インタビュー記録1358-JP - 日付1945/9/3
対象: 大日本帝国陸軍大尉 安食あぐい 宣明のりあき
インタビュアー: エージェント・トーラン
付記: 安食大尉は負号部隊におけるSCP-1358-JPの運用責任者であった。なおエージェント・トーランは通訳を介してインタビューを行っているが本記録では日本語に統一している。
<インタビュー開始>
エージェント・トーラン: それではインタビューを始めます。
安食大尉: 敗軍の兵士でありますからね、隠し立てする事は何も有りません。知っておる事は全てお話し致します。
エージェント・トーラン: ではまず、貴方の経歴ですが、事前に調べさせてもらいました。1944年までは一般部隊の士官でしたね。何故、負号部隊へ転属になったのですか?
安食大尉: そうですね。…普通、兵器ってもんは必要とされる戦場が有ったり、今まで使っとったもんを改良する必要が有ったりして開発されるもんです。
エージェント・トーラン: ええ、それが一般的だと思います。
安食大尉: ですがあの部隊は違う。従来に無い物を作れんかと学者連中が好き勝手に研究して、物が出来上がってから初めて戦場で使えんかと考える。そんなことがまま有ったんで、自分等みたいな前線帰りが時々引っ張られたんです。
エージェント・トーラン: つまり貴方は、兵器開発や運用に関する助言者として負号部隊に配属されたのですね?
安食大尉: まあ建前は、ですね。実際は「こんな素晴らしい物を造ってやったんだ、さあ後は貴様等が使い方を考えろ」ってなもんです。開発の連中は自分等の意見なんか聞きゃしません。学も無い癖に、って露骨に馬鹿にしとりましたからね。
エージェント・トーラン: なるほど。では、SCP-1358-JPについてのお話を聞かせてもらいます。
安食大尉: 我々はあれを、丸に片仮名のオと書いて㋔号兵器とか㋔号装置とかと呼んどりました。
エージェント・トーラン: ㋔号、ですか?
安食大尉: そう。応報、怨念、怨霊。それ等の頭文字に掛けた呼び名でした。
エージェント・トーラン: それではまるで悪霊のようですが、あれは神を祀ったものではないのですか?
安食大尉: 貴方方アングロサクソンには理解出来無いかも知れませんが、古来より日本じゃ悪霊をも神として祀ってきました。厄災を齎す存在でも人智を超えた物なら日本じゃ神様なんですよ。
エージェント・トーラン: なるほど。
安食大尉: だが、その手の神は扱いを間違うと途端に罰が当たる。粗末にしたら祟られた、呪い殺された、そういう話が我が国では事欠かんのです。㋔号はそれを応用した装置でした。
エージェント・トーラン: その㋔号ですが、資料では1945年7月に配備開始となっています。
安食大尉: ええ。我が軍は比島に硫黄島、沖縄まで落とされ、明日にも連合軍は本土上陸かと戦々恐々しておりました。7月19日に自分は第一生命館に呼ばれましてね、そこで6台の㋔号装置を見せられたのです。
エージェント・トーラン: 続けて下さい。
安食大尉: 開発担当の技術少佐は㋔号装置を前に「本装置を搭載せる兵器は敵の攻撃を何倍にもして返し、一撃必殺の痛撃を与え戦局の大転換を成し得る」「この乾坤一擲の決戦兵器群をして御霊会ごりょうえと称す」とぶち始めました。
エージェント・トーラン: それを聞いて貴方はどう思いましたか?
安食大尉: 最初は途轍も無い兵器が出来たもんだと思い聞いていました。米英軍の砲火力の猛烈さは身を以て知っていましたから、あれを数倍にして撃ち返せるなら、と。でも、すぐに駄目だと思いましたよ。
エージェント・トーラン: それは何故ですか?
安食大尉: 考えてもみて下さい。貴方に、食らった敵弾を何倍にもして返せる力が有ったとしましょう。敵の矢弾の前に飛び出せますか?
エージェント・トーラン: …ああ、なるほど。
安食大尉: それでも、すぐに返せるならまだ使いようも有ったかも知れない。ですが㋔号兵器は丁度、力を加えたゴムやバネが縮むのと同じく、反撃のための力を溜める時間が必要だと説明されました。
エージェント・トーラン: 資料は確認させてもらいました。場合によっては10年単位の時間を必要とするとか。
安食大尉: 1t爆弾の爆撃を倍にして返すのに20年も掛かると言うのですよ。思わず「そりゃ、爆弾落とした奴の子供が爆撃機に乗って来る頃じゃないか」と反論しました。
エージェント・トーラン: 確かに。
安食大尉: ところが技術少佐殿は「問題は無い。本兵器は子どころか子々孫々末代まで鏖殺する事が可能である。」と、したり顔で言いよるんです。ああ話にならんと思いましたよ。
エージェント・トーラン: とても実用的とは思えませんが。
安食大尉: その通りです。でもだからと言って切り捨てる余裕は我が軍には無かった。一億総玉砕だって女子供まで竹槍で戦わせようとしてたのです。狂っとったんですよ、皆…。
エージェント・トーラン: 実際に兵器への搭載を行っていますね。
安食大尉: ええ、配備し運用せよ、との命令でしたから。馬鹿げていると思いましたが従うしか有りません。空襲にでも遭えば一矢報いられるやもと思いました。
エージェント・トーラン: ですが終戦まで被害は無かったようですね。
安食大尉: 一応は神様ですから御利益が有ったのかも知れませんな。まあ決号作戦の折には前線に投入するつもりだったんですがね。
エージェント・トーラン: ちなみに、その㋔号を搭載した戦車に対して発砲した兵士がいるのですが。
安食大尉: ああ、それは、気の毒としか申し上げられませんな。
エージェント・トーラン: 何か安全化する方法などないのでしょうか?
安食大尉: 貴国の大砲の弾には撃ち出されてから安全に出来る装置でも付いておるんですか?
<インタビュー終了>