SCP-1376-JP
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SCP-1376-JP内で"一時停止"状態にある人物

アイテム番号: SCP-1376-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-1376-JPの出現に関する情報は、財団が利用可能な複数の情報収集チャンネルを通じて常に収集されます。SCP-1376-JPの出現が検知された場合、回収して最寄りの利用可能な収容施設に移送し、一時的な収容を行います。目撃者に対しては適切なカバーストーリー1を適用することで異常性を隠蔽してください。記憶処理は許可されていますが、通常推奨されていません。出現の瞬間を目撃したケースなど、カバーストーリー単独での情報操作が困難な場合には利用が推奨されます。

SCP-1376-JP内の人物は要注意人物として指定され、SCP-1376-JP内から解放され次第、勾留・調査の対象となります。

SCP-1376-JPへの関与が疑われる要注意団体"犀賀派"2、特にその中心的人物とされる"犀賀六巳さいがろくみ"および、その多元宇宙同位体とみられる"斎賀六実さいがむつみ"についての調査が進行中です。渉外部門は、財団-斎賀六実間の暫定的な協力関係の維持を担当します。

説明: SCP-1376-JPは、半透明で青色の不明な材質で構成された卵型カプセル状実体です。SCP-1376-JP実例を破壊し、内部の実体を取り出す試みは現在まで成功していません。

SCP-1376-JPは、ベースライン現実と異なる現実に由来する生命体がベースライン現実上に転移した際3に、その生命体を包み込むように発生する場合があります。内部の生命体は生理現象を示さず、解放後も内部での記憶を保持していないため、SCP-1376-JP内部の実体は生理学的"一時停止"状態にあると考えられています。

全体の8割ほどのケースにおいて、SCP-1376-JPは出現から30時間ほど経過した時点で消失し、内部の実体は解放されます。残りの2割ほどのケースにおいて、SCP-1376-JPは赤く発光し、内部の実体ごと消失します。

超常コミュニティに浸透した偽装エージェントによる広範な調査の結果、SCP-1376-JPの作成に関与した人物として、要注意団体"犀賀派"の構成員"斎賀六実"が特定され、PoI-SG-21に指定されました。PoI-SG-21についての詳細は補遺1を参照してください。


補遺1: 要注意人物ファイル "斎賀六実"

以下の資料は、要注意人物ファイル"斎賀六実"からの抜粋です。

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斎賀六実


氏名: 斎賀 六実

PoI-ID: SG-21

性別: 女性

関連組織: 犀賀派

詳細: PoI-SG-21は要注意団体"犀賀派"に関与している人物です。当該団体の中心人物である犀賀六巳の多元宇宙同位体とみられ、ベースライン現実とは異なる現実からの転移者と推定されています。特筆すべき点として、一般の医学的知見について平均的な医師相当、異常病理学に関する知見については財団の医療部門スタッフと比較しても十分に高水準に有していることが確認されています。

PoI-SG-21は犀賀派の用語で−26.7°宇宙4と呼称される並行現実を起源とするようです。諜報活動を通じて得られた証言によれば、−26.7°宇宙はベースライン現実と比較し、超常医療の技術・理論が高度な水準に達しています。その他の文明進度はほぼ同等と推定されています。

PoI-SG-21は現在、ベースライン現実上の要注意領域"中国地方の穴蔵"に拠点を置いていることが判明しています。渉外部門による接触の試みが進行中です。


補遺2: インタビュー記録 - 20██/09/16

20██/09/14、渉外部門はPoI-SG-21との友好的な初期接触に成功しました。以下は初期接触の2日後に行われたインタビュー記録からの抜粋です。

インタビュー記録


日付: 20██/09/16

対象: PoI-SG-21

インタビュアー: 渉外部門 Agt.牧谷


[記録開始]

[本人確認のための簡単なやり取り、対象の緊張を取り除くための無関係の会話を省略]

インタビュアー: では本題に入りますが、あのカプセルは一体何なのでしょう?

