アイテム番号: SCP-1345-JP
オブジェクトクラス: Euclid Neutralized Euclid
特別収容プロトコル: 海上保安庁の協力の下、東経142度21分/北緯31度34分から半径1kmを航行禁止区域に指定するとともに、高解像度水中カメラおよび録音機を搭載した水中ドローン3機により、常時SCP-1345-JP及び周辺の当該エリアの海底をモニタリングしてください。SCP-1345-JP-Aが出現SCP-1345-JP及びSCP-1345-JP-Aが再出現した場合、映像と音声を観察・記録するとともに、外見的特徴を元にSCP-1345-JP-A-aを特定してください。特定されたSCP-1345-JP-A-aに対してはインタビューを行い、クラスB記憶処理を施した上で解放した上で、その後も精神状態を定期的に観察してください。また、当該エリアに許可無く接近する船舶及び潜水機器は警告の上で拿捕し、乗組員に対しては尋問の上、記憶処理を施して解放してください。SCP-1345-JP-Bは個別に標準人型収容室に収容されます。鏡等のSCP-1345-JP-Bの姿を映す物品を収容室内へ持ち込むことは禁止され、SCP-1345-JPと対話する際は対象の外観に言及することを避けてください。SCP-1345-JP-Bに対して一日に一度カウンセリングを実施し、SCP-1345-JP-Bの要求があればサイト管理官の承認を得た上で、絵本・画用紙・クレヨン・人形等の娯楽品を提供することが可能です。
説明: SCP-1345-JPは東経142度21分/北緯31度34分で観察されるされた人型実体です。対象は毛髪が頭足類の触手に置き換わった女性の姿を取り、頭部の触手は身体の数倍に伸びて絡み合いながら対象の身体を包み込んでいます。また、SCP-1345-JPは常時瞳を閉じて静止し、後述するSCP-1345-JP-Aが出現する場合を除いて移動することはありません。
SCP-1345-JPは肉眼で視認することができず、ビデオカメラ等の映像機器を介した場合のみ観察が可能です。対象と物理的に接触することはできず、コミュニケーションを取る試みも失敗に終わっています。しかし、SCP-1345-JPは不特定のレム睡眠中の人物の夢に出現するため、当該海域で何らかの要因によりBIVと類似するメカニズムが生じ、映像機器を用いて観察される夢界実体であると考えられています。また、SCP-1345-JPはSCP-1587-JPとの類似性が指摘されていますが、詳細は不明です。
SCP-1345-JPの周囲には時折、夢界実体と推測される人型実体が出現します。この実体をSCP-1345-JP-A、夢を見た人物をSCP-1345-JP-A-aと呼称します。SCP-1345-JP-Aの外観はSCP-1345-JP-A-aと酷似していますが、眼球・腹部・胸部等、身体部位の一部が巨大化しており、これらの巨大化した部位はSCP-1345-JP-A-aが劣等感を抱いている部位であることが確認されています。SCP-1345-JPの観察が開始されてから現在までに27体のSCP-1345-JP-Aが確認されており、このうち18人のSCP-1345-JP-A-aの特定に成功しています。年齢や性別、居住地域等、SCP-1345-JP-A-aには共通点は見らず、また観察が開始される以前にもSCP-1345-JP-Aが出現していたと推測されるため、SCP-1345-JP-A-aの正確な総数は不明です。
SCP-1345-JP-Aは出現後、SCP-1345-JPへ接近して会話を試みます。SCP-1345-JP-AはSCP-1345-JPを「魔女」、「魔法使い」等と呼称し、自身の巨大化した身体部位を更に大きなものにするように懇願します。これに対してSCP-1345-JPは日本語で7・7・7・5音の言葉を繰り返し語りかけ、SCP-1345-JPの言葉を受けたSCP-1345-JP-Aは巨大化した部位を縮小させます。最終的には標準的な人間の部位のサイズに至った時点でSCP-1345-JP-Aは消失し、SCP-1345-JP-A-aは覚醒します。また、インタビューの結果、覚醒後のSCP-1345-JP-A-aはそれ以前に抱いていた劣等感を消失していると考えられます。
