アイテム番号: SCP-1336-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1336-JPはエリア-81JHの小型アイテム収容ロッカーに収容されます。SCP-1336-JPを用いた実験は、効果範囲拡大防止のため禁止されます。
説明: SCP-1336-JPは写実的な阿弥陀仏が描かれた25.5cm×18cmの紙製の札です。一般的な紙と同様、破壊することが可能です。SCP-1336-JPの異常性は、SCP-1336-JPを所持した人物(以下、対象。)が自身の過去実施した行為を想起した際に発現します。その際、阿弥陀仏のイラストの下部に数値が表示されます。表示される数値には差異が存在しますが、どのような基準で数値が決定されているのか判明していません。1表示された数値はおよそ10秒で消去され、想起した行為に関連した人物は、当該行為に対する認識が過去から遡及して改竄されます。それにより対象が行った行為は関連した人物にとって「悪行」であると認識されますが、関連した人物はその行為を許容し、同様の行為を繰り返そうと試みます。この影響は記憶処理によって取り除くことが可能です。
発見経緯: 東京高等裁判所で行われた民事事件の裁判2において、裁判前日に被害者が借金の支払い請求を取り下げるという事象が発生しました。その後、被告である山之辺 享二氏は「広域指定暴力団東栄會直系"有村組"」の構成員であることが判明しました。この事象により山之辺氏に対する一時的な監視が実施されました。
山之辺氏が再度傷害事件を発生させた際、異常性の発現が観測されたため発見に至りました。被害者は山之辺氏に傷害を加えられたことに対し報復を試みようとしていましたが、山之辺氏がSCP-1336-JPを所持していたハンドバッグから取り出した瞬間、報復しようとする試みを中止しその場から立ち去りました。これにより山之辺氏は異常存在に関連しているものとして確保され、現在財団にて拘留されています。
補遺: 有村組が当オブジェクトに関与しているものとして、有村組への調査が開始されました。数人の幹部を含む有村組構成員を捕らえ、SCP-1336-JPについて尋問を行いましたが有力な情報は得ることができませんでした。山之辺氏は有村組内において一般の構成員であったことから、組織全体として有村組は関与していない可能性が浮上しました。山之辺氏への聴取の結果、有村組構成員であった父である山之辺 賢二氏からSCP-1336-JPを譲り受けたとの報告が得られています。
その後、山之辺 享二氏の父である山之辺 賢二氏及び、祖父である山之辺 志郎氏の調査が開始され、以下の文書が発見されました。

この文書から有村組が関与している可能性は残るものの、山之辺氏が門徒となっている千葉県袖ケ浦市に存在する浄土真宗所属寺院である正善寺が関与している疑いがあるものとして、調査が開始されました。以下は正善寺の住職である大曽根 宏一郎氏へのインタビュー記録です。
対象: 大曽根 宏一郎氏
インタビュアー: エージェント・シタミ
付記: 大曽根氏はSCP-1336-JPについての知識を所持していることが確認されています。
<録音開始>
エージェント・シタミ: SCP-1336-JPについて知っていることを教えていただけますか。
大曽根氏: まず、我々は「“悪人”こそが阿弥陀仏の本願による救済の主正の根機である」という考え方を元に活動しています。
エージェント・シタミ: 悪人ですか。
大曽根氏: ええ、悪人とは言いますけども我々の行為は全て根本的に悪であり、全ての人間は悪人であるという考えを持ち、自らがまことの善は1つも出来ない悪人であると気づいている状態こそ救済の根機であるという考え方です。
エージェント・シタミ: それとSCP-1336-JPとどういった関連性が?
大曽根氏: 私の祖父は教義を広めるために昭和10年頃、主要な門徒であった組織3と協力して教義を広める護符を作り出しました。
エージェント・シタミ: 悪を広めるものですか。
大曽根氏: 少し違います。悪行を悪行として認識し、行動することによって「阿弥陀仏の視点」による善悪を得て真なる幸福をつかむものです。
エージェント・シタミ: 「我々」とはいったい?