対象: 検疫カプセルだよ。別の宇宙の感染症がこっちに入ってこないようにする。

インタビュアー: 別の宇宙の感染症、ですか。

対象: ああ。検査して、問題がなければ解放する。ちょっと時間がかかってしまうのは申し訳ないところだけど。

インタビュアー: 時間がかかってしまうのはなぜでしょう? 検査項目が多いからということでしょうか?

対象: 勘がいいね、その通り。正確には把握していないけれど、検査チェックリストには数百か数千は載っているはずだ。非異常のウイルスや細菌でも、こっちには免疫がない人ばかりでパンデミックの要因になるし、異常なものなら尚更だ。

インタビュアー: 異常な感染症、我々としても興味深いところです。具体例など教えてもらうことはできませんか?

対象: 私の記憶にも深く残っているものだと、そうだな、通称「五ノ目病」というものがある。丁度サイコロの五の面のように、眼球が5つになる病気だ。

インタビュアー: 目が3つも増えてしまうと。

対象: 厳密には違う、きっかり5つになるんだ。だから、「5との差分増える」という方がより実態に即している。稀なことだけど、より多眼の種族が罹患すれば減ることもある。最初は第五主義が絡んでいるのではないかと考えていたんだが、証拠は見つけられなかった。

インタビュアー: 多眼の種族ですか。並行現実で実際にご覧になったことが?

対象: ああ正に、この疾患の起源になった宇宙において、地球に相当する惑星の支配種は視覚器官を4つ有していたよ。ここからが面白いところなんだけれど、感染した場合に5つ目の眼が出来る場所には予め空間があって、肉体への改変は致命的なレベルに至らない。長い年月をかけて、この疾患自体に適応したんだな。

インタビュアー: ちなみに、我々の現実の人類が罹患した場合どうなりますか?

対象: 実際の臨床データは今のところ存在しない — これからも出てほしくないけれど — シミュレーションの結果を参考にすると、左右の頬に1つづつ新規に眼球が形成され、その後に鼻が眼球に改変されて呼吸と嗅覚に重大な問題が生じるといったところかな。どちらも酷いむず痒さを伴うと予想される。

[インタビュアーが鼻に右手を当てる]

[沈黙]

インタビュアー: あ、ありがとうございます。

対象: (笑う) 折角だし、もう1つくらい例を挙げようか。

インタビュアー: お願いします。

対象: 通称「ファーレンハイト病」、私の宇宙で世界を滅ぼしかけた疾病さ。感染者によって演奏・歌唱されるある楽曲を媒介として拡散する認識災害性の異常ミーム病原体によって発病する。感染から5日ほど経つと突如体温が約93℃ — 華氏200度にまで上昇して即死するんだ。

インタビュアー: もしかしてですが、病名はクイーンの曲にちなんで?

対象: その通り。あっちの宇宙のブライアン・メイは早期に天文学にのめり込んだからメンバーは違っているけど、Don't Stop Me Nowはこっちと同じく名曲さ。だからこそ、ミーム病原体のベクターに使われたのには腹が立つけどね。

インタビュアー: ふむ、滅ぼしかけたということでしたが、どのように収拾を?

対象: ミーム解析用の自律人工知能が早期に発見してくれた。それから、そのプログラムは対抗ミームを作成し、メディアを通じて全世界にばら撒いた。

インタビュアー: なるほど。

対象: これによって世界人口の99.9%は対抗ミームによる免疫を獲得したわけだが、未だに極一部、発病しない感染者がいる。健康保菌者ならぬ、健康保ミーム者。彼らがこちらの世界に来て、鼻歌でも歌ったらどうなると思う?