2017年██月██日、SCP-1345-JP-A-27が出現後、SCP-1345-JPが消失しました。これ以降SCP-1345-JP及びSCP-1345-JP-Aの出現は確認されておらず、また、これ以降SCP-1345-JP-A-aは一様に、消失した劣等感を再び抱いていると証言しています。このためSCP-1345-JPは2019年██月██日にNeutralizedに指定されましたが再出現の可能性は否定できず、当該エリアの監視は継続されます。
2019年██月██日年、SCP-████-JPに対して行われた実験中にSCP-1345-JPと類似する実体が出現しました(詳細はインシデント記録_████_2019/██/██を参照)。このインシデント以降SCP-1345-JPのNeutralized指定は解除され、出現した実体はSCP-1345-JP-Bに指定されました。
SCP-1345-JP-Bは頭髪が頭足類の触手に置き換わった人型実体群です。外観はいずれも4歳前後の女児に見え、知能や身体能力も概ね外観に準じた水準であり、拙いながらも日本語で会話が可能です。また、検査の結果遺伝子は対象がヒトに属することを示し、その異常性を除き生理機能も一致しますが、個体ごとに身体の異なる部位が巨大化しています。SCP-1345-JP-Bは強いストレス環境下に置かれると、各自の巨大化した組織が自壊し始めますが、同時に強力な再生能力を獲得し、自壊した組織は速やかに再生されます。再生後の身体部位は自壊以前よりも僅かに巨大化していることが確認されています。SCP-1345-JP-Bはいずれも自身の巨大化した身体部位について言及された場合に、特に強い精神的苦痛を示します。この理由についてSCP-1345-JP-Bは一様に、自身の巨大化した部位が小さいことに強い劣等感を抱いていることを証言しています。
補遺1: <SCP-1345-JP-A実体リストの抜粋>
番号 |
身体的特徴 |
備考 |
SCP-1345-JP-A-1 |
セーラー服を着用した、10代後半と思われる女性。鼻及び口が顔面の半分近くを占めるほど巨大化している。 |
最初に観測されたSCP-1345-JP-A実体。着用した制服からSCP-1345-JP-A-aは██高等学校に在籍する森███氏であると確認された。 |
SCP-1345-JP-A-2 |
リネンシャツとジーンズを着用した、20代前半と思われる女性。眼部が異常に巨大化している。 |
SCP-1345-JP-A-a特定には至らず。 |
SCP-1345-JP-A-6 |
陸上競技用トレーニングウェアを着用した、20代前半と思われる男性。大腿部と下腿部の筋肉が異常に発達している。 |
SCP-1345-JP-A-aは██大学に在籍する高███氏であると確認された。氏は陸上競技部に所属していた。 |
SCP-1345-JP-A-11 |
オレンジ色のツナギを着用した、30代後半と思われる男性。顔面に特徴的な入れ墨が見られる。手首から手指にかけて50cm程に巨大化している。 |
SCP-1345-JP-A-aはサイト-81██で雇用されているD-58551であると確認された。 |
SCP-1345-JP-A-17 |
セーラー服を着用した、10代前半と思われる女性。脚部と胴体が異様に伸長している。 |
SCP-1345-JP-A-aは███中学校に在籍する村████氏であると確認された。 |
SCP-1345-JP-A-19 |
スーツを着用した40代~50代と思われる男性。腹部が球状に巨大化している。 |
SCP-1345-JP-A-a特定に至らず。 |
SCP-1345-JP-A-23 |
トレーニングウェアを着用した30代と思われる男性。全身の筋肉が著しく肥大化している。 |
SSCP-1345-JP-A-aはボディビルダーの中████氏であると確認された。 |
SCP-1345-JP-A-27 |
全身の肉が極度に肥大化した実体。衣服は着用しておらず、発言内容から女性と推測される。 |
映像記録_1345-JPA27_2019/██/██を参照。 |
記録日: 201█/██/██
<記録開始>
[SCP-1345-JPが海底に蹲っている。両手が巨大化したSCP-1345-JP-A(以下、SCP-1345-JP-A-11と呼称)がSCP-1345-JPの前方に出現する。オレンジ色のツナギと肥大化した手、顔面の入墨が確認できる。]
[SCP-1345-JP-A-11がSCP-1345-JPに接近し、SCP-1345-JPに語りかける。]
SCP-1345JP-A-11: なあ、あんた、海の魔女…なのか?