大曽根氏: 我々とは、「浄土真宗本願誇負派」の門徒や宗祖たちのことです。
エージェント・シタミ: あなたたちの目的はなんですか。
大曽根氏: 人類の真なる幸福です。その根幹には先ほどの考え方があります。阿弥陀仏が救済したいとする対象は、衆生4であります。我々の考えではすべての衆生は、末法濁世を生きる煩悩具足の凡夫たる悪人と定義されます。よって自分は悪人であると目覚させられた者こそ、阿弥陀仏の救済の対象であることを知りえるのです。
エージェント・シタミ: それで怪我をしたり死んだりすることがあっても構わないのですか。
大曽根氏: 死は救済でもあります。
エージェント・シタミ: あなたたちの信仰の起源はなんなんでしょうか。
大曽根氏: 親鸞聖人のお言葉を記した歎異抄の「善人なおもって往生をとぐ、いわんや悪人をや」というお言葉が起源とされています。戦争犯罪人として逮捕された東條英機氏は、巣鴨に収容されて以来我々と共に親鸞聖人の教えを聞き、絶対の幸福を喜ぶ身となりました。このように、苦しみ悩むすべての人が、本当の幸せの身になれる仏教の真髄を伝えるのが我々「浄土真宗本願誇負派」なのです。
エージェント・シタミ: 東條氏はSCP-1336-JPを使用しなかったのですか。
大曽根氏: 被害者が多すぎましたので…必要とされる寿命もあまりにも多すぎたのです。
エージェント・シタミ: 寿命?なんのことです?
大曽根氏: あれ、知らなかったのですか。あの護符、寿命を糧にしてるんですよ。
エージェント・シタミ: それでは使った人物は。
大曽根氏: ええ、寿命をすり減らしてます。教義が広まれば彼らも本望でしょう。
エージェント・シタミ: それは…門徒は知ってるのですか?
大曽根氏: 知ってますよ。これこそ彼らの信仰心の賜物です。
エージェント・シタミ: …SCP-1336-JPを誰に売買したか記録は残っていますか。
大曽根氏: 最近お渡しした方は覚えていますが、なにせ80年以上前から取り扱っているもので。
エージェント・シタミ: SCP-1336-JP以外のオブジェクトと「浄土真宗本願誇負派」の関連があるかどうか教えてください。
大曽根氏: さきほど申した組織以外に関連している組織や我々独自につくりだした物品が存在していると聞いたことがあります。我々は教義を広めるためには手段は選んでおりません。最もうちで取り扱っているのは例の札のみですが。
エージェント・シタミ: 私たちに対し簡単に情報を提供してくれるのはなぜですか。
大曽根氏: 我々の目的は阿弥陀仏による救済を知ることを伝えることです。あなた方に反抗する理由がありません。
エージェント・シタミ: …暴露した人物が犯罪を犯すことを知っていながら放置していたのですか。
大曽根氏: そんなことですか。我々の思想をお忘れですか。
エージェント・シタミ: 人間は全て悪人であり、それに気づくことが幸福への道であるというものですか。
大曽根氏: ええ、どうあがいても人間はみな悪人のです。
エージェント・シタミ: それがどうしたんですか。
大曽根氏: 何をしても結局悪人なら悪いことをしたほうが得じゃないですか。気づくことだけで幸福になれるのですから。
<録音終了>
終了報告書: 「浄土真宗本願誇負派」は他オブジェクトの作成や使用について関連性があるものとされ、聴取のため大曽根氏は現在も拘留されています。山之辺氏は拘留から20日後に死亡しました。またインタビュー内容は大曽根氏の独自解釈であり、大曽根氏以外の「浄土真宗本願誇負派」門徒の思想は異なる可能性があることを大曽根氏は明かしています。
現在、正善寺の門徒である人物の不審死が相次いで発生しています。また、山之辺氏の所持していたSCP-1336-JPを含め15枚のSCP-1336-JPを発見・収容していますが、財団が収容している以外にもSCP-1336-JPが存在している可能性を考慮し、調査は引き続き行われています。