましたね。

小林: そうですか。大変参考になりました。ご協力を感謝致します。

清水: いえいえ、お力になれるなら。

<録音終了>

付記: 聴取後、担当班は清水真悠実がとった前日の行動記録を付近に設置していた機器類から収集した。ここから当該人物は実際に聴取において述べていた箇所を同日同時刻に通行していた事が確認されている。しかし清水真悠実によるSCP-1328-JP-αとの接触と思しき言動は認められず、代わりに道路脇に設けられたコンクリート製の古い防火水槽へと身を乗り出し、53秒に渡って無言でその内部を覗き込む様子が記録されていた。

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防火水槽、水源である同地区を流れる湧水と道路下のパイプで接続される。

先に述べられた様にSCP-1328-JP-αは曝露者によって多様な形での目撃報告が提示され、それにおいては住民との頻繁な接触や交流も行う旨が述べられます。しかし区域内各所に設置された映像機器等を用いて曝露者の実際の行動を観察する限り、SCP-1328-JP-αとの接触を行なったと主張する曝露者が、それらしき言動をとった様子は一切確認されていません。該当する時刻、当該人物は実際には地区内に複数存在する水路や蛇口といった何らかの用水関連設備の至近に位置し、全ての例でその水流/水面等を凝視する様な行動をみせています。幾つかの例ではこれに合わせて無言のまま笑顔を浮かべる様子も見受けられました。他の曝露者、並びに当事者本人がこの不自然な挙動を認識していない事から、この水を凝視する行動がSCP-1328-JPの異常性に深く関わるものとして目されています。

添付資料 1328-JP-1: ███湧水について
環境省資料より抜粋。現在はWEB・印刷媒体等から関連情報を隠匿済。
所在地 名称 読み 概要 添付
安曇野市██ ███湧水 █████ゆうすい ██山から湧出のち██川へと合流。住民の生活用水として利用されてきた。 地図
(下部参照)

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上記資料にみられる様に、当該事象の発生域は湧水の利用範囲と強い関連を持つ事が推察されます。比較的湧水に近い位置に居住する、または日常的な活動において影響域内の湧水を目視する機会が存在した住民であっても、図上赤波線に概ね示された範囲外の居住者においてはSCP-1328-JP-αの認識がなされていませんでした。ここに湧水を媒介した土地空間そのものの未確認効果、あるいは当該地区の道路交通上の都合や近隣に所在する公共施設並び商業施設の立地状況を踏まえた湧水視認率との結付きを指摘する意見も存在しています。担当班ではこの湧水の成分分析・異常検査を第一次、第二次、第三次に渡り実施しましたが、その全てにおいて注目すべき特徴や差異は検出されていません。また██川への合流のちは近域への影響をもたらさない事も踏まえ、この異常事象が効果を発揮する条件事項の究明が急がれています。

SCP-1328-JPの曝露について、単純な区域進入、住民との交流、湧水の接触・摂取がそのトリガーとならない事は事前の各種調査段階において指摘されていました。財団では同地への居住による異常効果の曝露過程を観察しその詳細情報を取得するため、財団関連組織から同意を得て人材供給された一家3名を住人モデルケースとして影響域内へ配置、居住させる経過観察実験を実施しました。

SCP-1328-JP居住実験記録

実験日: 2018.5.12〜

被験者: 宮沢大佑(夫,32歳)、 宮沢佑子(妻,28歳)、 宮沢りお(子,5歳)

実験方法: 上記の一家3名をSCP-1328-JP影響域内に存在するアパートメント「コーポ███」203号室に居住させ、曝露に至るまでの過程・期間をみる。夫妻は同地の異常性について認知しているものの、その詳細については知らされていない。先行実験群と区別するため、当実験においては地域の湧水・水道水へ直接接触しないものとし、生活用水は担当班員により外部から導入される。一家の構成員は常時小型集音発信器を携帯し、室内並びにその行動範囲に複数の観測機器が設置される。就寝前には3名が同席の元、当日接触した他の人間、またその接触内容についてを複数のダミー項目と混合して口頭で報告させる。

