アイテム番号: SCP-1354-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 回収されたSCP-1354-JPはサイト-81██の低脅威度収容ロッカーに収容されます。毎朝9時にそれぞれの民家に発生したSCP-1354-JPを回収してください。██町に居住していた住民には適切な記憶処理が施され、区域手順25-GT1に乗っ取って退避を促進する作業を進めます。 作業は完了しました。該当地域は一般的なプロトコルの元封鎖されます。
説明: SCP-1354-JPは認識災害性を有したステッカーです。SCP-1354-JPの表面には監視カメラを設置、もしくは作動させている旨の文言が記載されています。SCP-1354-JPの異常性は電柱、ポール、住宅の外壁などに貼り付けたときに発生します。1度貼り付けられたSCP-1354-JPを回収することは出来ません。全てのSCP-1354-JPの異常性は██町領域内、及び██町の住人にのみ作用します。
SCP-1354-JPを中心とした半径5mにいる人物は、その空間内において監視カメラに監視されていると思考します。影響の範囲内から出た対象は精神影響から脱します。また、SCP-1354-JPの影響範囲に入った経験のある住民は監視カメラに対して強い関心を抱きます。これらの関心の内容は人によって異なりますが、大別して「監視されることに対する恐怖感」と「監視することに対しての安心感」の2つに分けられます。いずれの関心を抱くかは本人の性格に大きく左右され、2つの関心が同時に存在することもあり得ます。
また、SCP-1354-JPは毎朝9時に1度、SCP-1354-JPの影響範囲内に入った経験のある住民の自宅のポストに出現します。枚数は出現ごとに異なりますが、平均して6~8枚です。対象はSCP-1354-JPの出現に違和感を抱くことはなく、即座にSCP-1354-JPの特性を理解し、使用を試みます。
SCP-1354-JPは新潟県魚沼市██町で発見されました。巡回中のエージェント・暮が町中に多数貼り付けられたSCP-1354-JPを発見し、財団に通報しました。発見当時、██町は30戸数程度の規模であったにも関わらず、3200枚程度のSCP-1354-JPが貼り付けられていました。以下は発見時に行われた住民へのインタビューです。
インタビュー記録1354-JP.1
インタビュアー: エージェント・暮
対象: 篠崎 正和氏
付記: 篠崎氏はSCP-1354-JPを██氏の住宅付近の電柱に貼り付けている最中でした。
[記録開始]
エージェント・暮: こんにちは。何をなされているんですか?
篠崎氏: ああ、うん、なんだ兄ちゃん見ねぇ顔だな。
エージェント・暮: 失礼しました。私、██テレビの者でして。
篠崎氏: テレビ?機材もなしで一人でか?
エージェント・暮: ええ、まぁ下見という奴でして。番組にもよりますが私は一人の方が気楽なんです。 [咳払い] 今何をなされているのでしょうか?
篠崎氏: 見りゃわかるだろ。監視カメラを取り付けてんだよ。
エージェント・暮: ステッカーを貼り付けているぐらいで監視カメラは見当たりませんが?
篠崎氏: あんた馬鹿だなぁ。順序ってものがあんだろ。これを貼り付けてるってことは監視カメラを取り付けたってことなんだよ。なんにも無い場所に貼るわけねぇだろうが。
エージェント・暮: しかし、実際に監視カメラは見当たりませんよ?
篠崎氏: 見つからないように取り付けたんだよ。馬鹿が壊すと悪いからな。その代わりちゃんと監視カメラが見てるからなって分かるようにステッカーを貼るんだ。
エージェント・暮: なるほど、監視カメラの取り付けは自治体などから委任されたものですか?
篠崎氏: いや……個人的に。近頃は治安が悪いからな。
エージェント・暮: それは他の住民の方へのプライバシーの侵害になりませんか?
篠崎氏: だれだって自分の命が一番大事だ。それとプライバシーを天秤にかけた時にこうなったってことなんだよ。ここの住民はみんなそうさ。
エージェント・暮: なるほど、まだ取り付けをされるようでしたら見学をさせていただいてもよろしいですか?
篠崎氏: いいや、もう取り付けは終わった。これから帰るよ。
エージェント・暮: そうですか、突然失礼しました。ありがとうございます。
篠崎氏: 最近はみんな気が立ってる。悪いことは言わねぇからロケをやるなら別のとこにしときな。
[記録終了]
また、以下の音声記録はSCP-1354-JPの異常性が発覚してから行われたインタビュー記録です。
インタビュー記録1354-JP.8
インタビュアー: エージェント・原
対象: 森 敦彦氏
付記: エージェント・原は市役所の職員として森氏に接触しています。
[記録開始]
森氏: よお職員さん。調べ物は終わったか?
エージェント・原: ええ、ご協力ありがとうございます。すみませんね家の中を探し回って。
森氏: 別に構わねぇけどな。 [笑いながら] 脱税の証拠でも探してたか?
