警告: 以下のファイルはレベル4/1396JP機密情報です
このファイルにレベル4/1396JP承認無しで行われるアクセス試行は記録され、即時懲戒処分の対象となります。
白黒の砂利で構成されたSCP-1396-JP(異常性除去のために一部改変済み)
アイテム番号: SCP-1396-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-1396-JPは低確率ながら自然発生する可能性があり完全な収容は実質的に不可能であるため、収容プロトコルはオブジェクトの捜索・無力化に主眼が置かれます。財団WebクローラーによりWEB上を監視し、SCP-1396-JPを含んだ画像・動画が検出された場合は速やかに削除または改変してください。建造物等にSCP-1396-JPが含まれる場合は、機動部隊か-9(“ストリートアート”)が障害物を設置する/塗料等でオブジェクトを塗り潰す等により一般人の視覚から一時的に隠蔽し、その後に所有者や行政機関等に働きかけて対象を撤去または改装してください。この建造物等とは建物、アスファルト、砂利道、街路樹、看板・ポスター等を指しますが、これらに限定されません。
SCP-1396-JPの影響を受けた人物(以下、“被影響者”と呼称)が確認された場合、フェーズ2以下の被影響者に対する個別の治療は不要とみなされます。フェーズ3以降の被影響者は隔離し、カウンセリングと抗ミーム視覚型ワクチンの長期的な摂取によりオブジェクトの影響を緩和し、その後に記憶処理を施して解放してください。自身/同僚がSCP-1396-JPに暴露したという財団職員からの報告は、医療部門または対話部門によるものを除いて棄却されます。
アイトラッキングを用いたSCP-1396-JP暴露前後の視線比較実験(暴露後500時間)
説明: SCP-1396-JPは137のポイントで構成された、認識災害を有する環状の2色の一次元コードです。オブジェクト配列パターンそのものが異常性を持ち、視認者がおおまかに同系色と認識できる色・形状・サイズのポイントで構成されていれば、オブジェクトとしての条件を満たします。また、これらポイントの大きさや色、配置間隔は均一でなくとも成立し、その誤差は10%前後と推測されます。このため、樹木の葉や砂利等の自然物、建物壁面の凹凸や錆等でもオブジェクトとして成立する可能性があります。財団の試算によれば、都市圏の人口の6~7%の人間が過去にオブジェクトと接触した被影響者であると推測されますが、オブジェクトの影響力には累積性があるものの極めて微細なものであり、かつ、通常は1度に暴露する時間がごく短時間であるため、大半の事例においては影響力が表面化することはありません。加工前のオブジェクトを閲覧する場合は、適切な抗ミームワクチンを接種するとともにクリアランスレベル4以上の職員2名の承認を受けてください。
オブジェクトの視認した人物は“空間と物質または物質と物質の接触面”“内部の視認できない狭い空間との境界”(以下、“境界”と呼称)に対する執着心を抱きます。これまでに確認された“境界”の一例は以下の通りです。
- 家具と床や壁の隙間
- 僅かに開かれた扉や抽斗
- 袖口や裾・襟元といった衣服の開口部
- コインの投入口
- 口や目といった身体の開口部
- 電車と駅ホームの隙間
- 蓋の開いたマンホール
- 樹洞や根と土の接点
- 換気口や排水溝
“境界”の定義は被影響者ごとに異なりますが、影響者ごとに一定の関連性1があるものが対象となります。
被影響者の行動の変化は、視認時間に応じてフェーズ1~フェーズ4に分類されます。変化が表面化する時期は個人差があり、また、被影響者の暴露時間は、財団が把握している以外に過去にオブジェクトと接触した可能性があることに留意してください。
フェーズ1(潜伏期): 累積暴露時間: 0~約400時間。オブジェクトの影響は表面化せず、被影響者は自身の異変を自覚しません。アイトラッキング検査を用いることで行動の変化の兆候を観察することが可能ですが、非異常性の行動2との区別は非常に困難です。
フェーズ2(発症前期): 累積暴露時間: 約400~約750時間。被影響者は無意識的に“境界”を凝視する、手を触れようとする等、その行動の変化が観察可能となります。また、アイトラッキング検査を用いても非異常性の行動と区別することが可能です。一部の被影響者は自身の行動の変化に違和感を覚えますが、自力で制御することが可能です。また、フェーズ2以降の被影響者は潜在意識下でSCP-1396-JPを認識しているため、結果的に無意識的にオブジェクトに注目し、暴露時間が飛躍的に増加します。抗ミームワクチンを用いることで影響を緩和させることが可能ですが、副作用の懸念があるため推奨されません。フェーズ3(発症後期): 累積暴露時間: 約750~約1050時間フェーズ3の被影響者の行動の変化は顕著になり、外部からの呼びかけ等の刺激がない限り、隙間等を凝視する/ 触れようとする/ 侵入を試みる等の行動を中断できません。また、ほとんどの被影響者は自身の行動に変化を認識し、衝動に抵抗を試みますが最終的には失敗します。フェーズ3の行動は被影響者の日常生活に支障を生じさせ、事故や人間関係の悪化を招く原因となり得ることから、抗ミームワクチンを用いた治療が許可されます。