結果: 試験開始から11日目の5月22日、長女宮沢りおが不明な人物との交流を報告した。当日中の会話ログ中にはこの人物の音声のみが存在しなかった事から、担当班はこの存在に注目。追って14日目の5月25日にはこの人物との交流過程で「ミズタニ」という名乗りがあったと述べられた事で対象がSCP-1328-JP-αであると断定された。その後の聴取において、宮沢りおが報告を失念していたものの、7日目時点には既にSCP-1328-JP-αからの接触が認識されていた可能性が指摘されている。その後35日目の6月15日にして、夫妻が同時に立ち会う状況下でSCP-1328-JP-αとの交流が認識された事が報告された。

付記: 当実験において、宮沢夫妻の曝露に要した日数は事前に推測されたものに概ね沿う結果をみせたが、長女りおがSCP-1328-JP-αを認識したとされる11日目、あるいは7日目という記録は推測から大きく期日を縮めた想定外の結果である。1週間の同地内宿泊を実行した人員には曝露が発生しなかった先行実験の例を踏まえ、この差が成人と幼児の年齢差によるものか、あるいは概念的な宿泊と居住の差によるものか、より明確に条件を推定するための更なる追加試験が必要と考えられる。

上記実験において11日目に曝露が発覚した宮沢りお、35日目に発覚した宮沢夫妻は各人その翌朝財団による聴取が実施されています。下記は、居住実験40日目の6月20日に再度行われた宮沢りおに対する聴取の映像記録です。

映像記録, 2018.6.20実施インタビュー

対象:宮沢りお

インタビュアー: サイト-8108所属エージェント 中村美歩子、同サイト所属補佐官 丸山史花あやかが同席。

実施場所: 安曇野警察署3階 特殊取調室4

補足: 記録当時対象は聴取に対し消極的であり、記録開始前から対話の相手を直視しない、質問への無回答、所在無く両脚を前後に揺さぶる等の無関心な様子をみせていた旨が報告されている。聴取は対象との意思疎通が比較的可能となった時点から行われた。

<記録開始>

[入口付近、Agt.中村の右方からの映像。個室中央に菓子類を載せたテーブルが配置され、中村と対象が対面している。奥の壁には型板強化ガラスの窓があり、映像右端にはパイプ椅子に着席する丸山補佐が映る]

Agt.中村: りおちゃん今日はありがとうね。

[対象の顔は当人の右方窓側に向けられている。映像では霞の窓を透過し雨天による鈍い白色光のみが視認できる]

宮沢: うん。

Agt.中村: それじゃあ、りおちゃんと何度か話したっていう女の人  前に来てもらった時も聞いたけれど  その人について、もう一度教えてくれるかな。

宮沢: [問い掛けから短時間の空白をおいて]うん。

Agt.中村: ありがとう。じゃあまず、その人の名前をもう一度教えて。

宮沢: ミズタニさん。

Agt.中村: その人がどんな風にりおちゃんに話し掛けてきたか、教えてくれるかな。

宮沢: [僅かに困惑の表情をみせる]わかんない。

Agt.中村: そっか、そうだよね。ちょっと時間経っちゃったもんね。じゃあ、ミズタニさんはりおちゃんがどんな事をしている時に話し掛けてきたのかな。

宮沢: かえるみてた。

Agt.中村: カエル?

[丸山補佐が端末を操作し、Agt.中村に提示する。この時端末上に表示されていたのはコーポ███前の定点カメラ映像であり、居住13日目の対象がアパート前の道路脇グレーチングに向かいしゃがみ込む様子が記録されている]

Agt.中村: ああ、なるほど。カエルをみてたらミズタニさんが来たんだね。前にお話したとき、幾つかミズタニさんに聞いてほしい事があるってお願いしたのを覚えてる?聞いてこれたかな。

[映像内で初めて対象がAgt.中村を見る]

宮沢: うん。

Agt.中村: ありがとう。それじゃあ、ミズタニさんは何処に住んでいるって言っていたかな。

宮沢: お山にいる。

Agt.中村: お山ね。お山の何処か、分かるかな。

宮沢: お山。わかんない。

Agt.中村: そっか。それじゃあ、ミズタニさんは何をしているのか聞けたかな。

宮沢: 人探してる。

Agt.中村: 前に言ってた、██ ██さんっていう男の人かな。

宮沢: うん。

Agt.中村: どういう人か、聞けたかな。

宮沢: [僅かに空白をおいて]わかんない。

Agt.中村: そっか。じゃあ今度は  

宮沢: [Agt.中村の言葉と重ねて発言する]あのね、暗いんだって。

Agt.中村: 暗い?