インタビュアー: それは — 恐ろしい話ですね。

対象: だろう? その対抗ミームだけど、メディアファイルがあるから、後で君の上司に送ろうと思うんだが。

インタビュアー: ありがたい提案です。インタビュー後に、外部協力者向けの一時連絡チャンネルのコードをお渡しします。

対象: 助かるよ。こっちの宇宙に無い病気の情報も、できる限り、こちらで機密になっていない範囲で共有しようと思う。私もこの宇宙にばかりかかりきりというわけにはいかないし、財団のような大きな組織がこの手の病気に対応できるようになれば随分と安心できる。最終的には自分の宇宙のことは自分たちでなんとかできるようになってくれると最良だ。今のところ私たちはwin-winの関係、そうじゃないか?

インタビュアー: そうですね。それと、もう1つお聞きしたいことが。カプセルが赤く点滅した場合、検査結果が陽性だったということで合っていますか?

対象: ああ。

インタビュアー: 我々は、カプセルがその後消失することを確認しています。どこへ移動しているのでしょう?

[沈黙]

対象: 申し訳ないが、答えられない。

[インタビュアー判断により、これ以上の詮索は敵対的反応を誘発する可能性が高いとして打ち切られた。以降は重要度の低い会話が続く。]

[記録終了]


付記: インタビュー中で述べられていた対抗ミームのメディアファイルおよび注視すべき他現実由来感染症の情報ファイルは成功裡に受け渡された。現在、医療部門により解析中である。

会話の内容からは、我々の異常病理学の知見が十分に進歩することで、PoI-SG-21による干渉は減少すると考えられる。この件を発端とする医療部門への予算割り当ての増額は審議中である。


補遺3: 事案記録1 - 20██/12/14

20██/12/02 午前2:30頃、SCP-1376-JPが同時多発的に出現する事案が発生しました。特筆すべき点として、本事案において出現したSCP-1376-JPは現実間転移イベントに付随するものではなく、また、ベースライン現実に由来する人物も一部対象に含んでいました。出現したSCP-1376-JPの全実例は、即座に赤く発光し、内部の実体ごと消失しました。

本件に関する情報収集のため、同日午前10:35、PoI-SG-21へのインタビューが行われました。以下はインタビュー記録からの抜粋です。

インタビュー記録


日付: 20██/12/14

対象: PoI-SG-21

インタビュアー: 渉外部門 Agt.牧谷


[記録開始]

インタビュアー: 例の検疫カプセルの件について至急お聞きしたいことが。

対象: 昨晩の深夜、非定常的な動作をさせた。その件だろう?

インタビュアー: ええ。まずは経緯からお聞きしても?

対象: まず、転送対象になったのは全員が同じ病原体に感染していた。勿論、別宇宙に由来するものだが、随分巧妙に隠れるタイプのやつでね、最初は検出できなかったんだ。そうしている間に現地の人にも感染が広がってしまったらしい。

インタビュアー: ではなぜ今になって?

対象: まあ待ちたまえ、まずは病原体の特性について話そうじゃないか。

インタビュアー: 分かりました。

対象: まず、我々はそれをコードネーム"インデューサー"と呼んでいる。ある種のナノマシンのようなものだと考えられていて、つまり人工的な感染性兵器である可能性がある。ここから少し込み入った説明になるぞ。

インタビュアー: 続けてください。

対象: 分かった。"インデューサー"には、恐らくは検出を困難にするために意図的に付与された特性がある。それが、時空連続体間隙に身を隠す能力だ。その際、宿主の身体には"インデューサー"の持つ針状の超次元突出部位だけが存在している状態になるんだ。この部位は、現実への"ピン留め"と"アンテナ"の二つの役割を持つと考えられている。

インタビュアー: "ピン留め"とは何の比喩でしょう?

対象: 間隙を出て現実に戻るための目印、あるいは碇のようなものと考えてくれればいい。他の宿主への感染の足掛かりでもある。

インタビュアー: それから"アンテナ"ですか、これは何かを感知するものということになりますかね。

対象: ああ、そこが正にポイントなんだ。"アンテナ"を介して、連中は別の宿主にいる同類との間で、互いにその存在を把握できる。犀賀先生5曰く、局所的な現界定数の変更による疎密波の固有パターンを検知しているのではないかということだった。

インタビュアー: 存在を把握して、何の意味が?