フェーズ4(末期): 累積暴露時間: 約1050時間~/ この段階の被影響者は、外部からの呼びかけにも反応せず異常行動を継続します。これらの行動は執着の対象が視界から無くなるまで継続され、被影響者は行動中は食事/睡眠/排泄を含む一切の日常生活行動を放棄します。フェーズ4の被影響者は、Dクラス職員を用いた長期暴露実験の他には確認されていません。
SCP-1396-JPは情報統制を目的とした視線誘導技術開発の過程で19██年に偶然発見されました。当初は実用化に向けた研究が進められましたが、オブジェクトが自然発生する事例が確認され、SCP-1396-JPとしてナンバリングされました。
附記1396JP-1: 19██年█月、複数の財団サイトにおいて“同僚が執拗に身体を眺めようとする。アノマリーかもしれない。”という旨の通報が相次ぎました。該当する職員には詳細な調査が行われましたが、多くの事例は通報者の過剰反応であり、また、該当する行動が認められた者も多くの場合は精神病理学的には問題のない範囲であるとみなされ、個別に厳重注意がなされました。しかしながら、SCP-1396-JPの影響を受けフェーズ2に達した職員も数名が確認されました。これらの職員は自宅の壁面やオフィスのカーペット等にSCP-1396-JPが発生し、継続的に暴露し続けたものと考えられます。当該職員のうち、希望者には試験的に抗ミームワクチンによる治療が試みられ、それ以外はカウンセリング等による症状の緩和が図られました。財団内部に潜在的なSCP-1396-JP被影響者が存在するとみられ、この事例以降、カウンセリング担当者に対するSCP-1396-JP被暴露者に関する通報窓口が設けられました。
附記1396JP-2: 附記1396JP-1の事例以降、多数の財団職員から“自身がSCP-1396-JPに暴露した”旨の自己申告がなされており、19██年██月██日現在で累計71件が記録されています。それら申告者は一様にSCP-1396-JP暴露者と類似する異常行動をとりましたが、検査と後続調査の結果、その過半数にはSCP-1396-JPの影響は確認できない非異常性のものと判断されました。SCP-1396-JPの影響が認められた申告者はいずれもフェーズ2以下に留まり、治療は不要とみなされました。この申告は増加傾向にありますが、SCP-1396-JPとの関連性は不明です。
附記1396JP-3/インシデント1396JP-A: 定例分析により、SCP-1396-JP報告書へのアクセスの不自然な増加が確認されました。追跡調査の結果、附記1396JP-2において被影響者と判定された職員の多くが、職務上SCP-1396-JPに接触する必要が無いにも関わらず本報告書へ複数回に渡りアクセスするとともに、システム上の不備を突く、または不正な手段により閲覧クリアランスを獲得し、未加工のSCP-1396-JP画像を取得していたことが確認されました。本事案は情報漏洩及び準収容違反インシデントと見なされ、SCP-1396-JPへのアクセスクリアランスはレベル4以上に引き上げられるとともに、閲覧に関するシステムの大幅な見直しが行われました。偽証を行った申告者に対しては取り調べが行われた上で降格、解雇または収容等の厳重な処罰が課せられています。
以下は、偽証者に対する取り調べ記録の抜粋です。その他の記録の閲覧はアーカイブ1396JPLOGを参照してください。
インタビュー日時: 19██年██月██日
インタビュアー: 的馬調査官
インタビュイー: 十河原研究員
附記: 十河原研究員はSCP-1396-JPの閲覧クリアランスを有さないにも関わらず報告書にアクセスして未加工のSCP-1396-JPを取得し、故意に暴露した後、影響を受けた旨を自己申告し、フェーズ1であると確認されていた。
<記録開始>
[取調室内で、机を挟んで的場調査官と十河原研究員が向かい合う。]
的場調査官: これより、インタビューを開始する。まずは氏名と所属を。
十河原研究員:……十河原歩。サイト-81RN所属、レベル2研究員です。
的場調査官: よろしい。それでは十河原研究員、君は本来クリアランスを有さないSCiPの報告書に不正にアクセスし、自ら異常性に暴露した上で、アノマリーの影響を受けたことを財団に自己申告した……このことに間違いは無いか?