宮沢: ぬれてて、重くて、それで探してるの。

Agt.中村: 探してるって、話してくれた男の人?

宮沢: おばさんと、お姉さんと、おばさんとお姉さんと一緒の人たちと、いっぱいいるところは大きくてすごいってミズタニさん言ってた。

Agt.中村: ええと、ちょっと待って。

宮沢: いっぱい物知りだって。

Agt.中村: それは、ミズタニさんといつお話したのかな。カエル見てた時?

宮沢: [首を横に振る]さっき。

Agt.中村: さっき?  今日はおばさん達と一緒にここへ来たよね。さっきお家にいた時?それとも、ここに来る途中で、何処かでミズタニさんに会ったの?

宮沢: 探すの、すごいから調べるの出来るの?見つけてって。

Agt.中村: ごめんね。答えてほしいな。りおちゃんは、何処でお話したのかな。

宮沢: [Agt.中村をしばらく見つめる]ミズタニさん?

Agt.中村: そう。りおちゃんとお話した時、ミズタニさんは何処にいたの?

[対象はAgt.中村の質問の意図が分からないという風に、首を傾げてわずかに困惑した様な表情を浮かべる。]

宮沢: ええとね。あのね。

Agt.中村: うん。

[数秒程の間、対象はAgt.中村を見つめる。その後、聴取冒頭時と同様の様子で再び視線を自身の右方へと向ける]

宮沢: あのね。窓にきてるの。

[しばらくの沈黙のち、Agt.中村と丸山補佐は窓を見、ほぼ同時に立ち上がる]

宮沢: わかんない?

[丸山補佐は対象を庇う姿勢に即く。Agt.中村は着衣の懐から配給品の小型護身用拳銃を取り出し、窓の陰へと移動する。映像をみる限り、窓からは変わらず霞の表面加工でぼやけた白色光しか目視出来ない。また各種計測機器類においても個室内外に異常な存在は測定されていない]

宮沢: 探してって。

[空間や至近人物への各種異常付加を阻止する簡易式特殊防御機構群が起動される。機構の作動を確認し、Agt.中村は窓を開く]

[Agt.中村は窓に向けて小型拳銃を構えているが、映像では窓の外部に不審点は無く、通常と変わらぬ雨天の風景のみが映っている。また職員2名の表情や挙動をみるかぎり、双方にも異常は確認出来ない様である。測定機器類も平常の数値を示し、何らかの異常存在による接近や侵入、異常付与は見られない。]

[二者が厳戒態勢を一時解除する。丸山補佐の保護下にある対象のみが、開かれた窓に向かって「ばいばい」と手を振り続けている。室外に待機していた緊急対応班が、Agt.中村の合図に従い入室する]

[個室並びに施設の非異常下状態を推定、暫定的な安全確保が宣言される]

<記録終了>

 
2018年6月22日、担当班は近隣土壌からの有害物質溶出という旨のカバーストーリーを用いて██地区住民の███湧水接触を一時停止、追って湧出元である██山山中と土壌並び地中の広域調査を実施していますが、当該事象に関連が疑われる特筆すべき事項は未だ認められていません。またこれらの手続に併せて民間人の湧水接触対策という体裁で、外部に露出し目視可能な水系をシートや仮設ボードで封じる暫定的措置も実施しています。この措置以降、曝露者による用水への凝視行動はみられなくなりましたが、その発生を雨天に限る形で現在もSCP-1328-JP-α認識の報告が継続して確認されています。これは有力仮説とされていた当該事象と水系の関連性を揺るがす事態であり、担当班では引き続き発生条件の特定を目的とする検証作業が実行される予定です。

財団は前述した聴取記録の他に、影響域外におけるSCP-1328-JP-α関連報告を現状認知していません。

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