SCP-1345-JP: [沈黙]
SCP-1345JP-A-11: 海の魔女ならさ、俺、欲しいものがあるんだけど、願ったら叶えてくれるのか?
SCP-1345-JP: [沈黙]
SCP-1345JP-A-11: [巨大化した両手を前に差し出す。]俺はもっとデカい手が欲しいんだよ。人魚姫と違って声とか足とかいらないからさ、代わりにもっと手を大きくしてくれよ。
SCP-1345-JP-A: [頭部の触手を揺らす]ダイダラボッチが 手を伸ばしても なおも届かぬ ソレイユよ。
SCP-1345JP-A-11: あ? なんだって?
SCP-1345-JP: 有象無象が 太陽蛸を 羨み足を 引きたがる。天に近づき 堕ちるイカロス 憧れそれは 毒林檎。
[SCP-1345-JP-A-11の手が縮小する。SCP-1345-JP-A-11は混乱した素振りを見せる]
SCP-1345-JP:海の底には 太陽も無く 静謐の檻 眠り姫。
[SCP-1345JP-A-11が消失する。]
<記録終了>
附記: SCP-1345-JP-A-11は着用したツナギと頭部の入れ墨から、D-58551であると推定されました。D-58551へインタビューを行ったところ、SCP-1345-JP-A-11が出現した時間に睡眠中であり、蛸の足のような頭を持つ女の夢を見たと証言しました。詳細はインタビュー記録_1345JPA-11を参照してください。インタビュー後、D-58551はSCP-1345-JP-A-aに指定され、オブジェクトの与える精神影響の追跡調査のために月末定例解雇および通常業務を停止されました。
対象: D-58551
インタビュアー: 茨城博士
附記: 本インタビューはSCP-1345-JP-A-11が観測された翌日にD-58551に対して行われた。
<録音開始>
茨城博士: それではインタビューを開始します。D-58551、昨日あなたが見た夢を話してください。
D-58551: 夢? 急に夢と言われても、すぐには思い出せないよ。
茨城博士: 構いません。思い出せたことから話してください。
D-58551: そうだな…たしか、俺は水の中にいたと思う。海の底かな、随分深い、暗い場所だった。それから…女が出てきた。頭からタコの足が生えた、デカい女だった。夢の中で俺は、それが人魚姫に出てくる海の魔女だと思ったんだ。
茨城博士: 貴方は、その女に対してどのような行動を取りましたか?
D-58551: そうだな…確か、手を大きくしてくれと頼んだと思う。おとぎ話の人魚姫みたいにな。
茨城博士: 手を大きくする、ですか。貴方の手は平均的なサイズですが…その理由を話して下さい。
D-5851: 理由って、そりゃあ…ああ、くそ、そんなことまで言わなきゃならないのか。
D-5851: [両手を見つめる]自分の手が嫌いなんだ。ガキの頃からな。俺には親父と兄貴がいるんだけど、親父も兄貴も手がデカいんだ。二人とも掌が広くて、指は太くて、俺よりも一回りも二回りもデカい、立派で格好いい手だった。
茨城博士: 続けてください。
D-58551: 二人とも俺なんかと違って、真面目に学校に行って、真面目に仕事して、家族に飯を食わせて、今でも真っ当に生きてるはずだ。偉いよな。だけど俺は、そうなれなかった。悪いことは幾つもやって、今じゃこんな、ムショだか研究所だか分からない所にいる。
D-58551: [沈黙]
茨城博士: D-58551?