対象: 宿主の空間分布密度をモニタリングし、一定の密度を超えた段階でこちら側の次元に本体を戻す。そして宿主を死に至らしめる。具体的な症状を言うと、身体の液状化だ。

インタビュアー: ふむ、人工的な兵器であるという仮定に基づくと、理に適った性質ですね。検出困難な感染体が蔓延し、その後一気に人間を原型を留めない形で殺害する。実に恐ろしい存在だ。

対象: 検出困難な感染体、全く厄介な話だよ。元からカプセルに備わっていた検出技術では不十分だった。だけど、さっきも言ったように、先生から検出のヒントを教えてもらえたからね。それで宿主を特定して一網打尽に。

インタビュアー: なるほど、一網打尽ですか。では、消失したカプセルはどこへ?

[沈黙]

対象: それは教えられないと前にも言ったはずだよ。

インタビュアー: 今回消失した人の中には我々の宇宙の民間人も含まれていたんですよ。

対象: そうしなければもっと多くの民間人が死んでいた。身体がドロドロに溶けてね。冷酷に思うかもしれないが、救済とは生命に、権利に、全てに順位をつけることに他ならない。君たちもそうじゃないのか。

インタビュアー: せめて我々に一声かけていただけませんでしたか。

対象: どうせこの宇宙の医療技術水準では除去することは出来なかったさ。

インタビュアー: 出来る出来ないの話ではありません。目撃者の記憶を消すのは我々です。行方不明届けをうまく誤魔化すのも我々です。貴女の言うwin-winの関係を維持したいのであれば、情報共有を怠るべきではなかったのではないですか。

対象: その点はすまないと思っている。本当に。

[沈黙]

インタビュアー: いえ、私も言い過ぎました。一介の渉外連絡員が出過ぎた真似を。すみません。

対象: いや、いいんだ。大丈夫。他に質問は?

インタビュアー: 一応、もう一度だけお尋ねしておきます。消失したカプセルの行き先を教えてもらうことは、やはり出来ませんか?

対象: これだけは勘弁してほしい。今は話すべき時ではないんだ。いずれ、時が来れば明かすことになる。

インタビュアー: 分かりました。

[記録終了]


付記: インタビュー中の着席している間、Agt.牧谷が普段行わない貧乏揺すりを頻発していた点は特筆すべきです。これは会話中のストレスに起因すると見做されました。

午前11:20、Agt.牧谷はサイト-81██に帰還しました。午後13:20、サイト付設の職員宿舎の自室に戻り、恐らくは疲労のために即座に入眠しました。

午後16:55、職員宿舎における重度セキュリティ違反が発生しました。Agt.牧谷の自室にPoI-SG-21が出現し、最終的に両名が部屋から消失する結果となりました。以下はセキュリティ違反時の監視カメラの映像記録です。

映像記録


[記録開始]

[PoI-SG-21が不明な方法により、Agt.牧谷の自室に出現する]

[PoI-SG-21はコートの内ポケットから眼鏡状の機器を取り出し、装着する。その後、ベッドで睡眠中のAgt.牧谷に視線を向ける。]

PoI-SG-21: バイタル問題なし。杞憂だといいのだけれど。

[この時点でサイトのセキュリティチームが異変を検知する。]

PoI-SG-21: 一応、念の為。

[PoI-SG-21はコートの内ポケットから、青色光を放つ棒状の小型デバイスを取り出し、Agt.牧谷の額に当てる。]

[デバイスの発する光が赤へ変化する。]

PoI-SG-21: 残念だ。

[PoI-SG-21がため息を吐く。]

[PoI-SG-21がデバイスを操作すると、SCP-1376-JPが出現し、Agt.牧谷を内包したまま消失する。]