エージェント・原: いえいえ、別に森さんに不利になることをしていたわけではありませんよ。詳細は語れませんがね。
森氏: ふん、公務員は大変だねぇ。あら探しばっかりで。
エージェント・原: [苦笑しながら] 別にそういうわけではないんですけどね。 [周囲を見回しながら]
それにしても監視カメラ、多いですねぇ。どの部屋にもある。森氏: 最近は治安が悪いんだよ。仕事上仕方ないことじゃあるが、やれ暴利だの傲慢だのガタガタ言うバカが多くってなぁ。
エージェント・原: はは、たいへんそうですね。
森氏: 自分で契約したっていうのになぁ。どんな内容で契約したって自分で判を捺してんだから自己責任だわ。まぁ、ここいらの事情もあってかなり自由にやってんのは事実だけどな![笑いながら]
エージェント・原: しかし、それにしたってこの家、ステッカーが多過ぎじゃありませんか?この部屋だけでも20はありますよ。
森氏: カメラには死角があっからよ。死角は隙だ。隅々まで埋めなきゃならねぇ。
エージェント・原: しかし、やはり多すぎる気がします。死角と言っても人が1人隠れられるほどじゃないでしょう。
森氏: お前も俺になってみればわかるよ。 [苦笑] 町中の人間は俺が嫌いだからな。おちおち外にも出られねぇんだ。防犯カメラのあるところだけが安心だ。
エージェント・原: 私は監視カメラがあると少し落ち着きませんがね。
森氏: なるほどなるほど、お前は″監視カメラ″って呼ぶんだな。チッ、町の奴らと同じか。
エージェント・原: 町の奴らと同じとは?
森氏: 俺のことが嫌いな奴らはな、″監視カメラ″って言うんだよ。奴らは心の中でやましいことを考えてやがるから、それを監視する監視カメラが嫌いなんだ。
エージェント・原: [沈黙]
森氏: でも俺にとっちゃこれは″防犯カメラ″だ。やましい気持ちの奴らを見張ってくれるからな。おれにとっちゃあな、防犯カメラのあるところだけが安心なんだ。
エージェント・原: 監視カメラと防犯カメラの違いですか。
森氏: そうだ、そしてお前は″監視カメラ″って言ったわけだ。何か腹の中に隠してるんだろ?早く出て行ってくれ。
エージェント・原: もう少し、お話をお伺いすることは出来ませんか?
森氏: 話は終わりだ!さっさと出て行け!不法侵入で訴えるぞ!
[記録終了]
インタビュー記録1354-JP.16
インタビュアー: エージェント・石橋
対象: 大野 辰巳氏・小金 佑樹氏
付記: このインタビューは付近の交番に潜入していたエージェント・石橋が両氏の争いを発見したために緊急的に行われました。
[記録開始]
大野氏: 畜生!離せ、離せこの野郎!
[小金氏とエージェント・石橋が大野氏を羽交い締めにしている。]
エージェント・石橋: 落ち着いてください。小金さん、大野さんは一体どうしたんですか。
小金氏: それがさっきから監視カメラを壊してやるって暴れ出して。ほら見てくださいよ。
[小金氏がエージェント石橋に前方を見るように促す。前方には破壊されたSCP-1354-JPが取り付けられたブロック塀の一部が崩れ落ちている。]
大野氏: クソ!離せって言ってるじゃねぇか!
小金氏: 落ち着きましょうよ大野さん!ほら、あっちこっちで監視カメラに見られてますよ!
大野氏: それも全部壊してやるって言ってんだよ!
[大野氏が抵抗を続ける。エージェント・石橋は小金氏に離れるように促し、大野氏を拘束した状態で話を続ける。]
エージェント・石橋: 落ち着きましょう大野さん。続きは交番で聞きます。何も捕まえようって訳じゃありません。交番なら監視カメラもありませんから。今は落ち着きましょう。ね?
大野氏: うるせぇ!俺は知ってんだぞ。ここから交番までの道にも森の野郎が取り付けた監視カメラがごまんとあるんだ。クソ、あの野郎。人のことを馬鹿にしやがって。
エージェント・石橋: 森さんには後で私から控えるように伝えておきますから。それでいいでしょう。とにかく今は暴れないでください。
大野氏: 森の野郎が見てるか見てないかは問題じゃねぇんだ。監視カメラがあるってことは、つまり見れるってことなんだよ。ぶっ壊してやらねぇといけねぇんだ。
[大野氏がエージェント・石橋の脛を踵で強く蹴り飛ばす。エージェント・石橋は痛みで大野氏の拘束を解く。]
大野氏: へへ、どうだ。 [咳き込み] 森のクソッタレが付けた監視カメラなんて全部壊してやるからな。
小金氏: やめましょうよ大野さん!監視カメラに映ってますって!
[大野氏が小金氏の首元を掴む]
エージェント・石橋: 離しなさい!
大野氏: うるせぇ!俺は知ってんだぞ。森の野郎みんなの監視カメラを金で独占してやがるんだ。てめぇも森に売ったんだろ。知ってるんだぞ!