D-58551: 時々考えるんだ。親父や兄貴とどこが違ったのかってな。それで真っ先に思いつくのが、2人のデカい手なんだ。そしていつからか、俺もあんなデカい手だったら、2人みたいに真っ当に生きてたんじゃないかって思うようになった。
茨城博士: 論理的に考えて、貴方の手の大きさと、貴方の人格や行動に関係があるとは思えません。
D-58551: そんなことは俺だって分かってるよ。頭で分かってても、ハートでそう思っちまったんだ。なあ、コンプレックスってそういうものだろ!?
茨城博士: …失言でしたね、今の発言は取り下げましょう。続けてください。
D-58551: …まあいいさ。そういう訳で、ずっとデカい手が羨ましかったんだな。だからあんな変な夢を見たんだと思う。まあ、夢の中でも手はデカくならずに逆に小さくなったけどな。そういえば、夢で魔女に何か言われた気がするが、内容はちょっと思い出せない。
茨城博士: そうですか…では、あなたは今も、自分の手にコンプレックスを抱いていますか?
D-58551: え?…あれ、何でだろう、自分の嫌いな部分を話してるのに、不思議と嫌な気分にはならないな。前だったら、こんなこと聞かれたら、バカにされたと思ってイラついてただろうにな。
茨城博士: では、コンプレックスが消えたと?
D-5851: うん…そうなのかな。確かに、前みたいに手の大きさは気にならないな。でも…話していて気付いたんだが…親父も兄貴も、真っ当に生きてて偉いって、さっき言ったよな?
茨城博士: 何か気になることが?
D-58551: それって、よく考えたら当たり前のことなんだよな。なんで俺、そんなフツーのものに憧れて、自分の手を嫌いになっていたんだろうな。
<録音終了>
終了報告書: 劣等感とは、他者と自分を比較し、自身が他者よりも劣っていると感じることで生じます。我々はこのオブジェクトの異常性を、夢でSCP-1345-JPを目撃した人物が抱く劣等感を喪失させるものだと考えていました。
しかし、D-58551の事例からは、オブジェクトの異常性がそれだけではないように思われます。D-58551は自身の手が父親や兄より小さい(少なくとも彼はそう感じた)ことに劣等感を抱いていましたが、SCP-1345-JPの影響によってその劣等感を喪失しました。しかし、同時に父親や兄に対して抱いていた、尊敬や憧れといった感情も失っています。
劣等感が、自分がそうなりたい存在と、自身がそうではない現状を比較することで生じるものだとしたら、劣等感の喪失とは、自分の理想像を失った副次的なものに過ぎないのかもしれません。 ―—茨城博士
記録日: 2019/██/██
<記録開始>
[SCP-1345-JPが海底に蹲っている。全身の肉が極度に肥大化した実体(以下、SCP-1345-JP-A-27と呼称)が出現する。]
[SCP-1345-JP-A-27がSCP-1345-JPに接近する]
SCP-1345-JP-A-27: あら…貴女はもしかしたら、魔法使いかしら。
SCP-1345-JP: [沈黙]
SCP-1345-JP-A-27: 魔法使いなら、私をもっと綺麗にしてちょうだいな。…ああ、でも、困ったわ。私には人魚姫の声のように、代わりに差し出せるものは無いの。
SCP-1345-JP: [沈黙]
SCP-1345-JP-A-27: 今の私も美しいけど、私はもっと綺麗になりたい。でも、そのために私の一部を差し出したら、もう私のなりたい綺麗な私になれない。ああ、どうすればいいのかしら。