[PoI-SG-21が消失する。]

[セキュリティチームが現場に到着する。室内を捜索するが、2名を発見することは出来ない。]

[記録終了]


付記: Agt.牧谷の行方は不明です。PoI-SG-21は財団職員の拉致に関与したとして重要調査対象に指定され、警戒レベルは2から4に引き上げられました。


補遺4: 事案記録2 - 20██/12/28

20██/12/14のセキュリティ違反から14日後の20██/12/28、Agt.牧谷が自室に再出現しました。以下は、帰還時にAgt.牧谷が所持していた音声レコーダー6の記録の抜粋です。

音声記録


日付: 不明 (推定 20██/12/14)

関係者: PoI-SG-21、Agt.牧谷


[記録開始]

PoI-SG-21: レコーダーのスイッチは入れたな? では、当クリニックのインフォームド・コンセントの原則に従い、君の現状についての説明を開始しよう。

Agt.牧谷: お願いします。

PoI-SG-21: オーケイ。まず、私が君をここへ連れてきた理由だが、君がとある疾患について陽性であると判明したからだ。病名は「マクシミリアン病」。

Agt.牧谷: 聞いたことのない病気です。

PoI-SG-21: そうだろうな。この疾患は+17.2°宇宙の病理学者マクシミリアン博士により発見されたもので、同宇宙を起源とするとあるウイルスによって引き起こされる。特徴は長期に渡る手足の極度の震え。特に初期症状は貧乏揺すりと区別がつかない。

Agt.牧谷: では、無意識にやってしまっていたあれは病気の症状だったのですね。

PoI-SG-21: 心当たりがあるね? 普段やっていなかったはずの貧乏揺すりが気になってね。色々な理由からカプセルの検査項目に入れなかった病気も数百あるんだが、それらは可能な限りリストにまとめてあるんだ。そのリストを引っ張り出して来て、貧乏揺すりに似た手足の震えを症状に持つものを探し当てた。

Agt.牧谷: それで見つけたというわけですね。

PoI-SG-21: ああ。君たちの施設に勝手に入ったことは謝ろう。だけど、入れてと言って入れてくれるところでもないかと思ってね。

Agt.牧谷: 私の上司が納得するかはさておき、悪意が無かったことは分かりました。ところで、感染源は何だったのでしょう?

PoI-SG-21: 君、最近は仕事で私に会いに穴蔵によく来ていたはずだ。同時期に+17.2°宇宙出身者が穴蔵に来ていなかったか調べたら、ビンゴだった。私の拠点に降りる縦穴の横に広間窟があるよね? そこでエルマ7の司教が大声で唾飛ばしながら布教活動に勤しんでいたんだけど、彼が+17.2°宇宙の出身で、健康保菌者だった。

Agt.牧谷: なるほど。それと、気になるのはここが何処かですね。

PoI-SG-21: ここは私のクリニック。詳しい場所は言えないが、君たちの宇宙とは少し離れているとだけ。君には暫くここで療養生活を送ってもらうことになる。君の宇宙にマクシミリアン病の治療法を知る医師はいないだろうからね。

Agt.牧谷: もしかして、カプセルが消失するとここへ?

PoI-SG-21: その通り。君もそうやって来た。

Agt.牧谷: そうだったんですね、私はてっきり —

PoI-SG-21: まさかとは思うが、哀れな病人を何処かの適当な宇宙に捨ててるとでも?

Agt.牧谷: いえ、そこまでは。ですが、多少怪しんでいたのは事実です。なぜ頑なに隠したりしたのです?