十河原研究員: その通りです。
的場調査官: 目的は何だ?
十河原研究員: [短い沈黙]……上手く言語化できませんが、簡潔に言えば、自分の行動に理由が欲しかったのでしょう。
的場調査官: 分からないな。行動とは、以前に君がSCP-1396-JPの影響だと申告したこと——さっきから君が私の首や袖口を注視するような行為のことか?
十河原研究員: はい。
的場調査官: 君は財団雇用以前にも、カウンセリングを受けた記録があるな。その時の相談内容は何だった?
十河原研究員: そこまで調べているのなら、内容もご存じなのでは?
的場調査官: 必要な手順ということだよ。知っているだろう? 言いにくいのなら、代わりに言ってやろう。君は、“男女関係なく、他人の襟や袖、スカートの裾などを凝視してしまう。”“時々、そこに手を差し込んでみたい衝動に駆られる。”“しかし、身体そのものには全く興味が湧かない。”ことで悩んでいたそうだな。
十河原研究員: ……はい。
的場調査官: 統計上、衣服の開口部に執着するSCP-1396-JPの被影響者のほとんどは、口や目、臍といった人体の開口部にも同じ行動をとる。つまり、少なくとも雇用前の君は、被影響者ではなかったわけだ。それなのに、わざわざアノマリーに暴露した。
十河原研究員: [沈黙]
的場調査官: 君の悩みは、財団に雇用された後も続いていたのか?
十河原研究員: はい。ですが雇用された当初は、昔ほど申告には悩んでいませんでした。なにせあの頃は、同僚に変わり者や問題児が多かったものですから。
的場調査官: 今は違うと?
十河原研究員: はい。今はそういうことには非常に厳しくなってますし、私の癖が周囲にバレたら、きっと嫌われるでしょう。下手をするとアノマリー呼ばわりされるかもしれません。
的場調査官: まるで、君の悩みの種のその行動がアノマリーの影響によるものだったら周囲から許される、とでも言っているように聞こえるな。
十河原研究員: たとえアノマリーの影響といっても、自分自身が同じことをされればきっと不快に思うでしょうし、この行為を正当化するつもりはありません。
的場調査官: だが、その悩みこそが、今君がここにいる原因なのだろう。そもそもの話になるが、その癖はそこまで気にするほどのものなのか? そのために不正アクセスしてアノマリーに暴露するリスクと釣り合うとは思えないが。
十河原研究員: 自分が周囲とは異質な存在じゃないかという感覚は、貴方にはきっと分かりませんよ。
的場研究員: ならば、私にも分かるように説明をしたまえ。
十河原研究員: ……自分の癖に気が付いたのは、思春期の頃でした。友人たちと、異性についてあれこれと言い合う中で、周りと自分の見ているものが違うと気づいたんです。友人達の喜ぶものが私には理解できませんでしたし、私が心惹かれるものは、彼らは全く気に留めていませんでした。十代前半という年頃にとって、友人同士という非常にクローズドな関係で孤立してしまうのは、恐怖でしかなかったんです。
的場調査官: それで、その後はどうなった?