SCP-1345-JP: [頭部の触手を揺らす]祇園精舎の 鐘の音響き 元の木阿弥 シンデレラ。
SCP-1345-JP-A-27: 祇園精舎? 諸行無常? そうは思わないわ。童女の美しさと乙女の美しさは違うし、乙女の美しさと年増の美しさも違う。私は何時どんな瞬間でも、綺麗になれる。
[SCP-1345-JP-A-27がSCP-1345-JPに接近する。]
SCP-1345-JP-A-27: ただ、そのステージが刻一刻と移り変わるの。肉体が衰えるんじゃないわ。どんなに私が美しくなっても、その瞬間には「なりたい私」が変わっているの。今の私は、自分がかつてなりたかった自分だけれど、そうなったその瞬間から、別の私を追い求めているの。
SCP-1345-JP: 有象無象が 太陽蛸を 羨み足を 引きたがる。
SCP-1345-JP-A-27: 羨望の眼で見られることがなんだというの?確かに、美しくなった私を賞賛する人は多いわ。そして、中には嫉妬で私を悪く言うものもいるでしょう。でも、嫉妬されるその私は未完成な私。そんな未完成な美を称え、妬むような解っていない奴の言葉なんて、耳を傾ける必要はあるかしら?奴等が足を引くのなら、私はその手の届かない、もっと高みに昇る。
SCP-1345-JP: 天に近づき 堕ちるイカロス 憧れるとは 毒林檎。
SCP-1345-JP-A-27: ああ…貴女、もしかしたら、苦しいのかしら。
SCP-1345-JP: 海の底には 太陽も無く 静謐の檻 眠り姫。
SCP-1345-JP-A-27: 貴女も、太陽に憧れて、その光に触れようと手を伸ばした一人なのね。でも、太陽には近づくどころかその身を焼かれ、傷つけられて苦しんだのね。私には解るわ。貴女は諦めずに何度も何度も太陽に手を伸ばし、その度に傷つけられて、とうとう太陽を見ることすらも苦痛になったのね。こんな海の底にいるのも、光に怯えているのが理由じゃないの?
[SCP-1345-JPが首をもたげる]
SCP-1345-JP-A-27: 太陽に手を伸ばしてその身を焼かれた魔女。太陽になれなかった魔女。太陽になれないのが故に、太陽だと崇められることに苦しむ魔女。故に、太陽に憧れる者に、太陽なんて見る価値もない、太陽になんてならなくてよいと囁く魔女。
[SCP-1345-JPが目を開く]
SCP-1345-JP-A-27: 貴女は苦しいのね。太陽に憧れることが、太陽ではない自分が、そして、太陽になれず嘆く隣人を見ることが。可哀想な魔女。優しい魔女。美しい魔女。
[SCP-1345-JP-A-27が手を伸ばし、SCP-1345-JPの頬に接触する]
SCP-1345-JP-A-27: ヴィーナス、アプロディーテー、ウェヌス。美の女神達。太陽や死と同様、美もまた神格を与えられた。そこへ至ろうとすること、美を求めることは言わば信仰なの。そして強い信仰には相応の苦が伴う。
SCP-1345-JP: [沈黙]
SCP-1345-JP-A-27: 信じることは苦しい。でも、苦しみのその先に、美は微笑む。貴女がこれまで苦しんできたことは間違ってはいない。美を信じて苦しむ貴女は美しかった。苦しんで、太陽で身を焼いた貴女は、更に先の美へと至れるでしょう。いつか貴女も太陽となるでしょう。美を求める者に美を求めなくてもよいと囁くなんて、そんなのはただのお節介。貴女は今こそ変わるべきなの。貴女は、貴女が信じた太陽を、美を、ただ信じ続ければ良いの。さあ、苦しみながら貴女が望む場所へ進むのよ。