小金氏: [呻き声] だ、黙れ!
[小金氏が大野氏を突き飛ばす。大野氏は後頭部をブロック塀に強く打ち付ける。大野氏はぐったりとした様子で動かない。]
小金氏: え、あ、正当防衛ですよね。正当防衛!お巡りさんも見てましたよね?そ、それにあの監視カメラに映ってるはずです!
[記録終了]
付記: 検査の結果、大野氏は軽度の脳振盪を起こしていたことが判明しました。大野氏と小金氏の両氏にはクラスA記憶処理を施し、適切なカバーストーリーを適用して解放しました。
補遺: 区域手順25-GTの実行中に森 敦彦氏が死亡していたことが判明しました。死亡確認は町内で医師をしていた狩野 周平氏によって行われました。遺体は親族に引き渡され、葬儀が行われました。以下は狩野 周平氏に行われたインタビュー記録です。
インタビュー記録1354-JP.19
インタビュアー: エージェント・石橋
対象: 狩野 周平氏
付記: エージェント・石橋は警察官として狩野氏にインタビューを行っています。
[記録開始]
エージェント・石橋: それでは狩野さん。森さんが運び込まれたときの状況をお伺いしてもよろしいですか?
狩野氏: なんだ。俺は潔白だからな。カルテかなんか捏造したりはしてねぇからな。
エージェント・石橋: いえいえ、あなたを疑っているわけではありませんよ。ただお話を聞きたいだけです。
狩野氏: [ため息] わかったよ。言えば良いんだろ?午後5時頃、知り合いから森さんが道路で倒れてて意識がないって連絡が来たんだ。俺は森さんを連れてこいって返事をした。それから5分ぐらいして森さんが運ばれてきたんだ。
エージェント・石橋: その時、まだ森さんに意識はありましたか?
狩野氏: いいや。運ばれてきた時点で死んでた。脈をとったのは午後5時23分。時計が狂っていなければな。
エージェント・石橋: その後はどうされましたか?
狩野氏: 一応一通り死因を調べた。結果はまぁ、事故死ってところだ。転んだんだかした拍子に怪我してそれで死んだってことだ。
エージェント・石橋: それで、その後は遺族に引き渡したと。
狩野氏: そうだ。ただまぁそのまま引き渡せる見た目じゃなかったからな。葬儀屋を呼んで見た目を整えてやった。重労働だったよ。森さんの家族に引き渡すまで2日はかかった。あっちもあっちで葬式の手配があったみたいだからちょうど良かったかもしれないけどな。
エージェント・石橋: その森さんですが、発見してから警察に連絡されなかったのはなぜでしょうか?
狩野氏: そりゃ、事故死とか、心不全とか、そういう類いの死に方だからだ。殺された訳じゃねぇから警察に連絡はしねぇ。
エージェント・石橋: こちらで調べたのですがね。森さんの状態、よほど酷かったようで。引き渡すまで2日かけて傷跡を隠したのも納得という感じでした。
狩野氏: 何が言いてぇ。
エージェント・石橋: ……森さんの腹に3ヶ所、首に1ヶ所のナイフによる刺突。それとかなりの数の切り傷があったはずです。
狩野氏: ……そうだな。かなりぐちゃぐちゃだった。
エージェント・石橋: 普通はですね。これほどの状態であれば殺人を疑います。しかしながらあなたはただの″事故死″として処理をしました。町の住民もみんな同じです。
狩野氏: それは事故死に間違いないからだ。
エージェント・石橋: 刺突痕と大量の切り傷ですよ?どうやったって転んだりして出来るものではありません。
狩野氏: 出来たんだよ。そういうこともあるかもしれねぇだろ。
エージェント・石橋: どうして、殺人ではないと考えるのですか?普通であれば殺人と考えるのが当たり前の状況です。
狩野氏: ……なぁ、警察さんよ。この町がちょっと変わってるのはわかるだろ。
エージェント・石橋: えぇ、まぁ。監視カメラがかなりありますね。
狩野氏: 監視カメラがあるってことは誰かが見てるってことだ。そうだろ?
エージェント・石橋: そうなりますね。では、あなたは監視カメラを見て森さんが死亡した瞬間を確認したと?事故死であることを?
狩野氏: いいや、俺は見てねぇ。医者の機械は弄れても最近の機械はよく分からねぇ。
エージェント・石橋: それじゃあ誰が確認したのですか?
狩野氏: さぁな。知らねぇ。
エージェント・石橋: 答えになってないじゃないですか。どうして森さんを事故死だと断定したんですか。
狩野氏: 監視カメラがあるってことはな、誰かが見てるってことなんだ。もし森さんが殺されてたならその誰かが殺人を告発するはずだ。それがされてないってことは森さんは殺されてなかったってことなんだよ。
[記録終了]
付記: 事件についての調査中、SCP-1354-JP以前に町内に取り付けられていた全ての監視カメラが破壊されていることが判明しました。全ての住民は監視カメラの破壊に関与していない旨を主張しました。