PoI-SG-21: だって、ほら、すぐに財団に見せたらここの支配権を欲しがるかもしれないと思ったし。最良の場合でも、協力関係なんて名ばかりの監視がつくのは間違いないかなって。だから、もう少しゆっくり互いの信用を高めようかな、なんて思ったりして。

Agt.牧谷: では、私がここに来たのは誤算でしたか。

PoI-SG-21: まあ、こればっかりは仕方がない。目の前に患者がいて助けないわけにはいかないしね。時が来たってことだよ。そう考えるべきだ。

Agt.牧谷: ありがとうございます。

PoI-SG-21: いいさ。では治療の具体的な方針についてだけど —

[以下、専門的な内容になるため割愛。希望者は医療部門データベースから閲覧可能。]

[記録終了]

事案後、SCP-1376-JPの消失後に転送される施設についての要注意領域ファイルが作成されました。以下はその抜粋です。なお、掲載情報の大部分はAgt.牧谷の報告および写真記録に依存している点に留意してください。

領域通称: さいがマルチバースクリニック

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正面玄関前の表示案内。言語は定期的に英語やシガ語などの別言語へも変化した。退院直前に撮影。

LoI-ID: 8121

種別: 異次元空間・施設

詳細: LoI-8121は、異次元空間上に位置すると推定される医療機関です。また、医学研究・教育のための施設および、スタッフのための基本的な生活設備も併設しています。LoI-8121は基本的には異常な疾患の治療を主目的とした機関であると考えられていますが、非異常な外傷に対して治療を行なった事例もあり、非異常な疾患の多くについても治療技術自体は保有しているものと推定されます。

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足の震えにより歩行困難なAgt.牧谷。標準的な医療機関との差異は画像上の外見からは検出できない。

領域内社会での公用語として、日本語、英語、シガ語が確認されています。日本語は、院長であるPoI-SG-21("斎賀六実")の母国語であり、通常はスタッフ間での日常会話に使用されています。業務連絡は通常英語で行われます。シガ語は口頭会話で使用されるケースこそ少ないものの、患者向けの書類や掲示物は常にこの3言語が併記されています。また、患者とのコミュニケーションにおいては、患者の使用言語に合わせた翻訳が行われることが確認されており、スタッフ内に翻訳を専門の業務とする役職が存在しているようです。

領域内の人口はスタッフ、入院患者ともに不明ですが、人間のスタッフだけでも500名以上が確認されています。人種構成等の詳細は不明です。領域の性質上、異なる現実に由来するスタッフが多数であると推定されます。また、スタッフの指示を受けて動く人型異常実体が多数存在します。それらは「ゴーレムナース」と呼称されており、ベッド等の家具の移動や荷物の運搬など、労力の必要な単純労働に利用されています。

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ゴーレムナースの1個体。Agt.牧谷のリハビリテーションの監督と使用機材の運搬に従事していた。

前述のシガ語の使用や、Agt.牧谷によって報告された施設外の植生、気候などから、LoI-8121はシガスタン共和国領域上に存在し、複層平行宇宙ターミナルを利用して、ベースライン現実との接続を保っている可能性が指摘されています8

SCP-1376-JPはLoI-8121への、既知の唯一の侵入方法です。SCP-1376-JPは、LoI-8121内において、一般的な医療機関における緊急搬送車両に近いものとして取り扱われています。SCP-1376-JPの消失によって行方不明になった人物はLoI-8121内で治療を継続中であるか、適切な治療法が存在しない疾患の場合には、それが発見されるまでSCP-1376-JP内で保存されていると想定されています。Dクラス職員を、意図的にSCP-1376-JPによる転送対象となる感染症に罹患させ、LoI-8121に侵入させる試みは、現在倫理委員会の承認待ちです。

なお、現在までに当該領域への潜入に成功した財団職員はAgt.牧谷のみです。その侵入は意図的なものではなかったため、音声レコーダー以外の記録機器を所持しておらず、映像等の記録データは存在しません。当文書もAgt.牧谷の証言に基づいて作成されています。また、写真記録は、他の患者やスタッフに記念写真の撮影を依頼し、その印刷物を取得するという方法で収集されました。

PoI-SG-21との協力関係の再構築が進行中です。現在、医療部門スタッフを研修医としてLoI-8121に派遣する提案が審議されています。

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