[突如、SCP-1345-JP-Aの頭部付近の触手が切断される。直後にSCP-1345-JPが海面を仰ぎ、身体に絡まる触手を解いて浮上を開始する。]
SCP-1345-JP: 髪を切り 浮かび上がれよ ラプンツェル。
SCP-1345-JP-A-27: 夢見る蛸は 己を食らう。
[SCP-1345-JPが突如繊維の集合体に変化し、海中に拡散するように消失する。]
SCP-1345-JP-A-27: 足を欲した人魚姫が、贄に差し出したのは自らの声。髪を切って浮かび上がった程度では、太陽になるには足りなかったようね。そう、大いなる苦痛と犠牲の果てに、美は初めて訪れる。己自身を食らった貴女は、きっと太陽に生まれ変われるでしょう。それまでは…
[SCP-1345-JP-A-27が消失する。]
SCP-1345-JP-A-27の声: 眠れる蛸よ どうかそのまま みよこの夢を プリンセス。
<記録終了>
附記: SCP-1345-JP-A-27の出現後SCP-1345-JPは消失し、それ以降観察されていません。SCP-1345-JP-A-27は映像記録中の発言から要注意団体“イワナガ美容組合”と関連が疑われますが、現在もSCP-1345-JP-aの特定には至っていません。
補遺2: <インシデント記録_████_2019/██/██>
2019年██月██日、SCP-████-JPの実験中、SCP-1345-JPと外観が類似する実体が出現しました。
SCP-████-JP概要: SCP-████-JPは異常性を有するマタニティレギンスです。全国の衣類販売店で発見されており、いずれも「着るだけで楽々ボディトレーニング!出産後も元のスマートBODY!」という広告文がピンク色を基調としたパッケージに印刷されています。妊娠中の女性がオブジェクトを着用した場合、オブジェクトが皮膚と癒着・同化し、皮膚と同様の機能を有するようになります。これにより着用者はオブジェクトを脱ぐことが不可能となりますが違和感を抱くことはありません。この状態で着用者が排泄行為を行った場合、排泄物はオブジェクトに触れると即座に消化・吸収され、栄養素として着用者に還元されます。また、胎児も排泄物と同様に、出産後に胎児は直ちにオブジェクトに消化・吸収され、着用者へ栄養素として還元されます。その後、還元された栄養素を消費して着用者は自身の肉体の新陳代謝を異常に活性化させ、肉体を妊娠以前の体型に再構築します。再構築後、オブジェクトは着用者の肉体と完全に同化し異常性を消失します。
対象: D-58551
実施内容: 男性がSCP-████-JPを着用した場合の反応を確認する。
<実験開始>
[D-58551がSCP-████-JPを着用する]
三馬博士: そのレギンスを履いてから、何か変化はありますか?
D-58551: 変化って言ってもな…特に何も無いぞ?
三馬博士: では、レギンスを脱いでください。
D-58551: おう…あれ、おい、くっついて脱げないぞ。
三馬博士: 男性でも同様の異常性が出るようですね…では経過観察のため、貴方にはその状態で暫く…
D-58551: おいちょっと待て! なんか、熱いぞ!
三馬博士: 熱い? オブジェクトがですか?