十河原研究員: それ以来、私は自分を隠して生きてきました。仲間同士がいかがわしい話で笑い合っている中でも、自分だけは理解できずに笑っているふりをしてきたんです。大人になって、他人の一部を見つめる行為が時と場合によっては糾弾されると知ってからは、疎外感は一層強くなりました。カウンセリングを受けたのもその頃ですが……何も解決しませんでした。今から思えば、私自身も、誰かに自分の秘密を打ち明けたかっただけだったのでしょう。
[沈黙]十河原研究員: 財団に来てからは、少しは気持ちが楽にはなりましたが……それだけです。変人奇人達の多い職場といっても、セクハラで懲罰を受けるような奴はいます。世界から隠れる財団の中でも、相変わらず自分の本性を隠し続けていました……もっとも今は、その変人奇人もどんどんいなくなっていますし、私がまだ残っているのは、癖を隠していたおかげとも言えるかもしれません。
的場調査官: そこまで悩むのなら、その癖を治そうとはしないのか? 財団ならば少なくとも、民間のカウンセラーよりは有能だと思うがね。
十河原研究員: 財団は、個人の嗜好を理由に確保したりはしないのでしょう? それなら、私はアノマリーじゃありませんし、矯正される必要もないはずです。
的場調査官: ますます理解できないな。私の眼には、君の行為は何の解決にもならない全く無意味な行いに見える。
十河原研究員: もう、解決したいとは思っていません。ここまで語っておいて矛盾するかもしれませんが、私自身も、他人の襟元や袖口から見える肌が嫌いなわけではないんです。癖を無くすことは、同時に自分にとってポジティブな部分まで否定することです。かといって、この癖が倫理的に受け入れられないことは、理性が理解してしまっています……自分自身だって、それをされたくないのですからね。完全に自縄自縛です。そして……自分が苦しんでいるこの状況は、自分のせいではないと思いたかったんです。
的場調査官: だから、アノマリーに暴露したと。自分が持つ執着心をアノマリーの影響ということにして、自分自身の中だけで納得をしたかったのかね。
十河原研究員: はい。
的場調査官: 残念だが、その苦しみの原因は全て、君自身にある。
十河原研究員: ……理解しています。
的場調査官: それは結構。では、最後の質問だ。君は未加工のSCP-1396-JPを取得する際、想定されない複数の電子申請プロセスを経ることでそれを可能にした。我々の評価では、君にそのようなシステム上のバグ技を発見する知識も能力もないはずだ。どうやってそれを見つけた?
十河原研究員: ……偶然見つけた、と言っても信じてもらえないかもしれませんね。でも、本当なんです。電子申請手続きを眺めていると、文面に違和感を感じたといいますか……申請が却下されない空白地帯が脳内に浮かんだといいますか……システムの穴が見えてきて、そればかりをずっと考えていたら、その方法が閃いて……天啓が降りたとしか思えません。
的場調査官: ……まあいい。真偽は今後の調査で明らかになるだろう。虚偽を述べていれば君の今後の扱いに影響するだけだ。
<記録終了>
後記 他の偽証者への取り調べと周辺調査の結果、対象同士の接点は確認されませんでした。SCP-1396-JPの取得方法を独自に方法を発見したという十河原研究員の証言は認められ、記憶処理の上で降格処分が下されました。
附記1396JP-3: 19██年12月にSCP-2999-JP-Dに分類された全実例のSCP指定が解除されて以降、自身がSCP-1396-JP被影響者だという旨の申告は減少しており、19██年██月現在では、財団全体で年間3例に留まります。
附記1396JP-4: 20██年██月、過去の財団で使用される各種のシステムや構造物の設計、組織構成において有益な改善を行った職員には、インシデント1396-JPAの関係者を含むSCP-1396-JPの被影響者が多く含まれることが判明しました。それら職員は一様に、改善点の発見時に“システムの穴が気になった”という趣旨の発言をしていました。SCP-1396-JPの被影響者が執着を抱く対象には、概念的な“境界”も含まれる可能性が指摘され、インシデント1396-JPAの関係者に対して、インシデント以前のオブジェクトへの暴露の有無が再検証されています。