D-58551: 熱い! なんだこれ痛い! おい、助けてくれ、焼ける、焼け…
[D-58551が転倒し、床を転げ回る。SCP-████-JPが巨大化し、D-58551の身体全身を包み込む。]
三馬博士: 異常な反応を確認。対象の観察を継続します。機動部隊は指示があり次第突入し、対象を鎮圧してください。
[SCP-████-JPに包まれたD-58551の身体が変形し、卵形状になる。その後95分間、蠕動を繰り返しながら徐々に縮小する。]
[対象が活動を停止する。この時点の対象の体高は100cm程。]
[対象の表面に亀裂が入り破裂し、内部から人型実体が出現する。実体は頭部から頭足類の触手が生えた児童のように観察できる。]
出現した実体: ゆめみるたこよ どうかそのまま うまれかわれよ らぷんつぇる。
[機動部隊が突入し、実体を拘束する。実体はこれに抵抗しない。]
<実験終了>
終了報告書: 出現した実体は幼児程度の知能を有すると思われ、日本語で会話が可能です。後に別の男性Dクラス職員を用いて行われた実験では、SCP-████-JPがDクラス職員の肉体と融合するのみで同様の実体の出現は確認されなかったため、当該実体の出現は実験に用いられたD-58581自身に要因があると考えられます。
D-58551が以前SCP-1345-JP-A-aに指定されていたこと、また、出現した実体の外観がSCP-1345-JPの特徴を有していることから、SCP-1345-JPはNeutralized指定を解除され、Euclidへ再分類されました。出現した実体はSCP-1345-JP-Bに分類されました。
対象: SCP-1345-JP-B
インタビュアー: 茨城博士
附記: 本インタビューはインシデント後、SCP-1345-JP-Bに対して初めて行われた。
<録音開始>
茨城博士: それでは、インタビューを開始します。SCP-1345-JP-B、貴女に関する情報を話してください。
[SCP-1345-JP-Bが首を傾げる。]
茨城博士: 言い方を変えましょう、貴女に聞きたいことがあります。これから私が聞くことに答えてくれるかな?
[SCP-1345-JP-Bが頷く。]
茨城博士: まず、貴女の名前を教えてください。
SCP-1345-JP-B: …わかりません。
茨城博士: この場所に来る前のことを覚えていますか?
SCP-1345-JP-B: わかりません。
茨城博士: [D-58551の写真を見せる]この人が誰か分かりますか?
SCP-1345-JP-B: わかりません。
茨城博士: 貴女が言った「夢見る蛸よ どうかそのまま 生まれ変われよ ラプンツェル」という言葉はどういう意味ですか?
SCP-1345-JP-B: わかりません。でも、おんなのひとが、ずっとそういっていたの。
茨城博士: それでは…
SCP-1345-JP-B: ねえ。
茨城博士: どうかしましたか?
SCP-1345-JP-B: おじさんのおてて、おおきくて、かっこいいね。
茨城博士: えっ…そうですか?
SCP-1345-JP-B: わたしも…こんなちっちゃなのじゃなくて、もっとおっきいおててがほしい。
[SCP-1345-JP-Bの手が膨張し、自壊し始める。]
茨城博士: SCP-1345-JP-B!?
[自壊したSCP-1345-JP-Bの手が急速に復元される。復元後の手は自壊前より僅かに成長している。]
SCP-1345-JP-B: ねえ、かっこいい?
茨城博士: い、インタビューを中断します!
<録音終了>
補遺3: インシデント後、複数の民間人や産婦人科委員から“妊婦が肉の塊に変身した”という通報が寄せられました。機動部隊が急行したところ、各現場でSCP-1345-JP-Bに類似する人型実体及び人体と結合したSCP-████-JPの破片を発見し、収容しました。収容された実体群はSCP-1345-JP-Bと同様の特徴と異常性を有しますが、手ではなく、眼球等それぞれ異なる身体部位が巨大化しています。これら実体はSCP-1345-JP-Bに指定され、発見順にナンバリングされました。一部のSCP-1345-JP-Bは変化前の容貌が未特定のSCP-1345-JP-A-aと類似していることが指摘されています。
2019年██月██日、全国の衣類販売店から「着用者の体質により皮膚炎を発症させる事例が報告された」ことを理由に、未収容のSCP-████-JPが回収されていることが判明しました。
2020年██月██日、SCP-████-JPが再度全国の衣類販売店で発見されました。パッケージデザインほぼ同一ですが、商品説明に「バストアップ、ヒップアップ等あなたの気になる部位のボディライン矯正にも効果があります」という一文が追記されています。Dクラス職員を用いた実験では、SCP-████-JPを着用した場合、着用者がコンプレックスを抱く部位を自壊させるとともに急速に再生、肥大化させる異常性が新たに付与されていました。これは、着用者の排泄物から得られる栄養素が利用されていると考えられます。